しあわせな手紙
《1》
先生に話したアーサー君とキャメロンさん(副団長)を会わせる計画って、それ程大層なモノでなくて。
『兄さまが鍛錬場にニコラス・キャメロン副団長を招待しちゃうゾっ計画ぅーーっ!!』
パフパフパフっっ(声だし)パチパチっ(一人拍手)おぉーっ(一人発声)
騎士団員からの信頼も篤く、人好きのする優しい人(コウとヨウの証言)なら、少し騎士団で浮いている(兄さま談)新入り団員に、兄さまの休みの日に「我が家の(先生のデス)鍛錬所を見て貰えませんか?」とお願いしたら来てくれそうな気がしたりしなかったり。
騎士団でシャイなあの子が気になるよね作戦。
「兄さまは、騎士団で仲の良い人が出来ましたか?」
って少し前の休日、何気ないそんな問いをしたら、、、
「うーん。少し浮いてるかも知れない。先輩騎士がオレの顔を見るとナイフ投げて来るしなぁ。」
「でも殺意はないよね。あの人。」
「新兵の中じゃセシルだけだよね。ナイフ投げてくるの。」
つうか駄犬2匹は笑ってる場合?
(すわっ!いじめイクない)って兄さまの話を聞かされた時はビビったけど、どうやら殺意がないので兄さまも気に成らないらしい。
そして駄犬二匹の話を総合してみた。すると「話が端的過ぎるのに言葉のチョイスが独特だから、同期たちに面白れぇー奴って思われているのかも知れないカモ?」って、何だか持って回ってクド過ぎる説明をされた。
何で一言「浮いてない」って答えやがらないのでしょうか、この駄犬たちは。
とかとかと、思っていることも在って、キャメロン副騎士団長に家庭訪問を頼みたいなあって、私的な欲がつい表に出ちゃった。 だって第三者からうちの子(兄さま)はクラス(騎士団)で上手くやっているかどうか尋ねたくて。
ローランド先生には、決して言えないことですけども。
で、キャメロン副団長が鍛錬場にいらしている時、アーサー君と兄さまとの練習を見て貰おうと思っているのです。
何でもアーサー君は、めっちゃ母親のアンジェリカさんに似ているそうなので、キャメロン副団長がアーサー君を見たら、ピンときちゃうと思うのよね。
そこから何を話すのかは、キャメロン副団長次第と思ってる。
でもってアーサー君の反応だよね。
一応は、フォローの為に先生に立ち会って貰おう。
しかしベリアノ侯爵がアーサー君に執着する理由かぁ。
高位貴族の人が、金や手間を惜しまず下層民の中で暮らしていた美少年を切望する理由って、恋でないなら、珍しい特殊なスキル持ちってのかしら?
アーサー君とライさんが秘密にしてるってことはないと思うし。
私に秘密にしたとしても、シュウとかには話しそうだし、後はヴィさんかな。
でもヴィさんが知って居たら、先生がベリアノ侯爵について悩まないと思う。
やっぱりアーサー君のあの美少女っぷりにベリアノ侯爵がメロメロになって、、、いやいやねーよ。
イカンイカン、黒の一族(駄犬ども)に毒され過ぎだわ。
でもまあ、昔は貴重な特殊スキル持ちを便利に且つ独占して使いたくて、養子にしちゃう貴族がポツポツ居たようだ。 その為、法整備をしたそうだけど、抜け道があるらしい。 養子にした人のスキルを隠されていると判らないらしく保護した時は手遅れってこともあるとか。
世の中、スキルあるなしに関わらず、養子にしちゃうコトってあるものね。
ベリアノ侯爵みたいに実子扱いしようとすると血筋とか諸々の問題が或るようなので、上層部会にはかり面倒な手続きが必要になるらしく、余り為されないことらしい。
そんな面倒なことに時間と費用をかけるくらいなら継承権を持たせる養子にしちゃうとのこと。
正当な血筋であることを上層部会で認めて貰うのって、色々な人の証言が必要になっちゃうそうなのよね。 うわぁ、ドロドロしてそう。
はぁ、こんなややこしい人とは、早くすっぱり縁を切れると良いわよね。
折角アーサー君は、相棒のライさんと居れるのだもの。
