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憂鬱な駄女神  作者: くろ
19/26

近衛騎士


《1》



 エレノーラは絶好調であった。


 新兵の白の団服だから下半身はズボンで動きやすい。

 そして髪色と瞳の色をスキルで変えて貰い、髪型はポニーテールで動きやすい。

 日頃の地毛は、濃い紫色の長い髪をサイドと前髪に分け、芸術的な編み込みで纏めている。 肩や背中にかかる毛先をクルリとカールさせている。 勿論専属侍女が。


 それが今は、ロゼット王国で一番多いだろうと言われている、マロンブラウンの艶のあるロン毛を後頭部の上で1つに括ったポニテである。


(ヘアーメイクの時短って最高♪)


 父親譲りの目付きがキツイのは仕方が無い。

 しかし瞳が赤から茶色に変わっただけで、少し気の強そうな16歳の少年に変身。

 サイドと前髪を編み込まなかったら、目がキリキリ吊り上がらないことをエレノーラは新発見した。


(普通って最高!)




 前回は、体形を変えれるジョエル宰相の変装スキルで子供に化けていた。

 スキルを使用する側、される側の両者にマナ(魔力)消費の負荷がかかる為、1日が限度だった。


 今回は、ヴィンセント叔父上が紹介してきた髪と瞳と肌の色を変えれる変装スキルで、エレノーラたちの見た目を変えた。

 色変えの変装スキルは、両者の負担が軽い為、5日間程度使用出来、丁度今回の行軍日程と合致したのだ。



 そんなウキウキなエレノーラとは対照的にしょ気かえっているのは、宰相補佐のマイルズと近衛騎士になったばかりのランスローだった。

 マイルズは、茶髪茶目⇒黒髪金目にチェンジ。

 ランスローは、白髪灰目⇒金髪碧目にチェンジ。


 どちらも日頃から万人受けする平均的な美形なので、色チェンジしてもただのイケメンになっただけだった。

 髪は、元からツヤサラ短髪なので、実年齢19歳が、見た目年齢20歳前後と殆ど変わらず。


 しかし2人がしょ気て居るのは容姿の問題でなく、マイルズは頭脳労働者なのに、目的地まで5日間も徒歩であることを憂いていた。

 ランスローは既に騎士で近衛にまでなれたのに、新兵の白の団服を今更ながら着用させられることに著しく落胆していた。 特にエレノーラの一言で世を儚みたくなった。


「別段、騎士団服が白でも純白でも同じじゃないかしら。値段の違い?」


 ランスローは、エレノーラに騎士団服が、白から純白になるまでの覚悟と矜持を小一時間コンコンと話して聞かせたくなって仕方なかった。


 王都から暫くは、王族専用馬車3台を騎士団長に分けられた騎士部隊が、一台、一台の周囲を守り、やがてそれぞれの分岐点で3台が通行する道へと別れ、オレンヂ王国の国境を目指して進んでいく。

 こちらは進むスピードが速いので、何事もなければ二日から三日で目的地に着く予定。


 ジョエル宰相やヴィンセント王弟殿下は、この3台のフェイクされた王族専用馬車の経路などの情報漏洩の有無をオレンヂ王国の誰がどのように、何処でなされるのかを見極めるのが主な目的だったりする。

 A馬車は、山際を東南に進む道路。

 B馬車は、ロゼット王国の王都からオレンヂ王国の王都までの主幹道を進む。

 C馬車は、8年前に使用していた旧幹道を進み、オレンヂ王国の王都近郊で、現在の主幹道へと合流して進む。


 全て漏洩して居たら、オレンヂ王国は大丈夫か?と何処かの傀儡政権になっているのを心配するレベル。(帝国とか帝国とか)

 この数年の帝国の傾向として、力技で来るのではなく第三国を通じて裏から侵攻してきたり、属領地が帝国の代わりに侵攻して着たりと、面倒な小技を多用するようになっている。


 今回で言えばオレンヂ王国の北に隣接する中立国トマト王国の動きが怪しいと警戒感を持っている。

 ロゼット王国の東に位置するトマト王国は、険しい山々と高い山脈が国境となっているため、今の所、直接的な接触は両国(ロゼット王国とトマト王国)にない。



 そして絶好調でご機嫌なエレノーラは2個小隊の新兵らと共に最短距離を取りながら徒歩でルンタッタと進んでいる。夜は、野営地でエレノーラはキャンプファイヤーを愉しんでいた。


 他の新兵たちは、第一王女殿下との近い距離に、緊張で精神疲労が半端ない状態だった。


 王族として自覚が薄いエレノーラは、新兵たちが身分の違いに恐縮していることを気付かず、(騎士を目指す人たちって皆寡黙なのね。ランスローと大違い。)そう思い、ブツブツ喋っているランスローを呆れて眺めていた。


 行軍しているエレノーラが抱く1つの不満は、皆の装備しているリュックを背負わせて貰えないことだったりする。

 近衛騎士のランスローとエリックは、エレノーラの手に渡る前に装備品のリュックを分捕って行ったのだ。


「何も装備しない新兵なんて変よ。リュックを返して下さい、ランスロー、エリックさん。」

「別におかしくありません、エレノーラ殿下。新兵とは、そういうものです。なっ?ランスローっ!」

「えっ!?そうでしたっけ?エリック先輩。」

(こらっ!ランスロー。そうだと言うことにして置け。休憩後の度にエレノーラ殿下との装備品争奪戦は疲れるだろ?)


