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黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


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9/13

9、披露宴準備

 ドラセナは、賓客用の部屋に移った。広く豪華な部屋に、メルがソワソワしている。

 部屋に、ギラギラで眩しい金色のドレスが贈り物として置いてあったが、ドラセナはそれについては触れないでおいた。


「他に、何か欲しい物はないか?」


 グレンが心配そうにドラセナに聞いた。


「そうね、この部屋の掃除は、メルには大変そうね」


「もちろん、きちんと働くメイドを寄越す」


「一人、推薦してもいいかしら?」


「……? 構わないが……」




「侍女長、ベッドの下に埃が溜まっているわよ。ああ、今は侍女長を降ろされたんでしたっけ?」


 ドラセナはソファに座りながら、顎をクイッと向けて示す。元侍女長は、顔を赤くして悔しそうに床に手と足をついて掃除していた。


「嫌なら良いのよ? 侍女長をクビになった上、王宮から追い出されたなんて噂が流れたら、有名人になれるじゃない。ねえ、元侍女長?」


「……っ」


 元侍女長は、黙って掃除を続ける。

 メルはひきつった顔をしながら、震える手でドラセナに紅茶を淹れていた。


「はあ、スッキリするわね」


 紅茶を飲みながら、ドラセナはそう言った。



 昼過ぎドラセナは、特に当てもなく城の中を探索した。


「次期王妃様、ご挨拶申し上げます」


 廊下を歩いていると、杖をついた老人が、ドラセナに声を掛けてきた。


「あなたは?」


「私は、ルードヴィヒ・フェルンハルトと申します」


(アルディア国、現三大公爵家の一つ!)


 ドラセナは警戒する。


「私は、ドラセナと申します」


「ドラセナ様、家門はないのですか」


「……私は、貴族ではありませんので」


「ああ。お気を悪くしたのなら、申し訳ありません。ドラセナ様が、あまりにも洗練されたような動作なので、貴族の出なのかと……」


「……!」


(油断ならない)


「聖女として、過ごさせていただいていたので、そのせいかと思います」


「……そうですか」


 フェルンハルト公爵は表情を変えない。


「……フェルンハルト公爵は、この国の先の内戦を収めるのに活躍された、凄いお方とお聞きしました」


「いやいや、私なんて……、今は亡きヴァルドール公爵に比べれば……」


 フェルンハルト公爵は、謙遜する。ドラセナは、これ以上の詮索はやめた。


「以後、お見知りおきを」


 ドラセナはそう言い、去ろうとした。


「陛下が、婚約披露宴の準備をしていると聞きました。無事に行われると良いですね」


「……」


 ドラセナは、聞こえなかったフリをして去っていった。


「ドラセナ、2週間後の婚約披露宴のドレスなんだが……」


 珍しく執務室に呼び出され、グレンのその言葉を聞いて、ドラセナは身構えた。


「何着か用意したから、その中から選んでもらえないか? 結婚式のドレスは、オーダーメイドにする予定だが、婚約披露宴には間に合いそうになくてだな……」


「えっ、ええ……」


 ドラセナはゴクリと唾を飲む。

 隣の部屋に案内され、ドレスが10着程並んでいた。控えてるメイド達の顔はひきつっている。

 ドラセナは、ため息をついた。

 大量のフリルのライトブルー、目に痛いネオングリーン、七色カラー、全身に花がくくりつけられたドレスなど。


(せめて、少しでもマシなものを……)


 一つのドレスに目がとまった。紫と黒のツートーンでシンプルなシルエットだが、裾などにラメが輝き、地味過ぎない。後は、装飾品を工夫すれば問題ないだろう。


「このドレス、気に入ったわ。これにする……」


 ドラセナがメイド達を振り返ると、メイド達は口を開けて青い顔をしていた。


「どうかしたの?」


「いっ、いえ! 何でもありません」


 ドラセナが試着し終えた頃、グレンがやってきた。


「ドラセナ! どのドレスにしたんだい?」


 ドラセナの姿を見て、グレンは固まる。


「どうかしら?」


「すごく……綺麗だ」


 そして、グレンの瞳は潤んだ。


「綺麗だけど……、そのドレスは唯一レオンが選んだやつ……」


 グレンの最後の言葉は消え入りそうだった。その場の皆、声を失った。


「こっ、今回の場はこのドレスが合ってるということですよ。グレン様、さあ次の会議へ」


 グレンの後ろにいたガレスが、慌ててフォローを入れ、グレンを連れ出してくれた。

 残った皆、ドラセナの方を見たが首を振った。


「いくらなんでも、このドレス達着るの、嫌よ」

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