変わる予知
おっさんの帰宅はだいぶ遅かった。
リゴーで一服するのに付き合いつつ今日の報告をし、恒例の鉢の確認をした。
前回予知
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『☆死☆の運命星』 本日5月10日
ルジンカ・フラボワーノ 17歳 →1/1日生まれ 現在16歳
①シェイラ・フラボワーノ 41歳 →10/10日生まれ 現在39歳
②黒丸
③黒丸
④ロイル・ノヴァ・アルフェノール 17歳 →3/3日生まれ 現在16歳
⑤黒丸
⑥ネレッサ・アルフェノール 20歳 →5/5日生まれ 現在19歳
⑦ゼルセース・クルクミー 49歳 →11/11日生まれ 現在48歳
⑧リコピナ・クルクミー 17歳 →8月8日生まれ 現在15歳
→推定死亡(処刑)時期:来年10/11~11/10 推定逮捕時期:来年4月~5月くらい
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今回予知
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『☆死☆の運命星』 本日5月11日
ルジンカ・フラボワーノ 18歳 →1/1日生まれ 現在16歳
①黒丸
②黒丸
③黒丸
④ロイル・ノヴァ・アルフェノール 18歳 →3/3日生まれ 現在16歳
⑤黒丸
⑥黒丸
⑦ゼルセース・クルクミー 51歳 →11/11日生まれ 現在48歳
⑧リコピナ・クルクミー 18歳 →8月8日生まれ 現在15歳
→推定死亡(処刑)時期:再来年11/11~12/30 推定逮捕時期:再来年5月~6月くらい
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1年以上寿命が延びている。
だが、それどころじゃない。
「スカスカだな・・・!」
思わずつぶやく俺。
叔母シェイラとネレッサが消え、黒い丸に取って代わられている。
「シェイラが・・・?」
おっさんが息を飲む音が聞こえたが、俺に気遣う余裕はない。
異変は他にもあったからだ。
俺はミイラ女になっていた。
顔全体に薄汚れた包帯が乱雑に巻かれ、合間からチラリと見える肌は赤黒い。
髪は長いままで、白っぽい寝間着のようなのを着ている。
黒刑ならおかっぱ黒服の魔女っ娘風でキメているはずだし、今回の死因は少なくとも処刑じゃないんだろう。
事故か病気か虐待か・・・
どっちみち悲惨だ。
動揺しつつも、とりあえず紙に描き写す。
変化が大きいし、今回はイラスト入りだな。
予知の図は鉢から手を離すと消える。
なので、基本左手は添えたままだが、紙を押さえたりして何回かは手を離す。
今回もそうだった。
一度手を離し、触れ直した時。
妙な違和感があった。
「ん・・?」
「どうしたの?」
「いえ・・・それより、俺の顔・・・!!」
変わっていた。
ミイラ女じゃなくなってる。
そして、過去最高にボロボロだ。
額と両頬、鼻、顎と、顔の大半が薄汚れたでっかいガーゼに覆われ、すき間から赤黒い爛れがのぞいている。
ガーゼもさっきの包帯も、この爛れを隠すのが目的だったのかもしれない。
痩せ衰えてガリガリで、落ち窪んだ目元が骸骨みたいだ。
一応確認してみたが、その他の表記に変化はない。
試しに、もう一度手を触れ直すと、俺は再びミイラ女に戻っていた。
そして、さっきよりも強くなる違和感。
わけがわからず、もう一度試してみる。
包帯が消え、両頬と額、顎にガーゼが現れた。
もう一度試す。
右頬にガーゼ、額、左頬に治りかけの傷。
もう一度。
首に包帯、顔全体に無数の治りかけの傷。
もう一度。
左頬に完治した傷、額と首にガーゼ。
触れ直す度に変わっていく俺の顔。
・・・これ、未来が変化してるってことか!?
今、この瞬間に!!??
「ルジンカちゃん、大丈夫?」
心配そうな呼びかけで、おっさんの存在を思い出す。
俺は早口で状況を説明した。
「爛れに傷・・ルジンカちゃんの顔に?」
ショックに顔を歪めている。
「どんどん変わっていくんですよ。こんなこと初めてだと思うんですけど・・」
「触れ直すだけで未来が変わる・・ねえ・・」
おっさんと2人、しばし考え込む。
怪我の具合なんて、ちょっとの動きで変わる。
この程度は誤差なのか??
だが、おっさんは同意しない。
しばらく考えた後、「もしかしたら・・」と口を開いた。
「未来のルジンカちゃんが何かを伝えようとしてるのかも。鉢の予知には顔が映るわけだし」
「未来の俺が!?」
そんな発想はなかった。
が、理屈では可能だ。
顔を使えば、過去の自分に情報を残すことができる。
死の直前の俺なら、事件の顛末を知っているだろう。
何が起きて、どんな理由で捕まったのか?
その情報を得られれば、今日にも死の予知から解放されるかもしれない。
むしろ、なんで思いつかなかった?俺!!
