第12話 怪我などしていないのに、死に瀕しているかのように
数日後のある朝、診療所にひどく緊張した面持ちの若い男がやって来た。阿成であった。
彼は怪我など一つもしていないというのに、ひどくやつれ、まるで死に瀕しているかのような姿で、わずか数日の間に一回りも痩せ細ってしまっていた。それというのも、彼は阿貴に嫌われてしまったと思い込み、さらには前回の坂口医師の同行も、自分に警告を与えるためのものであったと誤解していたのだった。
この数日間、彼は食事の味も分からず、夜も眠れぬ日々を過ごしていた。そしてついに覚悟を決めた。たとえ叱責されようとも、心の内にある想いをすべて打ち明けよう、と。彼は勇気を振り振るい、診察室の扉を叩いた。
「先生、僕はあのアカギの木の下で貴子を待っていた者です。阿成と申します」
それまで病歴に目を落としていた坂口医師は、その言葉を聞くや否や、思わず吹き出してしまった。
「そう緊張しなさんな」医師は阿成に座るよう促した。「ゆっくり話しなさい」
阿成はかえって呆気にとられ、言葉に詰まってしまった。すると、坂口医師が唐突にこう問いかけた。「本当に貴子のことが好きなのかね?」阿成は一瞬きょとんとしたものの、すぐに勢いよく首を縦に振った。「本当です! 僕はこれまでの人生で、一度だってこれほど真剣になったことはありません!」
診察室の外で聞き耳を立てていた阿貴は、とうに顔を真っ赤に染め、恥ずかしさのあまり診療所から逃げ出してしまっていた。後に残された看護婦たちは、皆でどっと笑い転げた。その瞬間、坂口医師はまるで運命が巡り合わせた月下老人のように、二人の内気な若者のために赤い糸を結んだのであった。




