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憂鬱な駄女神  作者: くろ
37/51

迷いの血脈


《1》



 キャメロン副団長(ニコラス・キャメロン)は、俺の背中にピシピシと尖ったナイフを突きつけているような気を放っていた。 ヴィ(ヴィンセント王弟)やトニーとも違う感じだ。 ジーンは、「一番怖い威圧を放つのってヴィさんですよね?」と話していたが、俺はこのキャメロン副団長だと断言しよう。


 互いに無言で鍛錬場を出、ブラウニー医院の玄関ホールからサロンへと、キャメロン副団長を案内した。


 サロンの窓から見えるプラタナスやマロニエなどの木々の葉が生い茂り、青々と萌える濃緑が妙に俺の息を苦しくさせた。


(俺はヤってない!)


 何故かそんな言葉を叫びたくなるのを抑え、少し自分との席を離したくなり、左奥に或るソファーをキャメロン副団長に勧め、俺はいつも座るゆったりとした主人席(特注品)のソファーへ腰を下ろした。 背中にジワリと滲み出す汗を感じつつ。  (俺は何一つ悪いことをしてないよな?)



「すいませんね、ブラウニーさん(ローランド先生)。 ああ、わたしの事はニコラス(キャメロン副団長)と。それに今は私用な時間なので役職名は不要ですよ。 さて単刀直入にお伺いします。アーサーの母君、、アンは、、、アンジェリカは御存命でしょうか?」

「、、、いえ。」

「いつ?とお伺いしても?」

「恐らくですが9年くらい前かと、キャメロン副団長。 つい申し訳アリマセン、ニコラスさん。 私も知ったのは6月下旬頃で、未だ一ヶ月と少ししか経ってない所で。 それはアーサーも同じです。 それまであやふやな噂で母親の死を聞いてたらしく。 母親に対する正確な情報をアーサーに知らせたいと思い、彼を連れて3歳頃まで親子で暮らして居たリメンス区に行き、、、。彼女たちが暮らして居たアパルトメンの家主に母親の話を聞かせて貰いました。」

「あ、あの。ブラウニーさん。少し待ってください。 アンとアーサーは別居していたのですか? そんなありえない、アンが手放すなど、、。」



 何の前振りもせず俺は、最近知った事柄をストレートにニコラスさんへと話した。 嫌味じゃ、、、いやっ、嫌がらせをした。 ニコラスさんの態度に俺は、少し腹が立っていたのだよな。 こっちは100%善意なのに威圧して来るって何様? まっ彼は副団長サマだが。


 しかしアーサーの件て、そもそもの話をするのが難しい。


 きっかけはジーン。 彼女のスキルでライを救い、それからアーサーの現状を知ったからだ。 が、ジーンのスキルは、彼女の希望とヴィの考えが一致し他言無用の秘匿情報とヴィにされてしまっている。 うーーん。どっからどう話そうか。


 整えられた眉根を寄せて俺の言葉を整理していたニコラスさんが、純白の団服を着ている身体を俺の方に確りと向け直し、新緑の目は厳しい侭で尋ねて来た。




「申し訳ない、ブラウニーさん質問ばかりを重ねて。何分(なにぶん)にも約15年前にアンが消えてしまったからね。 それ以降の情報をわたしは何も持ち合わせてないのだ。 それに尋ねてはならないと思う質問が、どうしてもわたしの頭から離れずにある、、、。 ないとは思いたいのだが、その、、。アーサーの父親は、キミなのかい? ブラウニーぃっ。(覇気)」


「はあぁぁーーーっ!!何をバカなことを。 それはこっちのセリフだ! アナタ(キャメロン副団長)がアンジェリカさんを孕ませた相手だと思うから、こっちも色々考えたのに! もししかしてニコラスには全く身に覚えがないのかよぉー。 はぁ、こうなったらアーサーを助けるには正攻法でいくしかないのか。 うぅっ、クソォ。 騎士団副団長が実父なら良い防波堤に出来ると踏んでたのに。 くそっ、ヤっといて欲しかったよ。 平民だと婚約したらヤっちゃうのが多いのになあ。はぁー。」


「いや、身に覚えは。一回ある。」


「あ、あるっ!ある? あるのだな? ニコラスに! はぁぁ~、良かった。 俺やジーンの中ではアーサーの父親は、副団長で確定させていたから。 それに一回でもヤレば当たりが良かったら懐妊するでしょーが。 もしアンジェリカさんが生きていて今の質問したら結婚してたら離婚案件。 恋人なら張り手されて捨てられるから、精神的にな。」


