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憂鬱な駄女神  作者: くろ
11/12

合同演習の裏側


《1》



 昨年末〔黒の一族〕回収計画失敗の一報が年も明けた一ヶ月後に伝えられた男は、広いデスクの上に広げられた大陸地図を両手で引き裂き、石畳の床の上に散らした。


 その計画は、現在進めているオークションと違い、いずれロゼット王国へ大手をかける為の貴重な駒だった。それなのに────失敗理由不明、計画遂行部隊全滅、今後の方針乞う。騎士団部隊抜け道を警邏中なり。──── いったい何人のスキル持ちを浪費したと思って居るのだ。1人などレアなの特殊スキル持ちだったのだ。


 ガンとデスクの足を蹴飛ばし、 それでも苛立ちが収まらず、デスクの上に並ぶ崩れかけた他の計画書の山を右手で薙ぎ払った。



 それに11月の終わりに在ったメメシス収容所支部と再教育施設での奴隷の全消失と所長を含めた職員ら八割近くの殺害事件。 絶対、ロゼット王国のスキル持ちが関わっているに違いないと、男は確信していた。

 軍事用に使用する特殊スキルの戦闘奴隷も消失しやがった。


 戦闘奴隷の報告が途絶えて調査させれば、光に包まれた途端気絶したから状況がわからないときた。

 生き残っていた奴らは、下働きしかできない下っ端奴隷たちだけだった。


 世の中の奇妙な現象の全ては、スキルを持ったロゼット王国民のせいだ。


 収まり切らない怒りを鎮める為、男は背後に居た女から愛用の鞭を受け取り、頭を下げ居並ぶ軍人たちを尻目に足音を響かせながら、広い作りの部屋を怒気を隠すことなく後にした。





《2》



「えっ?リクはロー先生の従者に成るの?」


 兄さまが早朝、玄関ホールから凛々しく駄犬2匹を連れて騎士団本部へと出勤した直後、邪魔くさいのに私へと付いて来ていた駄犬シュウと駄犬リク。

その一匹の駄犬リクが口を尖らせてそう言った。


「やっぱりお嬢は寂しいですよね。俺が居ないと。」

「いえ、ちっとも。一匹減って清々するけど?」

「ええー。寂しがってくれたらヴィさんに言って、此の侭お嬢のボディーガードを続けさせて貰うのに。 その合間にチラっとナンパに行くのに。」

「そもそも護衛が要らないの!好きにハントに行きなさいよ。但し禁止事項は厳守でね。」

「ぶぅぶぅ。だって先生の従者ってエロなしっスよ。 超テンション下がる。」

「いや普通そうだから。 エロありでOKなんてのは仕事とは言わない。って言うらシュウも笑ってないでコレを何とかしなさいよ。」


 結局ヴィさん(王弟殿下)の命令かと、私は変に納得した。

 私とは違いヴィさんとロー先生は、妙に黒の一族を買っているのだ。

 スキルか、やっぱりスキルの方が、人間性より重きを置くのねと、スキル重視の社会に絶望した。


 悪人ではないので、ヴィさんには文句も言いずらい。

 悪人ではないかも知れないけど、色事に関しては悪党だ!と、推測している私。

 コレ、女の勘。


「じゃあ、早く主人のロー先生の所へ行きなさいよ。」

「俺の主はお嬢デスぅ。先生じゃありませーん。」

「うざっ、マジで鬱陶しいわ、リク。」

「おいらが、食事室までエスコートってヤツをしてみようか?お嬢サマ?」

「要らん。あれ?シュウたちも一緒に朝食を食べるの?」

「そうだよ。」

「そうそう。」

「マジですか。」


 仄暗い廊下を歩いて右に曲がれば、突き当りに在る出窓から柔らか朝の陽射しが差し込んでいる。

二つのドアを過ぎて三つ目のドアをシュウが開くと春の光に照らされた食事室の風景が見える。


 広い四角のテーブルには、白いテーブルクロスが掛けられ、その上にロニーパン屋で仕入れただろう丸パンがお洒落な焦げ茶色の籠に無造作に盛られていて、美味しそう。


 いつものように案内されローランド先生の左斜め前の先へと向かう。

 今日から兄さまが居ないから私がローランド先生の一番近くの席へと椅子を引かれて腰を降ろす。

 私の隣が駄犬シュウ。

 なんと駄犬リクがローランド先生の右斜め前の席へ。


 まるで駄犬2匹もゲストのよう。

 カートに用意されていた根菜にセリの葉を浮かべたスープをテーブルに置き、食事時だけに現れるメイドさんが切り分けたお肉をライトグリーンで縁取られた白いプレートに盛り、トニーさんが其々の席に置いていく。

