ep.25 合宿 初日(夜)
ーーコンコン
もう一度、ドアがノックされた。
「…………はい」
僕は小さな声で返事した。
うとうとしていたから気のせいかと思ったけど、どうやら誰かが尋ねてきたようだ。
「シロウくん……今いいかな?」
きぃ、とドアが開いて入ってきたのは水無月さんだった。
昼間とは違う薄手の淡い青色のワンピースを着ている。
「どうかしたの?」
僕が聞くと。
「ちょっと、話がしたくて」
と微笑んだ。
そのまま部屋に入ってくる。
「おじゃましまーす」
水無月さんはベッドの端に腰を下ろした。
お風呂上がりなのだろうか。
ふわりとシャンプーの香りがする。
僕は少し迷った末、1人分くらいのスペースを空けて同じベッドに座った。
「それで……どうしたの?」
僕は改めて尋ねた。
「んー……特に用事があったわけじゃないんだけど」
と言って僕の方に身体を寄せてきた。
肩がくっつかどうかの距離。
普段も水無月さんの部屋で二人きりなことはよくあるはずなのに、今日はやけにドキドキする。
いつもと違う場所だからなのか。
昼間に水着姿を見て、水無月さんの身体のラインをはっきり意識してしまっているからなのかもしれない。
「折角の漫画の練習合宿なのに初日は全然時間が作れなかったね」
僕は高ぶった気持ちを落ち着けようと、話題をふった。
「まぁ、それは……大丈夫だから」
「っ……」
さらに水無月さんが身体を寄せてくる。
吐息が耳に当たった。
甘い香りがする。
水無月さんのか細い肩が僕に寄りかかる。
普段、絵の描き方を教えている時も同じくらいの距離感。
だけど、今のこの状況は……。
「…………」
「…………」
水無月さんは何も言わない。
こちらを見つめてくる。
(え……なに、この時間)
外からはザザン……と波の音だけがやけにはっきりと聞こえてくる。
「シロウく……」
水無月さんが何かを言おうとしたその時。
ーーコンコン
とドアがノックされた。
僕と水無月さんは顔を見合わせる。
現在、この別荘に泊まっているのは管理人を除けば僕たちだけだ。
つまり、ノックをしているのは……。
「シロウー、今ちょっといい?」
ドアの向こうから聞こえたのは、如月さんの声だった。
「い、いいよ!」
僕はベッドから立ち上がって、返事をした。
噛んでしまった。
僕はドアの方に向かうと、こちらが開く前にドアが開いた。
如月さんは、赤いキャミソールに白の短パンというラフな格好だった。
「ごめんね、夜遅くに……。ちょっと話がしたく…………えっ!」
ドアを開いた如月さんの目が見開かれる。
その先にはベッドに座った水無月さんの姿があった。
「な、なんでこの女がここに!」
如月さんが水無月さんをびしっと指さす。
この女は、ないだろう。
「さっき来たんだよ。リカさんはどうしたの?」
「わ、私は……とりあず入るわ!」
如月さんがずんずん俺の部屋に入ってきて、水無月さんの眼の前で立ち止まる。
「マイ、抜け駆けするなんてね」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
水無月さんが立ち上がる。
そして、僕のベッドの隣で睨みあった。
「……」
「……」
剣呑な空気感が部屋に満ちる。
(なんで僕の部屋で……!)
今日はゆっくり休むはずだったのに。
「リカさん、何か用事があったんじゃないの?」
僕は二人の間に割り込んだ。
「それは……」
リカさんが言い淀む。
僕の顔と、水無月さんの顔を交互に見た。
「マイが帰ってから話すわ!」
「なんで!?」
水無月さんが焦った表情になる。
「さっきまで二人きりだったんでしょ! ずるいじゃない!」
如月さんが唇を尖らせて言った。
「さっき来たばっかりだよ? 多分、2~3分も経ってないから」
「そうなの?」
如月さんはちょっと疑った目でこっちを見てくる。
「じゃあ、マイの用事が終わるまでここで待ってる」
そう言って、マイさんが座ってないほうのベッドに如月さんは腰掛けた。
(この状態で……さっきの続きを話すのか?)
二つ並んだベッドに、片方は淡い青色のワンピースの水無月さんが座っている。
もう片方には足を組んでベッドに座りながら、スマホをポチポチ見ている如月さん。
なんで僕の部屋に二人とも集まるんだろう。
「マイさん……?」
何となく隣には座らずに話しかけた。
「…………」
水無月さんは何も言わない。
しばらく待ってみたが、
「えっと、リカさん……?」
「マイのあとでいいわよ」
さっきと同じ答えだった。
(えー、ずっとこのままなんだけど……)
RPGでイベントが進まない状態みたいだ。
回収し損ねたフラグでもあるんだろうか、なんて馬鹿な事を考えていると。
「リカちゃん! 今日は出直そっか!」
水無月さんが突然立ち上がって言った。
「……なんでよ?」
如月さんは不満げだ。
「シロウくん、困ってるみたいだし」
「そうなの?」
二人の視線がこっちに向く。
困ってるというか……。
「今日は泳いで疲れたし、そろそろ寝たいとは思ってるよ」
僕が答えると。
「わかったわよ……、また今度にするわ」
如月さんが立ち上がってドアの方へ向かった。
「じゃあね、シロウくん。おやすみ」
水無月さんもそれに続いて出ていった。
「マイさん、リカさん、おやすみ」
僕は二人をドアの外まで見送った。
二人は自室に戻っていったようだ。
「はぁー、どっと疲れた……」
僕はさっきまで如月さんが座っていたベッドに倒れ込んだ。
目を閉じた瞬間、睡魔に襲われる。
そのまま眠りに落ちた。
夢は見なかった。
◇水無月マイの視点◇
「…………」
「…………」
私とリカちゃんは無言で廊下を歩く。
一応、男の子ってことで私たちとリカちゃんの部屋は少し離れている。
私とリカちゃんの部屋は隣同士。
だから、このあたりで別々に別れるはずなんだけど。
「あの! リカちゃん!」
私は勇気をだして話しかけた。
「なに?」
思ったよりも不機嫌じゃなく返事があった。
最悪、無視されるかと思ってたけど。
「ちょっと、お話しない?」
「なんの話?」
あまり乗り気じゃないみたい。
それはわかってるけど……。
「シロウくんのことで」
というとリカちゃんは、ちょっとだけ考える仕草をして「いいよ」と答えた。
私はリカちゃんを自分の部屋に招き入れた。
私は自分の荷物を置いてあるベッドに腰掛けると、リカちゃんはもう一つあるベッドに座った。
(な、何から話そう……_
自分から声をかけた手前、話題を振らなきゃ。
でも、いきなり本題から入るのも……。
私が迷っていると。
「マイってさ……」
リカちゃんから声をかけられた。
えっと、何を言う気?
まだ、心の準備が……。
「マイって……シロウのこと好きだよね?」
どストレートな質問が私にぶつけられた。




