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晩餐会

…………………


 ──晩餐会



 私たちがフォトンを敵であるネクロファージの手から救ったことはすぐに広まった。


 最初は気味の悪い怪物扱いだったスワームたちも、今では救国の英雄としてもてはやされている。といっても、スワームは人間から褒められたってなんら嬉しくはないのであるが。


 私はと言えば、資材の残量にため息をついていた。


 ネクロファージのフォトン総攻撃に使用された死体全て肉団子にして肉臓庫におさめたが、それでもドレッドノートスワームを生産するのには不足している。もっと肉が必要だが、この国の家畜は既に食い尽くされていて購入できない。


 困った。


 旧大陸から物資を運ぼうにも道中にはシーサーペントが待ち構えている。恐らくはニルナール帝国が旧大陸からネクロファージが押し寄せないように放っただろうシーサーペントが徘徊している。


 旧大陸ともっと簡単に行き来ができれば、旧大陸にいる何十万ものユニット共に家畜の肉も運べるのだが、残念なことに旧大陸との行き来は命がけだ。


 はてさて。どうしたものだろうか……?


「女王陛下」


 私がそう悩んでいるときにセリニアンが声をかけてきた。


「なんだい、セリニアン?」

「ポートリオ共和国のものたちが来ています。女王陛下に謁見したいと」


 謁見とは大層な。多分、セリニアンがそう解釈しただけだろう。


「会おう。どこにいるんだい?」

「あちらです。ご案内します」


  私が尋ねるのにセリニアンが私を連れて進む。


「おおっ! これは我らがフォトンの救世主!」


 待っていたのはマッケンジー大統領だった。


「まだそう呼ぶのは早い。ひとまずの攻撃は凌げたけれど、これからは不明だ。敵が神聖オーグスト帝国の臣民たちを全て傀儡としているならば、もっと大規模な攻撃だってあるかもしれない。もっともレイスナイトはかなり数を減らしてやったがね」


「それでもあなたのおかげでフォトンの街と避難民は救われた。我々は長く待ち望んでいた勝利を手にした。兵士たちの士気もこれまでにないほどに上がっており、国民は明日に希望を見いだせている。あなたのおかげだ」


 ふむ。そこまで言われると悪い気はしない。これまでの戦争では私たちは嫌われ者だった。東部商業連合との同盟締結までは侵略者だったからな。こうして感謝されるというのも悪くはない感触だ。


「そこでどうだろうか。我々は今回の勝利を祝って晩餐会を開くのだが、それに出席願えないだろうか。もっとも、大した食事は出せないのだが。そう、魚ばかりの晩餐会になる。ポートリオは漁業だけは盛んな国だからね」


 魚か。魚は嫌いじゃないな。お寿司も、お刺身も大好きだ。もっとも、この世界の住民が生で魚を食べるかどうかは疑問だが。


「構わない。出席しよう。勝利を祝うのも悪くはない。私は次の戦いのことばかり考えていて、頭の切り替えが上手くいかないかもしれないが」


「おお。これはありがたい。晩餐会には主賓として迎えましょう。晩餐会は明日の晩に催されます。案内のものを送るので、それに従って迎賓館でおいでください」


 魚料理か。どんなのだろうな。ああ。海鮮丼が食べたくなってきた。でも、晩餐会で海鮮丼が出るわけないよな。


「では、よろしく」

「こちらこそ、よろしく」


 私とマッケンジー大統領はそう告げ合って別れた。


「よろしいのですか、女王陛下。戦争ではまるで役に立たないものたちが、今回の我々の勝利を祝うなど」


「私たちはこの国を救いに来たんだ。私たちの勝利は彼らの勝利。それに彼らだってまるで役に立たなかったわけじゃない。避難民の誘導で犠牲者を防いだ。その誘導任務でレイスナイトにやられた兵士も少なくない」


 セリニアンが味方であるはずのポートリオ共和国軍がまるで役に立たないのにご立腹の様子だ。


 だが、しょうがない。霊体系ユニットに彼らの武器は通じないし、下手に戦場で死なれるとネクロマンサーに操られてしまう。


 それも相手は既にネクロマンサーの上位互換であるリッチーを解放して、戦場に投入してきている。前衛の壁が増えて、何十万もの傀儡の相手をするのは悪夢でしかない。


 だから、ポートリオ共和国軍には避難民の保護に徹してもらう。私たちが避難民を守り、ポートリオ共和国軍が避難民を守る。そうすれば、避難民は安全なはずだ。


「ああ。それはそうと戦闘が一段落したからワーカースワームに仮設住宅を設営させないといけなかったな。避難民の数は多いが、ワーカースワームにポートリオ共和国軍の兵士が協力してくれればあっという間に完成するだろう」


 私とて立派な豪邸を避難民に提供するつもりはない。彼らが風雨を凌げ、衛生的に暮らせる環境が作れればそれでいいのだ。その点に関しては建築の専門家たちから技術を学んだワーカースワームたちと戦いでは役に立たないポートリオ共和国軍に頑張ってもらおう。今は特に作るべき施設もないしな。