 ランスローの能天気な問いに、エリックは慌ててランスルーに近付き耳元で、そう囁いた。



「それに私のことは、ネルって呼び捨てにして下さいね。先ずはエリックさんから直してくださいね。この中で一番偉い騎士様が呼ばないと皆、遠慮してしまうでしょ?ランスローも分かった?」

「「はい。」」



 クレープ高原への最短距離を進む為、舗装された道路から外れ、一般の地図に描かれていない小道を徒歩で規則正しい速度でエレノーラたちは進んでいた。

 夏の始まりの小道には、勢いよく下草などが生い茂り、エレノーラたちの為に下草を踏みしめながら、先行する先輩新兵たちの小隊は、濃い草いきれに包まれつつ、行軍していた。


 但し、新兵小隊の一番先頭には、ガウェル・ベンウィック騎士団長と通信兵たちが、馬に乗り周囲を警戒しつつ進んでいた。




 そして後行の小隊にいる体力自慢で、ゴキゲンなエレノーラの周囲をかなり草臥れたマイルズと行軍慣れしている近衛騎士のランスローとエリックが居る為、見えない壁のようなモノが出来ていた。


 別にハイテンションなエレノーラを新兵たちが引いて見ている為ではない。


(ウンウン。適度な距離を取って隊列を乱さないのね。新兵とは言え流石だわっ! それに儚げな絶世の美女もいるし眼福眼福。でも彼って攻略対象者じゃないのよね。ウーン。)


 そんなアホなことに頭を悩まているエレノーラは、セシルとヨウと共に後続部隊の中ほど位置から先発部隊の後ろを進んで行った。




 マロンブラウンの馬の尻尾のような髪を左右にブンブン揺らすエレノーラの後姿を見つつ、ヨウは小声でセシルに話しかけた。


「なぁセシル。出発前の副団長の説明だと、どう聞いてもエレノーラ殿下って囮だよね。良いの?第一王女様だよね?」

「うん? 囮は、3台の馬車に乗っている王女殿下に扮した黒犬の3人の女たちだろ? 髪色と目の色は、王女殿下と同じだが、背丈や顔形が違う。アレで騙される奴がいるのか疑問だが。」

「背、高いものなぁ、エレノーラ殿下。僕の方が少し低い位だし。」

「ヨウが化けた方が合ってたかもな。」

「そう? あっ、でもセシルから離れるからパス。」


 モミの木やブナの木などに他の広葉樹が混じる雑木林を一定の速度で進みつつ、小声で雑談を交わしていた二人に近くに居た同期の新兵のハリーが、息を吐いて声をかけた。


「お前らは緊張感ってモノはないのか?近くにエレノーラ様がいらっしゃるのだぞ?」

「うん?」

「うーん、ないな。ヨウ。」

「自分なんて、この三日間エレノーラ様の姿をお見かけする度に、ドキドキと動悸がするのに。」

「持病か?」

「恋?」

「ち・が・うっ!大体セシル、持病なんてあったら入団出来ないだろうが。序でにヨウ。畏れ多いからその様な言葉を口にするな。お前たちと話すと疲れるのなぁ。はぁ。」


 同期のハリーは頭を振って、二人から3歩離れ、隊列に戻った。

 彼らの会話が聞こえていた他の新兵たちは、ハリーに哀れみの視線を送り「ドンマイ」と胸の内で声援を送った。



 ガウェル・ベンウィック騎士団長が、今回の任務にセシルとヨウとコウを選抜したのは、3人の動きの素早さとセシルは剣技に、ヨウとコウは組手が今期の新兵の中で並外れて優れていたからだ。

 そしてセシルが持つ回復スキルの高さだ。

 マナ(魔力)の多さは、測定器が作られて以来の多さだった。

 騎士団に居る回復部隊の騎士の平均的な外傷の回復は、中の外傷程度なら2~3回スキルを使えば癒せる。


 しかしセシルなら、重度の外傷でも1度スキルを使えば完治出来るだろうと、測定器を扱う技師は言う。 (測定器は作成スキルを使い作られた。作成スキルで作られた物は製作者のマナが必要で、国で雇われた者は専門技師と呼ばれている。)


