火傷の少年と歌姫
少年は家主であるアルドに力を借り、少し冷ためぬるま湯で身を清めた。服を着替え、風呂から上がると泣きじゃくっている少女が出迎えた。
「ご、ごめんなさい~」
「しっかり叱っておいたから許してあげて」
ニッコリと笑うクレアの手は拳が作られていた。少年は見た目に反してかなり怖い女性なのではないかと察し頷く。
「大丈夫だ。寧ろ風呂にも入れてもらって世話になった」
「動けるならテーブルでご飯たべましょ?あなたはまだスープからだけど。そういえば・・・名前は?」
クレアの問いに少年は押し黙る。
「言えないなら・・・グリード。グリードって呼ぶわ。男の子が生まれたらつけようと思ってた名前なの」
クレアが微笑むとレオナもグリードおにいちゃん!と笑った。
あまりにも暖かいこの家庭の居心地が良すぎてどうにかなってしまいそうだった。
夜中、家族全員が寝静まった夜中、グリードは悪夢に悲鳴を上げて目を覚ました。すると当然のようにクレアが現れ、グリードの脂汗をぬぐった。
「大丈夫よ。もう怖いことはないから」
微笑むクレアにグリードは唸るように問う。
「何故・・・俺にここまでする。俺が何者か分かっていないんだろう?」
「んー、大体分かってるけど、だからどうってことはないわ」
平然と答えるクレアにグリードは目を見開く。
「私の可愛い娘三人が涙目で『助けて!』って言うから助けただけ。私、家族が危険に遭うような面倒ごとは正直ごめんだから」
本当にこの女性は読めないと心から思った。優しいかと思えばその心はしっかりと境界線があり、優しさの反面酷く冷えている。だが、だからこそ、愛する者に惜しむことなく暖かなものを注げるのかも知れない。
「・・・お前達に危害が及ばないよう身体機能が改善次第ここを出て行く」
「ええ。そうして。うちも余裕がある訳じゃないから」
グリードは思わず苦笑する。
「貴女は優しそうな外見に反し、案外サバサバしているんだな」
「夫がね、私と正反対のもの凄く優しい人なの。ほとんど知らないような人の死にも声をあげて泣くし、捨てられてる小動物を見過ごせない。私に内緒で山奥で世話してるの知ってるけど、知らないふりしてあげてる。娘達も私のことも心から精一杯真っ直ぐ愛してくれる人。でも、だから騙されやすい人でもあるのよね。初めて会った時も詐欺にあいそうになってたところを私が助けたんだもの」
クスクスと笑うクレアに凄い出会いだな・・・とグリードは内心で呟く。
「そんな人だから心配で助言してあげてたんだけど、やっぱりあの人引っかかるの。人を疑うことが出来ないのよね。それで、嘘だって分かると凄く辛そうな顔するから・・・それが見てられなくて、その内影でどうにかするようになってね」
この人は一体何者なんだ・・・?
「詮索はなしよ。私もしないから」
心が読まれたようで思わずビクリと肩を跳ねさせる。
「でもふと『私なんであの人のためにこんなことしてるんだろう』って我に返って馬鹿らしくなったの。でも、あの人私に会うと嬉しそうに笑うの。尻尾振る子犬みたいでね。何だか可愛く思えて、私この笑顔を守るためなら死んでもいいやって本気で思ってたら、あの人真っ赤な顔しながら私に告白してきてくれてね。断る理由なんてなかったわ」
いつの間にか惚気を聞かされていた気がしてグリードは思わず笑う。
「幸せそうで何よりだ」
「ええ。とっても幸せ。娘達も皆いい子よ。分かるでしょ?」
「ああ。肌で感じてる」
その時ペタペタと近づいてくる足音に二人共気付いた。
「どうしたの?」
「あら、ディーナ起こしちゃった?」
寝ぼけ眼で目をこすりながら現れたディーナをクレアは抱き上げる。
「そうだ。グリードのために一曲歌ってくれない?ディーナの好きな曲でいいから」
「うん」
ディーナの声は心を穏やかにさせる。だが、段々と声は細くなりやがて消えていった。消えた声の変わりに聞こえる寝息にクレアがフフッと笑う。
「可愛いでしょ。うちの子」
「貴女の親ばかぶりが分かるぐらいだな」
「ディーナの声は本当にリラックス効果があるから、寝ながら思い出してみて」
クレアはそう告げ、眠っているディーナを抱いて部屋を出て行った。グリードはベットに横たわり、ディーナの歌声を思い出した。するといつの間にか眠り、悪夢も見なかった。




