マナ鑑定スキル
《1》
「エレノーラ、アレと仲良くやっているか?」
「アレなんて言わないで貰えます?ヴィンセント叔父様。せめてアルとかアルフとかにして下さいませ。」
「まあ、何でも良いがな。一応は礼が出来るようになったのだな。」
ヴィンセント(ヴィ)は、ティー・テーブルを前に長椅子に座った広いデコのエレノーラを眺め、彼女の広い部屋のある一角に置かれたお茶を楽しめる休憩場所まで歩いて行き、左奥のソファーへ腰を降ろした。
そして側近(仮)アルフレッド・ディ・アウステル(通称グリード)は、書棚が並べられている場所のサイドテーブルに読みかけの書籍を置いて、ヴィンセントが入室した途端に姿勢を正して立ち上がり、頭を下げた。
アフルレッドは、むっつりとしているようだが、エレノーラとの隷属契約のせいで無礼な態度は取れないようだ。
「そう言えばエレノーラ。君はアーサーという名の心当たりが有ったりしないかね?」
「、、、え、とっ?」
(私ってば、ヴィンセント叔父様にポロリと、何か口走っていないわよね? グリードいえ、アルの場合はイレギュラーで極刑が決まっていたから、私も色々チャレンジしてみただけよ。 べーっ別に、ヒロインのフェリシアから攻略者のアルを取っちゃおうとか、全く思っていないわよ。 やっぱりグリードって声が良いって思うだけくらい許されるわよね。 もう1人の攻略対象者のアーサーの場合は、下層民区で視察に訪れていたフェリシアを北の公爵一味から助けるのよね。、、、あの一味の1人が高位貴族の、、、。)
名前が出て来ない事にエレノーラは苛つき広いデコにピシリと血管を立たせた。
「ベリアノ侯爵がな、、、。」
「そう、それっ!ベリアノ侯爵なのよ。勘違いオヤジだったわ。」
「ふむ。続けて良いぞ?エレノーラ。 やっぱりアーサーとのこと〔も〕知って居ったか。」
「い、嫌ですわ。ひっかけ問題だなんて、ヴィンセント叔父様ったら。おほほほっ。」
「誰もエレノーラを引っ掛けてはないがな。 それで話の続きだが、良いか? わたしが話しても?」
「も、勿論ですわよ、」
「うむ、今度上層部会でベリアノ侯爵が、去年見つけたアーサーって少年を実子として申し立てをしたいと、訴えて来ておってな。」
「ええー!まじで?」
「マジだ。」
「マナ(魔力)鑑定スキルを使えれば簡単なのだけど、あれって難しいでしょね。 上申書でって言われてますけど。結局は使えませんよね?」
「一応は違法ではないが、難しいだろうなぁ。その為の上層部会だしな。 血族重視の純血主義末期の悪法と混乱が酷かったからな。 それがあったから200年前に女王陛下が視た夢見スキルで、女王を継承する王女が他国の王子との婚姻を許されるようになった。 有力貴族の反対はあったがマナ(魔力)鑑定スキルの悪用の弊害の方に民の忌避感が増していたからね。 だからマナ(魔力)鑑定スキルに頼らない解決を望んだのだろう。」
ヴィンセントは、手に持っていた数枚の書類をティー・テーブルに広げ、指先でトントンと文字を示しながら組んだ足を組み替えた。
エレノーラはヴィンセントの動く指先を大きな赤い猫目で追いかけて、鑑定スキル問題をツラツラと脳裏に走らせた。
マナ(魔力)鑑定スキル。
通称は親子鑑定スキルと呼ばれていたのだけども。
この世界の人間にはスキルの有無関係なしにマナ(魔力)がある。
そしてマナ(魔力)は、ひとりひとりが、全部違っているらしい。
そこでマナ(魔力)鑑定スキルの出番。
初めは、犯罪に使われていたスキルの持ち主の特定の為に、マナ鑑定スキルを使っていた。
でも人間て色々試したくなる生き物で、マナ(魔力)のサンプルを集め始めたのですよ。
