メイドさんと僕の恋愛攻防戦
僕はもう長いこと、幼馴染みに片想いしている。
僕、リカルド=アンブロークの幼馴染みアニーは、小さい頃からそれはそれは可愛かった。リー、リーと僕の後を付いて回る彼女に、僕は安心していた。
小さな僕の好きな遊びはかくれんぼ。アニーが一生懸命僕を探すのをこっそり見るのが、楽しくてたまらなかった。
だがある日、変質者に誘拐されそうになったアニーは、(勿論僕がかっこよく助けた。無事でほっとした。)男性恐怖症になってしまった。
声変わりした僕にすら怯えるアニー。
彼女に再び近付くため、僕は女性のように振る舞うことにした。
幸い女性的な顔立ちの僕は、ドレスと化粧で並の女性より女性らしくなった。家業が化粧品屋というのも良かったんだと思う。
アニーが元気になったら女装なんてやめるつもりだったのに、そうできなくなったのは王太子殿下のせいだ。
奴とは大学で会った。うっかり親しくなった殿下に密偵役を仰せつかった僕は、表向き『殿下の愛人リリー』として振る舞う羽目になったのだ。
あいついつかシメる。
アニーを僕付きのメイドにできたのは幸運だった。頑張って彼女も彼女の家族も丸め込んだ甲斐があった。
そこでゆっくりと男の僕に慣れてもらって、できれば男として意識してもらって、あわよくばそのまま……と不埒な事を考えていた罰が当たったんだろうか。あろうことか、アニーは別の男に恋し始めたのだ。
勿論邪魔した。僕の美貌にかかれば、男なんてイチコロだ。嬉しくないけど!
彼女は想い人を奪った僕を疎み始めた。最早僕が同性としてしか見られていないのは確実だ。
僕の屋敷から出るため結婚相手を探す彼女。それを邪魔する僕。ますます僕を嫌う彼女。
見事な悪循環である。
だが今回は相手が悪かった。あのスティーブとかいう男、僕に靡かないし、アニーに本気だ。
なかば僕への当て付けのように他の男を選ぶアニーも、情熱的に迫られれば、ほだされて本当に好きになるかもしれない。
僕は彼女の頭の中がパニックなのをいいことに、ほぼ無理矢理屋敷に連れ帰った。
そして勢い余っての告白。
アニーは呆れているだろう。頭を抱えたくなった。
だが口に出した言葉は戻らない。こうなったら、何がなんでも口説き落とすしかない。
「アニーは私が男だってちゃんと知ってるでしょ?そもそも昼間はリカルドとして仕事してたしね。」
お嬢様、なんてアニー以外は女装した時しか使わない。
「でも、でもお嬢様は王太子様の愛人ではないですか!だから私、リーは男の人が好きで、心も女なんだと思って……」
やっぱり殿下のせいか!
「アニー、殿下も私も男だから。本当に愛人なはずないでしょ。だいたい殿下には大陸一の美貌と名高い奥方がいらっしゃる。まぁ殿下が女好きなのは否定しないけど。」
「プリンセスよりリーの方が綺麗に決まってる!リーより綺麗な人なんて見たことないもん。王太子様だってリーが好きなんだよ。だから私、早くこのお屋敷を出ようと思って、それなのにリーは邪魔するし……」
ついにアニーが泣き出してしまった。
これって僕が泣かせたことになるのか?
「アニー。泣かないで。私は嫌?女装が嫌なら止める。殿下の所に行くのが嫌なら行かない。ね、だから私と一緒にいよう?」
ぐすぐすと鼻をならしながら、アニーがこくりと頷いた。
「もう他の男の所に行かない?」
こくり。ぐすぐす。
「私と一緒にいてくれる?」
こくり。ぐすぐす。
「私と結婚する?」
ぐすぐす。ぐすぐす。
……。
「するよね?」
……こくり。
言質をとった!何も言ってないけど。
「じゃあ早速式の準備だ!アニーのご両親にも挨拶に行かないと。まぁ二人とももう了承済みだけど。さぁアニー、私の両親にも結婚の報告に行こう!教会にも連絡しないと。忙しくなるね。前もってこっそり準備してた甲斐があったよ。大丈夫、屋敷の使用人達も皆知ってるし、協力してくれてるから。アニーが奥さまになるのを楽しみにしてるよ。」
どうやら僕は興奮の余り、余計な事まで言ったらしい。
「……やっぱり結婚はもう少し考える。」
僕達が結婚するには、それから2年の歳月を要することとなった。
次回7/10(金)18:00更新予定です。




