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パートナー

5/28 誤字修正しました。


ベアドの主張にも一理ある。


普段好きじゃなくても、たまに猛烈に食いたくなるものってあるだろ?


俺の場合魚のブリだ。

シーズンに1回くらい刺身を日本酒で食いたくなる。

いつもはビール党なんだがね。

で、1回食ったら満足して当分欲しいと思わない。


仮に毎日ブリを食いたくなった場合、俺はブリ好きと言えるだろう。

好きどころか大好きか。

毎日ブリ食いたいって相当だからな。



現在のロイルは毎日食いたいブリに相当する。


興味なんて無いはずなのに気になる。

近くにいるとドキドキムラムラ落ち着かなくなるし、ロイルに拒絶されたり、離れていかれるのは胸が痛くて苦しい。


できれば、好意や関心を得たい。



ぶっちゃけ好きなのかもしれん。

納得はできないが。


俺が選んで惚れたわけじゃないからな。

感情の引き継ぎというか、移植に近い。

大人しく受け入れる必要は無いだろ?



おっさんやベアドは家族だが、ロイルは好きな奴じゃない。

こういうのは自分で決めていくものだと思うね。







「ルジンカ!」


翌日学校へ行くと、校舎の手前でルーガに呼び止められた。


淡い金髪が朝日を受けてキラキラ輝き、いつもにも増して爽やかだ。

昨日は熱で休んだことになっている俺の体調を気遣うのもそこそこに、少々困り顔で話し始める。


「約束してたタワワーナなんだけど、昨日ロイに没収されちゃったんだよ」


「ロイル様に?どうして?」


「こっちが聞きたいよ。オレオンが怒るのは分かるけど・・」


リコピナに1・2巻を渡すところをオレオンに見つかり、文字通り吊るし上げられたらしい。

ロイルがどさくさに紛れてカバンの中の4・5巻を勝手に回収していたので、そっちは関係ないと返却を求めた。


すると、


「誰に貸すものか分かってる。当分預かる、って。あいつにそんな権利無いと思うんだけどね」


形の良い唇を尖らせ、そう説明した。


「私のせいですいません・・そういえば、ロイル様に4巻は読むなって言われてたんですわ」


「え?もうロイとタワワーナについて話してたの!?」


「なんか流れで・・アサチダやフルッキボのことも丁寧に説明してくれました」


「なんだよロイの奴、自分だけお楽しみか・・ホントに何考えてんだか・・」


ブツブツ文句を言いながら、空を見上げるようにため息をつく。



「あれ?でも、ルジンカってベアドさんから借りてなかった?この前、食堂で」


「そうなんですけど・・兄の気が変わったみたいで回収されちゃって」


適当な嘘で誤魔化した。


「ベアドさん、様子がおかしかったもんな」



頷きつつ、カバンから紙袋を取り出す。


「タワワーナのスピンオフで『デカパイア』ってシリーズ知ってる?世界観は一緒だし、一応代わりに持ってきたよ」


「まあ!ありがとうございます!」


これは素直に嬉しい。

タワワーナ借りてもベアドのが既にある。


いつの間にか、部屋の本棚に8巻まで並んでたんだよ。

昨日、寝る前に気づいてビビった。

なんか言ってけよな。



「そっちもオススメだよ。ティンポッポの味しか覚えていない初恋の精霊を探す話なんだ。タワワーナとの差別化で、基本は一対一の食事が多いね。まだ5巻までだけど、気に入ったら続き持って来るよ」


「楽しみですわ!これ、読み終わったらリコピナさんに回してもいいですか?私からならオレオンさんに見つからないと思いますわ」


「いいね!そうしてあげてよ!!」





2人で教室に入ったタイミングで、俺も紙袋をルーガに差し出した。


「お礼にこちらをどうぞ。先週、読みたがってたでしょう?」


例のうんこポエムだ。

接近するネタになるし持って来ておいた。


「これ!気になってたんだよ。みんな真っ赤になってたろ」


ムハッと笑顔になる。


「先に言っておきますけど、これはお医者様から気付けに処方されたものなんです。ルーガが期待しているような内容じゃないかもしれません」


「いやいや。そういう意外性こそ求めてるんだよ。人から借りる醍醐味だいごみでしょ?ルジンカとこんなやり取り出来るようになるなんて感激だな」


俺もいい友達ができて嬉しい。

エロ本の供給元がベアドだけだと片寄るからな。


「ルーガったら大袈裟ですわ」


微笑み返しつつ、視界の隅のロイルがこっちを見ているのを確認する。



どうよ?

