デリバリー屋
はい、こちらデリ。毎度ありがとうございます。注文ですね。酒とコーヒーと、氷も。はい、はい。それぞれ一人前。では10分後に折り返します。
毎度お定まりの注文電話。作り置きの棚から注文されたドラッグをワンパッケージにまとめて準備。イヤフォンに触れてコールバック。
「注文の用意ができました。どこまで持っていきましょ?」
「ではそこに五分後。帽子の子供がいますから声をかけて。合い言葉は1260」
適当な合い言葉をでっち上げ、小僧に聞かせる。
「1260。ストリート2077と2501の交差する角、喫茶Ruinerの前の街灯の下。35ニューイェン受け取ってこい」
小僧にクスリを詰めたチャック付きバッグを渡す。
10分ほど経過し、小僧が帰ってくる。
無言で35ニューイェンを渡してくるが、その肩を掴んで。
「客に40ニューイェン請求しただろ?」
青い顔をする小僧。
「どうして……」
「こっちはなんもかんもお見通しなんだよ。五ニューイェンは小遣いにはちっと多すぎるな?」
「ご、ごめんなさい」
声をうわずらせて、コインをポケットから取り出し、あわててこちらに差し出す。目の端には雫がたまっている。
「ま、今回は大目にみてやる。一割増し程度なら勘弁してやるさ。次からはもっと上手くやれ。客に高いと思わせるんじゃねえ」
といって三ニューイェンほど硬貨を渡してやる。
「殴ったり、しないの?」
「殴らねえ。殴れば俺の気が済むと思うのか?」
「うん、あ、いや……」
「そんな小銭でガキ殴ったりしてなんになる? てめえも欲しいものがあるならそう言え。腹が減ったなら飯を食わしてやるし、ゲームセンターで遊びたいならそのくらいの小遣いを渡してやる。たまにならな」
「なんで?」
「うるせえ。次はねえぞ」
そう言って小僧の頭を軽くたたく。ついでに目印の帽子を取り上げて棚に戻す。そのときにこっそり帽子のカメラを切る。
「時間だな。今日はもう次のヤツが来る。交代したら飯を食わせてやる。食うだろ?」
「食います!!」
「何を食いたいか、あと五分で考えとけ」
そう言って定位置に戻る。たまに寛容な格好を見せておくことで尊敬ってもんが得られる。しょっちゅうだと舐められる。加減が難しい。未だに小僧を育てるノウハウやマニュアルはない。ほかの連中はどうやってるんだか。
「お疲れさまです」
そう言って交代のデリ屋と小僧が部屋に入ってくる。24時間営業のために四人のデリ屋が交代で待機するのだ。入ってきたのは直接スカウトした舎弟だ。こいつは信用できる。
そこそこの向上心はあるが、他人を押しのけてまでという野心はない。安定を望むタイプだ。
「おう。端末、ここに置いとくぞ。俺らはもう帰る。売り上げは金庫の中。俺の取り分は受け取り済み。在庫はいつも通り棚の上。予定よりちっとばかり少ないから早めに補給させる。注文は出しておいたから」
「了解。ところで兄さん、いつまでその小僧を使うんで?」
「交換にはまだ早い。仕事を覚えさせるのも骨だからな」
「まあ、兄さんの言うことにゃ従わせてもらいますけど」
「おめえの所の小僧は代替わりか」
「ええ。前回、やらかしてくれたもんで」
「仕事に差し支えるようなやらかしじゃねえんなら構わねえけどよ。もうちょい締める所、締めておかねえと肝心なときにでかい失敗すんぞ? 普段から温いことを言ってると舐めてかかるバカが出る。飴と鞭の加減を間違えるなよ?」
「肝に銘じます」
ピシッとした姿勢で答える舎弟。それを無表情で、しかししっかり見聞きしていた舎弟の小僧。いい感じにビビってるな。こういうお約束ってのが規律のためには必要だ。
視線をデリ屋の舎弟と交わす。
「んじゃ、俺らはもう帰るわ。後よろしく」
そう言ってバッグを手に取る。
「お疲れさまでした!!」
その声を背中で聞き、挨拶代わりに片手を上げる。小僧に声をかけ。
「何を食いたいか決めたか?」
「北の角にあるレストラン、行ってみたい……です」
「おう、それじゃそこにするか。あの店は合成だがリブステーキが美味いぞ」
仕事用ではない帽子を小僧に被せてやり、オートモビリティの助手席に乗せる。
自分のIDを読ませると、レストランに向かって走り出す。
俺たちはヤクザじゃない。ただのデリバリー屋だ。




