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レターボックス

「お帰りなさいませ。本日旦那様はお戻りが遅くなりますので、お夕食はお1人でお済ませ下さいますように、とのことでございます」



屋敷に帰宅するなり、出迎えてくれた執事のおっさんが言った。

普段はこういう連絡事項はベアドが聞いてるんだが、今日はいないしな。


「あら、そうなの」


簡単に答える俺。

使用人との会話はタメ口だ。


「それと、旦那様よりこちらのお手紙をお預かりしております」


うやうやしく差し出された盆に、1通の手紙が載っている。


「なにかしら?」


おっさんから手紙なんて初めてだ。

つっ立ったまま開けようとしたが、執事も侍女も出迎えのメイド達も俺待ちだ。

使用人のいる暮らしにはだいぶ慣れたが、姿勢を正した状態でズラッと並ばれると圧を感じる。


「やっぱりお部屋で読むわ。あと、もしあったらお夕飯に生オッパイオを出してちょうだい」


オッパイオを食うとパイがデカくなるらしい。

今日学校で仕入れて来た情報だ。




とりあえず部屋に戻り手紙を読んだが、死ぬほどくだらない内容だった。


『我が最愛の娘 ルジンカちゃんへ  

  ご飯1人ぼっちにしてゴメンね。パパ急いで帰るからね!

          地上で最もルジンカちゃんを愛しているパパより』



書くほどのことかよ。




ルジンカちゃんの部屋には、こういう手紙を保管する用の、レターボックスと思われるものがある。

2人掛けのソファくらいある巨大な箱だが、既に容量オーバーでフタも閉まらない状態だ。


この前ベアドから来た手紙もここに放り込んである。

あと、記憶喪失になってからの見舞いの手紙も大量に。


当初は誰の名前も分かんなかったが、今見ると知ってる名前がチラホラあるな。


確か、王妃様からも来ていたはずだ。

おっさんに見せてもらった後回収されたが、この惨状を見れば納得だ。

放り込むだけ放り込んだって感じだからな。


ザっとしか見てないが、クソみたいなメモも多い。

例えばこれ。


『はしたない方から3番目くらいがいいですわよ』

『ラック先生のおズボン!!』

『手を握り合ってたんですって!』


授業中に友達と手紙を回し合って遊んでたんだろう。

お嬢様でもこんなことするのか。


俺の学生時代も女子とかチャラい男子がやってたな。

たまに変な物が回って来るんだよ。

ティッシュにくるまったポテチとか、食いかけのパンとか。

わざと可愛い女子経由でエロ本の切り抜きを回してる奴もいたし、あと、ブラジャーが回ってきたこともあった。

カップ部分にチョコボール乗せてさ。

回す時こっそり1個食ったっけ。


文化際の劇の小道具だったらしいが、思えば、あのブラが俺が触ったラストブラになった。

その後20年間ノーブラ生活を極めると知ってたら、もっと気合い入れて触ったんだけどな。

今さらどうでもいいが。



こっちはおっさんやベアドとの屋敷内通信か。



『我が最愛の娘 ルジンカちゃんへ

  まだ怒ってる?どうかパパを許して・・・

       地上で最もルジンカちゃんを愛しているパパより』


「我が最愛の~」は定型らしい。

他にも謝ってるのばっかで、なんか可哀想になる。



『ルジンカへ

今日は夕食を済ませて帰る。お前を父上と2人きりにしてしまうが許して欲しい。

 辛いだろうが耐えてくれ。  ベアド』


おっさんが読んだら、ベアドを許さないだろう。



親しい間柄になるほど適当なメモが増える。

こんなのとっとく意味あるのか?



あとは、誕生日カードとか、進学の祝い、礼状系とか。

おっさんが領地から出した手紙とか、旅先からの友達の手紙とかもある。


招待状系は全然ないが、これは別口で管理されてるんだろう。



これとかはアーニャちゃんからの誕生日カードだな。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

ルジンカさんへ


13歳のお誕生日を心からお祝い致します。

貴女の親友であることが私の誇りです。

実り多き1年になりますように。

これからもずっと、ずっとお友達ですわ!

               アリアニア

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


お嬢様らしいステキな花柄のカードだ。

13歳でこんなちゃんとしたメッセージ書くのか。



噂のエディさんの手紙と思われるものも。


『またいつでも来るといい。ここは君の家でもあるし遠慮はいらない。

でも、ルジンカのことを一番に考えているのはクラウドだということは忘れないように。

あの唇も昔はセクシーと好評だったんだ。信じられないだろうがね。

君の母上を射止めた唇だよ。  君の友 エディアルド』


なんか、生々しいな・・。

クラウドはおっさんの本名だ。

ルジンカちゃんは家出でもしたのか?



ベアドママのロザリンさんの手紙もあった。


『熱を出したと聞き心配しています。あまりお父様を責めないでね。

貴女のことを思ったうえでのことだったのでしょう。

来月、小用で王都へ出向くことになりました。貴女の好きなティルポのケーキを作っていくわ。

新調したというドレスや小人達も見せてね。  ロザリン』


優しそうだなロザリンさん。

小人ってなんだ?