「女王陛下。随分と人間たちにお優しくなられましたね」

「私は昔から人間には優しいつもりだけどな。ただ、こっちが優しくしてるのに向こうが裏切るってパターンが多いだけで。今回は裏切られないといいけれど」


 エルフの森。マリーンの街の人々。イザベル。


 私が優しくした人々はみんな裏切られて殺されてしまった。


 危うく人間不信になるかもしれなかったが、東部商業連合で仲間というものができて多少は人間を信じられるようになっている。


 そして、今はポートリオ共和国の人々と触れ合って人間らしくなれそうだ。


「セリニアンは今の私は気に入らないかい?」

「そんなことはありません! 女王陛下が幸せであられるなら、それが一番ですから」


 スワームたちは人間たちを守っている私をどう思っているんだろうか?


 やはり勝利のためと侵略の本能を抱えた彼らからすると不満なのだろうか。


 だが、集合意識にそのような不和は見られない。スワームたちは私の意志に調和しているのが分かる。スワームたちは根は意外と人間と共存できるようなものなのではないだろうか。


 まあ、その人間を肉団子にして作ったスワームたちなのだが。


「今の敵はネクロファージだ。無駄に敵を増やしたくはない。ポートリオ共和国とは友好関係を保っていこう」


 ネクロファージ。


 あのゲームで私がもっとも苦手とした陣営。


 これがラスボスなのかもしれないな。


…………………


…………………


 避難民への仮設住宅の建造が急速に進む中、私とセリニアン、そしてライサはドレス姿で晩餐会の席に向かった。ドレスを持ってきたのは私だけなので、セリニアンとライサはレンタルだ。セリニアンは赤、ライサは藍色。どっちもよく似合っていて可愛い。


「どうぞ、こちらへアラクネアの女王陛下」


 迎賓館では、大統領首席補佐官のダニエル・ディーンが出迎えてくれた。


「ライサは魚は好きか?」

「好きですよ! と言っても、私たちが食べてたのは川魚ですけど」


 ダニエルに案内されながら立派な迎賓館の中を進むのに、私がライサにそう尋ねる。


「セリニアンは?」

「私は好き嫌いはありません」


 セリニアンがピーマン嫌がったりするのが見れたら可愛いんだけどな。


「こちらが会場となります」


 私たちが話していると、ダニエルが広間の扉を開いた。


「アラクネアの女王グレビレア様、セリニアン様、ライサ様。ご到着です」


 ダニエルがそう告げるのに会場内の視線が私たちに向けられた。


 会場は立派なものだった。シャンデリアの明かりが輝き、華々しい軍服やドレス姿の列席者たちが並んでいる。


「どうぞ、こちらの席へ」


 ダニエルが告げ、私たちはマッケンジー大統領と将軍たちが座っているテーブルに案内された。


「ようこそ、我らの頼もしき同盟者! 今日は先のフォトン防衛線での勝利を祝うとともに、あなた方を歓迎する意味も込めて、ここに晩餐会を開催する!」


 マッケンジー大統領はそう告げる。


 歓迎って随分と遅い歓迎だな。素直に戦勝祝いでいいのだが。


「その歓迎ありがたく思う。我々が力になれるのならば幸いだ」


 私はマッケンジー大統領の歓迎のことばに素直に応じておいた。


「さて、今我らがポートリオ共和国は存亡の危機にある。ネクロファージという勢力が新大陸に発生してから2年。新大陸の諸外国は滅び去り、最後の同盟国であった神聖オーグスト帝国も陥落し、残されるのは我々だけになった」


 2年で大陸を制覇しかけているのかネクロファージは。それはそうだろうな。霊体系ユニットを使えば、この世界の普通の武器では傷ひとつ付けられず、死体は敵となって襲い掛かってくるのだから。


 だから、私はネクロファージは嫌いなんだ。


 アラクネアの量産されたスワームすらも、奴らは飲み込んで自分の陣営に組み込んでしまう。死が死を産み、死の連鎖でネクロファージは膨れ上がり、手に負えない存在となってしまう。


 これが早期なら、リッパースワームでラッシュをかけて、奴らが増え続ける前にトドメを刺してやれるのだがな。何にせよ、遅すぎた。


「我々は旧大陸にこれまで幾度となく援軍を求めてきた。東部商業連合からフランツ教皇国、そしてニルナール帝国にまでも。だが、救援の手はこれまで届かなかった。彼らも戦争の中にあったがために」


 その戦争を引き起こしたのは私たちアラクネアなんだけどな。


「だが、今救援がやってきた。頼もしきアラクネアだ。彼らは無敵と思われたあの幽霊騎士すらも屠り、死者の軍勢すらも退けた。彼らがいれば、我々は勝利を得ることができるだろう! このフォトンを守り、大陸の国土奪還すら可能かもしれない!」


