先生のレポート
《1》
風雲急を告げる。
そう告げちゃったのですよ。
アーサー君や私の平安を脅かすベリアノ侯爵がお亡くなりになった。
心臓発作だったそうで、いやでも、天知る地知る人が知るってあるように、きっと女神ルミナスさまの天罰ですと思ってみる。
幾らアーサー君が美少女で自分のモノにしたくても、攫って監禁とかしちゃあ駄目。絶対に!!
何よりアーサー君の実質保護者なライさんをアーサー君を手に入れる為、邪魔って理由で、裏稼業の人間を使い他国の奴隷商に売るなんて、最低最悪な奴だったのは確か。 ライさんを売ったのは、裏稼業の人間らしいけども。 そしてアーサー君を逃がした移動スキル持ちの人間(私だけど)をワケが分からない闇ギルドで探したりしていた極悪人なのだ。 同じロゼット王国民なのに私的に許せません。 天誅でござる、天誅で御座るよ、女神ルミナスさまの。
と、言っても私自身は、駄犬シュウが持つ影渡りスキルに放り込まれ、シュウとの影とアーサー君とは相性が良くないので、私の瞬間移動でアーサー君を軟禁場所からブラウニー医院へ連れて来ちゃっただけなのですよ。 (その為、ベリアノ侯爵から探されたのだと言う、、、。)
だから私自身が知っているベリアノ侯爵って、アーサー君にゾッコンラブなオジさんだったてことくらい。 そんな話をライさんやアーサー君と先生から聞いて、頭がお可哀想なオジサンだったのだ、と結論を出した。
《2》
シャワシャシャワと、行く夏を惜しみ消けたたましい鳴き声をあげる蝉たち。
その鳴き声を聴きながら、シャカシャカ足の回転数を上げ、私はシュウにドアを開かれ、サロンへと入っていった。
今朝は、ブランチミーティング、、、いえ、キャメロン副団長とアーサー君やライさんをローランド先生がサロンに招いての朝食会なのです。
兄さまと駄犬2匹は、陽射しが厳しい中、騎士団で勤務している最中で留守。
キャメロン副団長は暇!というわけでなく、仕事のスキマ時間に馬単騎で、サクっとアーサー君の住む〔スイ家〕や先生を訪ねてブラウニー医院に顔を出しているみたい。
魂還りの前日にアーサー君と邂逅して以来、キャメロン副団長は騎士団長から許可を得て、チョコチョコと親子と友人(先生)?とのニッコニコなコミュニケーション・タイムを設けているようだ。
慌しく記したライさんとアーサー君のこれまでの経緯を先生が纏め、キャメロン副団長に手渡した課題レポート。 「レポートを読んだ時のキャメロン副団長の様子は、とても恐ろしかった。」と、先生は夏の恐怖体験を私に語った。 その時の先生の顔色は、、、うん、色すら失くしていた。
※
キャメロン副団長には、私のスキルのことやメメシス属領地の奴隷収容施設での救済や大量静粛、そしてシュウの影スキルについて秘匿案件なので、ふわっと先生なりにボヤかしていた。
このレポートは、私と兄さま、黒犬の長シュウ、そして当事者のライさんとアーサー君のも回され、キャメロン副団長へと渡される前に「皆の共通の体験した事柄として欲しい」と先生から頼まれたのだ。
〔 ベリアノ侯爵は後継者として町で見かけたアーサーに目を付けた。 そこでベリアノ侯爵は、彼を手元で育てるため、幼い頃からアーサーを守っていた強力な攻撃スキルを持つライを罠にかけ、いつも共に居た二人を引き離した。 その後、収容施設に売られかけていたライをローランドとジーンとセシルが偶然に助けた。 救出されたライは、ベリアノ侯爵によって攫われた相棒のアーサーを探したいと願ったため、ローランドは部下の黒犬たちに捜索させた。そこでベリアノ侯爵領地の別邸に居たアーサーを発見。 直ぐに移動スキル持ちのジーンを派遣し、今度はアーサーを救出した。 ただアーサーは約10ケ月程ベリアノ侯爵家領地の別邸で軟禁生活を送っていた為、心身ともにダメージを受けていた。