「そうか!じゃあ、この傷やカーゼに何かヒントが!?」
俺は再度鉢に触れ、何度目かの変化を遂げた自分の似顔絵を注視する。
一瞬、立ち眩みのような眩暈を感じたが気にとめなかった。
額と鼻に治りかけの傷跡、左頬にガーゼ。
ガーゼは汚れているが、ただのシミだろう。
その下はやはり赤黒い爛れ。
額と鼻の傷跡も、特に文字にも数字にも見えない。
「うーん・・・ただの怪我だよな・・?」
唸りながら首を傾げる。
「捕らわれの身だとしたら顔に情報を残すのは簡単じゃないよ。爛れやガーゼは消された痕かもねぇ・・」
囚人が許可なく外界へメッセージを発信することは許されない。
脱獄とか、証拠や財産隠し、仲間を逃がしたり、場合によっては復讐したり。
色んなことできちゃうからな。
政治犯とかだと、自分に有利なように世論を煽ったりも可能だ。
そういうのを防ぐため、管理は徹底される。
看守は懐柔されたり、協力者を手引きしたりと利用される危険が高い。
そのため、複数人が変則的なスケジュールでどんどん交代し、監視役まで付けられる。
監視役は次時間の看守への引継ぎの際に立ち合い、異常が無いかのチェックを行う。
囚人の体にメッセージや暗号状のものが残っていれば、その時間を担当していた看守は罰を受けるという。
「だから、疑わしいものは消されちゃうんだよ。向こうも必死だからね。傷とかで書くと熱湯をかけたり、ナイフで切ったり削ったりするって聞いたことあるねぇ」
「グロ!」
拷問だな。
本当に必要な情報はガーゼの下の爛れの下というわけか。
顔に残っている傷跡はダミーか、情報を残そうとして失敗したものなのかもしれない。
「でも、なんで毎回変わるんです?」
俺は基本的な質問をする。
「ルジンカちゃんが今、予知を見たからじゃないかな・・?」
タラコ唇を指でグリグリやりながらおっさん。
「予知で得られるのは、予知を知る前の未来だからね。失敗例を見れば見る程、試行錯誤するでしょ?いざ、自分の番が来た時・・」
“自分の番”とか、永遠に来ないで欲しいんだが・・
ゾッとする。
だが、いまいち釈然としない。
「そんな簡単に変わりましたっけ?この予知って?」
鉢を見つめながらおっさんに問う。
例えば、ロイルにゲロの詫びを入れて寿命が延びた時。
謝ると決めた時点では予知は変わらなかった。
変化があったのは実際に謝った後だ。
新回復薬の完成延期の時もそうだ。
まあ、あれはなんかゴチャゴチャしてて今でもよくわからないが、少なくとも延期しようと決めた時点では変わらなかった。
研究所からの早馬がおっさんの所に戻って来たタイミングで変わった可能性はあるが・・。
どちらにも共通しているのは、予知の変化は行動を起こした後、ということだ。
「予知を見ただけで変わるなら、今までもそうじゃないとおかしくないですか?」
俺の疑問におっさんは素直にうなずく。
「そうだね、おかしいねぇ?」
今日は屁理屈王ベアドが不在だからな。
俺らの思考はここで止まる。
それと、気になることはまだある。
「あと、なんかスゲー違和感あるんですよね。今回」
上手く説明できないが、鉢に触れ直す度、手応えみたいなものが大きくなる。
そんなのは普段感じたことがない。
毎回予知が変わってるせいかもしれないが。
「この鉢のこともよく分かってないしね。寿命は伸びてたんだし、続きは明日にしよう」
おっさんが解散を促したが、従えるわけない。
明日も同じ予知のままとは限らないし、その時、顔に情報を残せる環境かもわからない。
実際、今までの予知では顔はほぼ無傷だったし、触れ直して変化することもなかった。
このチャンスは逃せないだろ。
「もう少しだけ!」
心配そうなおっさんを尻目に、俺は再び鉢に触れる。
額に完治してるっぽいデカい傷跡、両頬にガーゼ、首に包帯。
もう一度。
左頬、鼻、顎に治りかけの傷。
もう一度。
左頬と鼻に完治した傷跡、首に治りかけの傷。
もう一度。
首に完治した傷後。
もう一度。
さらにもう一度。
そのまた更にもう一度・・・
それっぽいものが現れるのを待ち、鉢に触れたり離したりを繰り返した。
徐々に包帯やガーゼの登場頻度が減り、代わりに完治した傷跡や、治りかけの傷が増えていく。
何も傷が残っていないこともあった。
未来の俺の試行錯誤を感じるな。
より早い段階からチャレンジし、さらに、情報を最小限に絞ろうとしてるんだろう。
薄く、小さく、消されないように。
そして、意味がないと思っていた傷痕だが、バージョン違いをいくつも見るうちに、共通の特徴のようなものが見えてくる。
同じ情報を伝える目的で作った傷のはずだ。
核心に近づいているという予感に心臓がバクバクする。
横でおっさんが何か言っていたが聞き流した。
今はそれどころじゃない。
変化し続ける似顔絵を見つめ、夢中で手を動かす俺。
「ストップ!ルジンカちゃん!!」
突然、肩をつかまれ、鉢から引きはがされた。
「・・・ちょっと・・!もう少しだけ・・。何かわかりそう・・・」
出た声は、自分でもビックリするくらいかすれていた。
腹に力が入らないし、息が上がっている。
「やりすぎは良くないよ!顔色も良くないし、続きは明日にしなさい!」
おっさんの口調はいつになく強い。
でも、チキンで痛がりの俺がここまでやったのだ。
相当重要な情報のはずだ。
それに、理屈抜きで気になる。
まだやめるなと、本能のようなものが叫んでいる。
「鉢が俺を呼んでるんで・・」
答える最中、激しい眩暈に襲われテーブルに突っ伏す。
なんで、こんなに消耗してるんだ?
