ep.26 合宿 二日目
合宿二日目。
今日から新たな三名が合流してきた。
「やっほー☆ リカー!」
「きたよー、マイ」
「おお~、すげぇな、この別荘……」
如月さんの友人の清水キョウコさん。
水無月さんの友人の加藤ミオリさん。
そして、隣の席の風間くん。
学期末にたまたま声をかけたら、来てくれることになった。
風間くんがいなかったら、男子が僕一人になるところだった。
気まずいなんてもんじゃない。
来てくれて感謝。
「キョウコ、いえーい☆」
「いえーい」
清水さんと如月さんがハイタッチしている。
「いらっしゃい、ミオリ」
「ん」
水無月さんと加藤さんの会話はあっさりしている。
きっと加藤さんは、水無月さんの別荘に何度も来ているだろうから慣れてるんだろうな、と思った。
(なぁなぁ! シロウくん! すげーな、おまえ!)
小声で風間くんに脇腹をつつかれる。
(ああ、凄いよね。水無月さんの家のこの別荘は……)
(違うって!)
(なにが?)
僕が首をかしげる。
(昨日は水無月マイさんと如月リカさんの三人で過ごしたんだろ? やべーって!)
(そうかな……そうかも)
確かにうちのクラスの頂点の二人と一晩一緒だったのか。
あんまり深く考えてなかったけど。
(で、どっちに夜這いかけたんだ?)
(は?)
何を言ってるんだ、君は。
(まさか……何もしてないのか?)
風間くんが目を丸くする。
なんでそんな驚かれるんだ。
夜這いなんてするわけないだろ。
「ねーねー。男子二人で何を話してるの?」
「こそこそして、どしたの?」
僕と風間くんがヒソヒソ話していると、水無月さんと如月さんが僕らのそばで聞き耳を立てていた。
「な、なんでもないよ。なぁ、シロウくん!」
「そうそう、大した話はしてないよ。リカさん、マイさん」
僕と風間くんは首を横に振る。
「ふーん?」
「ほら、とりあえず荷物を部屋に運んだら?」
水無月さんと如月さんに急かされて、僕らは移動した。
ちなみに僕の隣の部屋は風間くん。
女子部屋はロビーを挟んで反対側だ。
「くっ……、やっぱり男子部屋と女子部屋は離されるか……!」
と風間くんが何故か悔しがっている。
(昨日は女子からやってきたんだよなぁ)
ということは秘密にしておこう。
「なぁ、シロウくんはこれからみんなと海に行くんだよな?」
荷物を自分の部屋に置いたあと、なぜか僕の部屋にずっといる風間くんが話しかけてくる。
確か水無月さんたちは、これから海に集合とか会話をしていた。
「うーん、僕は昨日たくさん泳いだし今日は部屋で休んでいようかなー」
本来は漫画を描く合宿だったはずだ。
けど、昨日は遊んだだけだった。
できれば今日は絵を描きたい。
「ええーー! シロウくん、そりゃないだろー! せっかく来たんだからさー。一緒に海に行こうぜ!」
「わ、わかったよ。海には行くから」
僕は風間くんのお願いに前言を翻した。
(まぁ、絵の練習は夜にできるか)
今日は流石に如月さんと水無月さんも夜に押しかけたりしないだろうし。
僕は浴室で乾燥させてあった水着を取りに行った。
◇
「わー、綺麗なビーチ☆ ここって私たちだけなんだよね?」
「そうそう、貸し切りなのがいいよね」
清水さんと如月さんは、もう海に駆け出して遊んでいる。
清水さんも如月さんに負けずスタイルがいい。
「マイ、背中に日焼け止め塗ってくれない?」
「いいよー、私もあとでお願いね」
水無月さんと加藤さんは、ビーチパラソルの影で日焼け止めクリームを塗っている。
加藤さんはまったく日焼けしていない真っ白な肌に、上品な薄緑の水着に薄手のパーカーを羽織っている。
「天国か……ここは」
「風間くん? どしたの?」
隣の風間くんが感動した様子で立っている。
