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ドSな虐めっ子が僕の『ペット』になった件  作者: 大崎 アイル


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10/10

ep.10 佐々木シロウは家に行く

「…………」

「…………」


 僕と如月さんは無言で歩く。


 結局、勉強ができるいい店が空いてなかったため、如月さんの家で勉強をすることになった。


 正直、水無月さんの時の比ではない緊張感がある。


 が、なぜか如月さんも緊張しているようでさっきから喋らない。


 もしかして、今さら僕を呼んだことを後悔しているのだろうか。


 やっぱり僕みたいな陰キャを部屋に上げるのは嫌なんじゃ……。

 

 今からでも今日は解散でもいいんだけど。

 

 なんて考えているうちに、如月さんの家――つまりは僕の家の隣に着いた。


「ど、どうぞ」

「……お邪魔します」


 僕は如月さん家の門を通り、如月さんに続いて玄関に入った。


 お隣さんだけど、家に入るのは初め――――



(…………あ、あれ?)



 くらりと目眩がした。


 白い大理石が敷き詰められた玄関。


 濃い茶色(ダークブラウン)の靴棚。


 玄関の壁には大きな姿鏡がある。


 靴棚の上には()()()花瓶に入った花が飾ってある。



 強烈な既視感(デジャヴ)に襲われた。


 僕は()()()()()()()()()()


 ここに来るのは初めてじゃない。


 もう何度も来たことが……。



(何を言ってるんだ僕は)



 その既視感を振り払う。


 僕は如月さんの家に来たことはない。


 ()()()()()()()()


 これは気のせいだ


「どうしたの?」

 急に立ち止まった僕に如月さんが尋ねる。


「い、いや。なんでもないよ」

 さっきまでの緊張感とは別の焦燥にかられながら、僕は靴を脱ぎ如月さんに続いて階段を上がった。


 如月さんが自分の部屋に入っていく。

 

 僕はそれに続こうとして…………立ち止まった。


「…………」

 今から如月さんの部屋に入るのか?

 小学校、中学校で散々虐められた如月さんの?


 去年までの僕なら絶対に入らなかっただろう。

 それがどうしてこうなったのか。


 なんとも不思議な感じがした。


「どうしたの? シロウ」

 部屋の中から如月さんの声が聞こえた。


「いや、なんでもないよ」

 僕は自然と足を前にだしていた。


 開いているドアから部屋に入る。


(これが如月さんの部屋……)


 普通の部屋だった。


 少なくとも水無月さんとは全然違う。


 僕がイメージする通りの女の子の部屋。


 モノが多い。


 ヌイグルミや小物がいっぱい置いてある。


 けど、散らかっているわけじゃなくてきちんと整頓されている。


 白い勉強机と椅子にピンクのカーテン。


 ベッドのシーツも明るいピンク色だった。


 如月さんはピンク色が好きなのだろうか。

 

「適当に座って」

 と言われたので僕は壁によりかかるように部屋の端にカバンを置いて座る。


「ちょっと、待ってて。お茶入れてくるから」

 そう言って、ぱたぱたと如月さんはドアを出て、廊下へ消えていった。


 僕は部屋に取り残される。


 僕は改めて部屋を見回す。


 ほのかに柑橘系の匂いがする。


 机の上には液体が残り僅かになったアロマスティックがあった。


 本棚に並んでいるのは雑誌が多い。


 わずかに少女漫画らしき文庫本が並んでいたが、僕の知らないタイトルだった。


 クローゼットは当然閉まっている。


 勿論、開かない。

 僕は死にたくないから。


 ベッドにはたくさんのカラフルなクッションが並んであって、あんなにあると寝づらくないのかな? と不思議に思った。


 僕はこの部屋を一通り見て確信した。


(僕はこの部屋に来たことはない)

 

 初めて入る部屋だ。


 さっきの玄関での既視感はきっと気のせいだろう。

 

