黒の一族①
《1》
12月も半ばになった。
夜半に降っていた雪で早朝の王都の街並みは、鈍色に染まっていた。 そして馬車や人の歩かない場所には、平筆で刷いたように薄っすらと白く彩られていた。
寒そうな風景を見つつ思う。
私は女神ルミナス様さまから頂いた、此のてるてる坊主式マントとサンダルの温か仕様の便利グッズを手放せそうにありません。
だって此のてるてる坊主式のマントを羽織り、女神のサンダルを履いていると、寒さを殆ど感じないのだ。
私は兄さまから、てるてる坊主なファッションへの突っ込み待ちをしていた。 でも人外級イケメンの兄さまには、私の羽織るマントや女神サンダルが見えていなかったらしい。 兄さまは素足にシュミーズ姿の私に、何らかの意図があるのだろうと思っていた模様。
(兄さま、、、。真冬に普通はそんな恰好しなから。ううっ、そうだった。兄さまが知っている領主館に居た頃の私って、使用人から渡された薄いチェニックしか着てない、着た切り雀だったわ、、。)
「ジーンは、どんな格好でも世界一可愛いよ。」そう麗しい顔で兄さまから褒められ、私は無性にいたたまれなくなりました。
駄女神ルミナスさまからは、『あの時、皆があそこでの記憶をなくしたのはソチのせいじゃ。修行せよ。』と、一行メール(一言告げただけ)があった切り。
(修行ってなによぉー!)
そう心の中で私は絶叫してました。
ローランド先生は「ジーンてヤバい存在だから。」と兄さまを説得。 そしてブラウニー医院の2階の各部屋に兄さまと私は隔離され、元、居候させて貰うことになりました。 (ありがたやありがたや。)
私が思うに、どっちかというと駄女神ルミナスさまのお気に入りの兄さまの方が、ヤバそ気な感じなのだけど。
それからヴィンセント王弟殿下と面談させられた。 砦でスキルが発現した状況などを根掘り葉掘り尋ねられたけど、元々が目を瞑っている状況で起きたことなので、ふんわりした答えしか返せませんでした。 アノ時のことは、私自身が良く判っていない。
途中からローランド先生は、私のフォローに回ってくれて、頼りになり滅茶苦茶男前に見えてしまった。 時折り見せるローランド先生の八重歯の可愛らしさが何とも言えません。 きっとその可愛らしさに絆されて、ローランド先生のお父さまやお義兄さまは、過剰に猫可愛がりしてしまうのであるまいか、と愚考しちゃいました。
そして赤い熊さんことライさんは、アーサー君とコンタクトが取れるまで、ブラウニー医院で雑用を手伝うことになりました。
でもって裏稼業で今まで『おシゴト』していたライさんとアーサー君たちが、犯してきた罪を問わないことになった。 その代わりにライさんは、ヴィンセント王弟殿下と恐い契約を結ばさせられたらしいです、、、。(契約内容?知りませんよ?当然。) やっぱり感じた通りヴィさんは怖い人だったのだなと。 私も目を付けられないようにしなくては。くわばらくわばらデス。
一方、兄さまは、ヴィさんから紹介された元騎士の方から秘密の鍛錬場で剣技を習っています。
元騎士と言うローランド先生の説明に、一瞬、私の右の眉が上がってしまった。
嫌な記憶が蘇る。
それを察したローランド先生は、慌てて「違う違う。」と言い、有能な騎士だったけど加齢によりスキル発動が困難になり、騎士を引退した方だと仰った。
何でも〔操作系〕や〔干渉系〕のスキルは年齢が上がるとガタが気安いそうで、そうなるとスキルを使う度に倦怠感や頭痛、吐き気を伴って集中力が持続しなくなったり。 加齢によりスキルの使用が出来なくなるのは、スキルや人によって様々で一概に何歳からとは言えないそうです。
流石は駄女神ルミナスさま、どこまでもアバウトな仕様なのね。
そう言えばセオドア叔父さまがバローズ子爵家の後処理をしている時、貴族街にあるバローズ子爵家のタウンハウスは、伯爵家出身の母の持ち家で、母から私へ譲られていた書類を見付けたそうな。
と、言っても正式に継げるのは、私が16歳で成人を迎えてからだとか。
現在は管財人に任せているらしい。 その費用は母の持参金で賄っていた。
あいつがそれを知っていたのかどうか謎。 「母からの嫁入り持参品」とか思って居そうだとは叔父さまの弁。
《2》
暮れも押し迫った頃、ケイトさんとアルコールに漬け込んだ木の実を切り刻んで、小麦粉を使った日持ちのするパンケーキをパン屋さんの窯で焼き上げた。
新年の朝食に平民たちが家族で食べる縁起物だと言うので、兄妹2人が庶民になった記念として作ってみた。
焼き上げてから暫く放置しておくのがコツで、新年の朝が一番美味しくなるように見極めて焼くのがプロの主婦らしいですわよ、奥様。
私は嫁には行けないらしいけど。、、、ぐっ!
