ep.11 佐々木シロウは、過去を思い出そうとする
勉強会はお開きになった。
如月さんと僕は二人してなんとも言えない気まずい空気になり「今日はここまでね!」という如月さんの言葉が決め手になった。
僕は部屋を出て、如月さんに玄関まで見送られた。
「今日はありがとうね、シロウ」
さっきまでの泣きそうな表情は消え去り、いつもの勝ち気な笑みだった。
いつもの如月さんだ。
「こっちこそ、お茶とお菓子をありがとう」
僕が言うと。
「……今度はコーヒーともう少しちゃんとしたお菓子を買っておくから」
「別にそんな気を使わなくても」
「買っておくから!」
「……はい」
押し切られた。
ということは次の勉強会も開催は決定で、かつ如月さんの部屋でやるらしい。
まぁ、毎回奢るのがきついと言われたら僕としては反対するわけにもいかない。
「バイバイ、シロウ」
「ばいばい、きさら……」
言いかけて如月さんのジト目に気づく。
「ばいばい、リカさん」
「呼び捨ては?」
「ま、また今度」
「ふーん、わかった。じゃあね」
僕と如月さんは手を振って別れた。
今日はだいぶ距離が縮まった気がする。
如月さんの家を出て、すぐ隣の僕の家に帰る。
歩きながら考えるのは……。
(僕は子どもの頃如月さんとよく会ってた? 家に行ったことがある……のか?)
流石にあの既視感は偶然ではない気がする。
が、僕は覚えてない。
僕は六歳より前の記憶がほとんどない。
普通は四歳くらいからの記憶ははっきりしているそうなので、六歳まで覚えてないのは珍しいだろう。
なんせ、保育園の記憶がほとんどないのだから。
とはいえまったく記憶がないわけでもない。
担任の先生の顔はうっすら覚えているし、よく一緒に遊んだ子の顔も記憶にある。
ただ数少ない記憶の中に、幼い如月さんの姿はなかった。
(誰に聞けばわかるかな……? うちの両親は……帰りが遅いし、兄さんかな)
僕には兄が三人いる。
そのうち一番上の兄は社会人で自立しており、二番目の兄は現在大学生で一人暮らしをしている。
なので気軽に会うことがない。
三番目の兄は高校三年生で、この時間なら家にいるから昔のことを聞いてみようかな、などと考えていると。
「お、シロウ帰ったのか。最近遅いな」
ちょうど、兄が家から出るところだった。
すらりとした長身で顔が小さく中性的な整った顔をしている。
地味な僕と違い、人目を引く外見の兄だった。
「ただいま、兄さん」
「へぇー、さっくんの弟? 可愛い顔してるねー☆」
兄はいつものように女連れだった。
長い金髪の美人な女性が、兄にしなだれかかっている。
(また知らない女の人だ……)
イケメンな僕の兄はもてる。
いつも違う女性を侍らせている。
彼女が居たことがない僕とは正反対だ。
「じゃあなー、シロウ」
「お兄さん、借りてくねー☆」
「うん、気をつけて」
兄と女の人はイチャイチャしながら出かけていった。
きっと朝帰りなんだろう。
不良だ。
(昔の話を聞ける空気じゃなかった)
また、機会があったら聞いてみよう。
三天にいさんは、いっつも女の人といるからそんな機会がめったにないんだけど。
僕は自分の部屋に入って、ぱたんとベッドに倒れた。
そして自分の部屋を見回す。
あまり物がない殺風景な部屋だ。
本棚にある漫画や小説はほとんどが兄からの貰いもの。
僕は所有欲が少ない……らしい。
自分で買ったもの、というものがあまりない。
(つまらない部屋だな)
と思った。
さっきの如月さんの部屋のほうがずっと見ていて楽しい。
小物やヌイグルミ、アクセサリーや雑誌。
自分の好きなもので溢れていた。
その時、ピロンとスマホの通知音が鳴った。
画面には『マイ』と表示されている。
(水無月さんだ……)
なんだろうと思ってLIMEの画面を開くと、長文が書かれてあった。
(えっと、これは新しい漫画の設定か……)
僕は送られてきた長文を読んだ。
それは壮大な異世界の物語で、とても読み切りで終わるボリュームではなかった。
ただ、主人公のキャラは魅力的に思えた。
主人公は敵のチカラを『奪う』能力を持っている。
それだけならよくある設定だが、この主人公は『奪う』と同時に何かを『失う』らしい。
つまりは『チカラの強制交換』の能力者だ。
主人公は最初、『どんな動物にも好かれる』能力を持っていた。
しかし魔物に襲われ死にかけた時に、『チカラの強制交換』の能力に目覚めた。
そして、生き残るために『どんな動物にも好かれる』能力を捨てて、強い魔物と同等の肉体を手に入れた。
主人公は生き残ることができたが、代わりに生涯『動物には好かれない』体質になってしまった。
そうやって主人公は強さと引き換えに大事なものを失っていく物語……。
(ストーリー次第で面白くできそうな気がする)
少なくとも今まで水無月さんが作った案の中で一番面白かった。
――どうかな?
という水無月さんからのメッセージに対して。
――面白かったよ。
と僕は返した。
実際、面白かったから。
――本当!? じゃあ、これをもとに漫画を書いていくよ! 目指せ連載!
そんなメッセージと、拳を突き上げるキャラのスタンプが届く。
(いや、いきなり連載は無理でしょ)
と思ったが、その指摘はやめた。
水無月さんは楽しそうだったから。
(じゃあ、僕も絵の練習をしようかな)
まずは主人公のキャラデザを考えよう。
僕はスケッチブックを取り出し、鉛筆を筆箱から取った。
(とりあえず10パターンくらい作ってみようか)
僕は白い用紙に勢いよく、しかし丁寧にアタリを描いた。