その監禁中にベリアノ侯爵は、アーサーに実の息子だと告げ、母親との出会いとラブロマンスを情熱的に語った。詳細はアーサーに。(先生は逃げてアーサーに話を丸投げした。)
アーサーが消えてからベリアノ侯爵は、彼を捜索しながら、上層部会でアーサーを実子として嫡子にしたい旨の上申書をはかり始めた。 了〕
先生のレポートを皆で一覧した時は、未だベリアノ侯爵が亡くなって居なかったのだ。 今なら末尾に〔ベリアノ侯爵が死去した為、上層部会は開かれず、彼の野望は潰えた。 完〕と結ばれるのではないかと思う。
「殆ど私はアーサーたちの為に何もしていないのに自分が目立つような書き方をして申し訳ない。 特にシュウ、きみには、、、シュウ、アーサーを見付けたのは、きみだ。 それにシュウたち〔黒の一族〕を部下扱いして済まない。」
先生は私たちがレポートを読了したのを確認すると、サロンのソファーに座ったまま、頭を下げて消え入りそうな声で詫び、顔を上げた表情は申し訳なさそうに歪んでいた。
「いやぁ、おいらは別に。 外の奴らには部下って思われてた方が楽だし。 〔黒の一族〕って言葉やスキルは、忘れられていた方が良いってのを経験済なンで先生の配慮はありがたいと思っている。 それにおいらたちに手当を支払ってくれてるのは先生だしな。 間違ってはいないから、おいらに気を使わないで欲しい。」
「うんうん。そうですよ、先生。 私を筆頭に先生やヴィさんが住む所を与えて匿ってくれたから、今の私たち兄妹や皆がある訳なのだし、先生が詫びる必要なんてないわ。絶対に。」
(大体の原因は、私の強制発動しちゃう女神スキルのせいなのだし。)
「そうですよ。おいらだって奴隷として売られた先が、噂では最悪のメメシス属領地の廃人製造収容所だった。買い付け先が決められるまで出れないと言う噂だった。 で、そこからお嬢ちゃんのスキルで助け出された。 それから先生の居るブラウニー医院に居させて貰えたので、おいらは自棄にならずにアーサーを待って居られたンすよ。 今までのおいらなら、アーサーを探し出すため、ベリアノ侯爵の所に特攻していたハズなンすよ。 先生が『冷静に考えろ』と説得してくれていたからアーサーとこうして過ごせてるンだから詫びなンて止めて下さい。 おいらは感謝してます。 ありがとうございます。」
「ぼくもだよ、先生。 色々なことを聴いてくれて教えて貰えた。 それに母さんのことも。 忘れていたことも少しは思い出せた。それにキャメロン副団長のことも、、、、、。ありがとうございます。それと、、、。」
ライさんの話で照れ、頬と耳を朱に染めたアーサーは、顔を伏せながら先生に感謝の言葉を告げた。 が、そこで言葉を一旦止め、整った美少女顔を上げて、真剣な表情をして先生を見た。
「、、、ローランド先生、お願いがあります。 あのベリアノ侯爵の上申書にあると言っていたマナ鑑定スキルを使えば、本当のぼくの、、、。キャメロン副団長は、ぼくの本当の父さんか、どうかが判るのですよね?、、、キャメロン副団長は、きっとぼくが息子だろうと、確信を持っているみたいで、、、とても優しくて、凄っい愛情みたいなモノをストレートに表してくれているのだけど、、、、、。でも本当はどうなんだろうって考えると怖くなって、、、。」
アーサー君は、話ながら感情が高まったのか、湖畔のような透き通った青い目から盛り上がった涙をポロポロ零しつつ、キャメロン副団長と親子鑑定がしたいと声を掠れさせて、先生に頼んでいた。
一応、今の所は名目上の保護者は先生だけど、実質的な保護者はライさんだ。 ライさんは過去が真っ黒らしい人なので、アーサー君やライさん自身の安全を守る為、表には立てない。 その為、アーサー君が未成年の間は、何かあれば先生が保護者として出る予定だったのだ。
