第4話 花蓮港庁へ向かう軍用車
ついに、あの尉官と同道して出発せねばならぬ時が訪れた。謝さんが意を決して軍用車に乗り込むと、間もなくエンジン音が響き渡り、車は貯木場の表門を緩やかに離れていった。
門口に立ち、夫が連れ去られていくのを見送っていた貴子は、ついに堪えきれず涙を溢れさせた。
「必ず戻ってきてね……絶対に、無事に戻ってきてね……」彼女は低く、祈るように呟いた。
その身体は微かに揺らぎ、今にも崩れ落ちそうであったが、幸いにも背後から梅がすかさず彼女の身体を支えた。まさにその時、鉄夫が突然、母親の手を振りほどき、遠ざかる軍用車を追いかけて必死に駆け出した。
「僕のトトを連れていかないで!僕のトトを連れていかないで!」
「トト!トト、戻ってきて!」
子供の泣き叫ぶ声が山谷に木霊する。それでも軍用車は前進を続け、追いついた梅が鉄夫をその腕に抱きとめてようやく足は止まったものの、子供はさらに激しく泣きじゃくった。多くの製材職人たちが、目の縁を赤くしながら慰めようと歩み寄ってきた。中には堪りかね、低い声で毒づく者もいた。
「まともな暮らしをして、真面目に働いている良民を勝手に引っ立てていきやがって!日本政府の罰当たりめ!道理もへったくれもあったもんじゃねえ、これじゃあ民衆に反乱を起こせと言っているようなもんだ!」だが、どれほど不満を漏らしたところで詮無きことであった。職人たちはただ、軍用車が遠ざかっていくのをじっと見つめるしかなかった。車輪が巻き上げた土煙が朝風の中で緩やかに舞い散り、その塵煙が完全に消え去った頃には、軍用車の姿はもうどこにもなかった。そこには、花蓮港庁へと蜿蜒と続く一本の山路と、貯木場に残された人々の胸に渦巻く、拭いきれぬ不安と疑問だけが取り残されていた。
この旅立ちが、謝さんを一体どのような運命へと導いていくのか、知る者は誰もいなかった。




