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俺さ、前回の話書いてて、ある致命的な事に気付いたんだ。
「なんですか?致命的な事……?」
「いまだに私たちの見た目の描写がされていない事でしょうか?」
あ、いえ。まぁそれもあるのですが……
この小説、俺が居ない場所の描写が出来ねぇ……
「あ、確かに……作者が地の文を兼任している関係上、作者が居ない場面……例えば、今この場に居ないシュワの描写などが出来ませんね……」
「ふむ。困りましたねぇ。私がセクシー描写をする時も、作者さんがその場に居ないと、読者の方にお見せする事が出来なくなってしまいますね」
あれ、意外と役得……じゃなくて、そうですね、このままだとなにかと不都合が……
「……ん?そもそもなんですけど……作者って物理的に存在してるんですか?」
え?どういう事?
「いや、今確かにこうやって会話してますけど……実際に僕たちの目の前に『作者って名前のキャラクター』は存在してるんですか?」
いや、してないよ。さすがに作者がそのまま物理的に存在ってのは……
「だったら……別にワープすれば良いだけの話では?」
……た、確かに……俺は『作者という概念』……どこにだって行けるはずだ……
「ですよね?なら」
でもさぁ、俺がそんなあっちこっち移動して、群像劇みたいな感じにして……上手に話を繋げられると思う……?
「……絶対無理ですね」
……よし!この話はここで終わりだ。俺はワープ出来ない。おーけー?
「おーけー」
「OKです」
さぁ、そんなこんなで到着したぞ『暗黒の間』ここに暗黒帝グランザが住んでるのか……なんで住んでるんだろ……
「あれじゃないですか?ドア トゥ ドア0分みたいな?」
「社会人としては、ちょっと憧れますねドアトゥドア0分」
……どあとぅどあ0分?なにそれ、イタリア辺りのご飯?
「なんで作者の知識量をキャラが凌駕してるんですか……世界のバグだろこれ……」
「ドアトゥドア0分というのは、ざっくり言えば『自宅が職場』って事ですね。『自宅のドア』を開けたら『職場のドア』に0分で繋がる……という意味でドアトゥドア0分 と言う訳です」
はぇーなるほど。良いですねそれ。お昼休みに自宅に行けるとか最高じゃないですか。
……でも『暗黒帝』がドアトゥドア0分やってんのなんか嫌だな……帝王も社畜の時代なのか……?
「自宅を見学ツアーにしてるような人ですからね、苦労してるのが透けて見えます……」
「良い統治者というは総じて……社畜なのです」
……なんか、出世して上の立場になっても仕事が楽にならない、社会の嫌な所を見せられてる気がする……
「く、暗い話はここまでにしましょう。ここは異世界、楽しい事をしましょうよ、ね?」
せ、せやな。そう、これは異世界転生モノ、主人公がチート能力でばっこんばっこん敵をなぎ倒す痛快な……あれ、ユウキって転生してからチート能力使ったことあったっけ……?
「さぁ行きましょう!!いざ暗黒帝グランザの御前へ!」
なんだ?急にデカイ声だして……まぁいいや。じゃあ扉を開けよう。
ギィィ……
ユウキが暗黒の間の重い鉄の扉を開けると、そこに広がっていたのは光の射さない真っ暗な『闇』であった……
「さすが、『暗黒帝』の名を冠するだけはありますね……部屋がこんなにも闇に包まれてるなんて……作者、この闇は一体?」
あぁ……この闇は定期的にこの要塞で行われている、電気工事によるメンテナンスの為の、一時的な処置の賜物……
そう……停電だ。
「停電なの!?暗黒帝的な演出とかじゃなくて!?」
「ふはははは!よく来たな客人!!」
「?なにか部屋の中から女性の声が……?真っ暗で何も見えませんが……」
「ふはははは!メンテナンスの為の停電中により、真っ暗闇から失礼するぞ!」
スッ……
停電している真っ暗闇の中から、『金髪赤眼隻眼眼帯義手八重歯』の小柄な女性が現れた!