追われていた日々何て忘れて、周囲の目(主にベリアノ侯爵)を気にせず、まったり過ごして欲しいモノ。
さて、今週兄さまが戻って来たら、早速キャメロン副団長のことを頼みましょうかね。 兄さまもアーサー君のことを気にかけていた様だし、きっと頼んでも大丈夫の筈だわ。
《2》
『大切なわたしのニコラスへ
突然、こんな手紙を綴って、ごめんなさい。
本当は、何も告げずにわたしは自分の想いで、ことを為そうと決めていたのだけど、それではきっとニコラスが惑ってしまうから。
この手紙が届いた時、既にわたしは居ないでしょう。
実は、とても出会いたいヒトが居るの。
わたしは、そのヒトに出会えることを朝に夕に、眠りに落ちる時まで考えて毎日を送っているのよ。
そしてそれはこれから出会った後にも続くわ。
だからお願いよ、ニコラス。
決してわたしを探さないでください。
ニコラスがもしわたしを探したら、きっとあなたを恨むわ。
ニコラス。
あなたは、あなたの為すべきことを為して、お願いよ。
わたしは、わたしの為したいことに全てを賭けて生きていく。
わたしは、一度決めたことを曲げたりしない性格だとニコラスは良く知っているでしょう?
ニコラスとわたしの道は、ここで一度分かたれるけど、女神様のご加護があれば14~15年後に巡り合えることもあるかしら?
その為にニコラスは為さねばならないことを忘れないで。
わたしも全力でやり抜くから。
あなたの大切なアンより。
追伸 わたしは幸せよ。 』
《3》
一日の業務が終わり騎士団長室を退室し、ディープブルーに染まる前のグラデーションカラーの夜空を自室に戻る通路から眺めて歩いていると、珍しく新兵のセシルが声を掛けて来た。
彼の目立つ容姿は入団試験中から話題に上っていたが、わたしと騎士団長のガウェルは、彼と彼の妹が隣国の荒地にあった奴隷収容所の砦で捕えられていたことを知らされていたので、気にかけていた。
それにオレンヂ王国でのエレノーラ殿下とのトラブル。
アレはセシルたちの判断が正しく、どちらかと言えばエレノーラ殿下が八つ当たり気味にセシルに吠えていただけだと騎士団長のガウェルから、苦笑交じりの報告を受けた。
セシル本人は至って大人しいのだが、周囲が放って於けずに、騒ぎになってしまうことが儘或る。
「セシルも今日はもう終わりか?」
「はい。明日が安息日なので今日は、此の侭、帰宅しようと思っています。」
「そっかそっか、お疲れ。しかし残念だな。あと一日安息日がズレたら魂還りの祭りで、妹さんとも楽しめただろうに。」
「いえ、ジーンもオレもそう言うのには興味がないので。 それで何ですが、明日キャメロン副団長は、少し時間があるでしょうか?」
おや、セシルが?か、、、本当に珍しいこともあるもんだ。
「おぅ。何か相談か?セシルの話なら、なんでも聞くぞ。」
「あ、ありがとうございます! 実は明日オレが使っている鍛錬場で剣技の練習をしようと思って居るのですが、よろしかったらキャメロン副団長にご足労いただけたらと思いまして。」
「プハッ!セシルは安息日まで鍛錬か?」
「はい。もう少し筋肉を付けたくて。それでキャメロン副団長、よろしいでしょうか?」
「おう、いいぞ。一旦、セシルの住むブラウニー医院まで行けばいいのか?」
「はい。よろしくお願いします。ではっ失礼します。」
「って、おい!何時に行けばいいんだ?」
「は、はい!朝8時に。早いでしょうか?」
「いや、ちょうどいい。10時前には騎士団本部に戻らないと成らないからな。」
「了解しました。では、今度こそ、失礼します。」
セシルはそう言うと淡い金色の頭を下げ、踵を返して駆けて行った。
「若っいなぁー。」
疲れも見せずに清々しい礼をして、走り去るセシルに一陣の風が吹いているように見えた。
(魂還り祭か。) わたしはセシルに告げた言葉を自分の口の中で繰り返した。
アン。
アンジェリカ、もう14年は経つよ。
そろそろ15年目になっちまうな、女神様のご加護はあったのかね?