私はバインバインと揺れるケイトさんのお胸を羨望の眼差しで見詰めてしまう、ぐすん。
もしかして此のことを追求されたくなくて、あれから駄女神ルミナスさまからコンタクトがないのかも。そうだったら許すまじ。
私はブツブツ文句を言いつつ、年の暮れのホーステッド通りの煉瓦の上をホップステップして歩いていたた。
陽が落ち掛けて藍色に変わる空と街並み。
すっかり陽が落ちるのが早くなったと考えて居たら────
「助けてくれ誰か! 皆が、皆が死んじまう。里を助けてくれ! 黒の一族が滅んじまう!何でこんなことに! 女神ルミナス様あぁー」
────そして景色が切り替わった。
今日は女神マントを羽織っているので暖かい。
て、此処って山の中の薪小屋?
暗闇の中、明かりが漏れてるけど。
私は躊躇いもせず、急いで女神スキルを使う。
「〔女神の救済〕囚われている人は、、、あれ里が滅ぼされ掛けてるのよね?? ええい!ままよっ! 囚われている人は、ブラウニー医院へ逃げて!」
大丈夫かなと心配していると薪小屋が光で真っ白に包まれ見えなくなった。
そして、振り返ると連なっている山々の一角が眩く光り大きなドーム型を描いた。 その一帯に白光が大きく広がって行く。
これって、やっぱり救済って言うより天罰か何かの攻撃とかしか、、、見えないわよね。
「〔罪科の秤〕 うん。今回は余裕だったわ。」
そして景色が切り替わった────
────うわっ!玄関ホールに人がいっぱい倒れている。
無事、ブラウニー医院に帰還で来たけども。
これってまさか失敗?
また記憶消したりしちゃったのかな?