「おいおいシロウくん! うちの学園で十指に入る美人四人の水着姿が見放題なんだぞ! こんな役得なことないだろ! 今日は来てよかった」
「……喜んでいるなら何より」
僕はどちらかというと水着姿のクラスメイトを直視できないから、困ってるんだけど。
どうやら風間くんとは考え方が違うっぽい。
「ねー、シロウくん。海行くよー」
日焼け止めを塗り終えた水無月さんがこっちにやってきて僕の手を引っ張った。
「風間くん、今日はよろしくね」
「加藤ミオリさん、よろしくねー」
あっちでは加藤さんと風間くんが挨拶している。
加藤さんだけはクラスが違うから、僕らとの関わりが薄いけど僕と違ってコミュ力の高い人なので問題んなさそうだ。
「シロウー! はやくはやく!」
如月さんもやってきて、水無月さんと一緒に手を引っ張られた。
この二人、昨日もたくさん泳いだはずなのに元気だなー。
それから、6人でビーチボールで遊んだり。
スイカ割りをしたり。
浮き輪でまったり泳いだり。
どこまで遠泳できるかで勝負した。
そして…………体力的に一番最初に脱落した僕は、浜辺で休んでいた。
(皆、元気だなー……)
普段、全然運動をしない僕ではついていけなかった。
「ねーねー、佐々木くん」
ビーチパラソルの影で寝転んでいると話しかけてきたのは清水キョウコさん。
如月さんと仲良しのギャルっぽい美人さんだ。
「佐々木くん、大丈夫?」
その隣には水無月さんの幼馴染の加藤ミオリさんもいる。
こちらは線の細いお嬢様っぽい外見で、対照的な二人だった。
(なんでこの二人が一緒に……?)
確か、この合宿ではほぼ初対面だと聞いてたけど。
もう仲良くなったんだろうか?
「ちょっと、泳ぎ疲れたからもう少し休んでるよ」
と僕は答えた。
「隣座るねー☆」
「私はこっち」
「…………え?」
右隣に清水さん。
左隣に加藤さんが座る。
女の子二人に挟まれた。
なぜ、こんな配置に??
「シロウくんってさー」
オレンジ色の水着に日焼けした肌が艶めかしいギャルっぽい清水さんが僕の顔を覗き込んでっくる。
「どっちが本命なの?」
反対側からは清楚なライトグリーンの水着に真っ白い肌が眩しい加藤さんが上目遣いで問うてきた。
「えっと…………本命ってなに?」
普段、そんなに会話することがない美女二人に挟まれて僕の頭は混乱しっぱなしだった。
「だからー、リカとマイちゃん。二人から迫られてるでしょ?」
「佐々木くんがどうするのか気になる」
清水さんと加藤さんがこちらに身を寄せてくる。
あの……めっちゃ肌が接触してるんですが。
「いや、迫られてるとかでは……」
と言いつつ昨夜のことを思い出す。
水無月さんと如月さんが僕の部屋にやってきた時のこと。
(普通は夜に男の部屋に来ないよなぁ……)
「ねーねー、もう告白された?」
「昨夜は何かあったでしょ?」
二人に言われて僕はきょとんとした。
「な、何もなかったよ?」
「いやー、それは嘘だよ。リカが今日はピリピリしてるし」
「マイの様子がいつもと違う。ほんとのこと教えて」
僕の答えは即座に否定された。
(如月さんと水無月さんの様子が普段と違う……?)
二人の様子を見ると、風間くんと3人で浅瀬で遊んでいる。
いつも通り、仲良さそうにしか見えないけど。
「リカとマイちゃん今日は会話してないね」
「普段はもっと話すのに」
「そういえば、確かに……そうかも」
人数が増えて気づかなかった。
昨日までは普通に会話してたはずが、今日は如月さんと水無月さんが会話しているのを見てない。
昨日僕の部屋に来た時が最後だろうか?
僕の部屋では普通に話してて、その後二人で帰ったはずで……。
(あの後、何かがあった……?)
「何か思い出した?」
「教えて」
両隣から覗き込まれる。
ふ、二人とも顔が近い……!
緊張して喋らないんだけど!
