1、黒衣の聖女
暗い森の中。
傷だらけの少年は、ひたすら逃げ続けていた。しかし、足がもつれ転んでしまう。もう、走れそうにない。
そこに、草を掻き分ける音が聞こえ、少年は体を硬直させ怯えた。
そして、やってきた銀髪の少女を見て、安堵の息を吐く。
「どうしたの? あなた、怪我してるの? 」
少女が近づくと、少年はビクッとし、後退る。
「私は傷つけないよ。傷を治してあげるね」
少女が手を翳すと、優しい光が包み血の滲んでいた傷が、みるみる塞がっていく。
少年は初めて見る治癒魔法に、目を丸くした。少女は優しく微笑みかける。
そこに、また物音が聞こえ、男二人が現れた。少年の顔は強ばる。少年の怯えた様子を見て、少女が前に出た。
「気を付けろ、聖女だ」
「まだ子どもじゃないか?」
「聖女だ。子どもでも、厄介だ」
男達はそう言ったあと、少女に向き直った。
「お嬢ちゃん、その男の子を迎えにきたんだ。ちょっと、避けてくれるかな?」
少年の方を見ると、首を振る。少女は、男達を睨む。
「あなた達は、何者なんですか?」
「ちょっと、それは答えられないんだよ」
男達はニヤニヤしながら近づいてくる。
少女は手をかざした。すると、男達は眩しい光に包まれた。
「何だ!? 眩し……」
「今のうちに逃げるよ!」
少女は少年の手を引き、走り出した。
「ーーさま」
遠くから、誰かを呼ぶ声が聞こえる。
「……この声なら、大丈夫ね」
少女は少年をそっと、その呼び声の方へ押しやった。少年は振り返る。
「君は……?」
「もう少し、時間稼ぎをしてくる」
「そんなっ……!」
「大丈夫。彼らは、私に手出しできないわ」
少女はそう言って、来た方へ走っていった。
ここはアルディア王国。若き王・グレンが内戦を終わらせて数年。 荒廃した国は、グレン王と亡き公爵アーヴィン・ヴァルドールによって、復興を遂げていた。
ある昼下がりの城下町、八百屋と魚屋の店主が世間話をしていた。
「なあ、聖女様の話知ってるか?」
「珍しい治癒魔法を使える、数少ない人のことだろ」
「それが、この町にもいらっしゃるんだ」
「マジか!? すごいじゃないか! この町も安泰だな……」
「それが、その聖女様が問題でな……」
市場の真ん中で、玉遊びをしていた男の子が転んでしまった。手を擦りむいて泣いている。
そこに、一人の娘が男の子の脇を持って立たせた。
「ありが、と……」
「この、ガキ。こんな人通りの多い道の真ん中で遊ぶな! 邪魔。遊ぶんなら、向こうのアーヴィン広場に行きな」
黒いローブを着た黒髪の娘はそう言って、黒い瞳で男の子を冷たく見下ろす。
「……あの黒い人が、聖女様だ」
「え~!?」
周りの大人達はヒソヒソ囁く。
「あんな言い方しなくても」
「子どもに対して、冷たいわね」
男の子は泣きながら、広場に走っていった。手のひらの傷が治っていることに気づかずに。
馬車の窓から、一人の青年が黒いローブの娘を見て、ニヤリと笑っていた。
「……やっと見つけた」




