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憂鬱な駄女神  作者: くろ
22/44

ブルーアワー〔オレンジ王国編〕


《1》



 東南の国・オレンヂ王国。

 

国土は、ロゼット王国の約三分の一程度。

北の国境は、ロゼット王国と中立国トマト王国。 南の国境は、薬師の国ドルゴン王国。 西の国境は、メロウ王国。 そして東側は全て海。


民が生きやすい自然環境の為か、のんびりとして楽観的な国民性と言われている。

 


 太陽は、夏の日光を燦々と輝かせ、南国と呼ばれるオレンヂ王国は、冬でも暖かい。

 大陸の東南にあり、国土の東側一体は海に面していて、貿易にて栄えている。


 宗教は、一神教ではなく海からの恩恵を受ける民たちが、海神マリノスを親しみ尊んでいる。


 海を司る海神マリノスは、海からの恵みによる豊漁、そして風雨から国土と船舶を守護する守護神でもある。 また海を穢す者を許さず、その怒りは手にした黄金の錫杖で、雷と嵐を呼ぶと言われている。  海神マリノスは、海からの恵みを人々に与え、人々は子を成して増やし、海神に祈りを捧げて力を与える。 そのような考え方が浸透しているオレンヂ王国。

 


 そして海神マリノスを現す瑠璃色を聖なる色として貴んでいる。







 ロゼット王国から5日間かけ、オレンヂ王国との国境にあるクレープ高原の合同演習場へと、エレノーラ第一王女殿下たちとガウェル・ベンウィック騎士団長率いる新兵2個小隊は無事到着した。




 問題は、例年通りの合同演習場の経路に破落戸集団が50人程度現れたことだ。 ただ現れてしまっただけだが。 エレノーラを含む新兵たちは新たな経路と場所へと移動していた為、襲撃者たちは空振ってしまった。

 待てど暮らせどロゼット王国騎士団の新兵たちは現れない。

 そしてオレンジ王国騎士団の新兵たちも例年通りの場所に現れない。


 一応ロゼット王国側は監視の為、例年通りの経路と場所に遠見スキル持ちの騎士たちを配置していた。

 襲撃者たちが待ち惚けしていた事を報告で知り、オレンヂ王国騎士団上層部に裏切りはないと両国で確認できた。 ご愁傷様なのは、実行犯の襲撃者たちだった。



 もう一方。

 エレノーラの替え玉3人3台の馬車の旅は、『2台目のB馬車がロゼット王国の王都からオレンヂ王国の王都までの主幹道を走る。』が、当たりを引いた。



 まさかロゼッタ王国の王族が、オレンヂ王国の王都から王城へ向かうってのを極秘裏に行うわけにいかない。って言うかそもそもが出来ない相談だった。

 秘密にしてもバレてしまう案件。

 そんな訳で端からB馬車は、かかり安いデコイと開き直り、両国の間でよく使われる主幹道を進ませていた。


 それならA馬車とC馬車は不要では?

 そう思った女王陛下に、ヴィンセント王弟殿下とジョエル宰相が人の悪い笑みで、得れた情報で漏洩先が分かるようになっていますと宣った。

 その答えと笑みを見て女王陛下は「弟のヴィには逆らわない方が良い。」と、思ったとか思わなかったとか。


 B馬車に乗った替え玉は、シュウの姉メイだった。

 メイはこの日の為にエレノーラ殿下の新人専属メイドとして働いていた。 マナーとかは一先ず置いて於いてエレノーラ殿下の歩き方や仕草などを約2ケ月観察し、ヴィンセント王弟殿下の厳しい指導を受け、鬼コーチから取り合ず合格点をもぎ取った。 次点はマイ、次がミナだった。3人共エレノーラ付きメイドとして捻じ込まれていた。


 ぶっちゃけ騎士団員不足気味の中、3台分の馬車に分乗出来たのは、娼館で暇して居る黒犬♂を好きに使えたと言うのが大きい。

 そして戦える女性など殆ど居ないロゼット王国で、メイたちは護身術が使えたのだ。 まさか「黒犬♂との里での戦いが役に立つ日が来ようとは。」そう話したのはメイだった。


 メイたちは身長的に少し足りないが、濃い紫色の特徴的な髪型と瞳を赤に変えれば、あら不思議、3人のエラノーラ第一王女殿下になりました。

 身長はエラノーラ殿下は約170cm。

 メイたちは約150cm少し~163cmとヒールで埋めるには苦しい足りなさ。 でも王女殿下足る者移動中に歩き回るなんて有り得ない。 座高はそこまで違わないから問題なしとヴィンセント王弟殿下は仰った。