そして量が集まると分類しちゃう性質なのか、取集と分類していく内に傾向とかも見えて来て、実証していった。
するとマナ(魔力)を辿れるようになって、父親と母親のマナ(魔力)から本人マナ(魔力)が生まれると検証出来るようになってしまった。
修羅場って言う程度の問題だけでなく、爵位などの継承権が関わってきますから、高位貴族が揺らぐってな状態になってしまった。
王族や王族に準じる公爵家では、流石に親子鑑定スキルは端から使用は許可されていませんでしたけども。 やはり身分制度が危うくなるって考えて居たのかしらね。
それで問題はこれで収まらなかった。
自筆のサインなどが或る契約書などには、本人や相手のマナ(魔力)を使用している物があり、そこから1~2代前のをマナ鑑定スキルで調べられるように成り、父親や祖父のマナ(魔力)の系譜まで調べれる様になった。
そこで問題が起きたのです。
犯罪で使われたスキルの使用者のマナ(魔力)が分り、間違わない犯人逮捕が出来てしまって便利。そう思われて、研究や検証が進み、マナ鑑定スキルは次のステージに行ったのでした。
なんと高いレベルのマナ鑑定スキルで調べると、マナ(魔力)でどんなスキルが使えるのか判ってしまったのですね。
(血液で発病していない将来の病気や遺伝子情報が判ってしまうようなモノかしら。そこまで詳細な医学情報なんて今世には、ないですけども。)
さて何が起きるでしょう。
世は、特殊スキルの為に血縁重視の純血主義で、近親婚と云うか親族婚が普通にある世界。 法ではなく慣習として本家の当主に初夜権とかもあった。 懐妊すれば当主の血筋を得れて家として喜ばしいとされていた。 昔からの慣習だった為、純血主義末期には廃れていたそうだ。
先ず子供のマナ鑑定スキルを先取りしてやっちゃいました。
どんなスキルが発現するか先に分った方がリターンも判るしリスク分散もできるかも。
次にやり始めたのは、ある程度の網を作って、民たちのマナ鑑定スキル検査で、特殊スキルや超絶お得なスキルを囲い込んで先取り。
もうここら辺で、危険な香りが半端ない。
一般の民たちからマナ鑑定スキル検査を始めると、上の方から(領主たちなどですね。) 領地の為に此のスキル持っている人は、この仕事をしてねって決められちゃったりしてしまった。
だけども、この世は奴隷狩りとか横行していて、便利なスキルや特殊スキルの持ち主であることを知られたら、攫われて他国に売られちゃいますからね。
だから自衛のために自分のスキルを生涯秘匿している人達が、結構いたのです。
王侯貴族たちは、身分という盾や衛士などに守って貰えるので、ピンと来ないだろうし、自分たちが「調べさせろ」って命じる立場なので、民たちの不安を考え過ぎだと言うばかり。
そして有用(エライ人が決める)だと思える者同士(選別)での婚姻は進めて行っちゃうし。 上の者達は、既にやっていることなので拒否感がない。 マナ鑑定スキルを発見出来てなかった頃は血族婚当たり前だった。で、マナ鑑定スキルが一般化されると早い段階で婚約を決めちゃったりね。 でも血族に拘るあたりが純血主義末期っていう時代だったのかしら。
ついでに民たちのマナ鑑定スキル検査後、スキルを領主の役人たちに知られると意外に情報漏洩したりして、酷い所では裏稼業の人たちや奴隷商にスキル持っている人の情報を売られてしまったりした。
文句言いたくても平民だと訴える先もないと言う。
それで何が起きたかというと先鋭化しちゃった血族婚で王侯貴族の方々は子供が生まれなかったり、ものっそ生まれ難くなったりした。 超少子化時代の到来。
そして平民は、めっちゃ攫われる様になった。
村というか集落で人狩りとか起きちゃうし、平民は人口減少。