 熱々なのはスープだけと言うちょっぴり残念なお肉だけども美味しいので許される。


 広い四角のテーブルの中央には、フワフワの鈴なりに黄色い小毬を咲かせているミモザの花々が、瑠璃色の花瓶に活けられている。

 うん、春だなあ、しみじみ。


 何となくだけどローランド先生が貴族っぽく居られるのってトニーさんのお陰じゃないかなって思う。

 本人曰く「私は平民だ。」って言いきっているけれど。

 恐らく庶民と呼ばれているランクの平民は、こんな食事の仕方はしないはず。しないよね?


「改めておはよう、冷めない内に先ずは朝食を食べよう。」


 ローランド先生の声が掛けが終わって、スープを飲み始める。


 いつか出来るなら、床へとちゃぶ台を置いて、座布団の上にペタリと座り、近い距離で兄さまとご飯が食べたい。 でもってローランド先生も居るともっと楽しそう。

 この距離は食べながらお喋りするには遠過ぎるのよね。

 そうだ、こう言うテーブルで食事をする時は、マナー的に喋り食べって余りしないのっだった。

 サロンの方が良いって、今度ローランド先生におねだりしてみよう。


 居候し始めた頃、貴族的なマナーを全く知らない私の話を聴いて、ローランド先生とトニーさんに驚かれた記憶がある。

 トニーさんは「私が教えましょう。」と買ってくれたのだけど、丁重にお断りさせて頂いた。

 ローランド先生は、「覚えておいて損はないよ。教養は邪魔にならないし。」って言ってくれたけど、そっちの教養は要らなかなと思ったし、あのヤローのせいで貴族のイメージって余り良くないのよね。

 何か関わりたくないってカンジかな。


 どっちかと言うと庶民の一般常識だったり、裁縫だったり、料理だったり、掃除だったり、この世界で生きて行く為の知識が欲しかった。

 まあ知ったのは、自分がどうしようもなく不器用だったってコト。


 ケイトさんには、バインバインユッサユッサとお胸を震わせながらお世話になりっぱなしで、兄さまへのプレゼントのハンカチの刺繍も、一番基本の輪郭を取るアウトラインステッチを練習させて貰い、格好よく見せる為に筆記体で針を刺すのが難しくて、6割がた手伝って貰ったなあ。遠い目になる。

「未だ小さいから大丈夫よ。」って慰めて呉れた。


 でもブラウニー医院で料理とか掃除をやろうとしたら、ローランド先生が全力で止めに来た。

「此の屋敷は、掃除や料理する専任の人が居るからジーンが遣らなくても大丈夫なんだよ。」ってチャームポイントの八重歯を見せつつ微笑まれた。

 あの時に止めたのは、私の不器用さを予見していたのかも。

 ローランド先生は、時々、人の心を読むし。

 そう思いながらパンをモシャって居ると、ローランド先生の明るい青い瞳の目が合った。


「そうそう、言って無かったね。リクが私の従者になることが決まった。」

「あのう、大丈夫ですか?ロー先生。リクって本当にエロいですよ?私が大丈夫だったのは、何処から見ても13歳未満の児童体形だったからで、男女見境ないらしいですよ。元妻だったメイさんの話では。」