「ジーン!もしかしてアレなのか?」
「はい、アレです。願いで里が滅ぼされるって言ってたので、取り合ず此処に連れて来ちゃいました。ごめんなさい。」
「うーん、うん、仕方ない。他にジーンは行く場所を知らないからね。30人はいるなあ。 医院は他を犠牲にして玄関ホールだけを広くしていて良かったよ。ハハハっ。」
乾いた笑いを出したローランド先生の表情は、驚きと呆れが入り混じった微妙なものだった。
ちょっぴりビターテイストも加わって、これが俗にいう苦笑いってやつなのかしら。
「しかし此処に寝かせて居て大丈夫かな。今夜は冷えるし、、、。」
腰に手を当て右手で頭を掻きながらブツブツと呟いているローランド先生を見詰めていると、何だかホッと安心して、身体の力が抜けて行くのを感じた。
するとグイっと背中を両腕で抱え込まれ、、「またか。」と溜息混りのローランド先生の声を聴きながら急激な眠気に襲われた。
此の安心感て、やっぱりお父さんだと薄れる意識の中で思ってしまった。
《2》
『全くジーンよ。 ソチは。』
「お久しぶりです、駄女・・・女神ルミナスさま。 女神ルミナスさまが疲れた話し方をするのは珍しいですね。」
『はぁ?』
「いえなにも。ちょっと怒っているような? 気のせいだと良いのですけども。」
『怒ってはおらぬが、、、黒の一族は、後、幾数年か経れば、自然と滅びゆく者たちだったからのぅ。 少し特殊なスキルの得られ方をした者たちでの。』
「えっ? でも女神スキルに反応したということは、ロゼット王国の民だったのですよね。 滅ぼすべき人たちなら、私を強制瞬間移動させなければ良いじゃないですかっ!?」
『いや別にわらわとて滅ぼしたい訳じゃないぞぇ。 ただ、今のロゼットの風潮に合うかどうかが難しいとの。 何せ里に外の血を入れないのでな。 寿命が非常に短いのじゃ。』
「だからって殺されたくないですよ? 女神ルミナスさまは彼らを見捨てちゃうのですか。 それに、、そう言えば移動させた先で、皆さん気を失って居るのですけど、もしかして私はまた遣らかしちゃいましたか?」
『それは大丈夫じゃ。 あれはわらわのアフターフォローじゃよ。 意識がある侭で移動させた時に結構混乱していた者が多くてな。 それで前回ジーンが気を荒らしまくって、全力でスキルを発動した際、助けた者たちは捕えられていた場所での記憶を失い、そのショックで気絶させたじゃろ?』
「べ、別に気絶させたかった訳では・・・。」
『だが、それが良かったのじゃ。記憶を消された時、頭の中身を癒しの力で修復していた為、目覚めるまで時間の掛かる者もおった。 しかし目覚めた時は比較的落ち着いている者が多くての。 故にちょいちょいと癒しの力をメンテナンスして移動した際に眠るように変えたのじゃ。 意外と手間が掛ってしもうた。』
「女神ルミナスさまって意外に繊細な気遣いが出来る方だったのですね。 見直しました。」
『ジーンよ、それはわらわを褒めておるのかぇ?』
「も、勿論ですとも、女神ルミナスさま。 そ、そう言えば先程、黒の一族は特殊なスキルの得られ方をしたと仰ってましたが、それは?」
『うむ、そうじゃな。本来は黒の一族が住んでいる場所は、わらわが大地にロゼの地と線引きをした外であったのじゃ。 わらわは其処に他部族からの侵略を阻止しようと愛娘ケレスの治めるロゼット王国を取り囲むように山々で囲った。 だが、わらわが地形を変動させた時に、その山へと入りこんでしまったのが黒の一族なのじゃ。 地形を整えた後で、わらわの力を霧に変えスキルを振らさせ時、山々に居た為に黒の一族はロゼット王国の民となったのじゃ。』
「それって大元を辿れば女神ルミナスさまのせいですよね?」
『、、、そうともいう、、かのうぉ。 じゃから彼らのスキルを消さずに捨て置いたのじゃ。 黒の一族と同じ一族の血を引く山の外の者は、他国の者同様でスキルを持たぬのだぞ?』
「ケレスさまのロゼの民が可愛いのは分りますけれど、黒の一族に対して冷たいです、女神ルミナスさまはっ!」
『もう良い。色々ジーンに忠告して遣ろうと思ておったが、影のスキルと彼らの考え方で苦労すれば良いのじゃ! もう行きゃれ。』
「えっ、苦労って何ですかぁー、女神ルミナスさまー。」
《3》
部屋のベットの上で目を開けるとナイトテーブルに置かれたランプがオレンジ色の光を放って灯っていた。
やっぱり未だ夜ですよね。
ブラウニー医院へ戻って来て2時間位かしら?
