王の側近に問う
マルドアはイルリカと共に部屋に向かい、自室に着くといつものように紅茶を淹れた。イルリカはいただきますと言って一口紅茶を運んで驚いた。
「美味しい・・・」
「良かった。それだけが俺の特技なんだ」
マルドアはホッとしたように笑い、その笑顔がイルリカには少し幼く見えた。マルドアはイルリカの正面に座り、口を開く。
「まず、ディーナのためとは言え王宮に乗り込んでこられたその勇気に感謝する。お陰で俺は貴重な意見が聞ける」
「いえ。私も貴重な機会をいただけて感謝します」
イルリカは静かに頭を下げた。
「まず質問を伺いたい。何かあれば」
「はい。まず、何故今の政治になられたかお答え願えますか?」
マルドアはイルリカの言葉にピクリと反応する。
「十数年前は富む者は富み、貧しい者は貧しくなるだけの国でした。お陰で使える者は湯水のようにお金を使い、国は潤ったのではないかと思います。ですが、今の政治は一転し、貧富の差を無くし、贅沢を禁じました。民の仕事を全て国が管理するという点も大きく出た一手だと思います。お陰で大きな事件が起きることもなく、安定した生活が送れています。仕事を国が管理しているお陰で無駄も少ないでしょう。ですが、大きな利益も生まれない。先王から現王に変わった際、政治方針を変えられた理由を知りたく思います」
黙って聞いていたマルドアだったが、真っ直ぐ見つめてくるイルリカに思わず笑みを溢す。
「貴女は本当に賢い女性だ」
その微笑みにイルリカは少しだけドキリとした。
「今まで聞かれなかったこともあるが、初めて話す。理由は王の私情だ」
「私情・・・?」
聞き返してきたイルリカに頷き、マルドアは思い出すように目を閉じた。
先王の王政の時、陛下は城下で貧富の差を目の当たりにした。女をはべらせ、酒を水のように飲み、大量の食事を豚のように喰らう富豪の傍で、みすぼらしい布をまとった人と思われる何かが潜んでいる。食べ物が地面に落ちれば皆がそれに群がる。それを虫のように嘲り、蹴飛ばす者。わざと食事をばらまき、それを眺める者。それを見た王は食べ物を持って貧しい者達が息を潜める一角を訪れた。
そこでは悪臭が漂い、生きているのか死んでいるのか分からない人々が地面に寝そべり、骨と皮だけになった人々が恨めしそうにこちらを見ていた。それが怖くなり、王は食べ物を投げ捨てて逃げた。だがまたある時気になって訪れて、幼い男の子が王の足にすがりついた。王はその子に食べ物をやり、笑ってありがとうという子供を見た。その後亡者のように迫ってくる大人達に驚き王はまた逃げた。
当時10歳に届くかぐらいの少年だ。怖くもなる。
それから数年経ち、陛下は富豪に這いよる貧しい人々をまた見つけた。その中に覚えのある姿があった。それが王が食べ物をあげた子供だった。子供は富豪の足に落ちた肉に飛びつき、男は汚いと子供を蹴り飛ばした。そして何度も殴って蹴ってを繰り返し、やがて子供は動かなくなった。
貧しい者達には人権すらなく法が適応されない。そのような光景を王は何度も何度も見た。
俺はその富豪達の家の一人だった。勉学だけは優れていてその点を先王に認められ城で過ごしていた。そんな時に王に会った。そして、国を変えたいと言った彼に俺はついていこうと誓ったんだ。陛下が15の頃か。俺が12だな。その当時から今の政治に関する内容を綿密に組み立てた。だから先王と変わった時すぐに行動に移れたんだ。
激しい貧富の差。街から外れたガイアの住民だったイルリカには見たこと、ましてや体感したこともなかった。ただ、街の様子が大変らしいことは幼い頃大人たちから聞いて想像はしていた。しかし、想像では計り知れない話を聞くことが出来た。
「王が覇王と呼ばれた理由・・・。あれは、反発を抑制するためのものですよね?」
イルリカの言葉にマルドアは目を見開く。
「驚いた・・・。その通りだ。王は民の反発を力でねじ伏せるため実母を利用した。その後は今の政治にするために城の者総動員で動いた」
まず民全員の財産を回収し、平等に、家族の人数などに従って振り分けることから始めた。勿論貴族からの反発は必須。その者達は指定金額を払えば国から出ることを許した。お陰で貴族連中のほとんどは国から出て行った。変わり者は数名残り、今も普通の民達と同じ生活をしている。
今まで働いていた者はそのまま仕事をさせ、その後は調べて適正に合うと思った仕事を振り分けた。職場に監視員を置き、仕事が合ってないと思えば別の仕事をさせた。
「と言っても1年はさせないと分かりませんよね?」
「その通りだ。最初の数年は経済はガタガタだった。まともな交易ができなかったからな」
マルドアは当時を思い出し苦笑する。
「だが、今になって思うが先王はこの状況を考慮して国の財を高めてくれていたように思う。先王の莫大な貯蓄があったお陰でなんとかなったからな。お陰で今はやっと落ち着いてきた。あっという間のようで長かった」
「ですが、民は今の生活よりいい生活をと求め続けてしまう」
「ああ。それが続けば先王の二の舞だ。あの光景を二度と見たくない。だから陛下は決して贅沢を許さないんだ」
イルリカはなるほど・・・と関心する。
最初はなんて無茶苦茶なんだ!と非難する声もあっただろう。だが、覇王の恐ろしさから皆その思いを胸に秘めていた。最初は辛い、大変だと思っても慣れてしまえば何てことはない。ガイアはそれほど影響はなかったが、貧しかった城下の人間は歓喜したことだろう。




