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フォトン防衛戦(6)

…………………


 時刻1700時。


 遠くから死者の呻き声が聞こえる。幽霊騎士の蹄の音も。


 始まったのだ。ついにネクロファージのフォトン大攻勢が。


「ライサ。数は確認できるか?」

「膨大です、女王陛下! 2万、3万はいます!」


 クソ。やはり私たちが確認した以上の敵がいたか。


「全部隊! 直ちに指定された配置につけ! ハイジェノサイドスワーム、フレイムスワームは前線へ! ケミカルスワームは後方支援準備! 絶対にここを突破されるんじゃないぞ!」


 空気がピリピリしている。私の中でも、スワームたちの中でも緊張しているのが手に取るように分かる。だが、今は緊張してるような場合ではない。勝利するためにするべきことをしなければ。


「セリニアン。もう動けるか?」

「いつでも動けますよ、女王陛下」


 休ませておいたセリニアンに私が声をかける。


「君はレイスナイト対策に動いてくれ。レイスナイトが今のところもっとも大きな脅威だ。奴らは防護壁を貫いて後方に侵入してくる。ライサたちが傀儡の相手をしている間に、君はレイスナイトへの対策を」


「畏まりました、女王陛下」


 セリニアンがそう言ってくれると安心できる。


「アラクネアの女王」


 と、私がセリニアンたちに指示を出しているときに声が掛けられた。


「マッケンジー大統領? ここへ何をしに?」

「ここにいるのは私の国の国民だ。私たちにもできることはないかと思ってやってきた。何かできることはないだろうか?」


 マッケンジー大統領はそう告げて引き連れてきた兵士たちを指し示す。


「ならば、避難民の誘導を。戦闘になれば防護壁内がどうなるか分からない。安全だと思える場所に避難させてもらいたい。できるだろうか?」

「それぐらいのことならお安い御用だ。諸君、我々の守るべき国民を守れ!」


 マッケンジー大統領が威勢にいい掛け声を上げ、兵士たちがそれに応じると避難民たちの周囲に展開する。


 彼らも国を守るために必死なんだな。生身のユニットがいれば、それはネクロマンサーに操られる潜在的危険性があるが、避難誘導くらいなら任せても危険はないだろう。彼らが上手くやってくれることを願うばかりだ。


「ライサ。敵は後どれくらいで防護壁に達する?」

『前方のもっとも進んでいる集団が5分後には防護壁に到達します! こちらも攻撃準備に入って構いませんか!?』


 あと5分。残された時間はそれだけ。


「好きなタイミングで攻撃してくれ、ライサ。任せる!」

『了解です、女王陛下!』


 私が命じるのに、ライサから了承の声が。


 そして、いよいよ始まった。


…………………


…………………


 迫りくる2万から3万の傀儡たち。


「ライサ。なるべくネクロマンサーを狙って撃ち抜け。傀儡を全て相手するのは困難だ。こちらの戦力は相手に押されている。増援を送り込むが、なるべくならばネクロマンサーを撃ち抜いて戦力を削いでくれ」


『畏まりました、女王陛下』


 ネクロファージの死者の傀儡化は強力なスキルだが、ネクロマンサーが倒されれば操っていた死体は全て元の死体に戻るという弱点を抱えている。今回はその点を突いていかないと2万、3万の傀儡の相手などして裸れない。


 私とライサが言葉を交わしている間にも傀儡の群れが防護壁を守るハイジェノサイドスワームに襲い掛かってくる。


 ハイジェノサイドスワームは上位ユニットなだけあって、傀儡ごときの通常攻撃にはびくともしない。だが、傀儡が戦槌やハルバードで武装していたり、破城槌のようなもので武装していた場合は、ハイジェノサイドスワームでもダメージを受ける。


 今回敵は簡易の破城槌を大量に用意している。先のとがった丸太を下げた傀儡の群れがハイジェノサイドスワームに向けて襲い掛かり、杭を叩きつけてくる。


 だが、ハイジェノサイドスワームもやられてばかりではない。ハイジェノサイドスワームは攻撃してくる傀儡に果敢に反撃し、その腐りかけの死体を引き裂き、引き千切り、バラバラに解体していく。