みんなでおっさんを庇っている。



ルジンカちゃんはこのロザリンさんと、ミラベルさんなる女性の2人と、頻繁に手紙のやり取りをしていたっぽい。


ミラベルさんはおっさんの母親でルジンカちゃんの祖母だ。

祖父のブルーノさんと領地の方で暮らしてたようだが、どちらも既に他界している。



あと、デルフェニーという姓の人物から、誕生日とか入学祝いに簡単な手紙がパラパラ来ているな。


デルフェニーはフーティーナママの旧姓だ。

母方の親戚達なんだろうが、当の本人からの手紙は全然出てこない。

よく探せば見つかるのかもしれないが、ここでも希薄な親子関係がうかがえた。




それと、王太子ウェイドからの手紙。

他と比べて微妙に厚い。

ルジンカちゃんに惚れてたらしいが、特にラブレターって感じではないな。

天候のこととか、出席した催し事の事とか、最近読んだ本のこととか、当たり障りのないことが書かれている。

長いから全部読んでないが。

ウェイド以外にも色んな男から同様の手紙が来てるし、一応、ラブレターの一種なんだろう。




手紙ではないが、変なリストが書かれたノートも出てきた。

これは完全に黒歴史系だな。


ルジンカちゃん的に破廉恥だと思う単語がズラッと書き出されている。


“ティンポッポ”“おっぱい”“ぬらぬら”といった、いかにもな言葉から、“したたり”とか“からめる”とか微妙なものまで。


滴りをエロいって言う奴の方がエロいと思うけどな。


横にロイル、ベアド、友人、おっさん、その他って項目があり、〇とか×と記入されている。

察するに、どの単語を誰の前ので使っていいかの仕分けだろう。


ロイルは×と△ばっかりだ。

“撫でさする”だけ〇になっている。


ベアドは△、おっさんは〇が多い。


注目すべきは“お尻の穴”や“乳しぼり”がおっさんだけ〇になっていることだ。

親子の会話はほぼなかったらしいが、尻の穴については語ってたのか?


こんな無駄なことしてるからロイルに振られんだよ。

会話に集中できないだろ。




箱の下の方をさらってみると、紐でくくられた手紙やメモの束がいくつも出てきた。

一応、整理整頓を試みたことはあるらしい。

人物別だったり、年代別だったりバラバラなんだが、共通点は途中で挫折してるとこだ。


きっと後で分別しようと、とりあえず全部取っておいて・・ってのを繰り返した結果、箱が巨大になっていったんだろうな。

なんか分かる。


束の中には、ごく幼い時代の手紙を集めたものもあった。

子どもの字の手紙が多い。



これ、ベアドか?


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

ぼくのルジンカへ

6さいのおたんじょうび おめでとう!

すてきな1ねんになりますように。

         きみのベアドより

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△



動物が飛び出してくる仕掛けカードだ。

微笑ましいがマセてる。



6歳ってことは、この箱に少なくとも10年分の手紙が入ってるのか。



あれこれ目を通してみたが、特に何かを思い出せそうな気配はない。

不思議と赤の他人の手紙を読んでる気もしないんだけどな。


読めば読むほど重苦しい何かが胸に溜まっていく。



いつの間にか泣いてる自分に気づき、ビビった俺は作業を切り上げた。




床に散乱した手紙やカードはメイドに戻させよう。

それと、もっとデカイ箱よこせって言わないとな。


この世界の奴らは手紙をメール感覚でバンバン出す。

マメに整理しないとこういうカオスな箱ができるんだろう。


こんなメモまであったし。


『ルジンカへ

いつでもいい。決まったら教えてくれ。

あと、お前の部屋のレターボックスはいい加減なんとかすべきだ。ひどすぎる。  ベアド』



なんたって、ルジンカちゃんは俺の来世だ。

人が片してくれるお部屋はピカピカでも、本人が管理してるエリアはこんな具合にグチャグチャだからね。

職場のPCのハードディスクと同じ状態を、こっちでも再現してたらしい。


だが、おかげ様でこの箱は貴重な情報源になる。

読むのは絶対大変だが。




ベッドに転がって動きまわるメイドを眺めていると、部屋の一画に目がとまった。



小人ってあのことか。



暖炉脇の棚の上に、ちっこい人形の一団がディスプレイされている。


木製や布製や陶器。

一番多いのはガラスだ。

馬に乗ってたり、お茶してたり、ダンスしてたり。

鳥や動物もいる。

小さいものだと小指の先くらいしかない。

フィギュアのコレクションみたいなもんだな。


別エリアに貝殻とかも飾ってたが、収集癖があるんだろう。



小人達の横に小さい箱があった。

立体的な花が掘られたピンクの木箱だ。


なんとなく見覚えがあり手に取ると、想像通りロイルからの手紙が入っていた。



『感謝する。今年もよろしく。 ロイル・アルフェノール』


感謝してないことしか伝わってこない。

ほぼ同じ文章の手紙が何通もあるが、誕生日かなんかの礼か?


あとはこんなのが少しある程度だ。


『ありがとう。元気だ。また学校で。 ロイル・アルフェノール』

『それは難しい。また機会があれば。 ロイル・アルフェノール』


ルジンカちゃんの手紙に最低限の文字で返信したんだろう。

この量だと、返事が来ただけマシだったのかもしれない。

こんなの後生大事にしてたなんて、涙ぐましい。



薄い紙の束をパラパラやると、一番下にカードがあった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

ルジンカへ

またぜったい あいにきてね。

おおきくなったら、きみをおよめさんにしてあげる。 

                   ロイル

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△



たどたどしい幼い文字。

最初からそっけなかったわけじゃないらしい。


まあ、子どもってすぐ結婚しようって言うけどな。



胸がギリギリ痛み、大粒の涙が溢れ出す。


ロイルの手紙なんて見るんじゃなかった。

泣くに決まってんのにな。



手紙の束を急いで箱に戻した。

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