離宮で過ごすアリスター
《1》
姉(アントニア女王陛下)のフォローと諸外国の動向や交渉など外交を管轄している摂政のヴィンセント王弟殿下は、目の前で所在なさげに来賓用ソファーに座った瑠璃色の美青年に目を遣る。 新たに同盟国となったオレンヂ王国の〔瑠璃色王子〕ことアリスター第一王子を眺め、そしてヴィンセントは溜息を飲み込む。
此の所、特異なスキルを自動発動させる少女のせいで、国内問題に関わってばかりだった。
騎士団を管轄し、国務を取り仕切るジョエル宰相の職分を侵している気がして、どうも腰の座りが悪い。
その上、姪に当たるエレノーラ第一王女は、極刑を待って居た罪人グリードを自分の側近にする気で意気揚々とヴィンセントが執務を熟す摂政室に三日と開けず乗り込んでくる始末。
そうなるような交渉をエレノーラとしていただけにヴィンセントは、諦観するしかないのが実情だ。
艶々しい長い瑠璃色の髪をした見目麗しいアリスターを見て、もう一度ヴィンセントは呼吸を整え直す。
本来進んでいた話の通りに、エレノーラがアリスターと婚約が出来ていれば、とヴィンセントは遂考えてしまうのだ。
今回の婚約解消は、アリスターに非が或るわけでない。 唯一あるとしたら実弟を信頼していたことだろう。
だがしかし、と思わないではいられないヴィンセントだった。
強力な媚薬を盛られたアリスターは、薬中の少年奴隷とコトをイタして痴態を衆目に晒す、と言う実弟の仕組んだ(本人は冤罪だと上告)策略に陥れられた。
それを婚約者に成る予定だったエレノーラに視聴されたのは痛かった。 未だかつてあれ程通信兵のスキルを恨んだことは、ヴィンセントになかった。 唯の八つ当たりと分っているが。
「エレノーラ、其方だって理解しておるだろう。 あの行為は、アリスター殿下の意志ではなく薬のせいであると。 浮気ですらない。 増してや相手は男ではないか。 ここはエレノーラが、王女として大人の対応を見せ婚約を継続させて上げても良いのではないか。 傷心のアリスター殿下は、エレノーラから婚約解消などされたら、立ち直れないだろう。 なあ、エレノーラ。」
「無理無理無理!絶対に無理。 ヴィンセント叔父様、勘弁して下さいよ! 叔父さま考えて見てくださいよ。 バージンで初婚の私が、結婚相手に男と自動腰振り状態を堪能していたアリスター殿下なんて、どうして選ばなきゃならないのですか? アリスター殿下の顔を見たら、恍惚とした自動人形の様を思い出してしまうのですよ。 叔父様は私にロゼット王国とオレンヂ王国の為、不幸な婚姻を我慢しろって仰るのですか? そんなのは最低ですわ。 兎に角絶対にお断りしますっ!」
ヴィンセントも16歳を迎えたばかりのエレノーラに無謀な説得を試みていることは理解していた。
しかし同じ男としてアリスターに同情を禁じ得ないヴィンセントだった。
しかも20歳になったばかりの年若いアリスターを思うと、これからの人生を憂いてしまうのだ。
それに婚約がどうなろうと両国(オレンヂ王国とロゼット王国)は互いに必要性を感じていた為、同盟は締結されることが、もはや確定されていたのだ。
瑠璃色惨事と陰で呼ばれている今回の件。
オレンヂ王国上層部は現在未だ黙しているが、機を見て、アリスター第一王子を王位継承者から外すことを決められていた。
『アリスター殿下は被害者であられるのに。』
オレンヂ王国で、そう憐れむ声を上げる者もいた。
しかし国王陛下は、王位を継承しようとしている者が、このような隙を与えたことこそ罪と断じた。
厳しいオレンヂ王国国王の決断に気を引き締め首を垂れた臣下は多かったと、報告されたヴィンセントだった。 だがヴィンセントは、この決断を国王陛下なりの親心だと感じていた。 回復不能な醜聞を持ったアリスターがオレンヂ王国で社交界を渡るには困難だ。 王族で社交が出来ないなど益々の瑕疵がアリスターに付く。 アリスターを守るためロゼット王国に療養と云う名の保護をオレンヂ王国の国王陛下が依頼したのだろうとヴィンセントは推測した。