俺、ルーガと仲良くしてるんだぞ?



どんな顔してるか気になるが、ここでロイルの方をチェックしたらあからさまだ。

今日の一時間目はお茶だから、挨拶に行く必要も無い。


「では、またお茶で。これありがとうございます」


ルーガから受け取った紙袋をヒラヒラと掲げて見せ、ゆっくり席へ向かった。








お茶ではリコピナとルーガの間の席をキープした。

ロイルと会話できる貴重な機会ではあるが、ルーガの近くに座ることを優先した。


グイグイの一環だ。

なんでルーガがダメなのか気になるしな。


一瞬、全員が「え?お前、そこ座んの?」って顔したから、席は固定だったのかもしれない。






「今日のリゴーは私が淹れよう」


またリコピナがやるのかと思ったら、ロイルがポットを自分の前に引き寄せ、茶葉を放り込み始める。


「嬉しいですわ。ロイルさんのリゴーはとっても優しい味なんです」


はしゃいだ声を出したリコピナが俺に説明してくれる。


リゴーを渋くしないためには、茶葉を少量の水で均等に濡らす。

そこへぬるめの熱湯を葉に直撃させないよう、優しくポットに半分ほど注ぐ。

少し置いてもう半分の湯を注いで数分蒸らした後、ポットを水平に回して葉を舞わせ、再び沈んだタイミングでカップに注ぐ。


・・らしい。


結局、渋いんだがな。


おっさん達が渋くないと絶賛するリリアのリゴーも普通に渋い。

コーヒーが苦いのと一緒だよ。

細かい味の差なんて俺には分からない。


ロイルの淹れてくれたリゴーも普通に渋かった。

美味いって飲んだが。





「そう言えば、再来週のビレンチス公爵家の園遊会、ルジンカは行けるの?」


オレオンとリコピナが茶菓子のグロブル(ぶどう)のタルトを切り分けてくれるのを眺めながら、ルーガが尋ねてくる。


ビレンチス公爵家は王太子ウェイドの婚約者である、ネレッサの実家だ。

見事なバラ園を持っており、毎年花盛りのこの時期に盛大に園遊会を開き、美しい花で客を魅了しているらしい。


今朝アーニャちゃん達ともその話をしていたところだ。

もし行くならドレスはどんなの着るのかとか、あれこれ聞かれたな。



「一応参加の予定です。記憶もないんで短時間だけ」



ネレッサにも会えるし、婚約者の王太子ウェイドも来る。


リコピナによると、父親のクルクミー侯爵も来るらしいし、行かない手はない。

この3人には1回も会ったことないからな。



「夜の舞踏会には出ないの?」


「そっちはまだ迷っていて・・」


3人に会うだけなら、園遊会だけで十分だ。

しかし、俺は個人的に舞踏会に参加してみたい。


単純にどんなものかという好奇心もあるが、それ以上に令嬢達のおっぱいが見たい。



俺はおっぱいが見たい。



大事なことだから2回言わせてもらった。



舞踏会のドレスは胸を大胆に出す。

アーニャちゃんやマギーちゃんやリコピナのパイの片鱗にお目にかかれるわけだ。

それに、ネレッサもかなりのデカパイだからな。


絶対見たい。



それに、園遊会から参加するなら大抵の者は控え室で着替えをする。


それも絶対見たい。



もしかしたら、着替えでポロリする令嬢もいるかもしれない。


マジで絶対見たい。



つまり、参加しない理由は何もないんだが、肝心のダンスも礼儀作法も全然だ。


おっさんもベアドも、どうしても行きたいなら、ちょっとパイを見てすぐ帰れと言っていた。

俺は俺で注目の的だからな。



「あの園遊会は参加者も多い。今回は見送った方がいいんじゃないか?今のルジンカには負担が大きいように思う」


カップの中のリゴーを見つめなが、ロイルが言う。


心配してくれてんのか。

なんだかんだで嬉しくなるな。




「皆さんは参加するんですか?」


参考までに聞いてみる。


「もちろん!今回はリコちゃんも気合い入ってるよね?」


「はい・・。大掛かりな催し物に参加させていただくのは初めてなので、今から準備が大変で。それで・・あの・・今朝は言いそびれてしまったんですけど・・」