そんな様子に如月さんと水無月さんが気づいたようだ。
「ねー! 三人で何話してるの?」
「私も混ぜてよ」
「シロウくん、そろそろ元気になったか?」
風間くんも一緒にやってきた。
もちろん、如月さんと水無月さんのこと話してたなんて言えるわけなく。
曖昧に誤魔化した。
その後は、しばらく海で泳いで「疲れたから帰ろー!」と如月さんの一声で、皆で宿に戻った。
◇
ジュージューと肉の焼ける音が響く。
香ばしい食欲を誘う煙にお腹が鳴りそうになった。
今日の夕食は浜辺でバーベキュー。
食材の用意は別荘の管理人さんがしてくれて、その食材の切り分けや盛り付けは女子たちが。
火の準備は僕と風間くんという役割分担。
風間くんは家族でアウトドアへよく行くそうで、手際よく炭に火をつけていた。
おかげで僕は、女子たちが持ってきた肉や野菜を焼いていく簡単な作業をするだけだ。
「わー、このお肉柔らかっ!」
「このエビおっきいー♪」
如月さんたちの楽しそうな声が聞こえる。
「シロウくん、食べないの?」
トングを握って次々と食材を網の上に並べては、ひっくり返している僕に水無月さんが話しかけてきた。
「僕は他に仕事してないから、しばらくは焼き係をやるよ」
と言って肉をひっくり返す。
「ふーん……」
それを見ていた水無月さんが、一枚焼けた肉を箸で掴んだ。
「シロウくん、はい。あーん」
「え?」
ぎょっとして視線を上げると、水無月さんがこっちに肉を差し出している。
「あの……」
僕は自分で食べれるよ、と言おうとしたが。
「はい、あーん☆」
ニコニコしたまま水無月さんは、さらに迫ってくる。
「……い、いただきます」
拒否できる空気ではなかったので、僕は大人しく運んでくれた肉を口に入れた。
歯で肉を噛み締めた瞬間、肉汁と旨味が口の中にあふれる。
(なんだこの肉……美味っ!)
普段食べてる肉を柔らかさが全然違う。
「美味しい、ありがとう、マイさん」
「どういたしましてー、じゃあ他に食べたいものはある?」
「えっと……」
こんなの食べたらご飯が欲しくなるなー、と思っていたら。
「はい、シロウ。あーん」
「え?」
気がつくと隣にいた如月さんが、僕におにぎりを差し出してきた。
どうやらバーベキューをしながら食べやすいように女子たちが作ってくれたものらしい。
「シロウ、あーん☆」
如月さんはニコニコしている。
が、私の作ったおにぎりが食べられないの? という言外の圧を感じる。
僕はぱくっとおにぎりにかぶりついた。
(美味し……)
程よく塩味が効いた塩むすびは、口の中でほぐれ、肉で脂っこくなった口の中をリセットしてくれる。
「ありがとう、リカさん」
「私が作ったの。どうだった?」
「美味しいよ。作るの上手だね」
「でしょ? いつでも作ってあげるから」
おにぎりって上手く作るのが意外に難しいから、如月さんって料理得意なのかな?
見かけによらないなー、とか考えていると。
「はい、シロウくん。こっちも食べてみて☆」
水無月さんから大きな焼きホタテを差し出され、それを食べ。
「シロウ、はい」
とさっき食べかけだったおにぎりの残り半分を如月さんに食べさせてもらった。
水無月さんと如月さんが、交互に食べ物を差し出してくる。
(なんか……餌付けされているような……)
肉の焼き係のはずなのに、気がつくとけっこう食べていた。
「シロウくん、焼き係代わるよ」
と風間くんが言ってくれたので、僕は一息ついた。
(本当は焼き終えてから食べようと思ってたんだけど)
すでに水無月さんと如月さんに散々食べさせられていたので、腹七分くらいになっている。
肉と米はたくさん食べたので、何か野菜が食べたくて網の上を眺めるといい色になった焼きトウモロコシが目に入った。
(コーンって野菜だっけ?)