「金髪赤眼隻眼眼帯義手八重歯!?金髪赤眼隻眼眼帯義手八重歯!?」
「おーすごい。よく噛まずに二回も言えましたね。『きんぱつ あかめ せきがん がんたい ぎしゅ やえば』なんかじゅげむみたいです」
「見た目の描写ご苦労作者よ。褒美にこれをやろう」
ありがたき幸せ……で、なんですこれ?なんかドロドロしている物が入った袋の様に見えますが……
「ワガハイのポッケにずっと入ってた何かのアメである」
だからちょっと溶けてるのかよちくしょう!絶対朝に買ってきて、食べるの忘れて午後まで持ってたやつじゃねぇか!
「うむ。苦しゅうない。存分に味わえ」
食えるかぁ!俺がお腹壊して喋れなくなったら、キャラの会話だけの小説になるんだからな!
……いや、もうなってる様なもんか……
「ついに自分が地の文を書いてないこと認めましたね……」
「ふはははは!愉快愉快!では改めて……ワガハイはグランザ!暗黒帝グランザである!それで、なにか用事か?握手でもツーショットでも好きな物を望むがいい!」
「自分から観光名物になってる人だこれ……節電中でも自室でなにか作業してたみたいだし、なんて働き者の帝王なんだ……」
よくこんな暗い中で作業出来ますね。ちゃんと手元とか見えてるんですか?
「問題ない。この右目の眼帯にはライト機能が付いている。他にも音楽プレイヤーにネット機能。You○ubeも見れるし、ブルーライトカットも出来るぞ!」
「すいません。あんまりその、異世界の夢が無くなるような話は控えていただけたらと……」
「む?確かに……えっとだな……部屋の中でマッチの火を使って作業していたぞ!」
「それはそれで夢無いなおい。魔法とかじゃないのかよ……」
倒産寸前の昭和の会社かな?
パチ……
「む、明かりが戻ったな。どうやら電気回りの点検が終わったようだ。さぁ入るが良い客人!座って話を聞こうではないか」
「あ、はい。失礼します」
「失礼いたします。あ、こちら私の名刺です。どうかお納めください」
「これはこれはご丁寧に……『セクシー女神御手洗』……申し訳ないのだが、どこまでが名字でどこまでが名前なのだ……?」
「セクシー女神が名字で、御手洗が名前です」
カスみたいな嘘やめてください御手洗さん……みっちーは恥ずかしがるのに、セクシー女神は良いのか……
「セクシー女神って、なんか昭和の漫画のキャラみたいな」
「ユウキさん。言っていい事と悪い事があります」
「あ、す、すいません。いや決して、御手洗さんが昭和の人みたいだとかそんな意味で言ったのでは」
「今のは言っていい事です!」
「なんだ今の意味の無い会話は」
と、とりあえず座ろうユウキ。このまま御手洗さんのペースに飲み込まれると、作品の年齢指定を上げることになりかねない……
「うむ。そのふっかふかのソファーに座るが良い」
モフ
「おー。ふっかふかだ。ん?なんかここ湿ってるような……」
「それはワガハイが昼寝していた時に垂れたヨダレである」
「きったねぇなちくしょう!溶けた飴玉と言い、ちょいちょいと抜けてる所あるなこの人……」
「あまり人の事を悪く言うものではありませんよユウキさん。そのヨダレだって、仕事で疲れた体を癒すために、泣く泣くソファーで寝ていたという『戦いの証』なのですから」
そうだぞユウキ。社会人はな、昼休みにどこでだって寝れるようになるスキルが必須なんだぞ!
「えぇ……なんですかそのスキル……社会人こわぁ……」
「えぇそうです。社会と言うのは、魔王なんかよりよっぽど怖いのです……」
「……なんか空気が重くないか?ワガハイのヨダレのせいなのか?これ」
いえ、ヨダレとか関係無しに、人間は社会の話をするとこうなる生き物なのです……悲しいですね……
「そうか……いや、そういう人間を救う為に、ワガハイは暗黒帝になったのだ!さぁ存分にワガハイを頼るが良いぞユウキとやら!」
「あ、そうでした。社会への恐怖に落ち込んでる場合ではありませんでした。実は……」
かくかくしかじか。これこれうまうま。
……何が旨いんだろうな?カクカクしてる鹿が旨いのかな?
「これ以上話を脱線させないでください……」
「~~~と言う訳でして、私たちの仲間の一人が、落とし穴に落ちてしまいまして……」
「なんと!?ゼロビュート内のトラップは全て解除したと思っていたが……点検が甘かったか……!ぐぅ!申し訳無い事をした!」
ドン!