 そんな訳でレッツ・オレンヂ王国。

 山々の連なる国境を少し過ぎたあたりで、オレンヂ王国騎士団風な野郎共が現れた。

 一丁前に「止まれっ!」なんて大声で怒鳴って来たので問答無用と戦闘になった。 正式なオレンヂ王国の団服と色味やデザインの細部が違って居たので、ロゼット王国の騎士たちは直ぐに偽騎士だと分かったそうだ。

 国の名を冠する騎士団は、他国などに真似されないように団服には細心の注意を払い、色やデザインを決め刺繍を施す。 一見似たように見えても実物を見た事がある騎士には誤魔化されない。 特にオレンヂ王国の瑠璃色の団服は、特殊な染料で染めてあるため真似るのが難しいと評判だった。


 騎士を装った襲撃者だけあって破落戸たちよりは戦えたが、大陸でバケモノ級と呼ばれているロゼット王国騎士団の敵ではなかった。

 一時間もしない内に襲撃者を片付け、生き残った者は捕縛しオレンヂ王国の王都までの道行きを騎士たちは意気揚々と進むのだった。


 それなりの人数を用意し衣装や武器まで用意した結構大金を使っている襲撃者の親玉はどこに隠れて居るのだろうか。



 この一報が、通信兵に寄り各所へと伝達された。


 それは本物のエラノーラが、ルンタッタ♪と歌う明るい新兵として、山の小道をクレープ高原へと向かって進み出した三日目のことだった。








《2》



 合同演習は一泊二日で行われる。

 予定だ。


 クレープ高原に到着したその日は、両騎士団長の挨拶が行われ、その後、新兵同士での交流会、翌日は朝から先行後行に別れての演習。 昼食後、午後から陣地を入れ替えての演習が終わり、夕刻から騎士団同士での慰労祝賀会────そしてロゼット王国の騎士団を歓迎するオレンヂ王国アルスター第一王子殿下が登場。 次にオレンヂ王国の騎士団に慰労と謝恩の為、ロゼット王国エラノーラ第一王女殿下が登場し、互いの騎士団を称え合い、両騎士団を前にして二人の婚約発表する。そしてやっとクレープ高原でのセレモニーが終わるのだ。



 クレープ高原到着後、オレンヂ王国のクレープ高原別荘地にある王家の館での交流会が終わり、アルコールが入っている者もそうでない者も三々五々に散って行った。


 本来なら広い別荘地に新兵たちは、キャンプを張って野営で夜を過ごすのだが、オレンヂ王国として大国ロゼット王国のエレノーラ第一王女を新兵の野郎どもと一緒に、ブナなどの深い木々に囲まれた場所に転がしておけるわけもなく、急遽、館での一泊を合同演習5周年記念を名目に許すことにしたのだった。


 既に大地で転がされる野営を満喫していたエレノーラをオレンヂ王国の国王陛下が知る由もなく。




 用意された部屋に入っていたエレノーラは、色替え効果も消えた為、目的地に着いた後はずっと隠れていて暇を持て余していた。


(明日、来る筈の無いアルスター王子に会うためパーティーへ行くまで、引き籠っているしかないのね。はぁーぁ。演習に参加してみたかったわ。新兵として動けて楽しかったぁ。)


 夏の夜午後20時過ぎ。

 壮大なクレープ高原に星々は薄明かりの中で瞬いているけど、夜の帳は未だ落ちきっていないブルーアワー。

 窓の外を眺めると少し離れた場所でテントが張られて居るのが視えた。


(可笑しいわね。 陛下が館に部屋を用意して下さっているのにテントを張っている? アレ?あの木々の間に居るのはセシルと、、、、うーん、、、ヨウだったかしら?誰だろう? もう1人黒髪黒目の子が2人に向かって走って来て居る。)