「はは、、そっか、そっか。 良かったよ。(ブラウニーを殺さなくて) アーサーは僕とアンの息子だったのか、、、だが、それならナゼ僕の前から、消えなければ成らなかったのか。 僕たちは、婚約者同士で任されていた任務が終わったら、結婚すると決まっていたのだ。 なのに。」

「それは、そうする理由があったのでしょう。アンジェリカさんに。」

「彼女なら、、、そうだろうな。為すべきことのために。」

「それで今日、私たちがキャメロン副団長を我が家に招いたのは、アーサーの問題解決に協力して貰いたかった、と言うのが1つ。 もう1つは後で、キャメロン副団長の時間が許せばですが。」

「そっかぁ。 僕はやっぱり招かれていたんだね。くっくっく。 セシルを使うのは上手いなあ。」



いえいえ、考えたのはジーンだからなあ。

それにセシルを使えるのはジーンだけだろうから。





「それでアーサーの問題とは?」

「キャメロン副団長は、社交の場に顔を出しておられた様なので、判ると思いますが。ベリアノ侯爵ってご存じですか?」

「ああ、勿論。わたしのことを蛇蝎の如く嫌っているがね。 彼は昔騎士団に居たのだよ。母親が病で急死され、それを期に退団した。その後、喪が明けて直ぐに襲爵して侯爵になった。 それでベリアノ侯爵がどうかしたのかい?」

「それがベリアノ侯爵は、〔アーサーを実子としたい〕そう上申書を出して上層部会へ訴えてるらしくて。 キャメロン副団長は聞いないですか?」

「ないっ! そもそも上層部会に提出する上申書は部外秘でしょっ!?ブラウニーさん。 それとアーサーって僕の息子のアーサーですよね。他のアーサーでなく?」

「ええ、そうですよ。 アーサーにとっては面倒な問題なのだよなぁ。」

「意味が分からない。 ベリアノ侯爵とアンには接点など何もなかった筈だ。 然も彼には格式高い出の妻がずっといた。嫌、今も居る。 幾ら上層部会は守秘義務があり、ある程度秘密は守れるかも知れなくても、そんな訴えを出す危険性など彼なら理解してるだろうに。性格の捻じ曲がったイヤな奴だったが、貴族としてのプライドは高かった。 そんな奴がナゼ、、、、」



 キャメロン副団長は、ブツブツと呟き始めた。 しかし彼は、気付いているだろうか。 「ベリアノ侯爵はアーサーを実子と思い込んでいる」と言うセリフを俺が飲み込んで口に出して居ないのを。

 アンジェリカさんと瓜二つらしいアーサーとであったこと、そしてそのアーサーが息子だったこと。

でっ、アンジェリカが死去していたこと(これが彼には一番ショックが大きそうだ。)などの衝撃の事実を知った為、キャメロン副団長の脳が休眠中なのだろう。、、、アンジェリカさんとベリアノ侯爵がHしていた可能性に気付くのは。


 これで俺が迂闊な事を言えばピシピシと突き刺すような威圧の刑だ。


 目を瞑り口の中で何かを呟いているキャメロン副団長の様子を俺が静かに窺っていると、トニーがやや急ぎ足でサロンに入って来た。


「今日はセシルとアーサーを見て下さり、ありがとうございました。 それはそうとキャメロン副団長、お時間は宜しいのでしょうか? セシルからの話では10時前には騎士団本部へ戻らねばならないとか?」


トニーらしくない張りのある朗とした声でキャメロン副団長に声を掛けた。


キャメロン副団長はトニーの声量に一瞬驚き、そして身に着けていた懐中憧憬で時間を確認した。


「ああ、助かりました。お声がけを有難う。わたしの方こそ世話になってしまった。 近々、またアーサーに会いに伺わして貰って良いだろうか? ブラウニーさん、本当に今日は済まなかった。 わたしの誤解で酷い態度をとったことお詫びしたい。 真に申し訳ない。」



深々と頭を下げたキャメロン副団長。

俺も嫌がらせしたからまあイーブンってことで。



「お気になさらずに。 そしてええ、もちろんですよ。 いつでもアーサーに会って下さい。 さてキャメロン副団長は帰る時間ですよね。 そうだ。私が知っている事を纏めて報告書にして置きましょう。 読む方が頭を整理し易いでしょうし。 なるべく私も早めに纏めましょう。」

