フォトン防衛戦(5)
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フォトンのすぐそばにネクロファージの大軍勢が集結している。
この情報は私からライサにすぐさま伝えられた。
受胎炉では追加のハイジェノサイドスワームとフレイムスワームが生産され、ライサの守る防衛線に集結しつつある。
「ライサ!」
「女王陛下! 今門を開けます!」
私が城門に近づくのにライサが城門を開き、私とセリニアン、そしてスワームたちを出迎えた。
「女王陛下。攻撃は上手くいったのですか?」
「ある意味では上手くいき、ある意味では失敗だ」
ライサが尋ねてくるのに私は拠点に戻って地図を見る。
「このライサが発見した位置に万単位の傀儡が迫っている。レイスナイトもそれなりの数がいるだろう。ここで守り切れなければ敗北だ。私は絶対に負けたくない。よって、どうあってもこの城壁を守り抜く」
この城壁が私たちの前線にして最終防衛ラインだ。
我ながら余裕のない設計にしたものだ。あきれ果てる。だが、敵から身を守るのにこの城壁は役に立ってくれるはずだ。レイスナイトはともかく、他は通常攻撃のみの傀儡なのだから。
「城壁の外にハイジェノサイドスワームを800体とフレイムスワームを300体。城壁の上にフレイムスワームを600体。残りは城壁内でレイスナイト対策に動く。以上だ。何としてもこの城壁を突破させるな」
「了解です」
私の言葉にライサが頷く。
「女王陛下。私は何をすれば?」
「セリニアンはまずケミカルスワームから治療を受けてくれ。それが済んだら戦略予備だ。城壁を抜けてきたレイスナイトの相手をしてもらうよ」
できればセリニアンを戦わせたくはないものだ。
経験値は欲しいところだが、セリニアンは疲弊しきっている。ケミカルスワームが体を癒しても、完全には回復しないだろう。そうであるがために、私はセリニアンをなるべく前線から遠ざけておくことにした。
「女王陛下。私はまだ戦えます」
「分かっているよ、セリニアン。だが、休息も必要だ」
そう告げて私はセリニアンを抱き締める。
「敵は強大だ。だからこそ、君を失いたくはない。君には生き延びてもらいたい。それが私の願いだ。頼む、セリニアン。今は私のいうことを聞いてくれ」
「女王陛下……」
私が告げるのに、セリニアンは涙目になりながら、私の胸に顔を埋める。
「セリニアン。もう一段階で君も最終進化形態だ。その時の立派な姿を私に見せてくれ。頼むよ、セリニアン」
「はい、女王陛下……!」
私の胸の中でセリニアンが決心するのが分かった。
「さあ、いよいよフォトン防衛線だ。勝たなければ」
フォトンを陥落させるわけにはいかない。ここが新大陸の最後の砦なのだ。
私はここを死守するために戦いへと赴いた。
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「マーチ、マーチ、マーチ♪」
そう愉快そうに告げるはネクロファージの主であるサマエルだ。
彼女は地面をステップで進みながら、ネクロマンサー、レイスナイト、傀儡たちの前進を眺めていた。
「さあ、行進を。生なきものが生あるものを食らいつくすために前進を。ひたすらに前進を、一心不乱に前進を。ただひたすらに前進を」
サマエルは行進していくネクロファージ陣営のユニットを眺めながら、歌うようにそう告げる。実際に彼女は歌っていたのかもしれない。リズミカルに紡がれるその言葉を歌と表現するかどうかは意見が分かれる。
ただ、ひとつだけいえるのは死者の軍勢が着実に新大陸の人類最後の拠点であるフォトンに向けて迫っているということだ。
数え切れない規模の数万という規模の傀儡たちとレイスナイト、そしてネクロマンサーたち。それらは新大陸の人類が立て籠もっている最後の聖域であるフォトンを陥落させるために前進を続けていた。
「ちょっと予定が狂いましたが、まあ問題はないでしょう。ないですよね?」
サマエルはそう告げてこの軍勢の指揮を任せたネクロマンサーを見る。
「お任せを、サマエル様。必ずや、フォトンを陥落させてご覧に入れましょう。相手がなんであれ、勝利するのは我々ネクロファージです」
指揮官のネクロマンサーは頷くとそう告げる。
「それは景気がいい話ですが。相手はあのグレゴリアを打ち破っているのですよ。それでもやれるって言えますか?」
「グレゴリアが何であれ、我々は成し遂げてみせましょう。それがサマエル様のお望みになられることであるならば」
サマエルは心の中で思う。
この指揮官は失敗だったな、と。
相手のことを見くびりすぎている。これでは勝てる戦いにも負けるかもしれない。それほどまでに無能な指揮官だ、と。実際にあの前進拠点の防衛を任せていたのに、このネクロマンサーは陥落を許したのだ。
「どうも不安ですねえ。景気のいいことばかりを言う人間を私は信頼しないようにしているんですよ。あなたの意見などはまさに景気のいいことばかりで、現実に目を向けてるようには思えませんねえ?」