毎回、女神スキルを使った場所の確定が大変だったりする。
前回ライさんを助けたメメシス属領地は、ロゼット王国から北に騎馬で、2週間近く掛かる位に遠い所だった。
私が襲撃した(私的には救済)施設は、恐らく奴隷教練所と呼ばれる労働奴隷の教育をする場のことだろうとヴィさん(王弟殿下)は仰っていた。 結局は奴隷収容所なのだ。
表向きは教育だが、成人を過ぎて反抗的な奴隷を矯正、最終的に洗脳する所らしい。
見掛けは熊さんだけど、丁寧なライさんがあれ程悲痛な声を上げ救いを求めていた場所だからなあ。 私も凍死しそうなほど寒かったし。
まあ今回なら黒の一族の救出場所は、ロゼット王国の山の中にある場所だから比較的楽に見つかるでしょう、恐らく?
しかし女神ルミナスさまのセリフが気になると考えながら、階段を降りてドアを開けて廊下に出て、玄関ホールへと向かった。
おお、人がわちゃわちゃ居る気配がする。
廊下の両サイドの壁に間隔を測って置かれた灯されたランプの明かりを頼りに歩く。
そしてサロンのドアを過ぎると比較的明るい前方で人影が見え、足を速めてホールに入れば。
長い黒髪を背中で1つ括りにしている細身の若い男性同士がディープキスしながら抱き合っていた!
そのカップルだけじゃなく床に座って睦み合ってる方々が、あっちこっちに。
事案、事案ですよ!兄さまっ!
「ジーン!それ以上ホールへ入って来ちゃ駄目だ。サロンに行こう。シュウ君は一緒に来てくれ。」
「年長者のソウは、俺について来て。」
私は目が覚めて階段を降りて行き廊下を抜けるとブラウニー医院の玄関ホール、、、そこは男同士が交わっている18禁のピンクホールになっていた。
ホワイッ?全く意味分かんないし。
大股で近付いて来たローランド先生に呆然としていた私の背中をグイグイと掌で押された。 ローランド先生に押されて、18禁エリアからダッシュさせられ脱出した。 そしてサロンのドアを開き、正常な色彩空間へと私は逃げ込み、習慣的にいつもの長椅子へと腰を下ろした。
ローランド先生は、黒の一族の二人へテキパキと席を指定した。 ローランド先生の指示を素直に聞き、それに従った彼らは、私の対面のソファーへとそれぞれが座った。
濃いモスグリーンのカーテンを背にしたローランド先生は、私の斜め前に置かれた主人席のゆったりとしたソファーへ座り、長い両足を投げ出した。
「はあ。疲れた。何なんだあの子らは。」
「ど、どうして助け出した黒の一族の人たちは、だ、抱き合っているのですか?ばっ場所とか、時を考えないのですか?」
「知らないよ。無事を確かめ喜び合うまでは、普通だったが抱き締め合ってからが、、、フリーダムで、うぐっ。」
彼らの行動の意味が分からなくて何だか頭が沸騰しそう。
いや、彼らたちがヤっていることはワカる。
兄さまが変態教師たちやら、幌場所の中でゴロツキたちからヤられていたことだもの。
然も前世の記憶が戻っている為、その手の情報が脳内で忙しなく駆け巡っている。
「どうしてと言われても。なあ、、、シュウ。」
「はい。互いに無事を確かめ合えたので。 それに夜だからいつも通りのセックスを。 特にソウは、年長で時間が余りないから。それに此処は襲って来た奴らが来れなさそうで安全だった。」
曇りなくキッパリと答えたシュウと呼ばれた10代半ばくらいの少年と疑問符を浮かべたソウと呼ばれる20代くらいの青年は、互いにキョトンと間の抜けた顔をして、目を見合わせ首を傾げた。
こいつら!私が何に怒ってるのか理解出来ないって顔をしているわね。
あっそう言えば、駄女神が腹立ち紛れに『影スキルと考え方で苦労すれば良い。』って言っていたのは、、、もしかしてこういうコト?