「有難う、ブラウニー。呼び捨てで良いだろうか?わたしのことはニコでもニッキーでも好きに呼んで欲しい。」

「では私のことは、ローランドで。よろしくお願いします。」


俺は、立ち上がりキャメロン副団長の近くまで行き、右手を差し出した。

するとスクリとソファーからキャメロン副団長も立ち上がり、春の新芽のような新緑の双眼を向け、少し表情を硬くして右手を伸ばして、俺の手を掴み握手を交わした。


握手をした一瞬キャメロン副団長は小さく笑んだ。

その新緑の双眸が緩んで、真夏なのに春のような風が渡ったように感じた。






《2》


 娼館〔ローゼ〕の玄関には、チープな裸体の彫刻が扉の左奥へ置かれていた。 一階の受付があるホールだけには緋色の毛先の短い絨毯が敷かれていた。 片開きの木製の玄関扉を開いて、ホールから手摺のある階段を登れば、びっしり並んだ狭い客室がある。 部屋は狭いが娼館の建物が大きいと定評のある〔娼館ローゼ〕だった。 客室は、ほゞベットでいっぱいになって居る。 2階、3階は客室で、一階と地下が娼婦と黒犬の個室。 〔娼館ローゼ〕も昔は娼婦に部屋を与え、客は娼婦の部屋で癒しタイムを満喫させていたが、色々と問題が起きた為、今は砂時計で時間を計り、タイム制現金商売に替えてから問題が激減。 商売繁盛で女主人のイブは、ピンクと黒の扇子で高笑いを隠していた。


 濃厚な甘い薔薇イブ・ローゼの香りは、〔娼館ローゼ〕のどこにいても漂っている。そこがセールスポイントだと高らかに誇る女主人イブ。

 イブ・ローゼの香りは、彼女のアマン(愛人)である黒犬のモリが作り出した一品。


「どこにいてもイブと(に)いれていると思えて、元気いっぱいになれる。」


デロ甘な台詞でイブを蕩かせるがモリの脳内はピンクモーションノンストップな駄犬ぶり。 身内の黒犬(黒の一族)たちにも「やらしくてイイ匂い。」とイブ・ローゼの香りの評判がいい。

唯一の難点は、娼館の客たちのステディな御婦人方から「浮気したわね!」と痛い目に遭わされる事ぐらいか。 移り香って意外に鼻に付く物らしい。


 モリの作ったイブ・ローゼの香りは、庭園や薔薇園で人気のあるダマスク・クラッシックと言う人気のある華やかな薔薇から作られている。

 しかし〔娼館ローゼ〕でそこかしこに飾られて居るのは、黒犬(黒の一族)が盗って来た蔓薔薇なんぞを室内装飾に見立てて小器用に小ぶりな花々を咲かせて居たりする。四季によって咲く薔薇が違うのも楽しめる。

 もしもジーンが、このことを知ったら才能の無駄遣いと呆れ返るだろう。

 だが黒犬たちの確たる目的は、花が終わった後の実に或る。 彼らなりの独特の調薬により、悦びの声を上げる娼婦たちが増えることだろう。


たった一匹の黒犬モリだけは、「〔娼館ローゼ〕をいつか薔薇でいっぱいにしたい。」と話していた女主人イブの望みの為、動いていたのだった。





《3》



(貴族の女などは、家と夫に寄生する娼婦以下の獣だ。 妻のマデリーンは、結局母と同じ穴のムジナだった。)




エリオット・ベリアノ侯爵がそのことに気付いたのは、今から4年前。

(アーサーとライがベリアノ侯爵から狙われ出したのが、この時から約2年後である。)




花開く矢先の銀華(アンジェリカ・ホーク)を無理矢理手折り、ニコラス・キャメロンへの溜飲を下げた。 それから2年後、婚姻していた北の公爵の息女マデリーンが長女を出産した。 これでエリオットを貶め存在を否定した母親の言葉が妄言だったと証明されたことに肩の力が抜けた。


(もしかしたら『わたしが父の息子でない』との言葉も、酒でおかしくなった母の妄言だったのかも知れない。 どちらにしろわたしを貶めた母は死に値したが。)