この歯切れの悪い物言いには、悪い予感しかしない。



「リコピナはロイル様のパートナーを務めさせて頂くことになっている」


言いにくそうにしているリコピナの後を、オレオンが引き継いだ。




パートナーっていうのは、別に大したことはしない。


園遊会に到着した時と、その後の舞踏会の開始の時に揃って名前を呼ばれ、最初のダンスを踊るくらいだ。


基本、男がパートナーの女をエスコートすることになってはいるが、普通に別行動もする。


形態も色々で、主催者側が相手を指定してくる場合もあれば、招待客同士で勝手にペアをつくる場合もある。

もっと自由な集まりだと、招待されてない人間をパートナーとして連れて行ける場合もあるらしい。


絶対いなきゃいけないものでもないが、いた方が格好はつくんだろう。



未婚の男女の場合、誰と誰がパートナーになっているかという情報の方が重要視される。

人間模様の把握に役立つからな。


意外な組み合わせなら話題になるし、いっつもパートナーになってれば婚約間近かと囁かれたり。


釣り合ってる、釣り合ってない、私が俺が、又は娘が息子が狙ってた相手なのにと、ごちゃごちゃやるネタになるそうだ。



ロイルにふられたばかりの俺が参加するパーティーで、リコピナがロイルと現れれば大きな話題になるだろう。



「ロイル様とリコピナさんがパートナー・・」



たかがパートナーだが、ズドーンと腹に響く一撃だった。

リコピナが申し訳なさそうに顔を伏せる。


「余計な事を言うな、オレオン」


ロイルがばつの悪そうな顔で睨む。



どうやら本当らしい。

だから、俺に来るなって言ったのかよ!



ズキズキと胸が痛い。


泣くのはよろしくないと分かってはいたが俺の意思で止められるはずもなく、パタパタと涙がスカートの上にこぼれていく。



「あの・・・ルジンカさん。お話ししようと思ってたんですけど・・」


そういえば、今朝は何か言いたげな顔をしていた気もする。

タワワーナのことかと思ってたが。



「リコピナが謝る必要なんてないだろ。ルジンカはロイル様と婚約しているわけでもないんだ」


「オレオン、そんな言い方やめて。あの・・・ルジンカさん・・・?」



オレオンの言う通りだ。

リコピナが悪いわけじゃない。


でも、今は顔を上げられない。

なんて返事をすればいいのか分からない。



反応しない俺に、テーブルメンバーの視線が集まる。


頼むから注目すんなよ。


「よ、良かったですわ・・ね。ロイル様の・・エスコートなら安心ですわね・・」


嫉妬や怒りが沸き上がって来る前に、なんとか返事をする。

無理やりつくった笑みはひきつっていただろう。


「ルジンカさん・・」


リコピナが痛まし気に眉を寄せた。


悔しいような、申し訳ないような。




空気が最悪に重くなる。

こういう時はアレだな。


急いでポケットからタワワーナの4巻を取り出し、目の前に広げる。

これはベアドが置いてったやつだ。



「おい・・何、急に本なんて・・ロイル様の前で無礼だろ」


「大丈夫?ロイのパートナーなんて、色んな令嬢が持ち回りでグルグル回してるだけなんだよ。ルジンカとも何度もパートナーになってるし・・」


「ルジンカさん、その本ってまさか・・」



突然本を読み始めた俺にテーブルがザワつく。


全部シカトして本に集中する俺。

一度エロで頭を満たせば涙は止まるからな。



タワワーナの良いところは、どこを読んでもまんべんなくエロいところだ。

吊るされ男とかはエロいシーンは凄いんだが、つなぎのシーンが長い。

10ページ以上使って、女のパンツ洗ってるだけのシーンもあるし。


「ダメですわ。こんな所でそんな本は・・」


涙が引き始めた時、リコピナが俺の左手を掴み、自身の右パイに導いた。



ボイン



「おほ!」


咄嗟に変な声が出て、悲しみの欠片達が吹き飛んで行く。


「協力しますから、本はしまって下さい」


ハラハラした顔のリコピナが紫の瞳で俺をのぞき込む。



君はなんてステキな娘なんだ!