そうしてめっちゃ有効活用していたマナ鑑定スキルの使用者の老化で、スキルが使用出来なくなった。
回復スキルは、レベル差があるけど比較的メジャーで、それなりの使用者数いた。その約半数ぐらい居たマナ鑑定スキルなのに、新たなマナ鑑定スキルの発現者が殆ど出て来なくなった。
と云うかあれ程スキルをデザインした筈なのに、特殊スキルも普通のスキル使用者も、どういう訳か激減してしまったのだ。
そんな紆余曲折時代を経て、200年前の女王陛下が娘(未来の女王)の婚姻相手を初めて夢見の力で視て、他国との婚姻がロゼット王国でも許されるようになったのだ。
相変わらず先鋭化している血縁重視の純血主義は密かに存在していますが。
現在ロゼット王国では、2親等内(婚族は除く)の近親婚は王国法で禁止されてるのだけど、、外国との婚姻の門戸を開いた王家に反対している方々が、密かにシークレットで子孫を増やしているのだとか。 こういう話を聞くと義務教育で道徳を幼い頃から教える必要性を考えてしまうのよね。 まあ貴族への義務教育とか現状では絵にも描けない餅だけども。
だから「マナ鑑定スキルの使用は難しい」と、ヴィンセント叔父様は言いやがっているのです。
「うーん、、、難しいでしょう? ヴィンセント叔父様、上層部会で実子として認められるって。」
「ベリアノ侯爵には証人がいるらしいのだ。 しかし既にアーサーの母親は亡くなっている。 それに上層部会で訴えたい理由が、幼い頃からアーサーを洗脳し取り込んでいる非常に狂暴で残忍な裏稼業のライと呼ばれている男から安全に救助したいからだそうだ。」
「それなら養子でも良いと思いますわ。 ヴィンセント叔父様の口振りでは、王会の方まで話は来ないと考えて宜しいですわね?」
「ほう、、どうしてかな?エレノーラ。」
「だってヴィンセント叔父様ならライって人のことは調べ済みでしょ? そんな危険な人と居るなら、既に保護していると思いますの、ヴィンセント叔父様でしたら。」
「ふふっ。エレノーラには買いかぶられたものだな。」
「ふふっふ。」
ヴィンセントの素直でない誉め言葉を聞いて、エレノーラは少し照れて笑む。
マナ(魔力)鑑定スキルを使わないで、、、かぁ。
大体、あの勘違い野郎って、、、ベリアノ侯爵は、種無しだから。
って、此れはヴィンセント叔父様には、第一王女としても、女の子(肉体年齢は16歳だもの)としても、口が裂けてもいえない。
うーん。
そうだっ!!
「ヴィンセント叔父様、お聞きしたいのですけど。 ベリアノ侯爵には令嬢が2人居らっしゃいますよね。」
「そうだなぁー。上が12歳で下が8歳と聞いているが。」
「どうして長女が後継者では駄目なのかしら? だってベリアノ侯爵夫人の生家って、王家との所縁が深かったあの北の公爵家ですよ。 あくまでも聞いた噂ですけど、ベリアノ侯爵は血筋に拘る方で、ご自分の血を誇っておられるとか。 ご息女を後継者として母上に願い出れば許されるのでしょ? それが不思議で。」
「そう言えば初婚の相手は伯爵家の令嬢で3年間世継を産まなかったから離縁したと、、、っデカしたぞ、エレノーラ。 ふっ、丁度北の公爵の力も削いで置きたかったし。」
「ふっ、ヴィンセント叔父様のお役に立ったみたいで良かったですわ。」
「ああ助かったよ。エレノーラがいつもこうなら良いのになぁー。ホントに。」
「それは、どういう意味ですの?ヴィンセント叔父様。」
「さて善は急げだ。邪魔したな、エラノーラ。」
「もうっ!!」
いつも気難しい顔をしているヴィンセントが、珍しくカラカラと明るい声で笑いながら、右手に7枚の書類を持ちエラノーラの私室から退室して行った。
その姿を見送りながらエラノーラは、ヴィンセントに「ベリアノ侯爵の種なし」問題を感づかさせたことにホッとして胸を撫で下ろした。
