3、王城
城に到着し、ドラセナは馬車から降りる。城は立派だが、あちこち傷だらけだった。
使用人達が出迎えに来て、見知らぬドラセナのことをジロジロ見てくる。
グレンはドラセナの方を振り返る。
「申し訳ないけど、まだ整備や統制が隅々まで取れてなくて、君には不便をかけるかもしれない」
「やりがいがあるんじゃない?」
ドラセナの返答に、グレンは顔を輝かせる。
「それでこそ、私が選んだ妻! この国の王妃だ!」
その言葉に、使用人達はギョッとした顔をした。
「陛下! こちらの女性は?」
「王妃だなんて急な話過ぎます!」
「あのストイックなグレン陛下が、素性のわからぬ娘を……」
「性格悪そう」
「グレン様に恋人いたなんて、ショック……」
どよめきに紛れて、小声でそんな言葉が聞こえてきたが、ドラセナが睨みを利かせると、使用人達は慌てて視線をそらした。
グレンは陰口に気づいておらず、ドラセナもそれ以上は何もしなかった。
「彼女は、聖女・ドラセナ。先程、求婚して承諾をもらった。これから、彼女もここに住むぞ」
悲鳴に似た声があがる。
「陛下! いくら聖女といえど、素性のわからぬ者を、招き入れるなんて危険です!」
「聖女は、どの国にも共通の確立された制度であろう。それに、聖女は人を傷つけることはできない」
「しかし!」
グレンと使用人で言い合いになっていると、町からずっとグレンの側にいた従者が前に出た。
「グレン様。ドラセナ様の立場の確立は大事ですが、まずはお客人を立たせたままにするのは失礼です」
「そっ、そうだな」
従者は、使用人達の方を振り返る。
「お前達も、色々混乱しているだろうが、ドラセナ様はグレン様にとって大切な方だ。ひとまず、お客人として丁寧におもてなししなさい」
グレンは頷いていて、使用人達もしぶしぶといった感じで仕事を再開した。
(王を上手く操ることもできる男……。忠臣なのか、それとも──)
ドラセナは豪華な客間に通された。
グレンは用事があるようで、少し後から来るようだ。
「聖女様は、庶民の出身らしいですけど、貴族の座り方はご存知かしら?」
「王宮で、はしたないことされると困りますわね」
振り返ると、ズラッと並んだメイド達がいた。皆、平然とした顔をしていて、誰の声かわからない。
ドラセナはため息をつくと、ソファに腰かけた。その優雅な動作に、息を飲む音が聞こえる。
「紅茶でございます。王宮庭園で取れた茶葉を使用しておりますが、飲み方はご存知でしょうか?」
にこやかに丁寧に言ってきた女の使用人を、ドラセナは一瞥する。そして、ティーカップを持ち、口に運ぶ。その完璧な動作を見て、その使用人は面白くなさそうな顔をした。
「ドラセナ! すまない、遅くなった!」
客間に入ってきたグレンは、向かいのソファではなく、ドラセナと同じソファに座りピッタリとくっついてくる。
「近くない?」
「ごめんな、ドラセナ。今日、君に会って、尚且つ婚約を承諾してもらえるなんて思ってなかったから、事前通達しておらず、使用人達が失礼な態度をとってしまった……」
「それはいいけど……、近いって」
「誰に何と言われようとも、君は僕の妻、アルディア王国の王妃だ。必ず、皆の者を認めさせる」
「わかったから、少し離れない?」
ドラセナは、グレンの熱意を淡々と聞き流し、ソファの端にずれた。
「部屋は、今用意させている。必要な物があれば、遠慮なく言ってくれ。あとは、町での君の住まいに残っている物で大切な物があれば……」
「別に……、これさえあれば、あとは何でもいいわ」
ドラセナは、懐から汚れた布で頑丈に巻かれた『何か』を出して見せた。
「それが、君の大事な物なんだね。それは、何だい?」
「ただのナイフよ。もう、錆び付いてしまって、何も斬れない役立たずなナイフ」
ドラセナはそう言いながらも、大切そうにまた懐にしまいこむ。
「そっか」
「陛下、もうそろそろ……」
客間の戸がノックされ、外から声がかけられる。
「今行く。ドラセナ、復興計画の会議が立て込んでいて、しばらく私は忙しくなってしまう。なかなか君に会うことができないかもしれないが、この城は好きなように使ってくれ。使用人達には通達しておくし、案内もさせる。ただ、裏庭に行く際は気をつけてくれ」
グレンは部屋を見回し、先程紅茶を持ってきた使用人に目を留める。
「侍女長、ドラセナを用意した部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」
そう返事した侍女長からは、敵意を感じた。




