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黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


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2/13

2、求婚

 ドラセナが八百屋で芋を見ていると、従者を連れた1人の男がやってきた。身なりが良いので、高位貴族だと思われる。

 ドラセナは男をチラリと見たが、気にせず芋に視線を戻した。


「綺麗なお嬢さん、お名前はなんていうのかな?」


「…………」


 ドラセナは無視する。男はキョトンとした。


「お嬢さーん。聞こえてますか?」


「…………」


 ドラセナは無視を続ける。


「そうか! まずは、自分から名乗らなければな! 私はグレン・アルディアという。この国の王だ」


「…………」


 一瞬、ドラセナは動きを止めたが、やはり返事をしない。

 たまらず、従者が男・グレンに声をかける。


「グレン様、本当にこのお方が、グレン様の言う聖女様で間違えないのですか?」


 「聖女」と聞いて、ドラセナは驚いて振り返った。しかし、グレンはそれに気づかず語り出す。


「間違いない! この美しい銀の髪、温かさを感じる緑の瞳、優しい言葉、女神のような微笑み、昔の面影そのままだよ」


(全部違わないか?)


 従者はその言葉を飲み込んだ。

 そして、グレンはドラセナの手をそっと握った。


「僕は昔、森で君に救われたことがある」


「……記憶にないわ。あなた、間抜けそうな顔してるから、誰かと間違えてるんじゃないの?」


「貴様! グレン様に向かって!」


 従者がそう言うと、グレンは手を上げ、従者を止める。


「良い。聖女への手出しは、大罪だぞ」


 グレンは、またドラセナを見つめる。


「ならば、今度は私のことを覚えてほしい。そなたの名は?」


「……ドラセナ」


「ドラセナ、我が妻になって欲しい」


(こんな、悪女のような聖女にプロポーズ!?)


 従者はあんぐりと口を開けた。

 ドラセナは一瞬だけ考え込み、フッと笑った。


「いいわよ」


 市場は静まり返った。八百屋は抱えていた芋を落とし、魚屋は魚を掴み損ねた。


(こっちも、戸惑ったりしねぇ!)


 従者をはじめ、周囲にドン引きされながら、二人はグレンの馬車に乗った。



 馬車の中で、ニコニコとこちらを見つめるグレンに、ドラセナは尋ねる。


「この国の王というのは、本当なのね?」


「もちろん!」


「それで、どういう魂胆で私に求婚したの?」


「魂胆だなんて……。長年の片想いを実らすためだよ」


 ドラセナは、怪訝そうに目を細める。


「それだけど、何かの間違いじゃないの?」


「……間違いじゃない、だろ?」


「知らないわ」


 ドラセナがそっぽを向くと、グレンは楽しそうに笑った。


(この王、一見間抜けそうに見えて、侮れない男ね。隙が全然ないじゃない。……いいわ、お互い腹の探り合いといきましょう) 

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