 更には城壁の上と下からフレイムスワームが火炎放射を傀儡たちに浴びせかけ、彼らを火達磨に変えた。敵の数が多いと範囲攻撃が行えるフレイムスワームは便利だ。纏めて敵が倒せて、敵の隊列が崩れる。


 加えて、ベヒモスを相手にした時のようにディッカースワームの掘った穴にファイアスワームが埋めてあり、それが炸裂する。すると、傀儡たちが空高らかと吹き飛ばされ、戦列に空白ができる。


 やれることは全てやった。残るは勝てるかどうかだ。


「しかし、こうも数が多いと……」


 撃破されるハイジェノサイドスワームが出てきて、更にはハイジェノサイドスワームを突破した傀儡が城壁に向けて破城槌を叩きつける。防護壁が崩れていく音が響く中、走り寄ってきたフレイムスワームが火炎放射を浴びせて突破を阻止する。


「ぎりぎりの戦いだな……」


 私はスワームとネクロファージの戦いを眺めてそう呟く。


 突入してくる傀儡を相手にハイジェノサイドスワームとフレイムスワームが必死に応戦し、辛うじて敵の城壁突破を防いでいる。だが、それもいつまで続くか分からない戦いだ。何せ敵の規模は2万から3万いるのだから。


 それから用心すべきことがある。敵は傀儡だけではないということだ。


『女王陛下! レイスナイトです! 防護壁を突破しました!』

「分かった、ライサ。対応はこちらに任せろ」


 ついに一番面倒なレイスナイトが出現した。


 レイスナイトは体力の3分の1を犠牲にすることによって敵の城壁や要塞を通り抜けることができる。それがネクロファージの面倒なところでもあった。いつの間にか城壁内に入り込み、破壊の限りを尽くすレイスナイトはあのゲームのプレイヤーなら誰しも苦手だろう。


 だが、相手がネクロファージだと分かっている以上は、こちらもちゃんとレイスナイトに警戒している。


「セリニアン。敵が突破した。レイスナイトだ。迎撃してくれ」


 私は城壁内に予備の戦力を残している。レイスナイト対策に。


『了解しました、女王陛下。ただちに対処します!』


 集合意識からセリニアンのはっきりとした声が響き、セリニアンたちがレイスナイトに向かっていく。


 防護壁を突破してきたレイスナイトの数は60体。かなりの数だ。


 奴らは防護壁を守るライサたちではなく、無防備な避難民に向けて突き進んでいく。


「逃げるんだ! こっちだ! こっちに向かえ!」


 避難民に迫るレイスナイトと避難誘導を行うポートリオ共和国の兵士たち。ポートリオ共和国の兵士たちは、この状況でも与えられた任務を果たすために、必死になって避難民の誘導を行っている。


 そこにレイスナイトが乱入した。


 レイスナイトは避難誘導をしている兵士を狙ってランスを突き出し、その胸を貫く。胸を貫かれた兵士は口から血を吐いて倒れ、物言わぬ屍と化した。


 そして、ネクロマンサーによってその死体が蘇り、避難民を襲わんとする。


「はああっ!」


 だが、完全には奴らの思惑通りにはならなかった。セリニアンが傀儡の頭部を刎ね飛ばし、傀儡を元の死体に戻した。


「覚悟しろ、下郎ども! この避難民は女王陛下が守られると決められたもの! それを傷つけることは私の騎士の誇りに賭けて阻止する!」


 セリニアンはそう口上を述べると、レイスナイトに切りかかった。


 この世界の武器は霊体系ユニットには通じないが、同じゲームの世界の武器ならば通じるのだ。それがどういう仕組みかは分からないが、攻撃が通じるならばそれでいい。セリニアンは長剣を振りかざし、レイスナイトはそれを迎え撃つためにランスを構える。


 そして衝撃。


 セリニアンはレイスナイトのラインを弾き飛ばし、レイスナイトの首を刎ね飛ばした。そして次に先ほどのレイスナイトを援護しようとしていたレイスナイトの胸に長剣を突き立て、レイスナイトを打ち倒す。