はじまりの公爵家の息女を妻に娶った。王族以外では最高位にいる北の公爵令嬢。 そして血筋正しき自分と妻に娘が生まれた。 エリオットは人々の羨むベリアノ侯爵である自分にプライベートで酔いしれることが出来た。


但し、王都の王城で催させれる祝賀会は、年が増すごとにエリオットの不快指数が跳ね上がった。

エリオットの知る栄誉ある騎士団は、ガウェル・ベンウィックと平民のニコラス・キャメロンたちの手により無残な姿へと堕とされて行ったからだ。 血筋正しい貴族家の騎士が1人またひとりと純白の団服を自ら脱ぐ様に平民であるニコラスの汚い手で仕組まれていたからだ。


しかし、、、と、エリオットは、穢れなき銀華(アンジェリカ)を手折った時におぼえた嗜虐心を満たされる感触を思い出し、怒りで荒ぶる感情を宥めた。 ニコラスがどうあがいても銀華(アンジェリカ)を二度と手にする事が出来ないのだから。


 英雄白銀の騎士の血族であるホーク卿が、娘アンジェリカの死亡通知を親しい者達に出した、と言う知らせを聞き、『惜しい』と思う反面ニコラスへ対する優越感が増した。



 そしてホーク卿が第一部隊を辞し騎士団を退団したと伝えられた時は、どこか清々しい心持になった。

エリオットは、白銀の騎士の血筋であるホーク卿を確かに尊敬していた。 だが銀華を手折って以降、王城や王都でホーク卿の凛とした佇まい、澄んだ怜悧な目を見る度、ザワザワと胸が波立つのを感じ落ち着かなかったのだ。 ホーク卿が王都を離れたと知った日は、エリオットの心が凪ぎ落ち着いた日々を送れるようになった。


 そんな日々の中で唯一覚えたエリオットの息抜きは、庶民の服装を真似て、平民街にある娼館の娼婦を銀華(アンジェリカ)と同じように拘束して荒々しく抱く事だった。 その度にあの黒く燃えあがる悦びを思い出していた。 本来なら高級娼館の見目の良い品のある娼婦たちに試したかったが、貴族たちも出入する為、噂に成るのを恐れ出来なかった。 万が一、妻の父である北の公爵の耳に入れば、どのようなペナルティを科せられるかと考えると、エリオットの僅かな好奇心など霧散してしまった。



 そしてエリオットは、概ね順風満帆な日常を過ごしていた。


 その日は王城からの招待で、騎士の授賞式と新たに騎士団長を拝命したたガウェル・ベンウィックと副騎士団長に任じられたニコラス・キャメロンの祝賀会でもあった。 エリオットは、王家の紋の入った招待を欠席する訳にも行かず、苛立ちを抑え苦虫を嚙み潰したような表情で時をやり過ごした。

 早々に祝賀会を辞して、此の所気に入った娼館で苛立ちを発散し、侍従に用意させて置いた辻馬車で王都の邸宅を目指して居ると──────



(生きていてはならない銀華、アンジェリカが、その道に居た。

しかもわたしとの子供を連れて。

懐かしさは、或る。

だが、わたしの子供を連れた銀華などが存在していると、全てが崩壊してしまう恐れがあった。

血筋正しきわたしの正しき繁栄、北の公爵からの人脈で潤沢に集まる資金、ベリアノ侯爵である自分だから許されている特権。 銀華とその子の存在が妻や北の公爵に知られてしまったら。)


エリオットは、馬車の入れなくなった小径で馬車を降り、懸命に彼女たちを探し追った。

(銀華たちを掴まえなくては)

その一心で入り組んだ路地裏を探したが、エリオットの手は、アンジェリカたちを掴む事が出来なかった。


 エリオットは待たせていた辻馬車の御者に銀華たちの捜索を命じた。


この御者は、騎士団の帰り道で銀華たちを乗せていた御者だった。 エリオットが銀華を手折り終えた後、侍従に彼の元へ向かわせ口止めを謀った。 そしてエリオットの息抜きに平民街を便利に動く手段が必要だった為、侍従が雇った御者だった。

────御者の彼は、上層部会での証言者のひとりに予定されている。 あの日、確かにエリオットとアンジェリカが2人で別邸に入って行ったと述べることになっている。────



