ep.27 如月リカの思い出
「ここは星がよく見えるね」
僕は言った。
都内から少し離れた場所にあるこの海辺から、夜空の星がよく見える。
ただ、如月さんと水無月さんの会話はない。
波の音だけがやけに大きい。
(うーん……気まずいな)
後ろを振り返ると、水無月さんはこっちを見ていて、如月さんは夜空を見上げている。
どっちから話しかけるべきか……。
「水無月さん、合宿楽しかったよ。僕はこんなふうに外で友達と遊ぶのってやってきてないから」
話しやすい水無月さんに声をかける。
「そうなんだ、シロウくん。楽しんでくれたならよかったよ」
水無月さんが優しく微笑む。
「うん、昔っからずっとインドア派だったからね」
「ちがうよ!」
「えっ?」
僕と水無月さんの会話に、如月さんが口を挟んだ。
違うって何だ?
「リカさん??」
僕が尋ねると、リカさんは目をそらして、何か言いたげに唇を噛んでいる。
「リカちゃん……きちんと言ったほうがいいよ」
水無月さんが如月さんに声をかけた。
多分、今日会話をしているのを見たのは初めてだ。
「……でも」
「シロウくんに一生、誤解されたままでいいの?」
「あんたにとってはそのほうがいいんじゃないの、マイ」
「そんなこと言っちゃだめ」
「??」
なんのことを言ってるんだろう。
二人の会話についていけない。
「あの……リカさん、マイさん?」
僕が改めて二人に声をかけると。
「シロウってさ。昔……私と一緒によく遊んでたことを…………覚えてない……よね?」
「……………………え?」
何を言ってるんだ。
そんなことあったわけがない。
「シロウくんは……忘れちゃったんだよ」
水無月さんが悲しそうに言った。
「二人は何を言って……」
僕の戸惑いとは関係なしに、如月さんは言葉を続けた。
「シロウは……私と昔は仲良かったんだよ。お姉さんがいなくなる前は……」
……ズキン、と頭痛がした。
「な、なにを……」
僕の声が震えている。
何か、僕はとても大事なことを忘れている、のか?
「ちょっと、長い話になるけど……」
如月さんはゆっくりと口を開いた。
◇如月リカの追憶◇
小さい頃の私は、どちらかというと引っ込み思案だった。
人見知りで、うまく友達が作れない。
そんな時、私をよく遊びに誘ってくれたのは『隣の家』のシロウくんとアヤお姉さんだった。
私と同い年の佐々木シロウくん。
その面倒を見ている中学生のアヤお姉さんは、今はマンションが立っている家の近くの空き地でよく遊んでくれた。
気がつくと私は、二人と一緒に遊ぶ機会が多くなっていた。
「リカちゃんー♪ 今日も来てくれたんだねー」
アヤお姉さんはいつも優しかった。
「リカちゃん、今日は砂場で遊ぼう」
昔のシロウは明るくて、人見知りな私の手を引っ張って一緒に遊んでくれた。
天気が悪い時は、シロウの家や私の家で一緒に遊んだ。
アヤお姉さんは料理が得意で、よく私にクッキーやパンケーキを焼いてくれた。
「リカちゃん、このゲームやろ」
「う、うん……でも、私ゲーム下手だけど……」
「僕が教えるよ。兄ちゃん相手に鍛えられてるから」
「うん!」
シロウはいつも私をひっぱってくれた。
私はシロウやアヤお姉さんと一緒に遊ぶのが好きで、……シロウが好きだった。
「私も妹が欲しかったなー、リカちゃんみたいな。弟も可愛いけど、妹も欲しかったなー」
アヤお姉さんはよくそんなことを言っていた。
「わたしも……アヤお姉ちゃんが本当のお姉ちゃんだったら……」
一人っ子だった私は、シロウが羨ましかった。
「じゃあ、リカちゃんがシロウくんのお嫁さんになったら、私の妹だね☆」
「お、おヨメさん!?」
私はびっくりして口をパクパクさせた。
「リカちゃんは、シロウくんのこと好き?」
「え、えっとぉ………………はい」
「ふふっ、うちのシロウくんをよろしくね」
私は赤くなりながら頷いた。
多分、アヤお姉さんは幼い私をからかって、軽い気持ちで言ったんだと思う。
けど、私はそう言ってもらえて嬉しかった。
「僕もリカちゃんが好きだよ!!」
「っ!!」
シロウに言われて、私は真っ赤になった。
昔のシロウは、すごくはっきりものを言う子だった。
「ずっと一緒に遊ぼうね~、リカちゃん♪」
「う、うん」
私はシロウにいつも振り回されていた。
……今じゃ、考えられない。
◇
「シロウくんって、小学校は私と一緒だよね?」
ある日、シロウくんの家で一緒にゲームをしていた。
「ん……うん…………そうだよ。この辺に住んでる…………子は全員同じ……あっ! くそ! また、負けた!」
シロウくんが悔しがってる。
ゲームの対戦相手は……。
「高月くんー、ちょっとは手加減しなきゃ。相手は六歳だよー?」
「左手しかつかってないんだけどね」
アヤお姉さんの友達の男の子。
確か名前は……高月くんって呼ばれてた気がする。
「マコト兄ちゃん! もう一回!」
シロウくんが、何十回目かの勝負を挑んでいる。
「オーケー」
アヤお姉さんの友達は、いつも楽しそうにゲームしていた。
(アヤお姉さんの彼氏……なのかな?)
