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憂鬱な駄女神  作者: くろ
32/51

レゾンデートル


《1》


 スキル練習にも限界を感じて王都の図書館へシュウと飛んで行った。


 丁度木立に囲まれた人目避けの絶好スポットがあったので、ヒョイと飛んで行こうとしたらシュウに呼び止められ、一緒に行くことに成ってしまった。

 ちくせう、目敏い奴め。


 スキルと言えば、やっぱりスキルの生みの親女神ルミナスさまだよねと思うのだけど、サッパリ音沙汰がないので、その娘であるケレス初代女王の書籍を紐解いてみる。


 〔創世記〕ってロゼット王国建国史を飛ばし飛ばしで読んでいると、ケレス女王の逸話があった。


 ケレス初代女王は、没したのは100歳であったり、150歳であったり果ては200歳以上であったと言われてる。そして彼女は不老であったと言う伝説もあった。と、記されてるのだけども。

 いや初代女王って、女神ルミナスさまの娘ですよね。

 普通女神の娘は女神でしょう、種族的に。


 女神ルミナスさまから、娘のケレスさまが没したなんて話を聞いてないので、今もこの地に存在しているでしょう。確実に。



「あぁ、だから王都にはアーサーって名の男が多いンだなっ。」


 シュウは、私が読んでいる本を横から覗き込み、指先で自分が目で追っていた箇所を指さした。


「そうそうケレス女王の夫って、ロゼの民の長の息子でアーサーって言うんだよね。 でもケレス女王の記述や書籍は多いけど、初代の王配アーサーって人の記述って殆どないのよね。 書籍もないし。 不思議だよね。」

「嫁が凄すぎたンじゃね?旦那は人間なんだろ?」

「、、、かもね。」



 ケレス女王は、山々を越えて襲って来た敵の軍勢を嵐を呼んで飛ばしたとかあるし、戦いに夫の力とか不要だったのかも。

 でもまあ、シュウの言う通り王都には、老人から子供までアーサーって名が多い。

 偏に不敗の騎士アーサーと言う人気のある名著お陰だろう。

 結構昔に書かれた騎士物語で、騎士になる前の少年編や騎士に成ってからの戦記からラブロマンス、そして王に拝謁する英雄編まで、山程章が分れていて、絶対に独りでは書いていないだろうと言うスペクタクルな大巨編が、騎士アーサー物語。

 広場や市場で旅芸人が演じている騎士アーサーがあるし、キッチリした舞台で演じている物まであるのだ。 皆、アーサー大好きって奴ですね。



 その内に兄さまと一緒に見に行きたいと思って居るけど、リアル騎士の人が役者が演じている騎士を見たらどう思うのだろう。

 兄さまの感想を聞きたいような聞きたく無いような微妙な心持になってしまうのだ。



 ふぅ。

 やっぱり女神スキルの手掛かりはなかった。

 まっ無いだろうとは思っていたのだけどね。


 シュウに時間を尋ねたら、大体14時前だろうと思えてくれた。

 窓からの日差しの入り具合で分かるそうだ。

 シュウが居れば時計とか不要だけど、やっぱり欲しいぜ懐中時計。 今世では余り物欲がなかったのだけど、外出している時に毎回シュウに「今何時くらい?」って尋ねるのも気が引けるって言うね。

 シュウなら「気にすンな。」って言いそうだけども。

 余り誰かに頼りっぱなしってのはチョット嫌かなって思う今日この頃。


とは言っても、私の悪い子計画には、恐らくシュウに頼りっぱなしになってしまうから、理想と現実の間ではディープな谷やら絶壁やらがあると思われ、、、。

 その為にも女神スキルについて知りたかったのになぁ。



 図書館を出ると私はスキルを使うのを忘れていて、ヒョコヒョコとシュウと富裕層が住んでいる高級街の通りを歩いていた。

 舗装された道が全く段差のないツルツルの石畳でびっくり。

 モザイク画のように石色を変えて、皆、何?道で暮らすの?


「うわっ、凄いね。この地区でこれだけ凄い道なら貴族街とかの道なんてどうなっているんだろ?」

「いや、貴族街の道はわりかし普通。だって屋敷も古いし当然道の石畳も年代物だからな。この地区を管理している領主の趣味だろ。ここいらに住むのって税金が高いらしいし。 南の公爵家が領主らしぃっけどな。」

「何でシュウがそんなに詳しいのよ、って言うより此処って南?」

「おいらは色々動いってから。 それよりお嬢、王都の地図って王城を中心に東西南北を考えてっみ。確かにおいらたちが暮らしているブラウニー医院からだと、ここら辺は北だけどさ。 王城を中心に見るとここは南な?」

「ぐぐぬっ。」

「そんで冬においらたちが狩りして怒られた北東の森あたりは、北の公爵様が領主ってヤツな。」

「もうもうこんなにだだっ広い王都が悪いのよっ!」

「広さは関係ないような?でっ、お嬢は、こんなお高い地区への御用は何かな?」

「それが、考え事して居たら飛ぶのを忘れて歩いていただけで、、、何もゴニョゴニョ。」

「はぁぁ。おいらがお嬢にこんな溜息を吐く日が来ようとは、、、。ちょい、こっち来てお嬢。」


 シュウはそう言うと私をヒョイっと抱えて、人混みの中をスイスイと縫うように足早に抜けて行き、気が付けばあっという間に図書館のある閑静な門付近まで辿り着いていた。

 あれ?