消沈して座るアリスターにヴィンセントは、女王陛下と王配殿下よりの歓迎の意を代弁し、用意させていた王城内の離宮へと、新たに配置した黒の一族のメイとランに案内させた。
摂政をつとめるヴィンセント王弟殿下は、今日も多忙だった。
《2》
山と幾つかの高台を利用して築かれた広大な白亜のロゼット王国王城。
数多或る宮殿の1つの離宮にアリスターは、スレンダー美女メイド二人に案内され王居から遠く離れた離宮へと馬車に乗り案内された。
そこは離宮というよりは、こじんまりとした蔦の絡まる古い石造りの館だった。
館の周囲は木立に囲まれ、夏の草花に美しく彩られた庭園があり、リンゴやブドウの木なども植栽され目を愉しませた。 蝉の声や鳥たちの羽音も聴こえ、ゆったりと長閑な時を刻んでいた。
アリスターがオレンヂ王国を出立する時、今まで仕えてきたくれた多くの者たちがロゼット王国へ付き従おうとしてくれた。 しかしアリスターは「療養のための滞在だ。」と断り、最終的には幼い頃から共にいた4人の従者たちだけの帯同しか許さなかった。
自分と共にいることで、此れ以上誰かの将来を閉ざしてしまうことに、アリスターは居た堪れない想いを抱いていたのだ。
しかしアリスターと最後まで人生を共に歩みたいと願った4人の縁を断ち切ることは叶わなかった。
その4人は────。
※侍従として仕えるアーロン36歳。 公爵家の3男で幼い頃は専属教師として付きアリスターが成長して侍従となった。 金髪碧眼。 満開の独身。
※護衛兼従者のバーナード28歳。 男爵家の5男でアリスターが8歳の頃から護衛騎士として付く。 従者としての役目も果たす。 褐色の髪眼 花の独身。
※従僕のクリフト21歳 準男爵家の次男でアリスターが11歳の時小姓として付く。 茶髪茶目。 8分咲きの独身。
※従僕のデリック20歳 伯爵家の3男でアリスターが7歳の頃小姓として付く。 橙髪緑眼。5分咲きの独身。
守るべき家や既婚者がいる者たちをアリスターは、先ず帯同させる者から除いた。
ヴィンセントは、アリスターの帯同者リストを一瞥し、女手皆無に頭を抱えて、、、そして閃いた。
婚姻を切望している黒犬♀(メイ15歳、ラン20歳)を付けて於こう。
彼女たち(メイ15歳、ラン20歳)の場合は、婚姻でなく懐妊希望なのだが、ロゼット王国では同義なのでヴィンセントは深く問わなかった。
こうしてアリスター専属メイドは、彼らの知らぬ間に従者たちの嫁候補として、ヴィンセントにより用意されてしまった。
メイは、エレノーラ付きとして重宝されていたのだが、第一王女宮に好みの異性が全く勤務して居なかった為、ヴィンセントに転属願いを出していた。 何気に黒犬たちに目を掛けているヴィンセントだった。
《3》
格子の填まった狭い窓から入って来た月に照らされた薄藍色の夜の帳でボクは目覚めた。
此の所夜の気配を感じると羞恥で炒られるような行為をしていたあの日の感触を思い出して、ボクはベットから身体を起こし、荒くなった呼吸に息を詰める。
ここはオレンヂ王国ではない。
今夜は、ロゼット王国の離宮で横になった筈だ。
それなのにあの感触がボクを、、、、。
ボクは、今でも信じられない。
あの明るい弟がボクの理性を狂わせるあのような薬を用意させ、飲ませるようブリーズ伯爵の小姓(奴隷とは知らなかった。)に仕向けさせたなどとは考えたくない。
互いに学ぶことが多く会えることは少なかったが、極偶に顔を合わせると「兄上は凄いな。」そうボクを褒め、明るい笑顔を絶やさない弟だった。
(一体弟がナゼ?)