 倒されたレイスナイトは液体が蒸発するように蒸気を立てながら、天へと昇っていった。ネクロファージの呪縛から魂が解放された証だ。


 ハイジェノサイドスワームたちも侵入してきたレイスナイトと交戦している。レイスナイトから避難民を守るために、牙を突き立て、レイスナイトたちを足止めする。相手が機動力が高いとは言えど60体しかいないのに、こちらはセリニアンを含めて満足な数が揃っている。正面から戦えば勝てない相手ではない。


『女王陛下! レイスナイトが更に突破! 数は先ほどより多いです!』


 しかし、やはり敵も本気か。


 レイスナイトが60体しかいないはずがないのだ。まだまだ敵のレイスナイトによる攻撃は続く。セリニアンと城壁内のハイジェノサイドスワームには頑張ってもらわなくてはならないな。



「ライサ、敵のネクロマンサーは見つけたか?」

『いいえ! まだです! 探しているのですが、敵の数が多すぎて……』


 傀儡の中に隠れているのか? 卑怯な真似を。


「ライサ。ネクロマンサーはガリガリにやせこけた体をしていてほとんどミイラみたいになっている。そして、擦り切れたローブを纏っているはずだ。それに該当する敵は見当たらないか?」


 私はネクロマンサーの詳細な情報を伝えて、ライサの返事を待つ。


『……いました! 敵のネクロマンサーを発見! 攻撃に入ります!』


 よし。悪くないぞ。これで傀儡たちが数を減らしてくれればいいんだが。


「ライサ。攻撃は成功したか?」

『成功した、と思います。敵は倒れました。ですが、傀儡の勢いは変わりません! このままだと城壁が突破されてしまいます!』


 クソ。予備のネクロマンサーを準備していたか。やってくれるな。


「ライサ。ネクロマンサーを見つけ次第攻撃を続けろ。今、そちらに増援を送る」


 私はライサとセリニアンたちが戦っている間に、スワームを増産していた。


 数はハイジェノサイドスワームが600体とフレイムスワームが400体と計1000体。


 まだ万単位の敵が残っている状態での増援としては心もとないが、これだけが今は精一杯だ。これ以上生産すると戦略予備の資材を失う。既にドレッドノートスワームは生産不能なだけの資材を使っているというのに。


「敵が予備のネクロマンサーを準備している場合、それをどこに置いておく?」


 私はひとり考え込む。


 ネクロマンサーを同じ場所においていては同時に倒されてしまうのがオチだ。私ならば別々の場所に配置する。それも自分のネクロマンサーが倒されたことがよく分かる位置に置くだろう。


