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ドSな虐めっ子が僕の『ペット』になった件  作者: 大崎 アイル


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12/12

ep.12 水無月マイは、漫画を描く その2

◇水無月マイの視点◇



「えっ!? このキャラクターデザインを一晩で書いたの!?」


 私は大声で叫んだ。


 私が漫画のアイデアをシロウくんにLIMEで送った翌日。 


 放課後に私たちは集合した。


 場所は私の部屋。


 そこで見せられたのは5()0()()()()()の紙の束。


 主人公,ヒロイン、敵キャラ、モブキャラ、簡単な背景画まであった。


 それぞれ数パターンずつ。


(……私がこれを書こうと思ったらどれくらいかかるだろう?)


 それを考えて意味のないことだと気づく。


 そもそも私じゃ描けない。


 乱暴に描かれているようで、どれもぱっとみてわかりやすく特徴がある。


 それにポーズだって毎回違っている。


 絶対に私じゃ無理だ。


 とはいえ……。


「主人公のキャラデザだけど、もう少し身長を高くできないかな? あと目つきをもう少し鋭く……」


 とても上手いデザインだったけど、私の好みではなかった。


「えっと……こんな感じかな?」


 シロウくんがさらさらと白い紙にキャラを書き出す。


 うわ、やっぱり上手いって……。


「でも、なにか違うなー。うーん、私の伝え方が悪いのかな……」

 私が頭を悩ませていると。


「参考資料とかない? もしくは既存のマンガで似たキャラとか」

 とシロウくんに言われてはっとした。


「それならあるよ! 私がすごく好きなマンガのキャラ!」

 私は自分の本棚からボロボロになったマンガを一冊取り出した。


 そして、あるページを開いてシロウくんに見せる。


「このキャラ! 主人公と因縁があるライバルキャラで、デザインが超カッコいいの! でも、打ち切りになっちゃってほとんど活躍シーンがなかったんだけど……」


 私はシロウくんに本を手渡した。


「へぇ……、この作品は知らなかったよ。水無月さんは、やっぱりマンガに詳しいね」

 と言ってシロウくんはしばらくそのページを眺めた。


 そして、()()()()()()()ペンを手に取った。


 違和感がある。


(見ながら描かないのかな?)


 まぁ、特徴を覚えるだけならパッと見ただけでもわかるのかもしれない。


 なんて考えていた。


 シロウくんはサラサラとペンを紙に走らせた。


「えっ……」


 私は完成した絵を見て目を疑った。


 それはさっきシロウくんに見せた私の好きなキャラが登場した見開きページの模写だった。


 髪型、ポーズ、服装、身につけている小物にいたるまで完璧に模写してあった。


 もちろん、ラフ画だから線はずっと荒い。


 でも、見ずに描いたとはとても思えない出来だった。


 だって、シロウくんはさっきこのマンガを初めて見たって言ってたよね?


 このキャラは初見のはずだよね。


 今は何も見ずに描いて……なんでここまで正確に描けるの!?


「し、シロウくん!」


「は、はい! ど、どうしたの!?」


 私は身を乗り出してシロウくんの肩を掴んだ。


 顔を近づけすぎたのか、赤くなって横を向かれちゃったけど、私は気にせず言葉を続けた。


「なんで、何も見ずにこんなに正確に描けるの!? 何かやりかたがあるの!?」


 もしかしたら絵が上手い人にとっては、初めて見た絵でもすぐに描けてしまうようなコツが……と私は期待したのだけど。


「あー、それは昔からなんだけど……。僕って()()()()()()()()()()()()()()みたいなんだ。写真みたいに覚えておくことができるから、さっきは記憶を頼りに描いただけだよ」


「えぇ……」

 あっさりと言うシロウくんに唖然とした。


(それって瞬間記憶能力(カメラアイ)じゃ……)


 一瞬で見た視覚情報を詳細に記憶して、写真のように再現できる人。


 そんな、まさかと言いかけてたった今その証拠を見せられたことを思い出す。


 まちがいなくシロウくんは瞬間記憶ができるんだ。


「の、能力者! 能力者なんてずるいよ!」

「え?」

 私が大きな声を上げると、シロウくんが目を見開いた。


「そんなに絵が上手いのに、スーパー能力まで持ってるなんて!!」

「いや……そんな大層なものじゃ……」


 シロウくんは謙遜するけど、絵かきにとってそれがどれほど便利な能力か!  