まあアーサー君は、ライさんと一緒に裏街道を生きていた少年と思えない位に良い子なので、先生は保護者に成ろうと決めた時、何一つ不安を抱かなかったそうな。 不安なのは、イカれたベリアノ侯爵くらいで。
で、先生が実質的な保護者のライさんに目をやると、首を縦に動かし「お願いします。」と云って真っ赤な短髪の頭を下げた。
アーサー君に「お父さんと呼んで」って、キャメロン副団長から願われたのかと、私は小さな声で遠慮がちに尋ねた。
するとアーサー君は、大きく銀色の髪を左右に動かし「言われてないっ!!」と叫んで否定した。
いやっ、私としても朗らかで、いつもニッコニコなキャメロン副団長が、そんなことを言うとは思わないけれど、今世で世の父親というものに不信感を持っているため、ついお節介で聞いてしまったのだ。
何せアーサー君は、長い軟禁生活の中で、ベリアノ侯爵からずっと『父上と呼べ!』そう強要&恫喝されて居たそうなので、キャメロン副団長はニッコニコしながら、アーサー君のトラウマスイッチを押したのかと要らぬ気遣いをしちゃっていました。
「いつか、、、、キャメロン副団長を、、、そう呼びたいから。、、、、、それと例えぼくに、父さんが出来たとしてもライは、ぼくの相棒だから誰が側に居てもずっと一緒。だよなっ!」
涙が乾き切っていないまま、アーサー君は誤魔化すみたいに隣のライさんを見て、ふにゃりと愛らしく笑んだ。
(守りたい、その笑顔!)
てなことが、先生のレポート一覧会の後にあり、先生がキャメロン副団長にアーサーからの話をし「勿論、アーサーが望むなら!、そしてキャメロン副団長にもレポートを手渡し、、、先生の恐怖体験の幕が上がった。
それから先生はヴィさんを死ぬ気で説得した!(らしい。) 嫌、だってヴィさんは先生にデロ甘だもの。
そんなこんなで親子鑑定スキルを使う前にサロンでの朝食会になったのでした。
※
定番のパン屋ロニーの籠盛りパンと卵料理にケークが楕円形のテーブルに並べられ、トニーさんや珍しくリクが、キャメロン副団長とアーサー君そしてライさんにサーブして、ブランチミーティングの始まりを先生が告げ、いつもはしない女神さまに感謝の祈りを捧げた。
この祈りは、アーサー君に出会わせてくれたことに感謝したキャメロン副団長からのリクエストなのだ。
私と恐らく駄犬シュウとリク、それにライさんは心の中で、女神ルミナスさまの名を呼び、感謝の祈りを捧げた。 何故か世の中では、女神さま=歴代からの女王さまなので。
暫くして、皆が殆ど朝食を平らげた後、それぞれに紅茶が用意され、先生が口を湿らせた後、耳に優しい声で、緊張で堅くなって居るアーサー君に笑みながら話し掛けた。
「ええー、さて、これからマナ鑑定スキルを使う為に、ブラウニー医院左隣の屋敷に移動してもらう予定にしています。ではキャメロン副団長、そしてアーサーは私について来て下さい。出来るだけマナ鑑定スキル使用者の顔を知られたくないので、ライやジーンたちはここで待っていて欲しい。 それと決まりなので王族の方が御一人立ち合いの為、お越しになってます。キャメロン副団長はアーサーのフォローを頼みます。、、、では行こうか、アーサー。キャメロン副団長より大抵の者は、怖くないからね。」
「コホッ。行こうアーサー。」
「う、ん、、、はい。」
アーサー君は、心配そうなライさんの表情を振り切るように、先生の後ろ背を追い掛けて、開いた赤褐色のドアから、大股で足早に歩いていった。
キャメロン副団長は不安も何もなさげな雰囲気で、いつものようにニッコニコな笑顔をサロンに残る私たちに向け「行ってきます。」と告げ、先生とアーサー君の後を追った。
「「「「いってらっしゃい!」」」」
3人が歩いているだろう表のホーステッド通りの方を向き、窓から見える目に青々しい深緑を眺めつつ、私たちはやや力み君に見送りの挨拶を遅れて掛けた。
私たちのお見送りの声は、シャワシャワと鳴く蝉の声量に負けていた気もするけれども。




