1. 迷い人
星影しか辺りを照らさない夜更けのことだった。丈の短い黒い外套を身に纏った長身の男が、月もないからと心もとないランタンを片手に森の中を彷徨っていた。
日の入り前には村に着いている手筈だったのだが、進めど進めど森は入り組み、道の覚えは良いと自負している男が入り口に戻ろうと来た道を引き返すも、見覚えのない道に辿り着く始末だった。
小さな火が、暗がりの中で男の正体を照らしている。目元にかかりそうな黒い前髪、眠たそうにくすんだ赤い瞳、外套の下には暗い色の鎧。目鼻立ちの整った青年ではあるが、やややつれた印象を持つ。特徴的なのは、背に携えた男の同身長程度、一八〇センチメートル強の、質素な装飾の施された儀礼剣にも使えそうな漆黒で細身の大剣である。夜に溶け込むための、隠密行動向きの衣装が、男にはよく似合っていた。
男は表情にこそ出さないが、この状況に心の中で苦笑していた。男は悪と言うほど残忍でも非道でもなかったが、依頼主の依頼内容で悪事を働くこともあったので、これも因果かと思わなくはなかった。
男は傭兵であり、ある団体の私兵でもあった。その団体の偉い学者たちが、私兵に依頼を出した。川から流れた孤児を見つけて連れて来なさい。十二年前に出された命令で、当時の男が団体の私兵になる直前のことだった。男は見る機会がなかったが、世界の水面が光り輝くといった兆候があったらしい。数百年単位で起こる事象で、主にその団体の学者と鍛冶師が大層興奮していたことを、男の幼い記憶は覚えていた。
男は十代の前半で剣の扱いも碌に知らない素人だったので、経験を積んだ後、二十歳になって漸く、無理難題な依頼に向かわされたのである。
孤児の特徴は、見た目に関してはかなり大雑把である。神からの代理人だから、純白の髪だとか、綺麗な青い瞳をしているだとか言われている。毎度見た目は違うそうだ。性別も決まっているわけではないし、何なら人間ではない時代もあったそうだから、正直見た目は当てにならない。
ただ、能力に関しては規則性を持っていた。傷ついても忽ちに治ってしまう身体、役目を終えるまで続く不老不死の性質、各々の神と契約の儀を行わずとも、光・火・水・土・風に由来する魔法を扱える特異性、際限のない魔力量。他にもないわけではないが、括って人でなしというだけなので、男はそこまで気にしていなかった。
見た目も当てにならない、能力に関しても噂があればよいが、真偽は会ってみないと分からない。そのため、川から流れた孤児が一番分かりやすい情報だった。
川から流れてきたかは知らないが孤児が森の村にいると聞いて、男はやって来たのである。