 暇を持て余し過ぎたエレノーラは、夜着の上から新兵用の白いコートを羽織り、風スキルを使って窓から外へと飛び降りて、彼らの方へ向かって走り出した。

 ずっとゴロゴロとグダっていた所為で、体力満タンのエレノーラは、自生しているラベンダーの花々の間を駆ける駆ける駆ける。



「ねぇ、紫の長い髪を振り乱して必死で駆けて来る、、、のは女だよね。新兵のコートを羽織って居るけど。セシルちょっと僕は怖いのだけど。」

「ああ、あれは。恐らくエレノーラ第一王女殿下だろ。濃い紫の髪と赤い目にあの身長。新兵たちが集っているこの地にいる女性は殿下しか居ないだろうな。特に今は。」

「セシル、逃げようか?」

「流石に王女殿下が向かって来ているのに此処で踵を返す訳にもいかないだろ?ヨウ。それに。」

「もうっ。またセシルとヨウは二人でいるっ。僕なんて一人寝なのに。」

「オレたちだってそうだよ、コウ。流石に野営中は別々だよ。」



「ちょっと、、、ハァハァ。こんばんわ?」

「、、、すいません、王族の方への挨拶の仕方を知らないので。 セシルと申しますが、何か御用ですか?」

「あっ、ううん。セシルの姿が視えたから。今までと同じように新兵のエレンとして話して。それで何故テントを張って居るのかしら?部屋は、、、あるハズよね?」

「セシル、この人って、、、。」

「エレンよ。よろしくね。アナタは?」

(うわっ、その設定まだ続けるんだ。このヒト。)

「僕はコウです。挨拶は初めまして?」

「ああ、先行の小隊に居た方ね?ふふっ。初めまして。」

「えと。あっ僕はヨウです。外に居るのは館の中って気ぃ使うと言うか。凄い部屋なので。それに騎士団長が通信の為に本部用のテントを張っていたので。」

「うんうん。こっちの隊でもそんな感じ。先輩たちは少し飲むから外の方が良いって。」


(はぁ。私の為に皆さんに気を使わせちゃった。日頃王城で慣れてたから気にも留めなかった。うぅ。申し訳ない。)



 セシルは、唐突に現れた自称エレンをジッと見詰めた。

 あの距離から此方に向けて、一直線に走って来たと言うことは、あの2階の窓から自分たちを視認出来たのだとセシルは気付いた。 

(彼女は目が良いな。)とセシルは自身のコトを棚に上げてエレノーラに感心した。



 セシルとの時間を邪魔されて内心、不貞腐れていたヨウは顔を少し上げ、左右に乱れた長い紫の髪を左手で押えた為、赤い瞳が露わになったエレノーラを見上げた。


(でも王女サマをナゼか憎めないのは、どこか主のジーンに雰囲気が似ているから? 何はともより明日に王女サマと王子サマが婚約したら、やっとセシルとロゼット王国へ帰れる。)


 ヨウはその嬉しさでエレノーラに婚約祝いの言葉を述べた。




「あのう、おうじょ、、エレンは、オレンヂ王国で婚約されるのですよね?おめでとうございます!」

「、、、おめでとうございます。」

「アハハハ。ありがとう。」


 エレノーラは熱の無い乾いた笑いで、アリスター王子との婚約を祝うヨウとコウの言葉に返礼した。

 そしてエレノーラは、何の気なしに言葉を紡ぐ。


「まあ、、アリスター王子殿下はいらっしゃならいけれども、、、。」

「はっ!?」

「えっ!?」

「ファッ!?」


 エレノーラは、3人の驚愕した顔と声を聴き、大変な失言をしたことを悟った。



「い、いえ、未だ確定したことじゃなくて。でも何となくね。それに私は彼と結ばれる運命にないから。  例えいらっしゃらなくても平気なのよ?」



 焦っていたとはいえ何故そのような言葉まで口走ってしまったのかと、言い終わった後でエレノーラは乱れた髪の頭を抱え込んだ。

 同じ人間とは思えない美しい容姿のセシルから、澄み切ったアクアブルーの瞳で、真実を射るような視線をエレノーラへと真っ直ぐに向けられてしまったからなのか。

 その両脇に居た整った黒髪黒目の無垢そうな少年騎士見習いの二人。その2人から向けられた不思議そうな疑問の視線にエレノーラが罪悪感を覚えてしまったからなのか。


 アリスター王子との婚約の話が浮上してから数か月。

 彼の相手は自分でないと割り切っていたつもりで、日々を過ごして来たエレノーラだったが、友好関係の継続と同盟の締結をひとりで為そうとしている気張りが、ここに来てフッと緩んだしまったのだ。


(五日ぶりのゆったりとしたバスタイム。そして王女らしい夜着を着たせいでの気のゆるみ。あーー、しくったーーぁ。私のバカバカ!)