 足や腕を切断されても直後なら回復可能だと話すのだ。

「試してみましょう」と、磨かれたナイフをスルリと取り出した技師をガウェル・ベンウィック騎士団長は慌てて止めた。


 此れで、万が一が遭ってもエレノーラ殿下を助けることが出来ると、技師の報告を受け騎士団長室でガウェル・ベンウィック騎士団長は、ソっと肩の力を抜いたのを思い出した。



「セシルは、実力もさることながら近衛騎士向きの容姿であるのだがな。」


 誰にも聞かせる気のないガウェル・ベンウィック騎士団長の呟きは、盛夏に向け濃い緑に変わりつつある雑木林へと渡る風に紛れこませた。





(近衛騎士か。)


 女王陛下、王配殿下、王弟殿下たち3人の王族に頼まれ、ガウェル・ベンウィックが騎士団長になって11年経つ。

 3人の王族たちは頭こそ下げなかったが、幾度も騎士団長へ成って貰いたいと乞われ、ガウェル・ベンウィックが折れる形で、引き受ける事となった。


『わたしが全力でガウェルを守るから。』


 10歳も年下のヴィンセント王弟殿下から、騎士のような台詞でガウェル・ベンウィック騎士団長は、口説かれた。 そのことをニコラスへ話すと「残念だったな、お前が既婚者で。」そう揶揄って来た。


 ガウェル・ベンウィックが騎士団長に任じられた頃は、未だ騎士団内に荒れた混乱の余波が残っていた。 関連あるのか不明だったが、同時期に副騎士団長に任じられたニコラス・キャメロンの婚約者が彼に手紙を送った後、失踪した。今だにニコラスは独身である。


 ニコラスの婚約者アンジェリカ・ホーク嬢は、王城で王族たちを警護する第一部隊のホーク部隊長の娘だった。

 英雄白銀の騎士の家系であったホーク家は、騎士を輩出する度に第一部隊の部隊長を任じられてきた。

 高潔さ、忠誠心、強さ、正しき騎士であろうとする歴代のホーク家の騎士たちは、名だけではないと素晴らしさを証明し続けて来た。

 アンジェリカ嬢の父であるホーク卿も当然白銀の名を冠するに相応しい騎士だった。


 しかしアンジェリカの失踪した1年後にアンジェリカ・ホーク嬢死亡通知がニコラス・キャメロンにホーク卿から届き、その半年後にホーク卿は騎士団を退団した。

 ホーク卿としては、アンジェリカ嬢をホーク家の家名から消した時に騎士団を退団したかったのだが、王族たちはホーク卿を自分たちから離すことに難色を示したのだ。 ホーク卿の覚悟が固かった為、どうしようもなかったが。



 ホーク卿が退団してから、第一部隊の部隊長就任は難航した。


 彼の信頼感に敵う者はなく、ガウェル・ベンウィック騎士団長は頭を悩ませた挙句、王城の警護を今まで通りに第一部隊に。

 そして王族の警護を1人ひとりの王族につける近衛とし、騎士たちによるトーナメント方式で選抜することにしたのだ。

 それまで王城内のマナーやルールを熟知した第一部隊から、交代制で騎士たちは護衛を務めていた。しかし近衛騎士は、全騎士からトーナメント戦で選抜されるため、平民も近衛に成れるのだ。当然守るべき王族との相性は考慮されるが、平民だと言う理由で撥ねられる事も無い。


 こうして微調整を繰返して7年近く掛けて、近衛騎士制度を王族と騎士団で協力して、ガウェルとニコラスとで作り上げてきた。



 別段に容姿が整っているから近衛騎士に成れるワケではない。

 トーナメントではスキルが使用できないので、剣技のみでの試合になる。その為、剣の実力を問われて選抜されるのだ。


 ただ国外の王侯貴族が集まる典礼や祝賀会などでは、王族ひとりにつき4人~6人居る近衛騎士の中で、容姿の整った者がその日に選ばれるのだ。(当然女王陛下の近衛騎士が6人だ。)



 ホーク卿が退団した際は頭を抱えてしまったガウェルだった。


(しかし雨降って地固まるか。 騎士団内部に燻って、何かと不和の種を撒いていた実力不足の貴族騎士たちが、騎士同士の試合(トーナメント戦)で負けて行き、年齢による退団と理由で後腐れなく自ら去って行ったのだ。 いなくなったアンジェリカ嬢のことを考えると、ホーク卿やニコラスには申し訳なく思うが。 ニコラスは未だアンジェリカ嬢を待つつもりなのだよな。)



 馬に揺られて油断なく周囲に目を配りながら、騎士団本部を任せているニコラス・キャメロン副騎士団長に思いを馳せるガウェル・ベンウィック騎士団長だった。




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