「はぁ……いいなぁ。そんな能力があれば、私だってもっと絵がうまくなれたのにー」

「練習すれば水無月さんも上手になるよ」


 シロウくんは励ましてくれるけど、私は羨ましい。


 それからもしばらく、私たちは新しいマンガの設定やストーリーについて話あった。


 絵に関してはほとんどシロウくんに任せきりになっちゃったけど。


 本当にマンガを描くのは初めてなのかな。


 デザインや背景、いろんなポーズまで自由自在過ぎて怖い。


 絵が上手いっていいなぁ……。


「ねぇ、こんな絵ってかける?」


 私がお願い(リクエスト)すると。


「これでどう?」


 と言って、ささっと描いてしまう。


 出来上がりはどれも素晴らしかった。


(シロウくんって……教室だと静かで目立たない感じだけど、物腰は穏やかだし、会話してると面白いし、よく顔を見ると整った顔してるし……もしかしてけっこうイイ男……なのかも?)


 ちょっとだけドキッとした。


(でもねー。もともとは私がSNSのアカウントを偶然知って、脅すような感じでマンガの手伝いをしてもらっているわけだし……。変な下心持っちゃいけないよね)


 私は邪念を払った。


「ねーねー、少女Aちゃん描いて」

 私が言うと。


「またぁ?」

 ちょっと困った顔をして。


 でも今までの絵で一番上手に描いてくれた。


(これは……神絵師……)


 なんでこれが何も見ずに描けるんだろう?


 画角(アングル)、表情、視線、姿勢(ポーズ)

 

 今にも動き出しそうで。


 絵に魂が籠っていた。


「うーん、やっぱりAちゃんは別格だなー」

「ありがとう」


 私の言葉に少し照れたように笑うシロウくん。


 そこでふと気になった。


「そういえば少女Aちゃんって、シロウくんのお姉さんがモデルなんだよね? もしかしてAってお姉さんのイニシャル?」

 私が聞くと。


「ああ、そうだよ。アヤ姉さんのイニシャルからとって少女Aにしたんだ」


「へぇー! お姉さんの名前はアヤさんって言うんだ!」


 私の推理は当たりだったみたい。


 にしても、お姉さんをモデルに女の子キャラを描いて、お姉さんのイニシャルをつけるとか……。


「シロウくんってシスコンだねー☆」


 私がついからかってしまうと。


「ははっ……、そうだね」


 いつものように優しくシロウくんが笑った。


 シロウくんは優しい。


 同年代の男の子に比べても、穏やかな性格の男子だ。


 だから……その時の私は、気づかなかった。


 シロウくんがほんの少しだけ寂しそうな顔をしていることに。


 その時の私は、気づけなかった。




 ◇佐々木シロウの視点◇




「じゃあね、水無月さん」


 外が暗くなってきた時間で、今日はお開きになった。


「うん、シロウくん。またねー」


 水無月さんが玄関まで見送ってくれた。


 外にはタクシーを用意してくれている。


(なんて贅沢な職場なんだ……)


 これって絶対、社会勉強になってないよなーと思う。


 好きな絵を描いて、可愛い女の子とおしゃべりして、バイト代までもらえる。


 おそらくこれより恵まれた職場は、そうそうないだろう。


 そんなことを考えながら僕は門のほうへ向かおうとして……。


「待って、シロウくん!」

 呼び止められた。


「どうしたの? 水無月さん」

 僕が振り返ると。


「あのね。私のこと水無月さんじゃなくて、名前で呼んでくれない?」


「…………え?」

 僕は固まる。


 なにを言ってるんだ、水無月さんは。


「な、なんで……?」

 僕が聞くと。


「今日、リカちゃんのこと名前で呼んでたよね?」

「げ」

 聞かれてた。


 だって、如月さんが苗字で呼ぶと不機嫌な顔になるから。


 確かに名前で呼んでいた。


 クラスメイトに聞かれないように、なるべく小声で言ってたのに!


「私たちって秘密を共有する仲でしょ? もっと距離を縮めたほうがいいと思うの」

 水無月さんがイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「……僕の秘密が一方的にバレて脅されたんじゃなかったっけ?」

 僕が半眼で言うと。


「そ、それはっ! たしかにそうだけど! でも、私がマンガを描いていることを言ってるのはシロウくんと親友のミオリだけだし、普段のキャラじゃなくて素で話してるのもシロウくんとミオリくらいだから!」


「そう言われると……そうかな?」

 確かに学校の水無月さんは清楚系美少女そのものだからなぁ。

 最初は僕も騙されていた。

  

 好きなアクション漫画を僕にキラキラした目で紹介してくるようなキャラではない。


 確かに秘密を共有しているといえるのかも。


「だからさ! 私のことは名前で呼んでね!」


「努力するよ……今日はおつかれさま、…………マイさん」


「うん! じゃあねー、シロウくん!」


 笑顔で見送られ僕は帰路についた。


 相変わらず、水無月さんは押しが強くてマイペースだなー、とか考えながら。


 


