2、求婚
ドラセナが八百屋で芋を見ていると、従者を連れた1人の男がやってきた。身なりが良いので、高位貴族だと思われる。
ドラセナは男をチラリと見たが、気にせず芋に視線を戻した。
「綺麗なお嬢さん、お名前はなんていうのかな?」
「…………」
ドラセナは無視する。男はキョトンとした。
「お嬢さーん。聞こえてますか?」
「…………」
ドラセナは無視を続ける。
「そうか! まずは、自分から名乗らなければな! 私はグレン・アルディアという。この国の王だ」
「…………」
一瞬、ドラセナは動きを止めたが、やはり返事をしない。
たまらず、従者が男・グレンに声をかける。
「グレン様、本当にこのお方が、グレン様の言う聖女様で間違えないのですか?」
「聖女」と聞いて、ドラセナは驚いて振り返った。しかし、グレンはそれに気づかず語り出す。
「間違いない! この美しい銀の髪、温かさを感じる緑の瞳、優しい言葉、女神のような微笑み、昔の面影そのままだよ」
(全部違わないか?)
従者はその言葉を飲み込んだ。
そして、グレンはドラセナの手をそっと握った。
「僕は昔、森で君に救われたことがある」
「……記憶にないわ。あなた、間抜けそうな顔してるから、誰かと間違えてるんじゃないの?」
「貴様! グレン様に向かって!」
従者がそう言うと、グレンは手を上げ、従者を止める。
「良い。聖女への手出しは、大罪だぞ」
グレンは、またドラセナを見つめる。
「ならば、今度は私のことを覚えてほしい。そなたの名は?」
「……ドラセナ」
「ドラセナ、我が妻になって欲しい」
(こんな、悪女のような聖女にプロポーズ!?)
従者はあんぐりと口を開けた。
ドラセナは一瞬だけ考え込み、フッと笑った。
「いいわよ」
市場は静まり返った。八百屋は抱えていた芋を落とし、魚屋は魚を掴み損ねた。
(こっちも、戸惑ったりしねぇ!)
従者をはじめ、周囲にドン引きされながら、二人はグレンの馬車に乗った。
馬車の中で、ニコニコとこちらを見つめるグレンに、ドラセナは尋ねる。
「この国の王というのは、本当なのね?」
「もちろん!」
「それで、どういう魂胆で私に求婚したの?」
「魂胆だなんて……。長年の片想いを実らすためだよ」
ドラセナは、怪訝そうに目を細める。
「それだけど、何かの間違いじゃないの?」
「……間違いじゃない、だろ?」
「知らないわ」
ドラセナがそっぽを向くと、グレンは楽しそうに笑った。
(この王、一見間抜けそうに見えて、侮れない男ね。隙が全然ないじゃない。……いいわ、お互い腹の探り合いといきましょう)




