第7話 貯木場を巡る清流
山脚を流れる渓流は、一年を通して枯れることがなかった。清らかな水は土場を巡り、石にぶつかっては細やかな音を立てていた。
ザザ――、ザザ――。
夏の夕暮れ時、石親方は竹の畚を手に川へ下りるのが何よりの楽しみだった。水草の生い茂るあたりをひと掬いするだけで、いつも畚いっぱいの川蝦や小魚が捕れた。夜になれば、それらは職人たちにとって最高の酒の肴になった。
しかし、謝さんが日本の軍用車に連れ去られてからというもの、貯木場全体の空気は一変してしまった。かつては口喧嘩ばかりしていた職人たちも口を閉ざし、いつもなら谷間に響き渡る小唄を口ずさむ者もいなくなった。皆の胸の内に、目に見えない大きな石がのしかかっているようだった。
「謝さんは無事に戻ってくるのだろうか」
「軍部に連行されたんじゃないのか?」
「一体、何が起きたって言うんだ……」
時折、そんな低い囁き声が響くものの、誰も答えることはできなかった。
貴子は必死に平静を保とうとしていた。彼女は飯場と土場を行き来しながら、鶏に餌をやり、野菜を採り、湯を沸かし、飯を炊くなど、絶え間なく動き回っていた。まるで、両手を動かし続けてさえいれば、胸の内に広がる不安に呑まれずに済むとでもいうように。
梅子はといえば、帳場机の前でそろばんを弾いていた。パチ、パチ、と小気味よい珠の音が響く。だが、彼女はすでに二回も計算を間違えていた。ついに手を止め、山へと続く道のほうをじっと呆然と見つめた。黄昏時、山風が土場を吹き抜け、夕日が山のように積み上げられた原木を暗紅色に染めていく。
職人たちが次々と仕事を終えて飯場に戻ってきたが、いつものような仕事終わりの笑い声や賑やかさはどこにもなかった。酒を飲む者も、大声で笑う者もいない。皆ただ沈黙して座り、まるで何かの報せを待っているかのようだった。
夕飯の席で、貴子がようやく口を開いた。「みんな、心配せんといて。今日は村田巡査にお願いして、様子を調べてもらうことになったから。明日の朝、阿漢にまた派出所へ聞きに行ってもらうわ」
彼女は言葉を一度区切り、無理に笑みを浮かべた。
「謝さんも言うてはった。仕事はいつも通りきっちりやらなあかん、って」
人々は黙ってうなずいた。
不意に、貴子は何かを思い出したように付け加えた。
「あ、そうや。鄭さん兄弟が明日から竹材を置くのに土場を貸してほしいって言うてはる。みんな仕事の時はいつも以上に安全に気をつけてな」
その言葉に、数人の職人たちがようやく少し我に返った。鄭さん兄弟がやってくれば、土場にはまた活気が戻ってくることを、誰もが知っていたからだ。
翌朝、貯木場にはようやく、かつての活気がいくらか戻りつつあった。




