ep.09 水無月マイは、漫画を描く
◇水無月マイの視点◇
「どうぞー、入ってー♪ シロウくん」
私は佐々木シロウくんを部屋に招き入れた。
「お、お邪魔します……」
来るのは二度目だというのにまだ緊張してるみたい。
「適当に座って~」
と私が言うと、部屋の中央にある低テーブルの隅っこにちょこんとシロウくんは座った。
そんなに遠慮しなくていいのに。
「お茶をお持ちしました」
家政婦さんが私の好きな紅茶とケーキを運んできてくれた。
「ありがとう」
私はお礼を言う。
そういえば前回も勝手に紅茶にしちゃったけど、シロウくんも紅茶が好きなのかな?
あとで聞いてみよう。
でも、今日はまずやることがある!
「さぁ! どんな漫画を作るか会議をするよ!」
バン! と私は部屋にあるホワイトボードを叩いた。
「そんな学校の教室にあるようなホワイトボードが自室にあるんだ……」
シロウくんが、なにか呆気にとられた表情をしている。
別にホワイトボードぐらい普通でしょ?
まぁ、ちょっと大きめかもしれないけど。
「やっぱり漫画の華はアクション漫画でしょ! ワンピースを超える漫画を目指すよ!」
「いや……まずはどこかの出版社で入賞することからじゃないかな……」
私が力強く目標を語るけど、シロウくんは大人しいことを言う。
うーん、つまらないなー。
そのあとも、
「やるからにはテッペンとろうよ! 壮大なストーリーを考えるよ!」
という私と
「堅実に実績を積んでいこう。まずは短い読み切りから」
というシロウくんの意見。
私たちの方針が合わなかった。
私は壮大な計画を語り、シロウくんは堅実な案を提示する。
私とシロウくん、相性が悪いのかなぁ。
私の漫画を手伝ってくれてるわけだし、こっちが合わせたほうがいいのかな?
でも、ちゃんとアシスタント料は払うわけだし、私の漫画だから私が考えたほうがいいよね?
うーん、と私が悩んでいると。
「うーん、新しい漫画を考えるのって難しいね……」
シロウくんは頬杖をつきながら、紙に落書きをしている。
私は何気なくそれを見て…………仰天した。
A4サイズの紙に鉛筆でサラサラと描かれたそれは、一枚の傑作だった。
「し、シロウくん……それって」
私が震える指でその落書きを指さすと。
「適当に描いてみたんだけどどうかな?」
「ちょっとよく見せて!」
紙を受け取り眺める。
それは魔王と勇者が戦うシーンの絵だった。
勇者を見下ろすように、魔王とその幹部が立っている。
勇者のうしろには姫がいて、勇者は姫を守るように剣を構えている。
そのままゲームのパッケージイラストに使えそうな出来。
落書きの品質じゃない!
「あの……シロウくん」
「どうしたの?」
きょとんとしている彼。
うぅ……絵が上手い人っていいなぁ。
こんな凄い絵を片手間に描いちゃうんだから。
私は改めて絵を眺めてふと気づく。
この絵にかかれているお姫様って、髪が二つ括りにしてあって、もしかして
「このお姫様って少女Aちゃん?」
「あー、無意識だったけどそうかも」
シロウくんは、気まずそうに頬をかいている。
少女Aというのは、シロウくんがSNSによくイラストを上げているキャラクター。
そして、少女Aのモデルはなんと彼のお姉さんらしい。
「シロウくんって、やっぱりシスコンだねー」
「別にいいでしょ。一番描き慣れてるから、なんとなく描いちゃうんだよ」
ぷいっと横を向かれた。
あ、からかい過ぎたかな。
「ごめん、ごめん。やっぱりシロウくんの絵の技術は凄いよ! だから二人で凄い漫画を作ろうよ!」
「といっても、まだ企画が決まってない段階だし……。とりあえず、どの賞に応募するかだけでも決めようよ」
「私はどんな作品を作るかをもっと議論したいけど……」
でも、短期目標を決めるのはいいかもしれない。
私たちは3ヶ月後に期限があるWEB漫画の賞に応募することにした。
それから作るジャンルはについて話し合った。
私が好きなのはアクション漫画、と伝えると。
「恋愛漫画じゃないの?」
とシロウくんに聞かれた。
「女の子が皆、恋愛漫画が好きなわけじゃないんだよ!」
と私は言った。
私が好きなのは少年飛翔にある血沸き肉躍るアクション漫画なの!