「ゴホっ。」


 ローランド先生が千切ったパンを口に入れて咽てしまった。


「お嬢、違うよ。姉さんは、仮初婚の相手であっただけで懐妊しなかったからリクの妻ではない。」

「どうでもいいわ。そんな些細な拘り。ダマらっしゃい。シュウ。」

「い、いや、うん。大丈夫だよ。そう言う趣向がないことをハッキリと、ヴィにもリクにも、告げて置いたから。 そう言うことには成らない契約だから、ジーンは安心して。」

「うん?」

「ああ、でも先生、先生が望めば大丈夫っすよ。」

「ないから。リクはいい加減にしろって。」

「リクは、ロー先生を揶揄わないで!」


 リクに振り回されるローランド先生と私を尻目に、シュウは大人しくパンを食べながら、ニヤニヤ独り笑いをしていた。


「はぁ、食事が終わったらサロンでお茶にしようか。」

「はい、いただきます。」


 陽が登り室内を窓からさし汲む明るい春の光がキラキラと満たす中、リクの揶揄う声と私の怒る声と、シュンの忍び笑い、そしてローランド先生の溜息で、四重奏を奏でていた。




 

《3》



 セシルが騎士団寮へ入ったと言う話がホーステッド通り地区全体に行き渡ってから、漸く、ブラウニー医院は、静けさを取り戻した。

 些細な傷とは呼べない傷が出来たと言っては、セシル目当てでブラウニー医院へ友人や知人を連れて3~4人で押し掛けていた患者が、来院しなくなった。

 中には、セシルに片思い中の娘の婿へと、職人の気のいいオヤジが押しかけて来たが、セシルの年齢が13歳だと知るとしおしおと肩を落として帰っていった。

 まあ、セシルは、どう見ても20代頭くらいにしか見えないから、ややこしいことにもなってくる。

 敢えて若いが故に手に入れたいと望む者も。



 黒犬たちが、ナンパに明け暮れていてくれて唯一良かったのは、セシル目的で玄関ホールに屯っていた女性達を適当に間引いて行ってくれたことか。

 どう見ても高級住宅地区に住んで居そうなご婦人達が、患者に混じり始めた頃、黒犬たちが引っ掛けて、それぞれが彼女たちのお気に入りとなり、互いに満足し合える関係で、今も続いて居るらしい。

 禁止事項だった黒犬たちと既婚者との関係だったが、彼女らに関しては黙認した。

 セシルが13歳なのを知って接触して来る輩は、年若く美形なセシルを飼いたいと願った者たちだった。高級住宅街に住む平民なら貴族との付き合いもあり、セシルの過去を知って後ろ盾もなく扱いやすいと踏んだのだろう。

 良い具合に彼女たちを取り込んで呉れて正直助かった。


 私自身、貴族との接触は可能な限り絶って居たいので、富裕層の彼女らの存在がブラウニー医院から消えたことにホッとした。


 アーサーに会うまではと仮住まいしているライ(ジーンが助けた男)が、潮が引くように引いて行った患者数に戸惑っていた。


 そのアーサーだが、ベリアノ侯爵領地へ向かったことまでは辿れたのだが、ようとして行方が知れない。迂闊に騎士団を動かせない理由もあり、今暫くライには待ってもらっている状態だ。


 5月に在る友好国オレンヂ王国の騎士団とロゼット王国の騎士団による新兵同士の合同演習の開催が決定されている。

 今年で5度目となる両国の合同演習は、只の騎士団の演習では無い。


 婚約を前提とした顔合わせでもあるのだ。

 オレンヂ王国アリスター第一王子殿下とロゼット王国エレノーラ第一王女殿下とが、互いの騎士団を共に観覧すると言う両国の王族が関わる一大イベントが待っているのだ。

 現在騎士団は、極秘で検討している道々の確認作業が続いているだろう。

 私だって、つい先日ヴィに知らされて驚いたばかりだ。


 ヴィが私に秘匿していたのは、我が家に騎士団入団予定のセシルが居たからだ。

 万が一、婚約予定の発表前にセシルが知ってしまって居たら、合格の有無にも関わる可能性があるとして、ブラウニー医院への報告をヴィは止めていた。


 此れ程、ヴィがオレンヂ王国とロゼット王国とで交わされる婚約の情報を秘するのには理由があった。


 オレンヂ王国は6年前まで奴隷制度を採っていた奴隷容認国であった。

 国土の東は海で、北東の付属海へと続く海路を使い貿易を主軸に国を運営していた。

 商船は奴隷を多く使い、経済活動をする上で、奴隷は必要不可欠な存在として認識されていた。


 しかし疫病によって国難に成り、オレンヂ王国の在り方を変える決断を国王陛下が決めた。


 その時に助力したのは隣国のロゼット王国だった。

 互いに幾度も対話を重ね、奴隷制度の完全撤廃は困難だったが、犯罪奴隷と借金奴隷以外は国内で奴隷売買禁止法を決定し、奴隷非容認国のロゼット王国と友好条約を締結した。

 そして友好の証として毎年、両国間で騎士団の合同演習が実施されることとなった。

 当然国外は勿論、国内でも奴隷売買禁止法への反発は大きい。 未だに他国で売買した奴隷は、オレンヂ王国内に連れ帰り働かせることは合法であると言う抜け道を国内貴族が作るぐらいには。


