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憂鬱な駄女神  作者: くろ
16/20

彼氏名簿


《1》


(平和だなあ。)


 エレノーラ第一王女殿下の誕生祭が終わり、ガタガタゴロゴロガッガッパカパカと騒音に溢れていたホーステッド通りが、パッカパカガタガタまでに音が減り、ライラックの紫は散り、高くなった空からは眩しい光が降り注いでいる。

 木々の間を青や黄色の小鳥が渡って、サワサワと枝や葉を揺らして居る。


 二階にある私の部屋は、南と東に窓があり、昼間ならランプなどの照明が不要なくらいに明るい。


 シュウはチョコチョコ消えて、今は独りでお昼寝でもしようかなと、心地良い風に髪を揺らして思案中。うん、穏やかな午後って良いなぁ。 兄さまは未だ帰宅していないけども。まあ駄犬2匹も一緒だし大丈夫、、、な筈。 何かあれば兄さま好きの駄女神ルミナスさまが知らせてくれるか、助けてくれる筈。兄さま限定だろうけど。


 そう平和なのだ。

 あれから女神スキルは発動していないし、女神ルミナスさまの一方的な語りかけもない。

 うん、こんな日々が続くと良いなあ。

 これってフラグじゃないからね。






 そしてケイトさんは、先日、公民館で一ヶ月の婚姻公示が済み、無事に結婚しました。あのゼツさんと。 新婚生活は、ケイトさんの部屋で送るとのこと。

 (うわぁっ。)

と、悲鳴を上げたのは秘密です。


って言うか、ローランド先生にゼツさんとシュウが結婚の報告をする予定だったのに先生が居なくて、後日、ケイトさん親子でゼツさんとの結婚報告があって、先生は驚いたみたいだとリクがケラケラと笑っていた。


 まっ、そのままゼツさんはケイトさんの部屋に居ついちゃって、お陰で私は刺繍の新たな型を未だにケイトさんから習って居ません。ぐすん。


 しかし駄犬リクが、ちょっと先生にくっ付き過ぎだと思うのは、私の目が腐っているせいかしら。




 いつの間にか昼食後の2時間は、先生のマッサージ・タイムになったのよね。リクからの。

 いつからだったかしら。

 うーん。。。イトコのケイトさんの結婚が決まった頃かも。


 リクはマッサージを「見ていて良いっス」って言うから、サロンにある壁際に寄せてある広目の長椅子で、先生がうつ伏せになり、リクに背中を施術される様子をボーっと眺めていた。

 私の後ろには無意味に立っているシュウがいた。

 先生の首筋から肩へとリクの白い両の掌と指が滑らかに動いていた。


 マッサージの為大きく開襟した爽やかなレモンイエローの薄いリネンシャツの上をリクは、撫でるように押し、時折、先生の思ったより太い首の後ろに白い指先で触れ、独特な強弱をつけて、背中へと掌を滑るように落とした。


 その時、私はリクの白い指先から淡い靄が出ているように見えた気がした。



 細く淡い靄の影が先生の首筋に絡みつき、開襟したシャツの中へ入って行くような。


「アレ?リクから淡い靄みたいなのが出てない?」

「うん?何処にお嬢?」

「うーん。先生の首筋に、、、アレ?」

「どうした?」

「いや、見えなくなった。」

「フッ。気のせいだろ。全くお嬢は。、、、ウッカリだな。」

「な、何ヨ、シュウ。見間違えること位あるでしょう?ウッカリだなんて。」

「ハイハイ。お嬢があんまり喋ってると施術の邪魔だよ。どうせなら図書館に行かねぇ?」

「うーん、そうね。行こうかしら。」



 そんなことがあってからマッサージの施術中は、サロンに立ち入り禁止になったって言うか、シュウが「お嬢は邪魔になるから。」って、どっかこっかに連れ出されている始末。


 マッサージ・タイムが終わってサロンで先生と会って、シュウがサロンへ入れてくれないと文句を言うと、先生は曖昧な表情でシュウを見てから、軽い咳ばらいをした。


「いや、マッサージ中は私が直ぐ寝入ってしまうから。 余りジーンにだらしない寝顔を見られたくないって気持ちをシュウが察してくれたんだろう。うーん、そうだ。お詫びに薔薇園に連れて行ってあげるよ。私の祖父が育てた薔薇もあるんだ。 近くにジーンを連れて行きたいお店も或るんだよ。」


 そうローランド先生から言われたので、私は誤魔化されてあげることにした。

 だって先生が咳払いする時って、今まで気まずくって話題を変えたい時だったから。

 居候の身の私としては、当然の気遣いです。


 1つリクのマッサージを先生が受けるように成って良かったかな?って思うのは、偶に先生の強い視線を感じて顔を見た時、ギンって空色の目を瞠っていることが無くなったこと。

 その時だけは暖かなお父さん感が、先生から抜けていて、実はちょっぴり怖かったのよね。


 でもって今日も活き活きローランド先生です。



 それにしても兄さまと言い、ローランド先生と言い、駄犬たちに篭絡され過ぎでは?