「リ、リコピナさん・・柔らかい・・」


喘ぐようにつぶやく。

周囲の男達が動揺しているのが分かった。



「やめろ、2人共!こんなところで何を始める気だ!」


「違うんです、ロイルさん。ルジンカさんはクッションの使用をお医者様に禁止されてるんです。依存性があるからって・・」


「意味がわからない。クッションてなんだ。それが禁止だからって、なぜそんなことになるんだ!」


「ルジンカ!リコピナから離れろ!はしたないぞ!」


オレオンが見当違いなクレームをよこす。

俺は腕をつかまれてる方だぞ。



「だいたい、その本・・ちょっと見せてみろ」


ロイルが俺の持つタワワーナを無遠慮に引っ張る。


「ダメです!この本に触らないで」


「いいから、見せるんだ。どうせロクでもないモノを読んでいるんだろ」


チラリ、とルーガを睨みつつタワワーナを引っ張るロイル。



ベアドから借りれないからルーガに頼んだことになってるし、4巻を持っていることを知られるのは微妙だ。

あと、リコピナにタワワーナを勧めたのが俺だとオレオンにバレる。


それに、ロイルに対して軽い反発心があった。

俺を気遣うふりして、心置き無くリコピナとイチャコラ楽しむつもりだったんだろ。

ふざけんなよ、偽善者かよ!


タワワーナを奪われまいとガッチリつかみ、その手に全体重をかけ叫ぶ。



「イヤ――!やめて!ロイル様のエッチ――!」



他のテーブルの連中がエッチなロイル様を確認すべく、何事かと振り返る。


「へ、変な声を出すな・・!」


ロイルがザッと身を引いた隙に、タワワーナをポケットにしまう。


「誰がエッチだ。どうせその本こそ・・」


ブツブツ文句を言いながら席に戻るロイル。

俺に文句を言おうとするオレオンを手で制している。





「ルジンカのパートナーはもう決まってるの?やっぱりベアドさん?」


空気を変えるように、ルーガが明るい声で尋ねてくる。

ついでに話題も変えろや。



「さあ?特に何も言われてないですけど、ごく短時間の予定なので・・」


普通に考えたらベアドだろう。

あいつが俺をほっぽり出して他の女をエスコートするはずない。


だが、ロイルの前では認めたくない。

めっちゃ負けた気がする。



俺の内心を察したかどうかは知らないが、ルーガが緑の瞳をキラリとさせる。


「実は、僕のパートナーがまだ決まってないんだ。もしよかったら、ルジンカにお願いできないかな?」


意味深な笑みを浮かべ、優雅に手を差し伸べてくる。


こいつは、これが目的で園遊会の話を持ち出したんじゃないのかね?

そんな気がした。



ロイルの顔をチラ見する。

例によってうんこ我慢顔で小さく首を横に振った。

断れ、ということだろう。



断るわけねーだろ。

俺をないがしろにして、心穏やかにパーティーを楽しめると思うなよ。


「まあ。とっても嬉しいお誘いですけど、私とパートナーじゃルーガが恥をかきますわ。ダンスとか全然なので・・」


ノリノリで了承するのも当て付けがましいからな。

まずは軽く遠慮してみせる。

ルーガはこれくらいじゃ引かないだろう。


「ダンスの振りなんて覚えてなくても大丈夫だよ。僕がバッチリエスコートするし。リコちゃんの練習にも付き合ってるしね」


「ルーガさんが凄くお上手なのは確かですわ。まるで知ってる曲みたいに踊れますの」


同意するリコピナの口調はいつもより控え目だ。

俺とルーガをくっ付けようとしているとは思われたくないんだろう。


「頼もしいですわ。それなら、ぜひルーガにお願いしたいですわ」


差し出されたままの手に俺の白い手をそっと重ね、控えめにはにかむ。


「ルジンカのパートナーになれるなんて光栄だな」


ニッと笑った。






「やめておけ」



低く、冷たい声が響く。



「ルーガのパートナーなんかになれば、あること無いこと言われるだけだぞ」


極めて険しい表情のロイルに、胸がザワザワし始める。



嫌われたくない。

が、俺のことで感情を乱すロイルを見ると、不思議な満足感も得られた。


王子様をつっつくのはグイグイ作戦の正しい姿だ。



「そんなの・・誰とパートナーになったって一緒ですわ。ロイル様にふられた時点で」


「そ。ロイが心配することじゃないよ」


追随したルーガの口元は微妙にへの字だ。


リコピナのこと、こいつなりに遠慮してたのにな。

あっちはリコピナとパートナーになった上で俺とのことまで口出ししてくるし、タワワーナも没収するしで、流石に面白くないんだろう。



「ルジンカ。一昨日おととい私が言ったことを覚えているか?」


押し殺した声に苛立ちが混じっている。


「もう忘れましたわ」


不安を振り払うようにメンチを切る。

最後っ屁シズンティカの恨みだって忘れてねーからな!