 銀華探しは御者とその仲間に任せ、エリオットは社交シーズン以外は、領地や北の公爵関係の仕事をし、ベリアノ侯爵家を更に誇り高い一族にする為に日々邁進していた。


やがてエリオットに次女が生れ次代のスペアも出来た。 国外へと舵をまた切り始めた王族たちに反してロゼット王国の貴族としての矜持を具申するサロンを主催した。 またエリオットのように、開く前の華を手折る同好の士とも知り合い、数人で共同で邸宅を購入し、趣味のサロンを開くようにもなった。 それが縁で騎士団時代の貴族家の元騎士とも再会し、エリオットは公私ともに充実していた。


いつしか銀華(アンジェリカ)たちのことは、エリオットの記憶の底に沈み込んでいった。





それが四年前、偶々、領地に居る期間にサロンのメンバーからの招きがあり、急遽王都の自分の邸宅へ戻ることに成った。

妻の私室へ行くとわたしに似た髪色と色味は違うが同系色の瞳を持つ男が妻の近くに侍っていた。

妻に「誰だ?」と誰何すると「いつもの侍従だ」と答えた。 妻は「今日は貴方と似た色味にスキルで変えていたのよ。」そう口の端を上げて笑んだ。



わたしはその表情を知っていた。


11年前、母がわたしを貶めながら笑んだ時と妻の笑みが酷似していた。

そして────── わたしは察した。

妻の侍従は、わたしに似た色味が本当の持ち色なのだろう。

日頃のロゼットの民に多い茶髪茶目こそが色替えスキルを使った妻の侍従の偽りの姿なのだろう。



そう言えば、婚姻してから一年と半年を過ぎた頃、北の公爵から領地の寄り子を雇って欲しいと頼まれ、彼と女性を預り、妻の侍従と侍女にしたのだった。


「、、、、、出掛ける用事があるから、わたしは失礼するよ。」




わたしは身体が燃えるような凍えて行くような呼吸するのが苦しくなる程動悸が激しく速くなっていくのを感じた。 それでも頭の芯は静かに醒めていた。 母を殺したあの日のように。



義父となった北の公爵と妻は、長女が懐妊する前に気付いたのだろう。

わたしが子を成せない身であることを。 それならば自分の係累たちの種を娘に仕込んでおく方が後々に都合が良いとでも思ったのか。

公爵と妻が幾ら高貴な身とは言え、これでは余りにもわたしが、みじめで哀れすぎるではないか。


わたしの口からは、乾いた笑いが、次から次へと零れだして行った。



することもなしにわたしは馬車に乗り、趣味で共同購入していた邸宅へ向け走しらせた。



──────いやっ!!


わたしには、子を成せる力があった。

銀華は、紛れもなく無垢であった。

それが証拠に銀華の破瓜の血がスカートの裏地やベットのシーツに付いていた。

側に居た侍従は、間違いなく破瓜の血だと言ってくれた。


そして彼女を手折って半年過ぎた頃辺りに、銀華は姿を消した。


きっと父であるホーク卿にバレないように家を出たのだろう。

ホーク卿は、堅物と呼ばれる位に生真面目な方だったから、婚約者でないものとの懐妊など決して認めないだろうから。

下手をすると名誉を守るために彼女へと自害を勧めるやも知れなかったのだろう。




そして出会った銀華との子の大きさは、わたしと銀華が契り合ったあの日に出来たわたしの子だ。


わたしの血と英雄白銀の騎士の血を引く銀華との子だ。

わたしの跡は、他の誰でもないあの銀色の髪を持つわたしと銀華の子が継ぐべきなのだ。



──────そうだ!!!


わたしから始めればいいのだ。

例えわたしにベリアノ侯爵家の血が入って居なくても、わたしからはじまり、次はわたしと銀華との子が連なる。 新たなベリアノ侯爵家がはじまって行くのだ。


妻と侍従の子など汚物でしかない。

銀色のあの子を見つけて、わたしの手元に置くまでは、排除できないのが忌々しいが。

新しい家を興すことを考えれば、北の公爵に今まで通りに接する事等、わたしは耐えられる。


しかしわたしは二度と妻を抱く気になれないから、3人目の子作りは諦めて貰おう。

それで懐妊するようなことに成ったら、唯々諾々とわたしが応じない事くらいは、流石に承知しているだろうから。







それにしても、ああ、明日からわたしは忙しくなる。


絶対にあの子を手に入れなければ。



わたしと銀華との運命の子よ。





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