 私が好きな人って犬好きなのかしら。

 全くもう。

 私なんてシコシコ瞬間移動のスキルを使ってレベルアップを目指して練習中なのに。


 幾度か連続で使用してみたけど別に疲れはないみたい。

 あのガッツリ体力削ぎ落されて眠ってしまう現象は、女神スキル使用時のみね。

 主に行くのは、山々に囲まれた黒の一族の里だった場所。

 山を下りて少し離れた所に騎士団の駐留所があるので、出くわさないように気を付けている。何か在って兄さまに迷惑掛けたくないので。

 シュウを里に連れていくのは、今一つ気が引けるけど「絶対行く。」と頑ななので私が折れた。


 目視でピョンピョン瞬間移動で飛んでいると「おいらのスキルで移動すれば良くねぇ?お嬢ならおいらの影に入れる筈だし。」って言われるけど、取り敢えずは遠慮している。

 私は(何で嫌なんだろ)って考えてみた。

 、、、、誰かのテリトリーに「入る」って行為が感覚的に駄目なのだと気付いた。

 シュウの影って、つまりシュウのテリトリー。

 ちょっと今の自分には敷居が高いって言うか(未だ無理)って思う。

 一番安心して近付けるのは兄さまで、次はローランド先生で、後はまあ、身体が触れ合わない距離なら大丈夫。

 その理由は、色々と思い付くけど、言葉にすると何だか負けたみたいで嫌だから、人見知りって言葉で蓋をすることにした。

 悩める11歳少女何て、絵で見るだけで十分。


 あっ、でも瞬間移動で飛んではイケない場所が有った。

 私たちが脱出した砦があった隣国とライさんを助けたメメシス属領地。

 「一応他国なので面倒だから」とは、ヴィさん(ヴィンセント王弟殿下)からのお達し。

 後は、中立国と友好国は瞬間移動のスキルを使うことは外交条約で禁止されているから、無許可でポンポン飛んでは駄目だそうな。

 帝国関連の国々は、敵性国家なのでスキル条項の条約は関係ないって話だけど、怖いので行きません。


「ジーンが早く16歳になると良いのだが。」


と、ヴィーさん。 「その心は?」


「成人してから自分の意志でロゼット王国に協力して貰えるだろ?」


 くわばらくわばら。やっぱりヴィさんて怖い人だ。



 そしてヴィさん関連でなく私が行けない場所は、バローズ子爵領の領主館。

 領主館に行こうとしてスキルを使おうとすると集中力が霧散して使用出来なかった。

 あの野郎(父親)が居なくなって、着替えなどを取りに兄さまだけを領主館に瞬間移動で送ろうとしたけど、そっちも駄目で、本当に腹立たしい。

 自分が行か無くても一人なら送れる筈なのに。


 領主館とタウンハウスにあった兄さまの衣服やら靴やらは、セオドア叔父さまが子爵家の財産整理した時、送って下さった。

 二度ほどセオドア叔父さまとお会いしたのだけど、父とよく似た容姿に、私と兄さまはピシピシ固まって、キチンとお話が出来なかった。

 その後、兄さまは普通に喋れるようになったけど、私は今でも若干苦手だったりする。

 いやセオドア叔父さまは、雰囲気や表情があの野郎と全く違うのだろうけど、慣れるには今暫く時間が掛りそう。


 そう言えば兄さまは、13歳になったら騎士団に行くつもりだったので、暮らして行く為に母の宝石箱から、小さな宝飾品をポッケナイナイして、王都に来る度、ローランド先生に預けていたそうです。

 素直に預かっていた先生は、昨年ブラウニー医院で暮らすことを決めた兄さまに、その宝飾品を全て返したとか。


「きっとセシルの母君は、セシルが盗って行くのを承知で宝石箱の位置を変えなかったのだろう。」


 兄さまに穏やかな目を向けて、そう語っていた。

 確かにそうなのだろうと私も思う。

 どんなに小さい指輪1個くらいなら未だしも、3つ指輪やネックレス、ブレスレットなんて宝石箱から消えて居れば、女性なら普通気付きます。

 良い話っぽいけど、前世の記憶が戻った今だと「何だかなぁ。」って思ってしまう。


 逃げ出せない訳でもなく、子供を逃がす訳でもなく、泣いて詫びるだけだった母親を慮ってあげる程、私って優しくないのだよね。

 まあ、後継を当主である夫から妻が勝手に他所へ逃がすなど、この世界で難しいことなのだと理解はしても、、、いや、やっぱり無理だわ。

 私は、あの母親を許せそうにない。



 愛情過多で激重な女神さまの存在を知って所為かしら。


 そう言えば、女神ルミナスさまが言っていた転生者の王族って誰かしら?