「そ、そのようなことはありません! 私は全身全霊をかけて、サマエル様のお望みになるようなことを成し遂げてみせます!」
ネクロマンサーが叫ぶのに、サマエルは首を竦めた。
「ちょうどですね、あなたたちの完全な上位互換であるリッチーの生産が始まったんですよね。そのリッチー君が今、そこにいます」
サマエルが指さすのは、宙に浮き、魔導書を開いたリッチーというネクロマンサーの上位互換に当たるユニットであった。それがサマエルの傍に控えている。首無し騎士ヘシアンと共に。
「せっかくなので指揮官に新しくできた彼を命じたいと思います。あなたは解任。それでいいですよね?」
「そ、そんな! 私が命じられたものであるといいますのに!」
ネクロマンサーはサマエルの決定に異を唱える。
「ヘシアン」
「畏まりました、サマエル様」
そのネクロマンサーの言葉にサマエルはパチンと指を鳴らし、ヘシアンは長剣を以てしてネクロマンサーの首を刎ね飛ばした。
「では、リッチー君。君が指揮官だ。アラクネアをがたがたにしてきてくださいね。期待して待っていますからね。アラクネアがボロボロになる以外の結果は認めませんよ?」
「畏まりました、サマエル様」
サマエルが切り落とされたネクロマンサーの頭を蹴り飛ばして告げるのに、リッチーはただ無感情に頷いて返した。
「さてさて、では、マーチ、マーチ、マーチ♪ 進め、進め♪ フォトンまで♪」
サマエルはそう告げるとこの場から消滅した。いつものように忽然と。
「部隊は前進を継続せよ。我らがサマエル様に勝利の知らせを」
「勝利の知らせを」
ネクロファージの軍勢が進む。フォトンまで続く街道を辿って。
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迫りくるネクロファージの軍勢。
迎え撃つは総勢3000体を誇るスワームたちの群れ。
一部は防護壁の外で、一部は防護壁の上で、一部は防護壁の内側で、スワームたちはネクロファージの軍勢を迎え撃とうとしていた。
「ここを抜かれれば、避難民は虐殺される。なんとしても守り抜いてほしい」
私は防衛部隊の指揮官を務めるライサに向けてそう告げた。
「ご安心を、女王陛下。動く死者よりも危険なリントヴルムだって相手にして勝ったんです。そう簡単には負けませんよ。必ず勝ってみせます」
「頼もしいな、ライサ。今はセリニアンは治療中で動けない。君だけが頼りだ。任せたぞ。なんとしてもフォトンを守り抜く」
ライサの言葉は心強い。
「ディッカースワームの準備も完了。城壁内でレイスナイトを迎え撃つ準備も完了。後は実際に敵が来てみたいと分からない、か……」
私は本当にこれで守り切れるのか疑問に感じていた。
ネクロファージの軍勢はもう膨れ上がりに膨れ上がっている。私たちが見た数万体以外にも別動隊が動いているかもしれない。そうなるとこの防護壁が突破される可能性もあった。そうなれば、やはり避難民の大虐殺だ。
「グレビレアちゃん?」
ふと、私を呼ぶ声がするのに視線を上げる。
「ジョディ。すまない。まだ避難所を作れずにいて。今はネクロファージの軍勢をどうやって食い止めるのか考えるので精いっぱいなんだ」
「そのことは気にしてないよ。だた、グレビレアちゃんが難しそうな顔をして悩んでるから声をかけただけ。大丈夫?」
私がそんなに心配されるような顔をしていたのか、気をつけないと。指揮官の不安は部下に広がる。特に集合意識で感覚を共有できるアラクネアにおいてはなおのこと。
「心配させて済まない。だが、大丈夫だ。この攻撃を凌ぎさえすれば、もっと安全な避難所を作れるし、敵に対して反撃にでることもできるかもしれない。ジョンとジョエルの分の報復はしてやるつもりだ」
私はジョディに向けてそう請け負った。我ながら安請負だ。
「報復は気にしないで。ただグレビレアちゃんが生き延びてくれればそれでいいから。これ以上、知ってる人を失うのには耐えられそうにないから……」
「ジュディ……」
ジョディが目頭の涙を拭いて告げるのに、私は言葉を失った。
「安心してくれとは言えない。私もアラクネアという軍隊を率いる指揮官だ。何が起こるかは想像もできない。それでも生き残れるように努力するつもりだ。私だってそうそう死にたくはないからね」
「そうだね。誰だって死にたくなんてない」
……そうだっただろうか。私は死にたくないという思いでここまで来たのだろうか。
「今はどこかに身を寄せておいてくれ、ジョディ。場所がないなら私たちからポートリオ共和国に働きかけてもいいが」
「いいよ、いいよ。今は何とか凌いでるから。避難所、できたら呼んでね。楽しみにしてるから!」
私の心配も他所にジョディはどこまでも明るく去っていた。
「そうだな。なんとかなるだろう」
私はジョディの笑顔を見ているとやれるような気がしてきた。この圧倒的に不利な戦いでも切り抜けられるような予感がしてきていた。
それが現実のものとなるといいのだが。
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