氷の覇王に伝えること
王はイルリカと向かいあって座り、口を開く。
「待たせてすまなかった」
「いえ。皆様とお話できてとても有意義でした」
「とてもいい人財ばかりが集まってくれているからな」
「・・・陛下は鏡の法則をご存知ですか?」
「『自分の周りの人や出来事は自分を映し出している』というものだったか?」
イルリカは頷いて続ける。
「その通りです。つまり、働き者のよい人財がいるということは陛下自身がそうであることを示していると言えます」
「俺はまだまだだ。マルドアほど知識はなく、ギドやメルフィほど努力をしていない」
王の言葉にイルリカの雰囲気が少し尖ったような気賀した。だが、当人は変わら調子で続ける。
「完璧な人間を支えようとは思いません。欠けがあるからこそ人は人を支えようと思います。そして人は支える人を選べる。その支えるべき人に貴方は選ばれた。つまりそれだけの魅力が貴方にあったということです」
王は答える言葉が見つからず瞬きを繰り返した。恐らくだが、イルリカは自分にいい感情を抱いていないと感じていたため、素直に褒められると思っていなかった。
「陛下の魅力については妹から散々聞かされています。長いので言いませんがとにかく素晴らしい人だと」
「ディーナが・・・」
若干嬉しそうな気配を見せる王にイルリカはあからさまにムッとする。
「陛下は妹をどう思っておいでですか?」
品定めをするように真っ直ぐ見てくる問いに王は少し考え込んだ。
「・・・一言では言い表せん。だが・・・ディーナがいなければ生きていけないほど愛している」
その言葉にも、瞳にも照れなど微塵もなかった。それが当然であると疑っていないのだ。本気でディーナを愛しているのだと思うと更にイルリカの気配が尖った。
「これでは質問の答えになっていないか…。ディーナは「もういいです」
イルリカに遮られ「そうか・・・」と王は答える。この短時間でイルリカがかなり苛立っていることは察していた。だが、理由が分からない以上謝罪のしようもない。
「・・・貴方の弱点はないのですか?」
イルリカの予想外の問いに王は暫し目を丸くしていた。そして自分の弱点は何だと真剣に考え込む。
「眠るのが苦手だ。ディーナの歌声がなければ安眠もできない」
「あーもう!!」
不意に立ち上がって叫んだイルリカに王はただただ驚いた。落ち着いた大人びた女性だ。声を荒げるような姿は想像出来なかった。
「何でそんなに完璧なんですか!!」
「完璧・・・?」
何の話かと瞬きを繰り返す王にイルリカはそうです!とそのままの勢いで続ける。
「完璧な人間なんていません!貴方にも欠点はある!けど、その欠点は欠点じゃない!!」
矛盾している発言に王はただただ困惑する。そして、イルリカは不意に泣き始め王は盛大に動揺する。
「貴方とディーナの婚約を・・・反対する理由が見つからない・・・っ」
「反対・・・?」
イルリカはキッと王を睨みつけて怒鳴る。
「そうです!!王との結婚なんてディーナが不幸になるだけだと思い反対する理由を探してここに来ました!!でもディーナの覚悟は決まっているし、貴方もディーナを深く愛している・・・っ。じゃあ反対する理由がないじゃないですか!!」
反対できないことに怒っているのは分かっているが、泣いているのは何故か分からず王はかける言葉も見つけられなかった。
「大切な・・・大切な妹なんです・・・」
イルリカは手の甲で涙を拭いながら続ける。
「あの子は誰よりも優しい子です。世界一だと言えます。人の痛みを思って泣くほど優しい子です」
その言葉に王はギドの痛みを思って泣いたディーナを思い出した。
「そうだな・・・」
「あの子は優しすぎて気弱です。臆病です。でも、誰かを守るためには気が強くなるし、傷つくことも恐れない」
いつもいつも身をていして自分を庇うディーナを思い出し、王は眉間の皺を深くする。
「あれはどうにかならんのか・・・」
「そこもあの子の長所です。そして、例え傷つけられても自分が好きなら嫌えない子です。逆に“自分を傷つけさせてしまったこと”を謝る子です。自身は被害者なのに・・・。他人が喜ぶなら自分の好物を喜んで差し出すような子です。私達家族の宝なんです・・・っ」
イルリカの目からまた涙が溢れた。
「私達家族は誰よりもあの子の幸せを願っています。あの子が沢山の人を笑わせた分、それ以上の笑みがこぼれるあの子の未来を願っています。そんな私達の願いを・・・叶えてくださいますか?」
そう問うイルリカの瞳は強い光が宿っていた。妹を思う姉の心。その美しさを王は目に焼き付けた。
「俺の成せる全力で彼女を幸せにする」
その答えを聞いてイルリカはストンと椅子に座り直した。
「貴方がただの覇王であってくれればディーナを連れて帰れたのに・・・」
「すまない。だが、俺は安心している。ディーナを連れて帰られなくて」
イルリカは再び王を睨む。
「うちには挨拶にこられるのですか?」
「ああ。まだいつとは言えないが必ず」
「殴られるのは覚悟しておいてくださいね」
「お前達にか?」
「私達より凄いのがいますから」
王は覚悟をしっかり決めておかねばなと心の中で呟く。そして、ディーナがどれだけ愛されているか。愛されているからこそ向けられる自分への敵意、全てに合点がいき、尚更ディーナを愛しく思った。