 ◇翌日の放課後◇




「ねー、シロウ。帰ろうよ」

「うん、いいよ」


 最後の授業が終わって、終業の鐘が鳴り響き、教室内がざわつく中。


 僕は如月さんに声をかけられた。


 理由は『勉強会』のためだ。


 先日、ちょっと気まずい空気になってしまったけど、勉強会は続くらしい。


 ちなみに、今日も授業中に悲しそうな目で何度も見つめられた。


 今日は水無月さんの漫画の手伝い(バイト)の日ではない。


 あと、如月さんからLIMEで前もって勉強会のことは連絡がきていた。

 

 うんうん。

 当日依頼はよくないからね。


 事前の連絡は大事。


 僕は教科書とノートをカバンに仕舞って、如月さんと並んで帰った。


 如月さんみたいな目立つ美人と、僕みたいな地味な陰キャが一緒に帰っているとクラスメイトに変に思われるのではないかと勘ぐったのだけど。


 どうやら僕と如月さんが同じ中学であることはクラスメイトたちも知っているようで、同じ方向だし一緒に帰ってるくらいの認識らしい。


 ちなみに僕と同じ中学の人はあと一人、同学年にいるらしいけどクラスが離れているので高校で話したことはない。


 もともと面識もほぼなかった人のはずだ。


 というわけで、僕と如月さんが一緒に帰っても特にクラスメイトに怪しまれはしないのだけど、隣の席の風間くんだけでは「なぁ、シロウ! 如月さんとはどこまでやったんだ!?」と意味のわからない質問をされる。

 

 どこまでってなんだ?

 あと、なんで君まで名前で呼んでるんだ。

 許可した覚えはないぞ。


(みんな距離を詰めるのがはやいなぁ……)

 はなく、僕も慣れないと。


 そんなことを考えながら、僕と如月さんは校舎の入口までやってきた。


 あとはここを出て正門から帰るだけなのだが……今日は勝手が違った。


「雨……凄いわね」

「だね。予報だとしばらく止まないらしいよ」


 僕と如月さんは顔を見合わせる。


 そとは「ザーザー」を通り越して「ドドドドド」という散弾銃のような雨だった。


 梅雨時期だし、よくあることだ。


 僕はカバンから折りたたみ傘を取り出した。

 

 そして、傘を広げて外に出ようとして気づく。


 如月さんが傘を広げていない。


「あれ? リカさん……もしかして」

「傘……忘れちゃって……」

 気まずそうに告げられた。


「あー……それは……困ったね」

 

 外は大雨。

 学校から駅までは遠くないが、この雨の中だと到着するころにはずぶ濡れだろう。


 んー、こういう時って学校で借りられたりしなかったっけ?

 いや、高校でそんなのはないか。


 僕が頭を悩ませていると。


「あのさ……シロウの傘に入れてもらってもいい?」

 少し顔を赤らめて如月さんに言われた。


「…………え?」

 ぽかんとした。


 その考えはなかった。


 いや、言われてみるとそれが一番手っ取り早いのだけど。


 でも、一つの傘に一緒に入って帰るって……それは。


 僕がなにかを言う前に。


「行こ! シロウ」

 如月さんが僕の傘の中に身体を入れた。


「っ!」

 折り畳み傘の中は狭い。

 

 二人で入るには、身を寄せ合う必要がある。


 如月さんは腕を絡めるように僕に身体を寄せてくる。

 

 柔らかい身体が押し付けられ、体温が2℃くらい上がった気がした。


「うわ。水たまり多っ!」

 と言いながら如月さんが歩くのに僕は遅れないように歩を進める。


 勉強会でも距離は近かったけど、今日は更に近い。


 僕と如月さんの顔の距離は10cmも離れていない。


 身体の距離はゼロcmだ。


 自分の心臓からバクバクと鼓動が聞こえる。


(心臓の音が伝わっていませんように……)


 僕は願いながら、如月さんとの相傘で駅を目指した。 


※本編とはあまり関係のないお知らせ※

 本作の主人公『佐々木シロウ』くんは、別作の『信者ゼロの女神サマ』のヒロイン『佐々木アヤ』の弟となります。

 知らなくてもよい設定なので、あまりに気にしないでください。

 フレイバーテキスト程度にお考えください。


 次回の更新は5月4日です。

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― 新着の感想 ―
>>『佐々木アヤ』 納得してしまった。
シロウ君ですが、思っていた通り、さーさんの弟だという点で今後どのように話が進んでいくのか楽しみになりました。 シロウ君ですが、既に漫画家デビューできるだけの実力を持ちながら、デビューしようとしないこ…
さーさん弟!? あー、そういう事はこちらだと亡くなった扱いなのか。 いや、転生してるから亡くなったのは間違いないんだけど。 マコトとかは行方不明扱いなんだろうか?
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