 結構歩いていた気がしたのに、門付近まで5分と掛からなかった。

 もしかしてコンパスの差なの、シュウと私の。


 そう思うと、一気に私の気分がどんより落ちて来た。





《2》


 裏庭や路地には黄緑色に小さく実ったい林檎の木。 そしてもうじき収穫が出来そうな萌黄色の房が垂れ下がって来ている葡萄の木とジーンが喜びそうな果物が成る盛夏の季節。

 林檎が色付くには、もう少し時が掛りそうだが。


 俺は、深い緑の街路の隙間から見える、突き抜けるような明るい青空をに、やるせない思いの息を吐いた。

 アーサーの母親をホーク卿のご令嬢アンジェリカと突き止め(ヴィから導かれたようなモノだが。)、北西地区の15番に或るホーク邸に2度ほど訪問したいとの先触れを出したのだが、『多忙にて、ご遠慮させて頂きたい。』と現在ホーク家を継いでいるヒューゴ・ホークから、けんもほろろに断られた。


 俺だって、トニーが忠告してくれたように考えなしで、墓を暴きたい訳じゃない。

というか、そもそもアンジェリカの墓は、どこにあるのかすら知らない。 大体アンジェリカの亡骸を持ち去った使用人って何者かとも思う。

 アーサーは、乳母のエラって事しか知らないし。

 3歳児くらいだったアーサーにエラの出身地を尋ねても「さぁ?」ってしか答えられないのも当然で。


 もう一層のことジーンに黒の一族の里まで瞬間移動で飛んでもらい、祖父にあたるホーク卿に直談判しようかと鬱々と悩んでいるのに、窓の外に見えるピーカンの明るい青空が眩しくて目に痛いのだ。

 少しは天気も俺の心情を察しろよ、と愚痴りたくもなる。



 はあぁー。

 何か良くわからんアーサーの父親〔仮〕を名乗るベリアノ侯爵は、現在城の上層部会へアーサーを実子として届け、嫡子とする工作に動いているらしいのだ。(ヴィ談)


「私は、大切な義弟ローの為に動きたいのだが、知っての通り色々とやるべきことが多くてね。 ベリアノ侯爵が、アーサーはライと一緒だと当たりを付け、全く面倒なことにライの行方を捜しているしね。 移動スキル使いまで探そうとするなんて、ヤレヤレご苦労なことだよ。」


 本当にナゼそこまでアーサーに拘るのか分からない。


 ベリアノ侯爵には、由緒ある北の公爵のご令嬢との間に、2人の娘が居る。

 確か長女は12歳で次女は8歳だった筈。

 順当に手続きを踏めば、長女が16歳になったら、女王陛下からベリアノ侯爵を継承出来る許しを得れるだろう。



 あそこは女児が生まれやすい家系らしく、前侯爵に生れた男児は現ベリアノ侯爵のみだった。


 前侯爵の数いる子供の内、現ベリアノ侯爵以外は6人全て女性だった。 その内のひとりがバローズ元子爵の後妻で、セシルとジーンの継母だった女性だ。 つまりセシルたちの後妻だった女性は、現ベリアノ侯爵の妹にあたるのだ。

 縁とは、奇なるものだと思わずにはいられない。


 前侯爵も、あまり良い噂を聞かないらしいが、貴族では良くあることだと、ヴィは嘯いた。


 


 それは兎も角として。


 北の公爵家と言えば、4大公爵の始まりの公爵家と呼ばれる由緒ある家柄だ。

(東西南北4つの公爵家が出来、次に北西の公爵家、ついで北東の公爵家、そして南東の公爵家が出来た。)


 そんな由緒ある北の公爵令嬢を妻にし、そこで出来た娘を後継にしないなど問題が起きそうだ。


 今は、女王陛下夫妻との仲が拗れ、当主である北の公爵は、殆ど領地から出て来ず、王都での社交は嫡男に任せているそうだが、過去には政治手法を剛腕と呼ばれ恐れられていた方だ。

 

 俺が顔を合わせたくない人間ベスト10入りを果てしている。


 ベリアノ侯爵は、そんな舅を敵に回すのじゃないだろうか。

 まあベリアノ侯爵が自滅してくれる分には、アーサーや俺的には有難いが。


 女性とはいえ、確りとした後継がいるのに、アーサーに拘る理由が俺には全く理解出来ない。


 唯一考えれるのは、ベリアノ侯爵がアーサーを実子だと確証できるコトがあったのか。

 でも普通は、ニコラス・キャメロン副団長とアンジェリカたちが婚約していたなら、アーサーを2人の子だと考えるよな。

 アンジェリカ嬢が浮気していた?