はぁ~。でも助けてしまったものは仕方ないわよね。
黒の一族の彼らにちょっぴりブラウニー医院のハウスルールを躾ましょう。
全く私の柄ではないので、ローランド先生が!だけども。 そもそも私が今世のルールって今一つだし。
「えと、先ずシュウさんたちは自己紹介と里での過ごし方を教えてください。 そちらで疲れ項垂れていらっしゃるのはローランド・ブラウニー先生で、此のブラウニー医院の家主です。 そして私はジーン。この邸の居候で、そしてシュウ! あなたの助けを呼ぶ声に呼ばれ、スキルで此処ブラウニー医院へ皆を逃がした者です。 色々と訊ねたいことがあります。 シュウたちの住む里と私たちが暮らす街とのルールの違いを知りたいから。 シュウたちが里へ帰れるまでは、此処で滞在して貰うので、互いに揉めないために。 それに今もホールであなたたちが抱き合っている姿は、私やローランド先生の目に毒だからNGだし、、、。」
するとソファーに腰掛けていたシュウとソウはスクリと立ち上がり、素早い身のこなしで長椅子に座っている私の前で両膝を床へと着き、両手を組んだ。
「貴女様は女神ルミナス様の現身ですか。 可愛らしいお姿の為、気が付きませんでした。 申し訳ございません。 この度は、我が願いお聞き届け下さりありがとうございます。 幾ら感謝をしてもしたりません。 お礼の代わりにもなりませんが、この身は終生ジーン様へ身命を賭して仕えさせて頂きます。我が主。」
「我ら黒の一族を御力により救い出し下さりありがとうございます。我、ソウもシュウと同じくこの身が尽きるその日まで、ジーン様へ身命を賭してお仕えさせて下さい。我が主。」
そう言って二人は顔を上げ、熱の籠ったキラキラとした黒曜石のような両眼を私に向けた。
いや待って。
確かに女神ルミナスさまからのスキルを使ったけど、あれって自動発動しちゃった奴だし。
10歳の子供に主呼びとかヤメテ。
それに何だろう。
黒い二匹の気儘な野良犬が、急に忠犬になったみたいで、なぜか非常に居心地が悪い。 何より彼らに私は気味の悪いものを感じてるし、尾てい骨辺りが妙にモソモソしてくる。
私は助けを求めるようにローランド先生を見る。
「あぁ。はぁ。取り敢えずジーンに感謝して居るのなら、彼女が君たちへと使ったスキルのことは口外禁止だ。 そしてジーンの命令を聞くこと。 で、ジーンが先ほど言った君たちの里でのコトを私たちにおしえてくれ。私もああいう過剰なスキンシップを此の医院で行われるのは、目のやり場に困るからね。」
「あっ、その前にシュウ君とソウさんはさっき座っていたソファーへと戻ってください。 目の前で跪いて居られた状態では話がし辛いので。」
「「はっ。」」
二人は短く返事をし、祈りを捧げるように組んでいた手を解き、立ち上がって音もなくソファーへと戻って行った。
「そうだわ!結局何人が此方に来たの?」
「子供たちを含め37名です。長を含めた年長である壮齢の者27名は、襲撃して来た奴らに殺されたのだと思います。悲鳴や破壊音が凄かったので。」
長髪を後ろで結んだ黒髪の温和そうな青年ソウは、淡々と答えた。
「そうだ!子供たち6人は診察室へと連れて行き、ライに面倒見て貰っているよ。 本当は、ジーンが起きて来る前に玄関ホールへ来るな、と伝えたかったのだが、、、私が動揺してしまっていた。 ごめん。」
動揺されている中、子供たちを18禁世界から避難させたローランド先生は、グッジョブです。
私だってパニくる自信が或る。
だが、エロくても彼らは被害者だし、でもって生存者ならこっちに飛ばされている筈だから、、、。
しかし27人も殺害されていたら、襲撃者の奴らをマジ許せないのだけども。
でも、それにしてはシュウやソウの態度って普通よね?