 そう結論付けた。


「おまたせー」

 トレーにガラスのコップを2つ乗せて、如月さんがやってきた。

 

 グラスの中身はおそらく麦茶だろう。


 それにクッキーやおかきが入った小さなバスケットが乗っている。


(なんか、おばあちゃんの家みたいなセットだな)

 と思った。

 口には出さない。


「家にこんなのしかなかったのよ……」

 何も言っていないが、如月さんがちょっと恥ずかしそうに言った。


「えっと、ありがとう」

 僕は気持ちを落ち着けるために、グラスに手を伸ばして冷たいお茶を少し飲んだ。


「じゃあ、今日はここからね」

 如月さんが教科書を広げる。


 彼女が苦手な数学からのようだ。


 1問目を見て、眉をひそめている。


「あの……」

「一回、頑張って解いてみようか」

 僕は言った。


 最初から教えるとすぐに忘れる。

 一度、自力で解いて何がわからないかを理解するのが大事だ。

 という話を、前に如月さんにした。


「はーい……」

 驚くほど素直に如月さんは僕の言うことに従う。


 中学の時には、僕に散々理不尽な命令をしてきたイジメっ子が、だ。


 僕はその間、同じように数学の復習と予習をすることにした。


 流石に、如月さんが勉強している隣でスマホを見たり漫画を読むのは憚られた。


 部屋に静寂が満ちる。


 が、それは5分も続かなかった。


「シロウ~~~、助けて……」

 

 涙目で訴えられた。


 そんな顔で見られたら「もうちょっと一人でやるべき」と言えない。


「どこがわからないの?」

「えっとね、ここからがさっぱりで……」


 ほぼ最初で躓いていた。


 これは解説の時間がかかりそうだ。


「まずは、この問題の場合は……」

「ふんふん」

 僕がノートに図を描きながら解説をする。


 如月さんがそれを覗き込むように身体を寄せてくる。


 身体が当たるかどうか、というレベルではなくがっつり接触している。


 肩は僕の身体に預けられているし、なんなら思ったよりも大きい如月さんの胸が僕の二の腕あたりに何度もぶつかっている。


 やわらかい感触が布越しに伝わる。


(言ったほうがいいんだろうか……)


 とも思ったが、


「如月さんの胸が僕の腕に当たってるよ」

 なんて言ったら間違いなく。


「キモ!!! 死ね!!!」


 と言って殴られるだろう。


 せっかく最近の関係は良好なのに、それを台無しにすることはない。


「ねぇ、シロウ。このあとはどうやるの?」

「ここはこの公式を使って……」

 如月さんはさらに身体を寄せてくる。


 僕の顔の位置だと、胸元が嫌でも目に入ってくるし、下着の色がピンクであることも知ってしまった。


 やっぱり(ピンク)色が好きらしい。

 それにしても


(如月さん……無防備過ぎないか?)


 余計なお世話かもしれないが、心配にすらなった。


 まぁ、ギャルの如月さんにとって下着の一つや二つ、見られてもどうってことないのかもしれない。


 こうして、如月さんに寄りかかられたまま勉強会は続いた。



 ◇



「はぁー、なんとか理解できたかも」

「それは良かった」


 一通り、如月さんに勉強を教え終わった。


「ありがとう、シロウ」

「どういたしまして」

 僕はぬるくなった麦茶を飲み干した。


 ちょっと、コーヒーが飲みたいなと思ったが口にはしなかった。


「ごめんね、いま家にコーヒー置いてなくて。今度、買っておくね」

「えっ!?」

 心が読まれた?


 僕がびっくりした顔をしていると。


「コーヒー好きなんでしょ?」

「ま、まぁ……」

 ぎこちなく頷く。


 ということは、また如月さんの家で勉強会するってこと?