うぉ、なんつぅ鈍い音……そんな全力で頭を床に叩きつけて土下座しなくても大丈夫ですから。ミスくらい誰だってしますよ。ね?御手洗さん
「……学生までならそれで済むのですが……社会人の、こういった公共施設での、お客様に傷害が発生するようなミスとなると……そうも言ってられないかと……」
あ、思ったより大人の対応のやつだこれ……ヘラヘラしてたらダメなやつだ……
「社員一同心よりお詫び申し上げる!これよりスタッフ総動員で、シュワ様をお探しさせて頂く!重ねて、この度はまことに、申し訳なかった!!」
ドォン!
「あわわわわ……!顔面からあんな爆発音がするまで土下座しないといけないのが、社会人と言うものなんですか……!?」
「そうですユウキさん。土下座というのは、鈍い音がすればするほど誠意が伝わるのです!」
「ひぇぇ……!」
御手洗さん、ユウキに間違った社会の怖さを吹き込むのはやめて上げてください……それはどちらかと言うと裏社会の怖さです……
「それから頭も坊主にしますし、指もエンコしますし、社員一同を島流しにするのです!それが大人!それが社会です!」
「ひぇぇぇぇ……!」
やめたげてよぉ。それはビートた○しの映画の中だけの話だよぉ。アウ○レイジだよぉ。
「……まぁさすがに誇張気味ではありますが、割と心情的にはこのくらいなんですよね……実際……大人になると、ワンミスが許されないのです……」
「……なんか、暗黒の間に入ってからの話が重すぎやしませんか……暗黒の間ってそういう……」
社会の闇は深いな……ユウキ……
プルルルル
「ワガハイだ。要塞内で解除し忘れられていたトラップによる、お客様への被害が発生した。トラップの内容は落とし穴だ。要塞の地下を重点的に捜索してくれ。頼んだぞ」
ガチャン
「これからワガハイも地下に捜索に向かう。客人達はここで、ごゆるりとお待ちになって頂きたい」
「いえ、僕たちも探索に行かせてください!」
「しかし……これ以上迷惑をかける訳には……」
「迷惑だなんてとんでもありません!シュワは大切な仲間なんです!」
「そうですね。シュワさんが行方不明になっているのに、こんな所でじっとなどしていられません」
俺からもお願いしますグランザさん。シュワちゃまをひとりぼっちにするのは不安ですし、それに……
「それに?」
ここでシュワちゃまが見つかるまで三人で会話してるだけとか、小説としてダメな気がします。
「一応、面白くしようとする熱意はあるんですね……まともに書く気は無いくせに……」
だってよぉ、ここまで主人公がチート能力を使ってすら居ないんだぜ?いくらこれを読んでくれている読者が、とんでもないイカれ野郎だったとしても、そろそろ飽きて、この小説の存在を忘れ、やがて見向きもされなくなり、閲覧数は伸びず、更新も途絶え、世界は暗黒に染まり、生物は死に絶えて……
「もういいってぇぇぇぇ!!暗い話聞くの嫌ぁぁぁ!!楽しい異世界で楽しい冒険させてくれよぉぉぉ!!」
かわいそうなユウキ……一体誰がこんな思いをさせているんだ……
「お前じゃぁぁぁい!!」
「ユウキよ。大声は他のお客様のご迷惑になる。もう少しボリュームを落としてくれぬか?」
「すいませんでしたぁぁぁ!!」
「うん、ぜぇーんぜん落ちてないぞユウキ。ボリュームのマイナスボタンをどこかに落としたのか?」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ダメだ、もはや人の言葉を介していない。社会の闇が生んだ暗黒モンスターになってる」
壊れたユウキの心を治すには、一体どれだけの暖かさが必要なのだろうか……まだこの世界に、そんな優しさは残っているのかな……
「うーん。相変わらず気持ち悪い地の文を書くことに関しては天才的ですね」
「僕の作者として恥ずかしいですよ」
ユウキ、なんで作者の地の文読んだら正気に戻ったの?狂気を越えるほど気持ち悪かったって事?
「さ、行きましょうか。叫んだら何だかすっきりしましたし」
答えてよぉ!ねぇ答えてよぉ!!目をそらさないでこっち見てよぉぉぉ!!
「いざ、地下へ!」
無視しないでぇぇぇぇぇ!!