 マッケンジー大統領は本当に嬉しそうだ。


 そして、列席する人々も喜んでいる。私たちアラクネアも人々を喜ばせることがあるってものだな。


「我々ポートリオ共和国とアラクネアに乾杯!」


 そして、乾杯が行われる。


「乾杯」


 私も杯を掲げて、乾杯する。


「さて、退屈なスピーチですまなかった、女王陛下。だが、民衆は喜んでいる。将軍たちも喜んでいる。ようやく勝利できるのだと。これまではひたすらに明日のない撤退戦を続けてきていたから」


 そうか。東部商業連合で新大陸の地図を見たが、ポートリオ共和国はそれなり以上の大きさをした国家だった。それが今や残るはこのフォトンだけ。彼らはここまで追い詰められるまで、勝ち目のない戦いを続けてきたのだろう。


 ならば、ようやく勝利できるというのは、嬉しいことに違いない。


「さて、我々は勝利を与えてもらった。その上避難民たちには住居まで与えていただいている。そのお礼に何をすればいいだろうか?」


 マッケンジー大統領は油断ならぬ目つきでそう尋ねてきた。


 まあ、無償の親切など警戒して当たり前か。国家に真の友人はいない。いるのは利害が一致する他人の国か利害が対立する他人の国。


「ならば、我々の更なる勝利のために必要なことを求めよう」


 私としてはこの新大陸を襲った災厄に打ち勝つことこそが願いだ。


「我々は肉を必要とする。膨大な肉だ。それが得られれば、私としては言うことはない。何か膨大な肉が手に入る術はないだろうか?」

「肉か……」


 私が無理だと思いながらも肉を求めるのにマッケンジー大統領が考え込む。


「肉はあるにはあるが、それを得るのは非常に困難だといわざるを得ない。少なくとも我々だけでは行えない」

「方法はあるのだな? 教えてくれ。どんな方法で肉を得るつもりだ?」


 私はマッケンジー大統領の予想外の反応に思わず食らいつくように彼を見る。


「シーサーペント漁だ。海の怪物であるシーサーペントを獲って肉にする。そうすれば膨大な肉が手に入るはずだ」


 なるほど。シーサーペントとは思ってもみなかった。だが、シーサーペントの肉が手に入るなら、十二分のスワームを作ることも、ドレッドノートスワームを作ることも不可能ではなくなる。いいアイディアかもしれない。


「よし。我々が漁に参加しよう。そちらにも協力してもらいたいのだが」

「ああ。もちろんだ。同盟者のためならば労力は惜しまないつもりだ」


 これで肉を確保できる見込みは出来たわけだ。いいことだ。


「それでひとつあなた方に尋ねたいのだが」

「なんだろうか?」


 マッケンジー大統領が私の方を向いてそう告げる。


「あなた方アラクネアはどこからきたのだろうか? ネクロファージに通じる力。それはどこから来たものなのだろうか?」


 答えに困る質問だった。


 私たちは私は日本からアラクネアはゲームから来た。だが、そのことを説明しても狂人扱いされるのが落ちである。私はこの問題を上手く説明する術を持たない。


「別世界からだ。こことは異なる世界。それだけだ」


 結局のところ私は当たり障りのない説明にしておいた。


「こことは異なる世界か。そのようなものがあるとは。ネクロファージもそこから?」

「ああ。ネクロファージもそこから来た」


 ただネクロファージを操っているのが誰かは分からない。


 ニルナール帝国では皇帝マクシミリアンがグレゴリアの遺産を使っていた。


 ネクロファージも現地住民が自分の野望のためにことを動かしているとは考えられないだろうか。ネクロファージの力に魅入られて、大陸制覇を狙う何者かによって動かされているとは考えられないだろうか。


「ネクロファージが出現する前後に奇妙なことはなかったか?」

「いいえ。大陸は平和そのものだった。長きに渡る戦乱にも区切りが付き、誰もが平和を享受していた。ネクロファージが現れるまでは……」


 戦乱に関係する人物だろうか?


 いや、待てよ。相手はネクロファージの使い方がそれなりに上手い。つまりはネクロファージのことを知っている人間がコントロールしているとしか考えられない。やはりネクロファージを操っているのは私のように異世界の住民か?


 だとしてたら相当な奴だな。ネクロファージを拡大させるために次々に国を落としていき、人々を虐殺しているなど。


 ああ。それを言っては私たちアラクネアも同類だな。私たちも本能としての拡大のために多くを犠牲にして、のし上がってきた。私たちが他人のことをどうこう言うなど筋違いじゃあないか。


「では、食事を堪能してください、アラクネアの女王。それなりのものですよ」


 実際に料理はすごくおいしかった。


 鮭のムニエルなど絶品だった。カルパッチョのサラダも最高のおいしさだった。


 ただ、私は飲みなれないワインを飲んでしまい、暫しふらふらしていたのだった。


…………………

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