火傷の少年の覚悟
三人と別れ、家に戻ろうと歩いていたとき、中年の男達が話しているのが聞こえた。
「聞いたか!?バランギアス帝国のこと!」
その名にピクリと反応する。
「王位争いまだまだ過激になりそうらしいな。しかも・・・南大陸に進軍してくんじゃないかって噂もある」
「じゃあここヤバイんじゃないか!?バランギアスなんて運河挟んですぐじゃねえか!」
「その時は国が何とかしてくれるだろうが・・・」
グリードは拳を強く握り締めた後、静かに歩き出した。
家に戻るとクレアがお帰りと顔を出すのと同時に少し目を丸くした。だが、いつものように優しく微笑んで口を開く。
「どうしたの?」
「・・・俺は、この村の平和を守りたい。あの子達の幸せを・・・壊したくない」
クレアはそう言ったグリードの頭をポンと撫でた。
「じゃあそのためにはまず怪我を治さないとね」
まずはそうだ。グリードは薬草のことを話し、アルドに薬草の使い方を教わった。すりつぶして傷口に直に貼るもの、煎じて飲むものと様々だった。
「俺はこれを親父に教わってなぁ。君も、子供が出来たら教えてあげたらいい」
ニッコリと笑うアルドにグリードははいと頷いた。
この薬草のお陰かは分からないが、怪我はみるみる治り、顔の火傷だけは体の火傷より酷かったこともあり痕が随分残ってしまったが、皮膚がくっついて閉じていた右目は皮膚を切り離すことで開くようになった。以前より多少視力が落ちてはいるがほぼ支障はない。
早朝武術の鍛錬をし、肉体の機能の戻りも感じていた。
そろそろだな・・・
自分が動いて守らなければならない。大切な者達を。
バランギアス帝国までは運河を挟んですぐだ。王都から離れた街へと運河を渡れば国境を越えるのはたやすいだろう。問題は船の調達だ。このガイアにも幾つかあるのは知っているが、それは仕事に使う大事なものだ。さらにガイアのものと分かり、矛先が村に向けられては本末転倒。
悩んでいると砂を踏む音が聞こえ、反射的に構える。
「あら、命の恩人を殴る気?」
優しげな声なのに含みのある雰囲気には覚えがあった。
「クレアさんか・・・」
現れたのはタオルを持ったクレアだった。
「汗、冷えたら風邪引くから」
渡されたタオルを素直に受け取り汗を拭う。
「何かお困り?」
「・・・運河を渡る方法について悩んでいた」
「船?」
「ああ」
「あら、船なんて乗る必要ないわよ」
「・・・泳げと?」
「それも楽しそうね」
クスクスと綺麗に笑う女性はこの短期間付き合って腹が黒いと確信している。
「他に方法があるのか?」
「森を北東に進んだところにバランギアスの土地まで繋がる地下道があるの。子供達の遊び場になってるわ。でも、奥は光が入らないからそれ以上は進んでないから先がどうなってるかは分からない。でも・・・空気が通ってるってイルリカが言ってたから完全にふさがってはないと思うわ。けど危険には違いない。どうするかは貴方次第ね」
グリードは遊ばれているような感覚さえあった。だが、一つだけ気になることがある。
「何故、バランギアスに続いていると知っている。奥までは進んでいないんだろう?」
「さあ、何ででしょう」
本当に読めない女だと思った。同時にただ者ではないとも。
「出て行くときはうちの娘達が納得する理由をちゃんと考えて、きちんと説得してから出て行ってね」
ヒラヒラと手を振って去っていくクレアを見送った後、タイプの違うあの三人を全員納得させられるかという問題にため息をついた。