 うーん、家主から聞いたアンジェリカ嬢のイメージと合わないなあ。




 俺が珍しくリクからのマッサージを受けずにウンウン唸っていると、サロンのドアが静かに開き、そっと室内を伺うようにジーンが入って来た。


 チョコチョコと小さな歩幅で歩き、耳朶で揃えた短めの明るいマロンブラウンの髪をサラサラと揺らし、ジーンは指定席に成っているいつもの長椅子に腰をかけた。



「あのぉリクは?珍しいですね。先生がこの時間ひとりなんて。」

「まっ、偶にはね。今日はヴィの用事で出掛けているよ。」

「ふふっ。すっかりリクと先生はセットでいるものと思っていましたよ?」

「だからジーン。それは誤解だから。 あいつとセットになる予定はないのっ! ジーンだってシュウとセットって言われると困るだろ?」

「ああ、それは困るって言うより嫌ですね。」

「そういやジーンの方こそシュウは?」

「あの駄犬は、今頃娼館ローゼに行ってると思いますよ。 時折り出て行っては、ヤラシイ匂いさせて来ますもん。 やっぱり駄犬は駄犬ですよね。」

「はははっ。飼い主が居てもソコは変わらずか。まっそれが黒の一族のレゾンデートルだからなっ。、、、はぁー。」

「あれ?どうされたんですか?先生。そこで深い溜息とか。」

「いや、、、実は。 貴族であることがレゾンデートルみたいなベリアノ侯爵のアーサーに対する執着の理由とかを知りたいなっと考えて居てね。」



 俺は、ジーンなら話しても大丈夫だと判断し、ベリアノ侯爵の理解不能なアクションを話した。

 何せジーンは、ライからの助けの声?に応じてをこのブラウニー医院へと連れて来て、そしてアーサーをベリアノ侯爵家別邸から救出してきた張本人であるしな。



「何とか真っ当な親族にアーサーの法的な保護者となって貰いたくてな。 色々ベリアノ侯爵が動いていたとしても王国法に担保されたものって強いからさ。 平民が高位貴族と争う時、王国法が唯一の武器だからね。」

「えーと??」

「あれ?私は何か変な事言ったかな?」

「いやぁ、そうですよね?? どうも私は先生が〔ヘイミン〕って感覚が薄くって、、そもそも無くって。 ちょっと違和感がシゴトしちゃったようです。へへっ。」


「いや、どう考えても俺って平民だろっ? しっかりしてくれ、ジーン。」

「ハイ。ソウデスネー。」


 俺は、ジーンの言葉に慌てて、自分の出生の系譜から母方の系譜までを、もう一度ジーンへと飴色の目を見て、詳細に説明した。

 俺が平民じゃないと色々と面倒事が降りかかって来そうだから、特に未来の嫁であるジーンにはシッカリと納得して貰えるまで真面目に話した。


 ジーンは何やら疲れ切って「もうそれでいいです。」と囁くような小さな声で呟いた。



「、、、、、、。」


 そして不意に思い付いたようにジーンは顔を上げて俺に伝えた。



「先生、こうなったら推定の父親に会いましょうっ!!」

「はっ?はい?」

「アーサー君のお父さんです。母親のアンジェリカさんは、アーサー君の父親は素敵な騎士サマだったって言ってたみたいですし。 先生だって婚約者のニコラス・キャメロン副団長が父親だと思えるって、考えてるんですよね。 それにニコラス・キャメロン副団長ってアンジェリカさんと婚約解消してから独身なのですよね。 今も。」


「いや、しかし、、、あくまでも私の想像だし、、だな。」


「それに、、、アーサー君にアンジェリカさんて、どんな人だったかを教えて上げたいと思いませんか?何か変な貴族が語ったアンジェリカさんの様子とかじゃなく。 本当はアンジェリカさんのお兄さまのヒューゴさんでも良いのですけど、多忙なのですよね? アンジェリカさんの父親のホーク卿は、とっとと死亡通知を出した人だし。」


「うーん、、、だがどうやって?」


「何を仰っているのですか、兎さん。いえっ、先生。 我が家には飛び切り有能な未来の騎士とおまけの黒い騎士見習い二匹。計3人が騎士団に勤めてるじゃないですか? だからですね、、、。」



 ジーンは、声を潜めて俺にアーサーとニコラス・キャメロン副団長を会わせる計画を話し始めた。


 そして俺は、この時、トニーの忠告を丸っと、忘れていたのだ。





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