手紙を受け取って直ぐは、アンの心変わりかと覚悟して、君の父親のホーク卿から死亡通知を貰うまでは2回目を読む勇気が湧かなかったよ。
最後に騎士団の裏門前で別れてから、アンは体調不良だと言って会ってくれなくなったからな。
てっきりその二週間前に衝動に負けてアンを抱いてしまったから、本当は嫌がられていたのだと思ってしまったのだ。
あの頃のわたしは全く自分に自信が無くて。
アン。
君に対しては特に臆病だった。
偶々友人のティー・パーティーに参加してた時、銀色に眩く髪と夏空を映した水面のような青い瞳を見た瞬間、わたしはアンに落ちてしまっていた。
その後、友人に紹介されて白銀の騎士、ホーク卿のご令嬢と知った時の衝撃は今でもよく覚えている。
高揚感と同時に墜落感を味わうと言う得も言われぬ体験をしてしまったからね。
名高い英雄の血に連なる君と唯の行商人の息子のわたしでは、始まる事すら出来ないと、初めて自分が平民であることに悔しさを感じたよ。
それに知り合ったあの当時、アンは14歳なのに、わたしは三十路だったしな。
大人っぽい君の年齢を知るまで、てっきり成人は過ぎていると思って居たのだから。
今でこそ2歳違いだと言えるけど、アンが未成人だった時の絶望感が分かるかい?
でもわたしは諦めの悪い男だったからね、それこそ君の知っての通りだよ。
友人だったガウェルからは、「諦めろ」と諫められるし、アンをわたしに紹介した友人が「本気でプロポーズする奴があるか」と言って怒る。「銀華の令嬢と名高かったから、お前の名乗りを許しただけだ!」そう言って怒鳴られたけどね。
父君のホーク卿からアンとの婚約を許された時は、宙を飛んでいる気持だったし、このまま死んでも良いと思えたくらい幸福な一日だった。
君と居れた一日一日、一瞬一瞬が愛おしく美しくて、日々幸せが積み重なって、わたしの人生は多幸感と充足感で満たされていた。
それが唐突な君からの心変わりのような手紙だ。
あの頃、平穏な騎士団であったなら逆にわたしの方が、酒や喧嘩へと逃げていたように思う。
それに君の父上ホーク卿が、「騎士の家系に生きる者として婚約契約の不履行など万死に値する。今直ぐ我が首を落として欲しい。」そう言って鞘から家宝の青く輝く白銀の剣を抜いて手渡して来るしね。
本当にあの一年余りは色々なことで大変だった。
そして君が消えて一年後にアンの死亡通知がホーク卿から届いて、やっとアンの居なくなった現実に引き戻された。
やっと君の綴った文字を読み返す勇気が出て、君の言葉を目で辿った。
これは別れの手紙ではなくわたしとの再会を女神様に願った恋文だと感じたんだ。
そう思うのは、わたしに都合良過ぎるかな。
そんなことを考えながらわたしは、副団長室の自室に戻り、執務机の奥にしまった小さなキャビネットの鍵を開き、保存スキルを掛けて貰ったアンの手紙を取り出し開いた。
もう君の香りは消えてしまっているけれど、それでも『わたしは幸せよ』と綴られた文字は、アンの頬を染めた薔薇色の笑顔を思い出させてくれて、「わたしもしあわせだよ。」と応えて甘き癒しになる。
アンが送って来てくれたこの一葉は、今のわたしにとって〔しあわせな手紙〕になっている。