 ヴィによれば、内々で進めている婚約の話が纏まれば大きく奴隷撤廃への政策に舵を切り、友好国から同盟国へ格上げし、国外の奴隷容認国からの牽制に対抗出来るようにロゼット王国は、助力するそうだ。

 ただの友好国では難しいが、同盟を結んだ国で在れば、騎士団からの武力介入も出来るように為る。

 この決まりは、他国から都合よく騎士団を軍事利用させない為、ロゼット王国法で定められた同盟規約でもある。


 婚約や同盟のことが、締結前に奴隷容認国や奴隷帝国と言われるザクロン帝国サイドにバレて、邪魔をされないよう最上層部が、秘匿して来たことなのだ。


 表向きは、両国友好五周年を祝し、例年と違う場所での新兵合同演習を実施すると言うモノになる。


 セシルも入団して直ぐに多忙な日々に放り込まれて大変だなと思う。

 5日毎の安息日には、ブラウニー医院へ帰ってくるとジーンに話していたが、恐らく当分は無理だろう。


 例年通りの合同演習なら9月である。

 新たな生活で身体が慣れる前の5月に隣国迄向かい演習を行うのだ、身体の方は大丈夫だろうか。

 せめて天候に恵まれることを祈ろう。





《4》


騎士団本部の一角にて。



 背中からヨウが腕を掛けて来た。後ろから歩いて来たコウはオレの右手を掴み、コウの影の中にオレは引き釣り込まれた。

「おい、コウ。先輩から稽古をつけて貰う予定だったのに。」


 何も見えない漆黒の闇の中で、コウはオレの唇に唾液で湿った唇を合わせて来た。

 「もう10日以上セシルと気を合わせていない。我慢出来ない。」

 オレの唇を開かせてコウの熱い舌先が入り、おれの舌へと絡ませ、口の中の粘液を互いの舌で混ぜ合わせる。


 ヨウはオレの背後からオレの腰へと手を掛けて器用に団服のズボンをずらし、下着の中へと手を這わせ固く隆起したモノを冷たい手で握り、上下へと独特の動いで擦り始めた。


 漆黒の闇の中、コウとヨウがオレを欲する激しい息遣い。

 コウと口の中で舌を絡ませ蠢かせる粘液の混り合うピチャピチャ響く音、隆起したモノをヨウ喰わてジュボジュボと音をさせ喉の奥まで飲み込まれ、敏感に感じる袋筋をニチャニチャ撫で廻す音。

 普段耳にすることの無い淫靡な音音が、聴覚だけが鋭敏になった漆黒の中で響く。



 コウの影の中は、コウの世界。

 其処に居ることを許されているオレとヨウ。

 コウの影を使ってヨウは、糸を創り出し、自分の糸を出して糸同士を絡めて、オレの肉体を縛り感覚の同調を始める。

 漆黒の闇の中で感覚だけが研ぎ澄まさるのか、ヨウの熱く滾ったものが後ろからオレの中へグイグイと押し込まれ、ビクンビクンと勝手にオレの腰が動く。


 ヨウに背後を取られた侭、仰向けにさせられた。


 顔など全く見えないはずなのにコウは悦びだらしなく口元を緩めている表情が見えた気がした。

 そしてオレの上から腰を静め込みゆっくりと味わうようにコウは自分の中に固くなり脈打つオレのモノを押し入れた。


 互いの肌を堪能しつつ、オレたち3人は絡み合い隙間なく重なり、縛られて繋がった糸からは、オレへ向けてコウとヨウのさざ波のような快楽が続いて行く。


 ヨウとしては、糸の出来に不満があるようだが、このオレがエクスタシーを2度3度迎えられたんだ。






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