氷の覇王に来訪者
いつも通り仕事をしていた王とマルドアの執務室のドアがノックされた。入室を許可すると門兵の一人が来訪者が来たと報告した。
「ナルシス王子ならばどうにかして追い返せ」
「い、いえ、ナルシス王子ではなく・・・女性二人です」
「女?」
マルドアはチラリと王に目を向ける。王は静かに首を左右に振る。王も知らない来訪者――。
「俺が出る。名は確認しているか?」
「はい」
門兵から聞いた名前に王とマルドアは同時に目を見開いた。
いつも通り城内の掃除や庭掃除などをしていたディーナの元にメルフィが駆けて来た。
「ディーナさん!」
「メルフィさん?どうなさったんですか?」
「すぐに城門へ来てください!」
ディーナは何事か分からないが緊急事態であることは理解し、メルフィと共に駆け出した。
そして、門へたどり着き、王、マルドア、ギドの背中が見えまたナルシスが来たのかと少し警戒する。だが、三人の隙間から見えた人物に目を丸くする。
「姉さん!?」
そこにいたのはディーナの姉であるイルリカとレオナだった。
「ディーナァァア!!」
レオナがギドを突き飛ばし、ディーナに抱きつき、頬ずりをした。
「ど、どうして城に・・・」
「貴女がどんな生活してるか気になって。貴女は良くしていただいてると言うけれど、脅されているだけかも知れないし」
動揺するディーナにイルリカが淡々と目的を告げる。その言葉にカッとなったディーナはすぐさま叫んだ。
「そんなことないよ!」
「それを確かめるためにもここに来たの。大切な妹のことですもの。手紙の連絡だけで済ます訳にはいかないわ」
ディーナはこうなったイルリカは絶対に引かないことを知っていた。何を言ってもイルリカの話術では丸めこまれる。ディーナでは・・・。
そこでハッとしマルドアを見上げる。マルドアなら姉妹の中で一番頭のいいイルリカと言えど論破できるかも知れない。姉達が王に迷惑をかけるのも、王やマルドアを疑うこともして欲しくなかった。
だが。
「マルドア・・・さん?」
マルドアはイルリカを見つめたまま、呆然としていた。
ディーナの視線をなぞり、イルリカがマルドアに目を向けた瞬間マルドアは真っ赤になった。それを見てギドと王、メルフィは察し、ディーナだけが
「大丈夫ですか!?顔が真っ赤です!熱があるんじゃ・・・」
とマルドアを心配していた。
混乱を治めるため、王が前に出る。
「挨拶が遅れた。ウルアーク国王。ラディウス・エル・ウルアークだ。ディーナとは婚約者の関係にある」
ギドは一切怖じることのない王の姿にヒュウと口笛を吹いた。
「存じております」
国王を目の前にし、全く表情を変えないディーナの姉イルリカにもギドは驚いた。
「失礼を承知で本日は参りました。大切な妹と婚約を結ばれた陛下と、その陛下を支える臣下の皆様とお話しをしたく思いまして」
「お、いいぜ!美人さんの相手をするのは嬉しいしなー」
ギドがイルリカの傍に行けば、イルリカはスッとギドの手をとった。ギドはまさか若い女の子の方から触ってもらえるとは思わず暫し硬直する。そして、その様子を見たマルドアの顔をメルフィと王は忘れられないだろう。
「・・・騎士団の中でも上の方ですね」
その言葉に思わずピクリと反応するギド。
「いえ・・・貴方がギド団長ですね」
迷いなく真っ直ぐ目を見られギドは暫し瞬いた。だが、プッと笑う。
「残念!俺は副団長だ!惜しいな。団長はこっち、身長は小っちゃいが腕は立つ」
「小っちゃいは余計です!!」
ポンと肩を叩いてくるギドにメルフィは怒鳴る。そして、イルリカはギドと同じくメルフィの手をとった。メルフィが驚いたその直後にギドに目を向ける。
「私を試しておいでですか?ギド団長」
ギドは少し反応してしまいあー・・・と頭を掻く。
「やっぱ俺駆け引き向いてねーわー。騙してごめんなー。嬢ちゃんの姉さん。改めて言うわ。俺が王家直属の騎士団団長ギドだ」
「ディーナの姉。イルリカと申します。以後お見知りおきを」
イルリカはメルフィの手を離し、丁寧に頭を下げる。
「あの・・・何故ギド団長が団長だと分ったのか教えていただいていいですか?ご覧の通りちゃらんぽらんな男ですから何処が団長に見えたのかお伺いしたくて」
「メルフィのそういう本人の目の前でディスるとこ嫌いじゃないぜ」
親指を立てるギドをガン無視するメルフィと、気にすることなく話始めたイルリカはメルフィに自分の手の平を見せた。
「先ほどお二人の手を見させていただきましたから」
「手?」
メルフィは聞き返して首を傾げるが、ギドは成る程なーと感心する。
「何故貴方は納得してるんですか・・・」
「んじゃ、俺とお前の手比べてみ」
メルフィは差し出されたギドの右手に対し自分の右手を並べる。
ギドの手の方が大きくゴツゴツしている。大して自分の手にはいくつもマメが並び何だか腹が立つ。
「イラッとすることしか分かりません「何でだよ」
ギドが苦笑すれば、イルリカが説明する。
「お二人の手にある剣タコの違いです」
「剣タコの違い?」
「はい。村に騎士団に所属していた老人がいましてその方の手を見せていただいた時にあったマメの位置とお二人共同じのところの皮膚が硬く、厚くなっています。更にマメが見えるメルフィさんに対しギド団長のマメはマメと分からないほど皮膚が厚くなっているんです。それは鍛錬を積み重ね続けてきた結果。しかもそれほどまでになるのは毎日の鍛錬をかかさず、しかも並大抵の訓練量ではない。ならばそれだけの実力があり、そして不審者である私と王が対面している場に貴方が真っ先に現れ、ディーナはメルフィさんが呼びに行った。つまり、最も王を守れる実力のある人物であり、メルフィさんは少なくともギド団長より下。そう考えれば団長としか思えなかったんです。でもメルフィさんも勿論実力のある方でしょう?」
ギドはイルリカの推理力に感服した。状況把握能力も優れている。何よりその推理は当たっていた。
「メルフィ。挨拶しとけ」
「はい。騎士団副団長メルフィ・グラスト申します。素晴らしい観察眼と推理力、感服いたしました」
差し出されたメルフィの手を握りながらイルリカはいえと答える。
「村に騎士経験者の方がいたおかげです。マメの件は推理小説の物ですし」
ギドはプッと吹き出す。
「スゲー美人で落ち着いてるが、やっぱ嬢ちゃんの姉ちゃんだな!似てるよ」
「え?そうですか?」
ギドの言葉にディーナが嬉しそうに顔を輝かせた。ああと頷くギドに対しメルフィはそうですかね・・・と首を傾げている。
3姉妹は似ているどころかそれぞれ個性的で顔も性格も全く違う。
「ともかく、俺の客人であることに変わりはない。マル・・・ディーナ。客室に案内してくれ」
「分かりました」
いつも通りマルドアに案内を頼むつもりだった王だったが、マルドアが使いものにならないと悟りディーナに頼んだのだった。




