(おまけ)王子さまと愛人の恋愛消耗戦
「殿下、お久しぶりです。殿下のお顔が見たくて、居ても立ってもいられず参上致しましたわ。ご機嫌いかが?」
我が『愛人』リリーことリカルド=アンブロークが呼んでもないのにやって来た。
こいつが殊更女言葉で話す時は、大抵不機嫌である。そしてその内容はといえば、ほとんどが八つ当たりなのだから始末に負えない。
「なんだ『リリー』。俺は呼んでないぞ。公務の邪魔だ。」
「まぁ酷いわ殿下!私を散々利用しておきながら、邪魔になったら捨てるんですのね!」
仕方がない。俺は溜め息を一つつくと、人払いをする。
勧めてもいない椅子に勝手にドカッと座るリカルド。こいつが傍若無人なのは学生時代から変わっていない。
「で、どうした。」
「どうしたもこうしたもないよ!あのアニーがついに僕と結婚してくれるって言ったんだ!まぁプロポーズに頷いただけなんだけど。」
「良かったではないか。」
ではこれで、と追い返そうとしたが失敗した。この粘着質な男の恋話なぞ聞きたくないんだが。
「良くない!やっぱり結婚は延期するとか言って、全然目処が立たない!それもこれも、君が僕に女装なんかさせるからだよ。」
その彼女は賢明だ。俺がやらせているとはいえ、こんな執念深い女装男、俺が女ならお断りだ。
「アニーの初恋はさ、なんと僕なんだって。つまり僕達最初から両想いだったんだよ。やっぱり運命だよね。それが、僕が君の愛人だって思い込んで、失恋したと思ってたんだよ。つまり、君の邪魔が無ければ僕達とっくにラブラブ夫婦だったはずなんだ。酷い話だと思わない?」
それが本当なら確かに申し訳ない気もする。世情に詳しく噂の集まりやすい仕事をしているリカルドに、愛人と称して密偵役をやらせていたのは俺の都合だからだ。
母親と政治的に対立している俺にとって、リカルドは重要な情報源である。
だがしかし。
「それはお前が彼女に信頼されてないせいもあるんじゃないのか?」
あ、リカルドが言葉に詰まった。自覚があるんだな。
「ところで今日は、プリンセスにもお土産をもってきたんだ。僕ん家の新作、肌が白く輝く魅惑の真珠入り化粧水。さっき渡してきた。」
突然リカルドが言う。残念ながら、リカルドと妻は 何故か仲が良い。
「……それはどうも。」
こいつ何を企んでいる?
「そしたらお茶もご馳走になってね。せっかくだからご相伴に預かりつつ、ガールズトークに花を咲かせてきたよ。」
ガールズトークって……。なんだか嫌な予感がするんだが。
「最近噂のご婦人方のお話も色々としてきたよ。例えば、僕と同じ名前の美しい人妻の事とか、最近さる貴い方の後援を得て売り出し中の女優とかね。」
「おい!まさか……」
リカルドは椅子から立ち上がると、良い笑顔でポンと俺の肩を叩いた。
「奥方との信頼関係があれば、夫の女遊びで夫婦喧嘩なんてことにはならないですわよね。ホホホ。」
***
さて、その夜の事である。
王太子夫妻の寝室では、恒例の夫婦喧嘩が勃発していた。
「あなた、人妻に女優とはどういうことかしら。説明してくださる?」
「待て待て待て、話せばわかる。いいか、彼女らは、社交界の中心だったりパトロンからの情報だったりで、世情に通じていたり社会的影響力の大きい女性だ。決して疚しい気持ちではなく、政治的に仕方なくだな、」
「ではこのお手紙はどういうことかしら。『愛しい人、妖精のように儚い貴女が朝日に溶けて消えてしまわないか心配なのです。』なんて恥ずかしい台詞!」
「あーっ、なんでそんな物持ってるんだ!違うぞ、それは所謂リップサービスというやつでだな、」
高貴なる夫妻の寝室からは、明け方まで騒音が響いていたそうである。




