9、披露宴準備
ドラセナは、賓客用の部屋に移った。広く豪華な部屋に、メルがソワソワしている。
部屋に、ギラギラで眩しい金色のドレスが贈り物として置いてあったが、ドラセナはそれについては触れないでおいた。
「他に、何か欲しい物はないか?」
グレンが心配そうにドラセナに聞いた。
「そうね、この部屋の掃除は、メルには大変そうね」
「もちろん、きちんと働くメイドを寄越す」
「一人、推薦してもいいかしら?」
「……? 構わないが……」
「侍女長、ベッドの下に埃が溜まっているわよ。ああ、今は侍女長を降ろされたんでしたっけ?」
ドラセナはソファに座りながら、顎をクイッと向けて示す。元侍女長は、顔を赤くして悔しそうに床に手と足をついて掃除していた。
「嫌なら良いのよ? 侍女長をクビになった上、王宮から追い出されたなんて噂が流れたら、有名人になれるじゃない。ねえ、元侍女長?」
「……っ」
元侍女長は、黙って掃除を続ける。
メルはひきつった顔をしながら、震える手でドラセナに紅茶を淹れていた。
「はあ、スッキリするわね」
紅茶を飲みながら、ドラセナはそう言った。
昼過ぎドラセナは、特に当てもなく城の中を探索した。
「次期王妃様、ご挨拶申し上げます」
廊下を歩いていると、杖をついた老人が、ドラセナに声を掛けてきた。
「あなたは?」
「私は、ルードヴィヒ・フェルンハルトと申します」
(アルディア国、現三大公爵家の一つ!)
ドラセナは警戒する。
「私は、ドラセナと申します」
「ドラセナ様、家門はないのですか」
「……私は、貴族ではありませんので」
「ああ。お気を悪くしたのなら、申し訳ありません。ドラセナ様が、あまりにも洗練されたような動作なので、貴族の出なのかと……」
「……!」
(油断ならない)
「聖女として、過ごさせていただいていたので、そのせいかと思います」
「……そうですか」
フェルンハルト公爵は表情を変えない。
「……フェルンハルト公爵は、この国の先の内戦を収めるのに活躍された、凄いお方とお聞きしました」
「いやいや、私なんて……、今は亡きヴァルドール公爵に比べれば……」
フェルンハルト公爵は、謙遜する。ドラセナは、これ以上の詮索はやめた。
「以後、お見知りおきを」
ドラセナはそう言い、去ろうとした。
「陛下が、婚約披露宴の準備をしていると聞きました。無事に行われると良いですね」
「……」
ドラセナは、聞こえなかったフリをして去っていった。
「ドラセナ、2週間後の婚約披露宴のドレスなんだが……」
珍しく執務室に呼び出され、グレンのその言葉を聞いて、ドラセナは身構えた。
「何着か用意したから、その中から選んでもらえないか? 結婚式のドレスは、オーダーメイドにする予定だが、婚約披露宴には間に合いそうになくてだな……」
「えっ、ええ……」
ドラセナはゴクリと唾を飲む。
隣の部屋に案内され、ドレスが10着程並んでいた。控えてるメイド達の顔はひきつっている。
ドラセナは、ため息をついた。
大量のフリルのライトブルー、目に痛いネオングリーン、七色カラー、全身に花がくくりつけられたドレスなど。
(せめて、少しでもマシなものを……)
一つのドレスに目がとまった。紫と黒のツートーンでシンプルなシルエットだが、裾などにラメが輝き、地味過ぎない。後は、装飾品を工夫すれば問題ないだろう。
「このドレス、気に入ったわ。これにする……」
ドラセナがメイド達を振り返ると、メイド達は口を開けて青い顔をしていた。
「どうかしたの?」
「いっ、いえ! 何でもありません」
ドラセナが試着し終えた頃、グレンがやってきた。
「ドラセナ! どのドレスにしたんだい?」
ドラセナの姿を見て、グレンは固まる。
「どうかしら?」
「すごく……綺麗だ」
そして、グレンの瞳は潤んだ。
「綺麗だけど……、そのドレスは唯一レオンが選んだやつ……」
グレンの最後の言葉は消え入りそうだった。その場の皆、声を失った。
「こっ、今回の場はこのドレスが合ってるということですよ。グレン様、さあ次の会議へ」
グレンの後ろにいたガレスが、慌ててフォローを入れ、グレンを連れ出してくれた。
残った皆、ドラセナの方を見たが首を振った。
「いくらなんでも、このドレス達着るの、嫌よ」