ロイルは一瞬たじろいだものの、すぐに眉間にグイっと皺をよせる。

青い瞳が燃え、ロイヤルオーラが吹き上がる。


「私はルジンカのためを思って言っている」


「ロイ。これは僕とルジンカの問題だよ。違うかい?」


ルーガが冷ややかな声を挟む。


「お前のためでもある」


「どの辺が僕のためなんだよ?」


「・・全部だ」


「悪いけど、意味不明だよ。少し頭冷やして来れば?」



ピリピリしたやり取りを、リコピナとオレオンが息を詰めて見守る。

ルーガは慣れてるっぽいな。


「これだよ、これ」と言わんばかりのアイコンタクトを送って来る。

やっぱこれが王子様モードなのか。




「ねえ、ルジンカ。明日の放課後って時間ある?打ち合わせもかねて、アイスでも食べに行かない?」


ぶちギレロイルを放置し、余裕の笑みで俺を誘う。


「アイス??どこへ??」


「あの道の先に大学があるんだよ。本館のカフェで食べれるんだ」


バラ園へ行くのとはまた違った道を示す。



そうえばアイスなんて、こっち来てから食ってないな。

前は風呂上がりにかかさず食ってたが。


「行きたいですわ。アイスなんて久しぶり」


「リコちゃんもどう?アイス好きでしょ?」


「いいんですか?」


パッと顔を輝かせる。

アイスとか好きそうだもんな。


「もちろん!」


「やめろ、リコピナ。こういう時は遠慮するものだ。それに、家庭教師が来る日だろ」


ルーガとオレオンの声がかぶる。


「え?あ・・そうでしたわ」


「じゃ、リコちゃんはまた次回だね。明日は2人で行こう」


「そうですわね」




とっとと話をまとめていくと、



「私も行く」



不貞腐れた顔のロイルが参加表明する。


「ロイ、甘いの嫌いじゃん」


「へえ・・?」


そういや、今回も前回もケーキは手付かずだ。


「アイスは別だ」


「家でいくらでも食べられるだろ」


「食べられない。シトロンにアイスばかり食べたがるなと説教してる立場だからな。示しがつかないだろ」


「シトロンて?」


誰だ?



「ロイル様の妹君だ。そんなことも覚えてないのか?」


オレオンに呆れ顔を向けられる。


「記憶喪失なんで。私がロイル様について知ってることといえば、タワワーナを愛読されているということくらいですわ」


「そんな、バカな・・もっと他にあるだろ!?」


さすがにショックを受けた様子のロイル。


嘘じゃねーよ。

ホントにそれくらいしか知らないからな。


「ルジンカ!やっぱりお前がリコピナに・・!?」


タワワーナの名前を出したことで、オレオンの疑いが飛んでくるが、シカトした。



「とにかく明日は私も行く。勝手に行くなよ」


ロイルが宣言したタイミングでお茶は終了した。



貞操観念の強いこの世界で未婚の男女が2人きりで行動することは基本的にあり得ない。

デートだろうがお茶だろうが、女側にはかならず付き添いがつく。


大学は王宮の敷地内だが一応学校外だし、多分、俺にはベアドなり侍女なりが同行するだろう。


ロイルだってその辺は熟知してると思うんだがな。

その上でなお、俺とルーガを接近させたくないようだ。






「ルジンカさん。一昨日、ロイルさんとどんなお話を・・?」


帰り道、リコピナに問われる。

ロイルとルーガのギスギスした空気に当てられたのか、あんまり元気がない。


「色々と・・でも、ロイル様が何をおっしゃってるのかは全然・・」


「・・ロイルさん、怒ってましたね」


「ですね」


「ルジンカさんとルーガさんのことで、ヤキモチ妬いてたみたい・・」


うつ向いたままボソボソつぶやく。


事情を知らないリコピナの目にはそう見えてもおかしくない。

ロイルにほのかな恋心を抱いているようだし、心穏やじゃないだろう。


「ヤキモチなんかじゃありませんわよ。兄と結婚しろって言われたばっかりなんで」


本気で妬いてたら、自分がパートナーになるくらいは言うだろう。

2度もパイタッチさせてくれた礼に教えてやる。


「そうなんですか・・」


うなずいてみせたものの、リコピナの表情は冴えないままだった。



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