「ライサ。その防護壁正面に高台がないか探してくれ。恐らく敵のネクロマンサーはその付近にいるはずだ」

『了解です、女王陛下!』


 ライサと視界を共有し、防護壁正面の傀儡が押し寄せている場所にネクロマンサーがいないか探り出す。


 いた。だが、それはネクロマンサーではない。ネクロマンサーの上位互換であるリッチーだ。死体を傀儡として操るほかに攻撃魔術などを使用してくる面倒な相手である。


「ライサ。その場所から狙うのは無理そうか?」

『厳しいです。敵が遠すぎますから……』


 敵はライサの長弓でも届かないような位置にいた。


「こうなったら仕方ない」


 私は彼女を頼ることにした。


「セリニアン。今から敵の隊列を飛び越して、この位置にいる敵を倒してもらいたい。できるか?」


『可能です、女王陛下。侵入してきたレイスナイトはほぼ全滅。こちらが手を打つにはもってこいの機会です』


 私が尋ねるのに、セリニアンが二ッと笑ってそう返してきた。


「よし。頼むぞ、セリニアン。この防衛線の勝敗は君に掛かっている。帰り道は必ずライサと一緒に用意する。今は敵の首を刎ね飛ばすことだけに集中してくれ」

『畏まりました、女王陛下』


 セリニアンは私の言葉に大きく頷き、防護壁の上に飛び乗った。


「ライサ、敵はあいつか?」

「ええ。あれだと思われます。任せていいですか、セリニアンさん?」

「もちろんだ。任せておけ」


 セリニアンはライサと言葉を交わすと、防護壁の上部を蹴り、翼を広げて飛翔し、一気に傀儡の上を飛び越えていき、リッチーの方へと飛んだ。


「なっ……!」


 私はセリニアンの視界を介して、リッチーがその骸骨のような顔に驚きの表情を浮かべるのを見つめた。いい気味だ。これまで死体で遊んできた報いを受けるといい。


「はああっ!」

「くうっ!」


 セリニアンが長剣を振り下ろすのに、リッチーが防御魔術らしきものを発動した。リッチーの体が緑色の光に包まれ、セリニアンの長剣はリッチーに達しない。


「おのれ。蟲ごときが生意気な!」


 リッチーはそう告げると手の平から電流をセリニアンに向けて放った。


「ぬるい!」


 だが、そんな攻撃が命中するほどセリニアンはのろくはない。セリニアンはリッチーの繰り出してくる攻撃魔術を避け、ガードし、いなしながらリッチーに向けて迫る。


 リッチーは焦りのためか狙いがぶれ始め、その隙にセリニアンが一気に距離を詰める。それはあっという間の出来事であった。


 リッチーの攻撃魔術を避けきり、いなしきったセリニアンは再び長剣を振りかざし、リッチーの首に狙いを定めて長剣を振るう。


 リッチーは今度は防御魔術を発動させる暇もなかった。リッチーの首は刎ね飛ばされ、死体は地面にゴロリと転がった。


 リッチーは所詮は前衛と連携して活動するユニットだ。傀儡やレイスナイトを前衛にして敵の近接ユニットの接近を防ぎ、それから後方で魔術攻撃や、死者の傀儡化を行うユニットなのだ。


 その後衛ユニットがセリニアンという前衛ユニットと遭遇した時点で、リッチーが敗北するのは運命だったといえるだろう。


 それに何といってもセリニアンはアラクネアの誇る英雄ユニットなのだ。そう簡単には負けたりはしない。


『女王陛下。やりました』

「ご苦労様、セリニアン。今、君が帰る道を作る。力強い味方が来たことだしね」


 セリニアンの報告と同時に私はある報告を受け取っていた。


 戦況を逆転させれる報告だ。


 それは空からやってきた。


「ワイバーン! それにグリフォン!」


 私の近くにいたポートリオ共和国の兵士たちが声を上げる。


 そう、私たちの航空戦力であるワイバーンスワームとグリフォンスワームが到着したのだ。


 グリフォンスワームは真っすぐセリニアンの方に向かい、ワイバーンスワーム6体は地上を焼野原にするために火炎放射を浴びせかける。


 敵には対空戦力がないのか、彼らはろくに抵抗もできず、ワイバーンによって焼き払われていく。ネクロマンサーがその攻撃に巻き込まれたのか、傀儡たちが元の死体へと戻っていく。


「女王陛下! 勝ちましたね!」

「まだ早いよ、セリニアン。敵の攻撃はまだ終わっていないかもしれない」


 グリフォンスワームに跨って戻ってきたセリニアンが嬉しそうに告げるのに、私は慎重に地図と各スワームたちの情報を読み取っていく。


 幸いにして航空偵察ということが行えるようになったため、グリフォンスワームの視界の情報は頼りになった。それによれば攻撃地点はこのライサたちが受け持っている一点だけであり、他に敵が潜んでいる様子はないと分かった。


「ライサ。攻撃は食い止められそうか?」

『はい、女王陛下。後数体レイスナイトが残っていますが、傀儡は全滅しました』


 よし。これで勝利が祝える。


 残ったレイスナイトはハイジェノサイドスワームとフレイムスワームの攻撃を受けて消滅し、残されたのは燃え上がる死体の山と、傀儡たちにやられたスワームの死体だけになった。


「死体は全て肉団子にし、友軍の死体は丁重に葬れ。以上だ」


 私は戦闘終結に安堵の息を漏らした。


 これでフォトンを一時的にではあるが守ることができた。何十万という避難民から犠牲者を出さずに済んだ。これでようやく戦争に一段落がついたのだ。


 残るはネクロファージの攻撃を退けつつ、ネクロファージの首都グレイブを襲撃し、壊滅させるだけ。


 だが、それが難しい。肉臓庫の資材はほとんど使い尽くしてしまった。これではドレッドノートスワームを作ることもできない。


 どうにかして資材を調達しなければ。


『女王陛下。我々は戦争に勝ったのですか?』

「分からない。今はまだ」


 ハイジェノサイドスワームの1体がそう尋ねるのに私はそう返したのだった。


…………………

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