2. 聖獣
薄明の前、男は細々とした川が流れるところに出た。これを辿って外を目指すか、近くに村がある可能性が高いから一度休むか、二つの考えが頭に浮かんでいた。ランタンの火が消えそうだったため、魔法が使えたら楽だったとぼんやり考えている間に火が消えた。これは仕方がない。日の出まで休むのが良い。そうして、男が雑魚寝をしようと決めたところだった。
森の周辺が月明かりに照らされたように、薄暗く光った。男は無意識に大剣に手を構え、瞬時に身体の向きを変える。衝撃が迫ったのは、男が両手で大剣を支えるのと同時だった。
青白く神々しい光を放った大きな鹿が、携えた美しく緩やかに曲がった角を武器とし、男に向かって突進してきたのである。
剣と角がぶつかり、白い閃光が辺りに散る。宗教ごとに興味のない男でも、これは聖獣とやらだと理解する。神の使い、神聖な領域の守護者。なるほど、これは完全にこちらが悪者である。
「大事なものがここにあるって、教えてくれてるようなものじゃねえか。」
男は衝撃を受け流すと、鹿と間合いをとる。鹿は全長二メートル程度で、脚力は今の衝撃を鑑みるに、男よりはあるらしかった。地面の土がえぐれている。
一瞬の見つめ合いの後、鹿は嘶き始める。光が角の間に密集を始める。男は、多少後進し、態勢を立て直すと大剣を構えた。閃光が男に向かって発進する。男は勘に任せて剣を振るった。眩しさに目を瞑る。漆黒の剣と白い閃光がぶつかり合う。次に目を開けると、剣に傷はないが、外套の表面が薄っすら焦げ付いている。光熱で身体がひり付く。光の大陸の聖獣のため、光を扱うことに長けているらしい。
こうして、男と鹿の追いかけっこが始まった。鹿を木に突撃させて、鹿の動きを止めたい男と、男を打ち倒したい鹿による攻防である。
大剣と角で撃ち合う、光を受け流す、蹄で蹴り上げられるところを間一髪、鹿の股下をくぐってすり抜ける。男は健闘しているが、鹿から逃げられる程、自身の実力が及んでいないことを確信していた。男の額に汗が流れる。今夜が命日にはなりたくなかった。