《2》
時は戻り、エーデル王国メルヘンチックな小さな王城・
【7月1日】
〔ザクロン5世皇帝陛下は貴国の第四王女を第5側妃として所望。この誉を受諾されよ。 (略)期限9月28日──────〕
6月27日にザクロン帝国から急使が訪れエーデル王国に伝えたい事だけ伝え期限を一方的に決められた。 これは宣戦布告であるとエーデル王国の国王は、そのように受け取った。
本来なら戦準備でも、と成るのだがエーデル王国の国境は、東は帝国の1つであるメメシス属領地、北西はスガルノ中立王国、西は同盟国のクローバー王国、南はゼノキス中立王国 などの4カ国で囲まれていた。 ザクロン帝国の属領地メメシスより国土の狭い小国である。
メメシス属領地になる前の王国であった時、帝国に攻められ民の多くが逃げてきた。 その民たちを助け自国エーデル王国より安全な西の隣国クローバー王国へと逃がしたのは12年前のことだった。
いずれ我が国も亡国となるやもと、ある程度の覚悟をしてきたエーデル国王であった。
急使が来た翌日に覚悟を決めた国王は、以前から皆に繰返し話し伝えていた言葉を語った。
「我ら王家に仕えし臣下の者たちよ。 時は来てしまった、直ぐに逃げよ。騎士たちは民たちを誘導し西の同盟国クローバー王国へと頼む。 我が第一王女が嫁いでいる為、無下にはされまい。 情けない国王で済まない。 共にと言う皆の気持ちは嬉しいが、我にも王としての矜持が或るのだ。 さて、時が惜しい。 恐らく帝国は三カ月などという時を待ちはしないだろう。 皆、元気でいてくれ。 我も今から暫しの間家族と過ごさせて貰おう。 皆の忠義に心よりの感謝を。」
国王は、昨日行った大広間での言葉と涙して共に死なせて欲しいと縋ってくれた愛しい臣下たちのひとりひとりの顔を思い出していた。
〔エーデル王国王居サロンにて。〕
国自体が高地に或るエーデル王国夏でも涼しく夜や朝は上着が無いと肌寒い。
サロンから見える庭園には高山植物を植栽され、白や黄、藍に鮮やかな青、紫、ピンクの愛らしい小花たちが夏の庭を彩っていた。
何処までも高い天空の青が童話のようなエーデル王国の王城や街を見守って居るように見えた。
国王、王妃、第一王子、第二王子、第四王女が仲良く集い、国花であるエーデルから作ったお茶を其々のテーカップ注いでいた。
「第一王子、第二王子、そして第四王女。明日にでも西の隣国クローバー王国へ旅立ちなさい。共に行く従者たちの準備は、整えてあるな。」
「父上ぼくは帰って参ります。それまで母上を頼みます。」
「俺もそのつもりです、父上。暫しのお別れです。」
「いっち兄、にぃ兄。あちしは、父サマや母サマとエーデル王国に残りたい。」
「来訪が叶えば、ぼくはロゼット王国に参ります。恐らくクローバー王国に嫁いだ姉上もぼくと同じ思いでしょう。 可能性が皆無であれば父上の望みの侭に。 第四王女、お前はぼくと共に行くのだよ。 お前が帝国の人質になれば、ぼくたちの動きが封じられるだろ?」
第一王子は少し息を詰め、両陛下にしばしの別れを告げた。
「では、父上、母上。ご健勝で居られることをエーデルの空に続く地より、お祈り申し上げる。 行こう、第二、第四。」
「国王の説得は聞かぬ。」
今朝、そう断言して集い、国王に第一王子たちの望みを伝えた。 それから慌ただしく2人の王子たちは従者を連れサロンを後にした。
第四王女は、泣き出しそうな表情を隠せなかった。 その表情を見兼ねた従者は国王夫妻に深い礼をし、その後、引き摺るようにして第四王女を連れサロンを退室した。
庭園を吹き抜ける風は、鮮やかに青いリンドウの花々を揺らした。旅立つ子らの背を押し祝っている様に国王夫妻には思えた。