どこかの国だと主食扱いだった気がするが、日本だと野菜だからまぁいいだろう。
僕は二分の一にカットされたコーンに軽く醤油を掛けた。
醤油が火に炙られて、香ばしい匂いに包まれた。
直接手では掴めないので、アルミホイルで包み口に運ぶ。
焦げ目がついた実にかぶりつくと、ジュワっと実が弾け、濃厚な甘みと焦げた醤油の塩味が広がった。
(熱っ! ……でも美味い)
焼きとうもろこしなんて、久しぶりに食べたな。
昔、兄さんたちに祭りに連れて行ってもらって以来だった気がする。
「ねー、シロウのそれ美味しそう。ちょっと一口貰っていい?」
僕が焼きとうもろこしを、ちびちびと食べていると如月さんが隣から覗き込んできた。
「いいけど……、熱いよ?」
「へーき、へーき。いただきまー……熱っ!」
ツッコミ待ちのボケなんだろうか?
よっぽど熱かったのか、涙目になって舌を出して息をしている。
「えっと、水飲む?」
「飲む」
僕はトウモロコシを皿に置いて、紙コップに水を注ぐ。
如月さんに渡すと、ゆっくりと口の中を冷やすように飲んでいた。
「リカさんって猫舌?」
「…………そうかも」
「じゃあ、もう少し冷ましてから食べようか」
「……うん」
僕はさっき置いた焼きトウモロコシを、手にとってかじる。
まだ熱いけど、食べやすくなっていた。
「さっきよりはいいかも」
「ほんと?」
と言って如月さんが顔を近づけてくる。
カリ……と、僕の持っているトウモロコシにかぶりついた。
(近い……)
顔の位置が10cmくらいしか離れていない。
改めて思ったけど、普通二人でこんな食べ方しなくない?
「どうしたのシロウ、食べないの?」
如月さんが間近に顔を近づいて聞いてくる。
(くっ……可愛い)
わざとやってるのか、天然なのか。
10cm先の美人のアップに僕が視線を漂わせていると。
「シロウくんー☆ 喉乾いてない?」
水無月さんが僕に身体をあずけるように、寄りかかってくる。
「確かにちょっと喉が乾いたか……」
「はい☆ 飲ませてあげるねー」
「!?」
自分で飲めるよ、という前に何かの缶ジュースを口元にもってこられた。
仕方なくそれを、コクリと飲む。
……奇妙な味がした。
炭酸ジュースのようだけど、甘くない。
むしろ……苦み? があるような。
「マイさん、なにこれ?」
「ビールだよ」
「はっ!?」
思わず吹き出しそうになった。
「マイ! 何飲ませてるの!?」
リカさんもびっくりした声を上げる。
「あははっ! ダイジョーブ! それってアルコール0%だから」
水無月さんがケラケラと笑う。
僕は水無月さんが持っている缶を見ると、確かにアルコール0.0%と書いてある。
「へぇ……私も一口飲んでみる…………うわっ……何この味」
リカさんが顔をしかめた。
甘い飲み物が好きなリカさんは嫌いそうな味だよなー。
「シロウくんはどうだった?」
水無月さんが二マーとした顔で覗き込んでくる。
(なんか酔ってない……?)
本当にアルコール入ってないんだろうか。
僕はもう一口、ノンアルビールを飲んだ。
不思議な味だったけど……。
「嫌いじゃない……かな」
甘い炭酸ジュースよりは、ご飯に合う気がする。
「そうだよねー、私も好きー☆」
僕が飲んでいた缶を奪われ、水無月さんがコクコクと飲み干した。
隣の如月さんが面白くなさそうな顔をしている。
いや、はっきりと水無月さんを睨んでいた。
それに気づいた水無月さんも笑顔をひっこめ冷たい目で如月さんを見つめ返す。
「…………」
「…………」
それでもさっきから二人とも直接、会話しない。
やっぱり昨夜何かがあったのだろうか?
ちらっと周囲を見ると、風間くん、清水さん、加藤さんがワクワクした目でこっちを見ている。
(ここじゃ、話ずらいな……)
「リカさん、マイさん。ちょっと、散歩しようか」
と、僕は二人に声をかけた。