サバサバしている感じが。
シュウの助けを求めていた時の悲痛な声と今の声が、私の中で上手く結びつかない。
「えっと、里が襲撃される心当たりってあるかしら?」
「ない。 俺たちは古よりの命に従い、麓の者達との交流は1年に1度。 成人の儀式で降りて行くだけだ。 外の者との関りは一切ない。 自分たちの倍の人数で乗り込んで来た襲撃者たちは、影スキルの使い手を探していた。 だからスキル目当てとしか。」
「嫌なら答えなくても良いですが、影スキルとはどのようなモノですか? 私は聞いたことがないので。」
「ハイ。先ず影スキルは二種類あって俺は影渡りが使え、友人のリクは影糸が使える。影渡りは、自らの影に入って、影から影へ移って移動していく感じです。 山々を狩りで渡ると楽で便利でした。後、影糸使いのリクらと共に影渡りで出掛けて狩りをしていた。 影糸のことはリクに聞いて欲しい。」
何だかとっても便利そう。
ローランド先生は、更に影渡りに関しての質問を重ねた。
渡りたい先を目視で定め、自分の影に入り、目的地でスキルを解くと目視して目指した場所へと移動出来ているのだとか。
自分と共に影に入れるのは、相性〔気〕が合う人間しか駄目らしい。
合わない相手だと影渡りのシュウが手を繋いでいても、シュウの影には入れず1人でポツンと地上へ残されるそうだ。
影渡り使いと相性を合わせる訓練は、ひたすら肉体を合わせることだそうです。
、、、聞くのじゃなかった。
そのリクは、シュウの友人兼姉メイの恋人なのだとか。
本当は、里の長からシュウと同腹の姉のメイとで子つくりを言い渡されたのだが、リクの方が相性良さそうなので譲った、とサラリとシュウは私たちに話した。(実はメイからシュウは嫌がられていた。)
不思議な話に私は思わず、「里での結婚ってどんなもの?」って尋ねてしまった。
男女共に成人は13歳で、長に決められた者が処女権を得て、懐妊する迄は少女はその相手としかエッチが出来ない決まり。 期間は1年間だと言う。
そして出産してからは、里の者全員の妻になるそうです。 父親とか母親の概念が黒の一族の里とロゼット王国では違い過ぎて唖然とした。
出産しない女性は、1年毎に相手が代わり(仮初婚)懐妊まで繰りかえし、懐妊しない侭3年経つと里の共有妻になるとか、、、。 子供を産んでも産まなくても、結局皆の共同妻になってしまうのね。、、ていうか女性の意志はどこに?
詰り、里の者皆、血の繋がった家族なのだ。
人類皆兄妹的な?
駄女神が、黒の一族は何れ滅びく民と言ってた理由を知る。
そして今のロゼット王国では、王国法に反しているから、確かに彼らの扱いって難しい。
(近親婚禁止 婚姻可能なのは二親等以上離れた者同士であること。)
「それに年長のソウは、もう直ぐ25歳になるから、性欲とが余り我慢させたくない。」
「それは、どういう意味だろうか?」
「俺たちの寿命は30歳前後だから、26歳過ぎるとスキルの発動がうまくない状況が起きて、その内、スキルが使用出来なくなる。 そうなると死期が近付いたコトがワカる。里では25歳過ぎると年長の壮齢者として自由に過ごさせる習わしになっている。」
現在30歳のローランド先生の様子が気になって表情を私はコッソリ窺って見る。
何か酸っぱいものを口いれたみたいに口角と眉間の表情筋がビクンピクピクとしている動いていた。
その表情を見ている此方が辛い。
(大丈夫ですよ!ローランド先生は十分に若いですよ。) 私は心の中でそう言って先生にエールを送った。