優しそうな男の人だった。
「くそー! 全然、勝てない!」
「また、今度ね。次はさーさんね」
「アヤ姉ちゃん! カタキとって!」
「ふふふっ、アクションゲームなら任せなさい!」
アヤお姉さんとそのボーイフレンドは、いつも楽しそうで。
(私とシロウくんもこんな感じでずっと仲良しだったらいいなー)
そう思ってた。
小学校は一緒だから、今よりもっと気軽に会える。
(早く小学校に行きたいなー。シロウくんと一緒のクラスになれたらいいなー)
そんなことを考えてたのをよく覚えてる。
◇
「リカ、しばらくお隣の子とは遊べないの」
楽しかった日常が崩れるのは一瞬だった。
悲しそうな顔で私に説明をしたのは私のお母さんだった。
「な、なんで!?」
私は当然、理由を聞いた。
「お隣のお姉さんは…………大きな病気で。ずっと入院をしないといけなくなったの。だからもう会えないの」
私のお母さんは私を抱きしめながら、悲しそうな声で言った。
「だ、だったら! シロウくんは!? シロウくんに会いに行くから! きっとお姉さんが入院して寂しがってると思うから!」
それは私にとってごく当然の考えだった。
大好きなシロウくんが、寂しがってるなら会いに行ってあげたい。
なによりずっと三人で遊んでいたのに、もう会えないなんて許せなかった。
けど……。
「ダメよ、リカ。お隣のシロウくんも今は誰とも会えない状態なの。だからしばらくは我慢しなさい」
母からの言葉は有無を言わさぬ強い口調だった。
「そ、そんな……」
当時、6歳の私にそこまで言われて親に逆らうことはできない。
絶望したのを覚えている。
この世の終わりのような顔をしていた私に、お母さんは優しく言った。
「大丈夫よ、リカ。お隣のシロウくんは、同じ小学校だから……。きっと4月になれば会えるから」
「う、うん……」
今は12月。
来年の4月になれば、一緒の小学校でシロウくんに再会できる。
だから私を、親の言う通り小学校の入学式を辛抱強くまった。
それまでの間に、何回か家の前の空き地に一人で行ったけど、シロウくんとアヤお姉さんに会うことはなかった。
(大丈夫……4月になれば……4月になればシロウくんと会える……)
それだけが私の切なる願いだった。
そしてついに……。
◇
満開の桜が小学校への通り道に薄桃色の花びらを落として彩っている。
私は新品のランドセルを背負って、お母さんに手を引かれて入学式に参加した。
初めての小学校に緊張している同級生の顔に、見覚えがある人影を私は一生懸命探した。
(シロウくんは……きっとどこかにいるはず……!!)
結局、入学式では見つからず、クラス発表があって私は1年A組に案内された。
1年A組のクラスメイトの中に、保育園の友達の顔はあったけどシロウくんはいなかった。
(じゃあ、別のクラス……それとも一緒の小学校じゃなかった……?)
どんどん不安が増してくる。
担任の先生からの挨拶と、クラスでの自己紹介が終わった小学校初日は解散となった。
クラスメイトたちは親と手を繋いで帰っていく。
ただ、私は他のクラスへと走った。
シロウくんの姿を確認したかった。
(どこ……? どこにいるの……?)
私が1年B組……1年C組と足を運んで……
(いたっ! シロウくんだ!)
昨年の12月からずっと会っていなかった友達。
会いたかった人。
私が大好きな男の子。
「シロウ君!!!」
私は周囲の人が驚いて振り返るくらいの大きな声で名前を呼んだ。
けど、シロウくんの反応は恐ろしいほどそっけなかった。
「………………」
私が呼びかけても反応がない。
「あの……シロウくん?」
明るかったシロウくんの表情は、暗く沈んでいる。
「……………………」
私を見る目は、まるで『知らない人』を見る目だった。
「あの……シロウくん…………ひ、久しぶりだね」
シロウくんの冷たい反応に、心が折れそうになりながらも私は頑張って話しかけた。
けど、シロウくんの口から出た言葉は、私が考える最悪よりさらに酷いものだった。
「きみ………………だれ?」
シロウくんにそう言われた私は、ぐらりと世界が傾いた。
更新、遅くなってすいません。
今後の更新予定。
8月30日 ゼロ剣の更新
9月6日(日)までにドSペット
ぼちぼち更新再開します。