 本人の趣味で奴隷商に捕まっていたと話されて居たけど。

 どう考えてもヴィさんではないし。

 2人の王女さまのどちらかだろうけど、今の侭だと出会うことはなさそう。まあ、駄女神ルミナスさまも会って欲しくなさそうだったし。

 それにしても女神ルミナスさまに対しての書物って少ないなあ。

 ロゼット王国民特有のスキルを与えて下さった女神で、建国の祖であるケレス女王の母親だから、もっと書物があっても良さそうなのに。


 王立図書館で閲覧出来た女神ルミナスさまの書籍は2冊。


 5年ほど前、高級街に出来た真新しい建物で、本を閲覧しやすいように採光を考えたドーム型の屋根になって居た。 昔の書物や希少本などは王城内にあり一般には貸し出されない。

 王立図書館にある書籍は、印刷機で刷られた物で一般的に出回っている物語などが置かれている。伝説の英雄譚や初代ケレス女王の伝記やその関連本。兎に角ケレス女王の書籍が多くて吃驚。

 他には、夢見のスキルで国を救った各女王の書籍がズラリ。

 どんだけ女王陛下が好きなの?って、私は心の中で突っ込んだ。


 そして恋愛小説が多かった。 平民の女性と貴族男性との恋や護衛騎士と淑女との恋とか、多分だけど印刷機が出来た頃辺りに書かれた近代文学の1つなのじゃ無いかと思う。

 図鑑や事典が欲しい時は、趣味のサロンとかで頼んで購入すると、ローランド先生は話していた。

 ローランド先生が、持って来てくれたスキル事典は、とある場所から借りたモノだとか。 隠さなくてもヴィさんからだと言えば良いのに。


 で、女神ルミナスさま本なのだけど。


 一冊は、幼い頃母が読んで呉れた女神ルミナスさまの御伽。

 そしてもう一冊は恋多き女神ルミナスさまの御話。

 一体何人は、可笑しいか、人じゃないし。何神の神様とディープな恋愛をしているのでしょうか。

 イケメン好きは兄さまへの熱の入った語りで察していましたが。

 そして唯一産んだ?子はケレスさまだけだったと言う。

 あれって女神ルミナスさまのスキャンダル本になるのかしら。本当に誰が書いたのやら。


 一応は、此の大陸に女神ルミナスさま程メジャーではないけれど、別の神様を信仰している国々もあるからね。


 例えば、東南の隣国では海神マリノスだったり、少し離れた付属海に面した北東の国ではイリオス神だったり。

 まあ、その2神の名は、女神ルミナスさまの彼氏名簿になかったからホッとした所。

 特に海神マリノスを信仰しているオレンヂ王国で、女神ルミナスさまと恋のトラブルとか起こした間柄だったら、気まずい気分になってしまう。

 何せ彼女は駄女神だから。

 恋愛トラブルの7割方は、女神ルミナスさまが悪い気がする。あくまでもスキャンダル本によると。


 誰か複写スキルを持つ人が居たら『女神ルミナス御伽草子』って名付けられた分厚いスキャンダル本を複写して欲しい。神さま&女神さまのリストを作りたい。

 王立図書館では、司書さんに申し込めば、立ち合いの元、複写してもオッケーだったので。






《2》




 そんな他愛無いことをポケポケ考えて居ると、シュウがポンと私の近くに湧いて出た。


「ただいま、お嬢。」

「お帰り、シュウ。どこ行ってたの?」

「秘密。」

「でしょうね。」

「お嬢は知りたい?」

「微妙。」

「はっ!何で?暇でしょ?」

「きっとシュウから、それを聞いたら暇じゃなくなる気がする。折角平和だーって微睡んでいたのに。」

「偶ぁーーーに、お嬢って鋭い時ってあるよね。」

「フン。敢えてよ、鈍いのは。敢えて!」

「そんなお茶目なお嬢にとっておきのひと時を。なんつって。」

「はぁー??



 そう私が疑問を続ける前にシュウは私の腕を強く引っ張り、、、、私はシュウと一緒に真っ黒な闇に落ちた。

 あっ、シュウの色だ。


 そう思った瞬間に始めて見る部屋へシュウに抱き締められて立っていた。


 領主館の子爵邸で見たような貴族屋敷の一室に、銀色の髪を短く整えた少年がゆったりとしたソファーに怪訝な表情で座っていた。


 誰?

 って此処はどこ?(前にどっかで言ったセリフのような)

 つうか、、、、。


「シュウっ!!!何考えてるのよっ!」


 私は、怒鳴りながらシュウを睨みつけた。


「しーーーっ!お嬢、此の屋敷の奴らが来る。一先ずお嬢のスキルで彼を医院に連れて行って。おいらは自分のスキルで戻るから。早くして、人が来る、お嬢。」


 緊迫し急き立てるようなシュウの言葉に私は銀髪の少年に触れて、ブラウニー医院の自室へと飛んで行った。



────そして風景が切り替わる。






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