企業強盗
2024-09-04 表現変更
さて、面白くなってきやがった。人間じゃなくて警備ロボが最初の相手だとはな。
「いや面白くなってきた、じゃねえよ!? やり合うのは俺だぞ」
用心棒が吠える。
「ちゃんと準備はしてるさ」
そのうち攻め込む時に必要になるかと思って用意はしたが。いきなり必要になるとは思わなかった。
警備ロボットのFLIRカメラと光学カメラ対策は認識阻害パターンが印刷されたIR対応の幾何学模様ポンチョ。
FLIRカメラはポンチョを水で濡らして環境との温度差を減らせば見つかりにくくなる。その下にはアルミブランケットポンチョを重ねる。
単眼カメラの画像認識なら迷彩でなんとかなる。時間差分を取られると見つかりやすくなるが、まず問題ない。迷彩と背景とのエッジ部分の差が識別しにくくてサイズが認識できない。なので反応しないように設定されている範囲に収まる。風で揺れる木の枝やハトやカラスなんかにいちいちアラートを鳴らして人間が確認してちゃ仕事にならないからな。
視差カメラにはバレるが、ぼかしとサイズ違いのランダム配置パターンで認識には時間がかかりやすくなっている。これも認識処理の時間以上に速く動いてやれば小動物か至近距離に写りこんだ鳥か羽虫扱いされるだろう。
迷彩ポンチョのフード下には回帰性高反射素材が幾何学模様状に編み込まれたスナイパーベール。画像顔認証はこれでごまかす。人がいるかどうかってのは顔認識とミリ波レーダーで計測したサイズデータで照合してるからな。
レーダー対策は薄い吸収素材をアルミブランケットと迷彩ポンチョで挟んで、アルミの反射と干渉するようにしてみた。これで距離は多少ごまかせる。フェイズドアレイタイプのミリ波レーダーなら。格子模様っぽい何かがある、としか分からんはずだ。しかもそのサイズは頭部ベールの部分だけ。人間サイズには見えない。
単一距離計測型だとちょっとどうなるか。電波のあたり方しだいだろうな。本来は電磁波吸収体を3Dプリントしたい所だが都合のいい素材が手元にないし、視界を遮ってしまう。
解析ルーチンが大幅アップデートされていなければ、これでなんとかいけるだろう。固定式の監視カメラも単眼光学カメラとミリ波レーダーの組み合わせで背景と人物、ロボを切り分けてアラートを鳴らすようになっていたはずだ。これも同じライブラリを使ってるから誤魔化せるだろう。EMPと組み合わせればそうそう見つからん。
などと用心棒に語ってみせる。これでも企業内部にいた技術屋だ。物理セキュリティ部門の開発で食ってたという自負もある。それに、これから身体を張って前線に出る用心棒を不安にさせてもしかたがない。
「どっかでは光学迷彩が試験されているって話だが、それはどうなんだ?」
「光学迷彩ねぇ。フレキシモニターに画像表示をするくらいならできはする。環境光と輝度が違いすぎるから機械のセンサーにはモロバレだけどな。やるとしたら反射光型の電子ペーパーで状況によって迷彩パターンを切り替えるくらいが関の山だ。人間相手なら有効かもしれんが、カメラやレーダーにはばっちり写るぞ。
一昔前なら連邦王国の国防企業が赤外線光学迷彩ユニットを大々的に出してたが、車両に取り付ける代物だ。企業なんかの侵入対策は画像解析とレーダーの組み合わせで空間認識させるからな。
戦場とビル街じゃ勝手が違う。企業の開発室くらいのセキュリティレベルなら一つの手段だけで検知するのは時代遅れにもほどがある。場末のオフィスなら赤外線焦電センサーとカメラくらいのぬるいセキュリティがまだ現役だったりするが。
というかスモーク炊いたほうが効果的だろ。火災警報を鳴らされてもいいならな」
この手の擬装技術はどうしても軍事産業や企業の開発部門のほうが先行してる。素人は工夫してなんとかするしかない。
FLIR対応の迷彩素材布くらいなら一般市民でも買えるけど、警備ロボや監視カメラにはバレる。動けば差分取ってなにかがいるってのが分かるし。ミリ波レーダーと組み合わせた解析ならそこになにかある、というのがばっちり認識される。
「だから複数の手段を組み合わせてごまかすしかないのさ。さいわい今回は相手が使ってる機材が割れてる。ピンポイントでそれに対応するだけならなんとかなるさ。人間が出てきたら……まあ祈れ。
物陰に隠れて息を潜めてりゃバレにくい。迷彩は人間の目にも効くパターンだ。義眼を入れてたらバレやすくなるかもしれんがな。可視光、赤外線、熱源対応だがそれ以外だとどう見えるのか分からん。さすがに生体電流が見えるなんて義眼が開発されたなんてのは聞かないから大丈夫だろ」
と細かいところはごまかしつつ楽観的に語ってみるが、不安もある。
顔に出ていただろうか?
灰皿に積み上がった吸い殻が時間の経過を物語る。
気休めでも前向きな気持ちで動いてもらわないと成功率は下がってしまう。
「しかし定点タレットや警備ロボ、監視カメラがメインで人間はアラートが鳴るまで出てこないってのもどうなんだろうな。運用してる人間がAIに甘えて手を抜いてるからこそ裏街道まっしぐらな俺らが食えるんだろうけどよ」
「一応はまっとうな商売をしてる企業ってことになってるからな。露骨な武装警備兵を普段から置くわけにはいかねぇんだろうよ」
「で、実際のモノはこれか。ノーメックスの上下作業服に作業帽で移動ってのは、まあ分かるけどよ。その後に現場で着るズタズタの迷彩ポンチョとベールはどうなんだ」
ボロ布かなにかにしか見えないものを持ち上げて用心棒がグチる。
「さっきの説明とかぶるが、上に被るポンチョは画像認識阻害用。その下に着るアルミブランケット素材のポンチョがミリ波レーダーを乱反射させて距離誤認させる。間に挟まってるシートはレーダー波吸収素材だ。誤認率を上げる。頭から肩にかけてヒラヒラしてるのはシルエットをごまかすためのギリーだ。顔を隠すベールは内側からは見えるから問題ないだろ。
人間型に見せない、顔認識されない、距離をごまかす、レーダーでのサイズをごまかすの四拍子で機械にゃ分からねえって寸法だ。動いてなけりゃ人間にも見つかりにくいぞ。特に夜ならな。
行動を起こす前は銃を隠しとけよ。シルエットで認識されやすくなるからな。特に経験を積んだ人間はそこらへんに敏感だぞ」
「それは知ってるよ。現場にいたからな。しかも見つける側だ」
用心棒がこぼす。
俺にできるのは送り出してやることと無線でサポートすることくらいだ。数少ない同期を無駄死にさせるのは本望じゃない。同時にデジタル側でのサポートは情報屋に依頼している。今日はいないが実行前の再確認時から一緒に待機してもらうことになっている。
「じゃ、この計画をもういちどおさらいしようか」




