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5. 黎明の青
男は身体を引きずって木にもたれるようにして息を吐いた。一般的な人間ならとっくにこと切れてしまう傷にも男は何とか耐え忍んでいた。男は頑丈さが取り柄だった。最も治せる試しもないので、今にも命の灯は消えてしまいそうだった。
視界がぼやける。男は自身の人生のあっけなさを振り返っていた。大した人生ではなかったし、誇れることもできなかった。来世に期待しよう。来世があればの話だが。男は悲観的で自嘲気味な人間だった。
「死んでしまうのですか?」
木々の間から光の粒が降り始める。淡々とした少女の声に男は掠れた絞り出すような声で「そうだよ。」と応えることしかできなかった。こんな時間に子どもが出歩くなんておかしかったので、天からの御迎えだと男は思った。
「それはきっとよくないことですね。」
甘い苹果の香りが漂う。あの世では甘い果実が実るという。男は身体が痛まなくなってしまったので、光が照ってきたこともあって、最期の最後、少女の姿をしっかり見ようと瞳の焦点を合わせた。
男の眠そうな瞳と少女の瞳が交差した。
少女は持っていた荷物を放って男の顔に近づいた。
「きっとまた目覚めてくださいね。」
男が目蓋を閉じる前に見たのは、空の色をした瞳の少女の柔らかい笑顔だった。