「余計だめだよ!・・ルジンカちゃん、記憶は?」
おっさんが緊張した顔で尋ねてくる。
これは、今までもされてきた質問だ。
一応、予知の力を持った鉢だからな。
代償を払わされる可能性を、常に視野にいれておく必要はある。
いつも通り自分の記憶をザっとさらい、変化がないか確認する。
でも、これが微妙なんだよな。
そもそも、自分の記憶の状態なんて、最初から把握できてない。
赤ん坊の頃から現在まで、キレイに全部覚えてる奴なんてほぼいないだろ?
俺もう37だし、20歳ですら17年前だ。
あやふやで適当な記憶の方が多い。
しかも、今はルジンカちゃんの記憶まで混ざってるからな。
代償の影響を受けてるかどうかなんて、正直分からないんだよ。
とりあえず、こっち来てからの記憶、家族、友人、仕事関係、趣味、嗜好、無限美ちゃん、あとは、俺のプロフィールに関する記憶なんかは多分平気そうだ。
ゲームの攻略情報とか、東京メトロの路線図とか、カレーのレシピとか、比較的どうでもいいことも覚えている。
チョコボールブラもな。
古い記憶だと、幼稚園くらいのものだ。
親父の運転する車で田舎に遊びに行ったこととか、好きだった子が引っ越しちゃってハートブレイクしたこと、迷子になって、見知らぬお姉さんにオッパイアイスを買ってもらったこととか。
特に自分に変化があるようには思えなかった。
まあ、今までもなんともなかったし。
そもそも代償が発生するかどうかも不明だ。
支払ったからこそ、俺は今ここにいるんだと思いたい。
「いつも通りですね」
不安げなおっさんに答える。
だが、この疲労はなんだ?
さすがにおかしい。
晩飯後に昼寝もして、俺の体調は万全だった。
「鉢の起動には生命力とか、魔力とかを使うのかもしれないね。もっと早く止めるべきだった・・ごめんね、ルジンカちゃん」
何も悪くないのに詫びるおっさん。
つまり、俺はMP切れの状態ってことか?
鉢に触れる度強くなっていた違和感の正体は、そういう魔力的なモノが吸われる感覚だったのかもしれない。
考えてみれば魔道具だし、無制限に使えるはずもない。
「とにかく、今日はもう部屋に戻って休みなさい」
おっさんは強制的に鉢を取り上げ、金庫にしまう。
最も警戒すべき記憶障害は、新しいことを覚えられなくなることだ。
こればかりは、時間を置かないとチェックできない。
おっさんが明日にしようと言ってるのも、その辺を危惧してのことだろう。
メイドに支えられ、フラフラと部屋に戻る。
すでに部屋の大半の水灯からは水蛍石が抜かれていた。
ベッドサイドに、水から引き上げたばかりの水蛍石がセットされている。
乾くまで光ってるからな。
寝る前にこうしておくと、段々暗くなるからちょうどいいんだよ。
ベッドに横になり、ぼんやりとさっきまでのことを回想した。
何回鉢に触れたか数えてはいないが、20回くらいか?
もっとか?
できれば、明日の朝には体が回復してて欲しい。
そしたら、もう20か30回試す。
それで情報をゲットできればいいし、ダメなら昼寝とかして夜にまたチャレンジだな。
もし明日にも死の予知が解決したら、俺は晴れて自由の身だ。
異世界ライフを心から楽しむ余裕も出てくるだろう。
好きでもないロイルを無理に追う必要もなくなる・・・
ウトウトしていると、机の上のうんこポエムが目に入った。
制服のポケットに入れっぱなしだったのを、着替えの時に取り出されて置かれたものだ。
水蛍石の弱々しい明りを受け、ダイヤル式の南京錠が鈍く光っている。
なぜか胸騒ぎがした。
でも理由がわからない。
込み上げてきた眩暈に攫われるように、俺は眠りについた。
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