恋愛漫画には興味ない! と伝えたら、「意外だね」と言われた。
まぁ、学校だと大人しいキャラで通してるからねー。
ちなみにシロウくんもよく読むのはアクション漫画らしい。
そこは趣味が一致しててよかった。
好みのジャンルまで違うと、作品づくりに影響しそうだもんね。
その時、私は最近読んだ赤と緑の文庫本が自分の机にあるのが目に止まった。
それはシロウくんが好きだと言っていた『ノルウェイの森』というタイトルの本。
だから試しに読んでみたんだけど……
(なんか暗い話であんまり面白くなかったんだよねー。しかもかなりエッチだし……)
私は好きになれなかった。
勿論、シロウくんにそんなことは言わないけど。
もしかしたら、ああいう暗い話のほうが好きなのかな? って心配してたけどそんなことはなかった。
私と同じでスカッとするアクション漫画が好きみたい。
漫画と小説で好みが違うのかな?
それから、私とシロウくんは漫画作りについていろんな話をして、合間にお茶とケーキで休憩した。
だいぶ、長い時間話した。
ふと、私は気になっていたことを聞いた。
「そういえばシロウくんって、リカちゃんと仲いいね」
「へっ!? …………げほっけほ」
紅茶を飲んでいたシロウくんがむせた。
「だ、大丈夫?」
「だい……じょうぶ。如月さんとは別に仲良くないよ」
なんて言われた。
「でも今日、放課後に誘われてたよね? 断られて悲しそうだったよー?」
そう。
私はこっそり見ていた。
シロウくん、リカちゃんに声をかけらえてそれを断ってたのを。
それに今朝は急に呼び名が「佐々木」→「シロウ」に変わってたし。
あれで仲良くないは、無理があるよ。
「……………………」
でも、シロウくんは何も言わず黙ってしまった。
照れてるのかな?
さっきお姉さんのことでもからかっちゃったし、あまり触れるのはやめとこう。
その日はしばらく雑談をして、第一回目の漫画作りの会議は終わった。
◇佐々木シロウの視点◇
翌日の放課後。
「シロウー」
肩を叩かれた。
「やあ、如月さん」
僕はビビらずに普通に返事をした。
成長したと思う。
「今日はひま!?」
「空いてるよ」
約束をしたのだから当然だ。
「じゃあ、行くよー!」
如月さんが大股で歩くので僕はそれに続いた。
「リカー! シロウくんと遊ぶの? 私もバイトがなかったら一緒に行くのにー」
清水さんが如月さんの腕を掴んでいる。
あ、あぶなかった。
このままだと清水さんまで来るところだった。
やっと如月さんと二人なら普通に会話できるけど、ギャル二人に囲まれて平常心を保てるとは思えない。
「こ、今度ね! こんど!」
「リカ、そればっかじゃんー。ずるいー!」
と言いながら清水さんは走っていった。
元気な人だ。
如月さんが振り向いて僕の方を見ている。
「今度、キョウコが一緒でもいい?」
「別にいいけど……できれば二人のほうがいいかな」
「そ、そうなの!?」
如月さんが目を丸くする。
だって、男一人に女子二人だと緊張するからね。
その後、如月さんがぶつぶつ何か言っていたけどよく聞き取れなかった。
そうして僕らは一緒に学校を出た。
◇
「今日は席が空いてないね……」
「そうね……」
前に一緒に勉強をしたカフェが満席だった。
ぱっと見、学生っぽい子が多いから僕たちと同じ勉強をしにきているのだろうか。
ただ、真面目に本や参考書を開いているよりは雑談をしている人たちがおおい。
つまり当分は席は空きがなさそうだ。
「別のところにいく? ファミレスとか」
僕が聞くと。
「でも、この時間って大抵人が多いし……。この店が一番穴場だったんだけど」
「確かにね」
僕と如月さんはため息をついた。
場所がなければ勉強会はできない。
今日は解散かな、と思っていると。
「あ、あのさ……」
如月さんが言いづらそうに話しかけていた。
「なに?」
僕が尋ねると。
「えっと……もしよければなんだけど」
「?」
何事にもはっきり物事を言う如月さんらしくない。
随分と本題に入るのが遅い。
僕は特に急かさずに次の言葉を待った。
が、如月さんの口から出たのは予想もしない言葉だった。
「家に来ない?」
「…………え?」
まさかの如月さんの部屋での勉強会の提案だった。




