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黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


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1/12

1、黒衣の聖女

 暗い森の中。

 傷だらけの少年は、ひたすら逃げ続けていた。しかし、足がもつれ転んでしまう。もう、走れそうにない。

 そこに、草を掻き分ける音が聞こえ、少年は体を硬直させ怯えた。

 そして、やってきた銀髪の少女を見て、安堵の息を吐く。


「どうしたの? あなた、怪我してるの? 」


 少女が近づくと、少年はビクッとし、後退る。


「私は傷つけないよ。傷を治してあげるね」


 少女が手を翳すと、優しい光が包み血の滲んでいた傷が、みるみる塞がっていく。

 少年は初めて見る治癒魔法に、目を丸くした。少女は優しく微笑みかける。

 そこに、また物音が聞こえ、男二人が現れた。少年の顔は強ばる。少年の怯えた様子を見て、少女が前に出た。


「気を付けろ、聖女だ」


「まだ子どもじゃないか?」


「聖女だ。子どもでも、厄介だ」


 男達はそう言ったあと、少女に向き直った。


「お嬢ちゃん、その男の子を迎えにきたんだ。ちょっと、避けてくれるかな?」


 少年の方を見ると、首を振る。少女は、男達を睨む。


「あなた達は、何者なんですか?」


「ちょっと、それは答えられないんだよ」


 男達はニヤニヤしながら近づいてくる。

 少女は手をかざした。すると、男達は眩しい光に包まれた。


「何だ!? 眩し……」


「今のうちに逃げるよ!」


 少女は少年の手を引き、走り出した。


「ーーさま」


 遠くから、誰かを呼ぶ声が聞こえる。


「……この声なら、大丈夫ね」


 少女は少年をそっと、その呼び声の方へ押しやった。少年は振り返る。


「君は……?」


「もう少し、時間稼ぎをしてくる」


「そんなっ……!」


「大丈夫。彼らは、私に手出しできないわ」


 少女はそう言って、来た方へ走っていった。





 ここはアルディア王国。若き王・グレンが内戦を終わらせて数年。 荒廃した国は、グレン王と亡き公爵アーヴィン・ヴァルドールによって、復興を遂げていた。



 ある昼下がりの城下町、八百屋と魚屋の店主が世間話をしていた。


「なあ、聖女様の話知ってるか?」


「珍しい治癒魔法を使える、数少ない人のことだろ」


「それが、この町にもいらっしゃるんだ」


「マジか!? すごいじゃないか! この町も安泰だな……」


「それが、その聖女様が問題でな……」


 市場の真ん中で、玉遊びをしていた男の子が転んでしまった。手を擦りむいて泣いている。

 そこに、一人の娘が男の子の脇を持って立たせた。


「ありが、と……」


「この、ガキ。こんな人通りの多い道の真ん中で遊ぶな! 邪魔。遊ぶんなら、向こうのアーヴィン広場に行きな」


 黒いローブを着た黒髪の娘はそう言って、黒い瞳で男の子を冷たく見下ろす。


「……あの黒い人が、聖女様だ」


「え~!?」


 周りの大人達はヒソヒソ囁く。


「あんな言い方しなくても」


「子どもに対して、冷たいわね」


 男の子は泣きながら、広場に走っていった。手のひらの傷が治っていることに気づかずに。



 馬車の窓から、一人の青年が黒いローブの娘を見て、ニヤリと笑っていた。


「……やっと見つけた」


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