「もしかしてエレノーラ第一王女殿下。 それは夢見のスキルでご覧になったモノでしょうか?」


 急に改まった声でセシルは、エレノーラを凝視しながら尋ねた。


「夢見のスキル!?」

「ケレス王家のみのっ!?」

「違いますっ!それは本当に違うからっ!!私が持つのは、風スキルなのっ。」

(夢見のスキルと勘違いされない為に私がどれだけ気を使っているか。ホント、その間違いだけは勘弁して欲しい。女王になるのはフェリシアなのだからっ。)


「では何故?とお尋ねしても? オレたちが知っては成らない事なら、この疑問を飲み込みます。 ただオレたちは明日王女殿下の婚約が成ってオレンヂ王国の王城へ向かわれるのを見送り、やっとロゼット王国へ帰れることになっています。 本当に私的なことで申し訳ないのですが、3カ月ぶりにオレは妹と再会が出来るのです。 それなのに婚約が成らないことを王女殿下は口にされた。 騎士団長はこの件をご存じなのでしょうか?」

(もし知って居たら、幾ら尊敬するガウェル・ベンウィック騎士団長でも許さねぇ。 新兵たちが帰国した後の休暇届けの用紙を明日の夜渡すと雑談中だが話してくれたのに。)



「いえ、騎士団長には。 まだ確定したことじゃないし。 確証もないことだから。 それに何となく現状では半々なのよ。 そうなるのかどうか、、、。」

「あのぉ、王女様。 不確かなことでも僕たちに話してみませんか? 僕たち基本的には他人と深く関わらないし口は堅い自信があります。 それに誰かと話すと気分も落ち着くし。」

「そうそう。 僕も早くセシルと帰りたいし。 このままだと中途半端な気持ちで明日一日過ごさなきゃいけなく為るし。」

「はぁ、エラノーラ第一王女殿下。沈黙を求められるなら、オレはそれに従います(但し団規違反に成らない限り)。」



 エレノーラは、ここまで口にしてしまった状況で、彼らへ何もなかった事としてしまうには、気が引けてしまった。

 それにセシルたちは「沈黙する。」と約束してくれた。

 セシルは、エレノーラと1ミリすら沈黙を約束したつもりはなかった。 それはヨウとコウも同じだった。



 それぞれの想いとは別にエレノーラはセシルたちに口を開いた。







《3》




 あくま夢見のスキルの予知でないことを念押ししながら、確証はないが、これまでの襲撃事件を鑑みての推測だと、エレノーラは手早く主犯のワーレー侯爵の名と説明をした。



 今回の二つの襲撃事件は、中立国のトマト王国と奴隷制容認派のワーレー侯爵が行ったことをエレノーラはセシルたちに話した。

 そして明日の夕方アリスター第一王子が来れないのは、王位継承と狙うブルーノ第二王子と失敗続きで焦っていたワーレー侯爵が組み、計画していることを続けてエレノーラは話した。



 ゲームシナリオでは、アリスター王子のスキャンダルは女遊びだったけども、ヴィンセント叔父上が掴んだ情報だと「同性が好き」というモノだった。

(ぐぐっ。私が色々変えた所為でアリスターのスキャンダルの内容まで変わってしまったのか。 アリスター殿下、、、ごめんなさい?なのよね。)


 どうもオレンヂ王国では、王太子になれないレベルでBL厳禁なのだとか。(国民性の違いかしら?)エレノーラはそんなことを思いながら、スキャンダルについては自らお口にチャックをした。

(流石に他国の王族の下ネタは口に出来ないわ。)


 そしてブルーノ第二王子とワーレー侯爵の計画が進行していた場合、アリスター第一王子は明日薬を盛られて姿を現せない可能性があると、未だ暮れぬブルーアワーの夜空を見上げて、独り事のように呟いた。


 


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