 カフェが空いてなかったから仕方なくだったはずでは。


「正直、毎回奢るのはちょっと厳しくてさー」

 と如月さんが気まずそうに笑った。


「だったら僕の分は僕が……」

「ダメでしょ! 教えてくれてるお礼なんだから!」

 律儀なことを言われた。


 なんだろうな。

 中学までの如月さんとまるで別人だ。


 僕を奴隷のように扱う暴君はどこにいったのか。


 そんなことをぼんやり考えていると。




「…………シロウ」




 如月さんの顔が間近にあった。


「っ……」

 あまりの近さに呼吸が止まった。


 さっき勉強を教えている時も、距離は近かった。


 けど、その時はお互い教科書とノートを見ていた。

 

 今は、如月さんの大きな瞳が真っ直ぐこちらを見ている。

 

 如月さんの長い茶髪が僕の頬をくすぐる。


 微かな息遣いが聞こえた。



「…………」



 真剣な表情で僕を見続ける如月さん。



「な、なに……?」


 尋ねてもすぐに返事はなかった。


 十数秒の沈黙。


「あ、あのね……」


 ようやく口を開いても、すぐに無言になる。


 ふと思った。


(もしかしたら、如月さんは僕に謝ろうとしているのか……?)


 そう感じた。


 そして思考する。


(僕は彼女を()()()()……?)


 普通に考えればそうしたほうがいいのだろう。


 これから高校三年間、一緒なのだ。


 如月さんからは間違いなく、歩み寄られている。


 彼女が謝れば、それを受け入れるのが『賢い』。


 けど、それを素直にできないほど僕の小学、中学時代は――()()()()()


 あの地獄の日々を、謝れたくらいで許せるのだろうか。


 僕にはわからなかった。


 その気持が表情にでたのかもしれない。



「…………」



 如月さんの目が、明らかに動揺した。


 何かを言おうとした言葉が『飲み込まれた』と感じた。


 しばらく無言が続く。


 ただ、お互いの顔が10cmも離れていない距離で何も言わないのも気まずい。


「如月さん? どうしたの?」


 僕が先に声をかけると。


 彼女は「えっと……」と言葉を選ぶようにもごもごしながら、宙に視線を彷徨わせ、やっと口をひらいた。


「あ、あのさ! シロウ!」

「うん」


「わ、わたしだけ名前で呼んでるでしょ! だから、あんたも名前で呼んでよ!」

「…………えっ?」


 予想外な言葉がでてきた。


 明らかにさっき思いついた、という言い方だった。


 が、長年の下僕生活のせいで僕は如月さんの頼みを断れない。


「…………リカさん」

 おずおずと名前を呼ぶ。


「呼び捨てでいいんだけど」

 ちょっと不機嫌そうに言われた。

 

(いやそれは……)

 抵抗感しかない。


 なんとか呼べそうなのが…………。




「リカちゃん」



 

 ドクン、大きく心臓が鳴った。

 凄まじい既視感に襲われる。


(あれ?)

 僕は昔、如月さんをこう呼んでいた?



「っ……」



 眼の前の如月さんが泣きそうな表情になっている。


 僕は呆然としたまま、しばらく如月さんと二人きりの部屋で見つめ合った。

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 次回の更新は、明後日の4月28日です。



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― 新着の感想 ―
シロウ君は自称陰キャですが、本来の性格はどうだったのでしょうか? 姉のさーさんが死亡同然の行方不明になった件が、シロウ君の人格に影響を与えなかったとは考えられないので気になりました。 加えて、ご近所の…
これは過去に何かがあってシロウ君が記憶を失っている、或いは自認していないという可能性が有るか? 他の方の推測通り彼がさーさんの弟だというなら、大好きな姉が死亡したことで精神的に大きな打撃を受けた可能性…
家が隣りという事は、幼い頃に親に抱かれて何度も行き来してるだろうし、幼稚園保育園時代なら分け隔てなく遊んでいた事だろうしなあ。 年齢も同じならむしろ一緒にいない理由がない。
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