「先生が、そんな顔をするようなことじゃない。 男たちは山で狩りをして肉や毛皮を獲って来て、女たちは家を整え、皆で用意した食事を食べ、日暮れには互いの身体で楽しむ。 女たちは凄く貴重だから、男たち同士で愉しみ、互いに欲を満たして気持ち良くなる。 年長者になったら日々のお勤めは免除されて、好みの相手を選べて欲を満たしたい放題で、大往生を迎えてる。 皆、満足してから、ただ里で生きて死んでいく。 だから何で見知らぬ奴らが襲って来て、長や壮齢者たちを殺されなければならなったのか、それが分からない。 何故、殺され無ければならなったのだろうな。」
シュウたちの言う壮齢者って、長老みたいなものなのだろう。
但、長老が20代後半~30代前半って若過ぎる気がしちゃうけど。
シュウの悲しい話に私は現実逃避をしていたら、、、。
それまで、ずっと飄々と話していたシュウが座面に落としていた両の手を握りしめていた。
隣りで静かに座っていたソウは、項垂れ両肩を小刻みに震わしていた。
と、次の瞬間、シュウがストンと消えた。
「ああ、シュウは自分の影に入って行きました。主の前で感情を露わにしたのが恥ずかしいのでしょう。シュウは我らの長になりますから。」
涙で滲んだ目元を握った手の側面で拭い、口の端を上げてソウは私を見た。
ソウは、静かに泣く人なのね。
私とローランド先生は、言葉を紡ぐ糸口を探して、口を軽く開けては、また閉じた。
「シュウは、14歳ですが、影渡りが凄く上手くて、遠くまで渡れてしまう凄い奴なンですよ。 おまけにセックスも。 壮齢者たちからシュウが一番人気で。 黒の一族の中では性格も悪い方。、、、なのにシュウは皆に頼られている。 年が明けた3月には、シュウが長へと引き継がれる予定でした。 こんなことも或るのですね、世の中では。」
「ソウさん、お酒は嗜まれますか?」
「ええ、好きですよ。あっ、それとソウとだけ呼んでください。名前以外の言葉が付くと他のモノみたいで。」
「はい、分かったよ、ソウ。では私の事はローと。ふふっ。」
湿らせ過ぎた場を和ませるように軽く話し掛けたローランド先生。
いいなぁ、いつか私もローランド先生のことをローって呼びたいなっ。
「ジーンもローって呼んで良いからね。寧ろ、そう呼んで欲しいな。」
まるで私の心を読んだみたいに言われてしまった。 ロー先生はエスパーか?
キャビネットから取り出したカッティングが素晴らしい琥珀の液体が入ったボトルをテーブルに置き、左手で掴む様に持っていた2個のグラスをテーブルへと並べる。
ボトルの首へと入れられていたガラス細工の栓を抜き、ソウと自分のグラスへと透明な琥珀の液体を注ぎ入れた。
初めて飲む種類のお酒に戸惑いつつ、ソウはガラスのグラスへ口を付けた。
ソウは、ブランデーを口に含むと驚愕し、コクリと咽喉ぼとけを上下に動かし、一呼吸後に「ケホっ」と咽て、顰めた顔の目尻に涙が溜まっていた。
それでもソウは、チビチビとグラスを傾け、琥珀色の液体を喉へと落としていた。
「口の中と咽喉が焼け付くかと思いましたが、飲むと美味しいし薫りがいい。 今夜は此の酒が好ましい。 里の酒は濁っていますからね。」
ソウは、慣れていないブランディ―をハイピッチで飲み干していた。
ロー先生は、それを止めることもせず、ボトルから琥珀色の液体を注ぎ足している。
ソウは里で作っている酒の種類や材料の話をし、それに頷きながらロー先生は、アルコール談義に移って行った。
何となく雰囲気の良い大人の会話だと思い聞いていると、時折りソウは鼻を啜っていた。
やっぱりソウは静かに泣いていた。
そんな2人を見ながら、私は助けてしまった黒の一族の為に、1つのことを決めた。