父上や宰相から、弟は「婚約者の父親であるワーレー侯爵と組み王太子の座を狙っていたのだ。」と説明された。
ワーレー侯爵は、奴隷容認派であることをある程度周知されていたので、弟が彼の娘と婚約すると知った時、ボクは酷く心配したものだった。
「ワーレー侯爵と御令嬢のマチルダは、全く別の人間なので、兄上の心配は全くご無用ですよ。」
あの時も弟は明るく笑ってボクにキッパリと答えたのだった。
ボクは弟の答えに「それもそうかな。」と応えて返した。
父親のせいで娘まで批判的な対応をするのは間違っているなと、ボクはあの時、そう判断したのだ。
友人のようなデリックや今でも良きボクの先生であるアーロンから「弟を信じすぎるのは危険だよ。」そう忠告を受けていたが、危険という言葉と弟という言葉が結び付かなくて、真剣に受け止め切れていなかった。
そして弟は、オレンヂ王国の王城で軟禁されながら、今も冤罪を訴えていた。
本当の所は今も分からないし、ボクも分かりたくない。
昔なら国王が疑義を呈しただけで有罪が決まっていたそうだが、6年前から新しいオレンヂ王国を造り上げようとしている今は、証拠も証言もなしに罪に問うことが出来ない。
それにボクの問題が或る。
余りにも王族としての品位に関わる事柄だったので、公に出来ない事が、父上たち上層部の手足を縛っているようだ。
オレンヂ王国では、同性との交わりは忌避され、嫌悪されていた。
オレンヂ王国の王国法での縛りはないが、法を制定する迄もなく、慣習的に同性の交わりは禁忌とされていた。
それを第一王子であるボクが、王居に勤めている者たちや騎士たち衆人環視の中で、嬉々としてブリーズ伯爵の小姓と交わっていたのだ。 後日、薬物のせいだと言って回っても、行為自体を取り消せるものでも無かった。
ボクの行為を公に出来ないから、国王からボクに罪がないと公表が出来ない。
有耶無耶な瑕疵を抱えたまま、王家のダメージを減らす為、ボクはロゼット王国に逃げて来たのだ。
唯一の救いは、こんな愚かしいボクとエレノーラ第一王女殿下との婚約は正式なモノではない侭、御破算になり彼女に何一つ瑕疵が付かなかったことだろう。
まだ若く生命力あふれる彼女が、素晴らしい伴侶となるべき相手と出会われることを祈らずにはいられない。
「元気を取り戻されたらアリスター殿下が来賓している祝賀会をいつでも催させて下さい」とジョエル宰相から、この館に申し出があったが、もう暫くは此の侭静かに療養させて欲しいと願わせて貰った。
今、ボクの僅かな楽しみは、涼やかな目元をしたメイドのメイとの日課に成りつつある、軽い組手をすることだ。
離宮に来た2日目の午後。
庭園を散歩していたボクにメイが話し掛けて来た。
オレンヂ王国なら、メイドが主に声を掛けるなどありえないのだが、生憎この館には厨房の料理の使用人達と庭師がいるくらいで、ボクの周囲はフリーな状態だ。
護衛のバーナードは、もう1人のメイドと気が合ったらしく、初日の夕食の後から仲良くなっていて、メイに話し掛けられて初めて気付いたのだが、ボクは生れて初めて一人で庭を散策していたのだ。
「申し訳アリマセン、アリスター殿下。 突然にお声がけしてしまって。 実はアタシ、館で任されている仕事だけだと動き足りないので、宜しければ護身術の相手をして頂けると嬉しいのですけど。」
丁度一人きりで人の声に飢えていたボクは、彼女の申し出を快く引き受けて、軽く仕合ってみた。
護身術というモノがどのようなことか分からなかったが、始めると組手であることが分かった。
メイの動きは女性にしては素早かった。
肩に掛るくらいの艶のある黒髪を両サイドで三つ編みにしていて愛らしく揺れた。 動きやすい仕様にしていた脹脛丈の裾の広がる黒いメイド服は、捌く脚の動きを美しく見せた。
今まで数え切れない淑女達から誘いを受けたが、これほど心地良い声と誘いはメイが初めてだった。
それもそうだろう。
淑女達は戦わないし、女性はボクら男たちが守る者なのだから。
興に乗って幾度も彼女を組み敷く内に、そのしなやかな肢体と柔らかな感触に身体の奥が騒めくのをボクは気付かない振りをして、一時間以上メイと互いに汗を流し合った。
その夜もボクは、あの羞恥の日の感触を思い出し、夜の気配で目を覚ました。
禁忌の悍ましい交わりのあの肉の感触、、、。
それなのに何故。
ボクは呼吸の仕方を忘れて、息を荒くした。
メイと軽い組手で仕合うようになって、今日で6日目になる。
いつものようにメイと向き合っていると護衛のバーナードがやってきて、自分とも組手で仕合って欲しいと図々しくメイに申し込んだ。
「良いですよ。」
耳に心地よい澄んだ声でメイは答えて、バーナードに向き合い、あの涼やかで綺麗な黒い目を真っ直ぐに向けた。
『駄目だ!』
ボクは胸の内で叫んでいた。
そしてバーナードの鍛えられた肉体に組み敷かれそうになった時、ボクは駆け出してバーナードを蹴り飛ばし、メイを抱えて館内へと駆けこんだ。
ボクは、軽すぎるメイを抱えてサロンのソファーへとゆっくりと座らせた。
自分で自分の行動の意味を理解して、ボクは顔や全身が恥ずかしさにボンと一瞬で燃え上がるように熱くなった。
驚いていた様子のメイは、そんなボクを見て「クスクス」と笑い、細くしなやかな腕を伸ばし、ボクの目の下を優しく人差し指で撫でた。
「凄い隈ですね。昼間に身体を動かしても眠れませんか?アリスター殿下?」
「えっ?メイ、、?」
「初日にお会いした時から、気になっていたのですよね。勝手に触れて申し訳ございません。」
「いや、良い。それを言うならこの5日間、メイとは互いに触れ合っている。 それに済まない、急にメイを抱き上げてしまった。」
「それこそ構いませんよ、アリスター殿下。 良かったら目の下のマッサージをもう少し続けて宜しいですか? やはり気になって仕舞うので。」
「あぁ。」
ボクの返事を待って、メイは彼女の前で中腰になって居たボクにソファーから降りて、ボクの腰を床に降ろさせ、互いの膝を付ける距離まで近付き、細い右腕を上げて伸ばし、今度は左目の下に人差し指を柔らかく沿わせた。
仄かにラベンダーの香りが鼻孔を擽った。
「ああ。そう言えばメイは、ボクが療養している理由を知って居るのだろうか。」
「ええ。アリスター殿下の事件があった夜。実はアタシ、オレンヂ王国の王城近くにある宿泊先に滞在していたのですよ。極秘なんですがアタシは、エレノーラ殿下の身代わりで王城まで専属馬車に乗っていたのですよ。そこで運よくか悪くかアリスター殿下の酩酊した状態を見ていまして申し訳ないです。」
「ああああー。」
ボクは、今度こそ身の置き場の無い羞恥で、思わず声を上げた。
すると彼女はボクの頭を抱き締め、ささやかな膨らみを感じる胸をボクの顔面に押し当てた形となった。
「あの、あの変な話なので引かずに、アリスター殿下には聞いて欲しいのです。 実はあの時のアリスター殿下にアタシは惹かれたのですよ。 引き締まった臀部の筋肉に逞しい大胸筋と上腕二頭筋。 腹部のシックスパック。それに少年に腰を打ち付ける時のハムストリングスとか最高でした。 あれ程完璧な肉体ってアタシは見たことなくって。 アタシからすればあの少年が羨ましくて羨ましくて。 其処代わってって言いたかったですよ。」
ボクは、トクトクトクと早鐘を打つようなメイの心音と、耳に心地よい声で怒涛のようにボクの筋肉を賛美してくるメイに戸惑い、いつの間にか火のように熱かった羞恥が静まって行った。
嫌悪されていた様をそんな風に見てくれる者の存在に驚きながら。
でも。
そう、だが違うのだ。
ボクが夜の気配で息を詰まらせてしまうのは、、、、。
「彼と交わった時の肉の感触が、忘れられずに強烈に求めてしまうのだ。脳の底に焼き付いて痺れてしまって。許されない想いであるはずなのに、、、。」
ボクは、誰にも言えなかった羞恥の中で、熱で炒られるような欲をメイに吐露してしまった。
きっとこれでメイにも蔑まれてしまう、、、。
「アリスター殿下。アタシ思うのですけど、それって強い薬物による後遺症だと思うのですよ。」
「、、、後遺症?」
「ハイ。えーとアタシの里は結構変わった掟と云うか風習がありまして。 兎に角、懐妊させなきゃ駄目だと言う掟?教えが代々あって。 それでですね。 懐妊させるのには妻をエクスタシー状態にさせてないと駄目だったのです。 で、秘儀とかの研究も盛んで、その中には当然薬物なんかも混じっていて。中には廃人にさせちゃうような劇物もあったりしたんです。 それでは健康な子が生まれないってことで色々な薬の薬効や使えない素材の研究もあって。 その中で強烈な媚薬などで交わっちゃうと、その感覚が忘れられなくなるって言う症例もあったのです。 恐らくアリスター殿下は今、その状況だと思うのです。」
「そ、それじゃぁボクのこの数週間の欲求は?」
「薬の影響ですね。 どれだけ強い物を使ったのでしょうね。 それとアリスター殿下は、その時童貞じゃなかったですか?」
「////・・・ああ、そ、そうだ。」
「だから余計に何ですね。 男性の初めての時の衝撃は大きいそうですから。アタシには分からないけど。」
「、、、そ、そうなのか。 しかしメイは若いのに色々知っているね。」
「ちっ!(クソぉ、嫌な奴のこと思い出した。リクとかリクとかリク、、、めっ)。」
「チっ?」
「それでその衝撃を上書きしようと思っているのです。アタシ。良いですか?アリスター殿下。」
「で、出来るのだろうか、メイ。」
「ウーン、こればっかりは試してみないと。では、アリスター殿下、寝室に案内お願いできますか?」
「う、うん。」
※
こうしてボクは涼やかな目元をした黒髪黒目のスレンダーな美少女メイドのメイと、ロゼット王国の王城の離宮で、極めて肉体的にも精神的にも悦ばしい日々を送る様になった。
1つ変わった事と言えば、メイとの軽い組手をする場所は、庭園から新しい寝室へと変わったコトだ。
ヴィンセントが用意したアリスター専属メイドの特技。
メイ.ver=騎士見習い程では無いが、それなりの護身術。
元夫野獣化リクには負けるが2番目の元夫レンには勝つる。
マッサージと高レベルな寝技




