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黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


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18/19

18、復讐

 ドラセナは、中庭に向かって走っていると、誰かとぶつかった。


「うわっ。ドラセナ、もう大丈夫なのか?」


 グレンが、体勢を直しながらドラセナに優しく聞いてきた。

 何も言わないドラセナの手に、ナイフが握られているのを見て、眉間に皺を寄せる。


「ひょっとして、犯人がわかったのか?」


「ええ」


「誰なんだ!?」


「……アーヴィン・ヴァルドールよ」


 グレンは目を見開いた。


「うそ……だろ……」


「アルディアの英雄、ずっと疑ってなかった。だけど、資料で家紋を見たの。あの日、私の屋敷を襲った奴の剣の紋章と同じだった!」


「知らなかった……。ドラセナ、すまない。そんな人だったとは……。本当に申し訳ない……」


 グレンは目を伏せる。


「あなたが謝ることじゃないわ」


「ドラセナ、ヴァルドール公爵は亡くなって、家ごと廃門になっている」


「知ってるわ」


「だから、復讐は……」


「するわよ」


「えっ?」


「この手で、息の根をとめるわ!」


「まさか!」


 ドラセナはまた走り出した。グレンは慌てて追いかける。


 中庭につくと、ドラセナは大声を出した。


「犬! 出てきなさい! 私を、アーヴィン・ヴァルドールが生きている時代に連れていきなさい!」


「……くーん」


 ドラセナの足元に、不安そうに見上げてくる犬が現れた。ドラセナは、犬に魔力を送ると魔法陣になった。

 グレンが追い付いてきた。


「ドラセナ! 人を傷つければ、聖女の力を失うんだろ!? そして、その魔法陣は聖女の力で発動すると執事長から聞いた」


 ドラセナは立ち止まり、じっとグレンを見つめた。


「それで……、過去で人を傷つけたら、魔方陣は閉じ、過去に閉じ込められるんじゃ……」


「グレン」


 ドラセナは微笑む。


「ありがとう」


 ドラセナはそう言うと、魔法陣に飛び込んだ。


「ドラセナー!!」


 グレンは魔法陣に手を伸ばすが、見えない力で弾かれる。


「ドラセナ! お願いだ! 戻ってきてくれ!」


 グレンは魔法陣に向かって、叫び続けた。




 ドラセナは、知らない屋敷にいた。辺りは、業火に包まれている。人々は脱出を心掛け、炎に中へ消えて行く。


「ここは? それに、この炎……」


 ドラセナは、煙を吸い咳き込みながら周囲を見回す。

 薔薇の家紋見つけてドラセナは納得した。


「ここが、ヴァルドール公爵家。そして、これが滅んだ原因」


 ドラセナは火の粉も気にせず、屋敷の中を駆け出した。


(どこ!? どこにいるの!?)


 寝室、居間、客室一つ一つ部屋を見ていく。


(いないの!?)


 どこからか獣の唸り声が聞こえた。


(犬……? 下から?)


 地下室に降りる階段を見つけ降りていった。

 そこには、黒い巨大な犬に噛みつかれている男がいた。町の広場の像で、何回も見た男。


「アーヴィン・ヴァルドール!!」


 ヴァルドール公爵は、呻き声をあげている。体中火傷や、噛み傷や引っ掻き傷で血塗れだった。


「たっ、助け……てくれ……」


 巨大な犬は、ドラセナに気づくと、公爵を放し一歩下がった。


(これが、犬の本来の姿……? 魔法陣の聖獣……)


 ドラセナはゆっくり近づく。大量の血を流した公爵はぐったりして、虫の息だ。


「アーヴィン・ヴァルドール。答えなさい。かつて、レイモンド・アルディアを唆しエルシア王国を襲わせ、それに便乗してローゼンベルク公爵家を襲ったのはお前か!?」


「……そ、んな……、昔……のこと……」


「言え!」


 ドラセナは、公爵の喉元にナイフを突き付ける。


「そう……だ」


「何故、英雄と呼ばれてたお前がっ!」


「……私、は……英雄では、ない……」


 公爵は血を吐きながら、自嘲めいた笑みを浮かべた。


「何故、ローゼンベルクを! 何故、エルシアを!」


「ロー、ゼン……クは、いちば……財……持って、から……。エルシ……アは、か……こ……に戻……魔法じ……ん」


「何故、財が必要だったんだ!?」


「アル……ディアの……民を、ゆた……かに、するため……」


「なっ、なら魔法陣は!?」


「過去……に、戻れたら、アル……アが、酷く……なる前に……すく、える……。レ、イモン……ド王にも、過去を変え……ば、病に、ならない……と、言って……」


「つまり……過去を変えてアルディアを救おうとしたの?」


「ああ……。だが、……発動、の仕方が……、分からず……、数年ずっと……調べ、やっと……叶えられる……思ったが……」


「……馬鹿ね。魔法陣は、聖獣に守られている。資格がない者が使えば、こうして何もかも滅びるのよ」


「本当……、ば、かだった……。ただ……、お……ぜい、犠牲を……出しただけ……だ……」


 ドラセナは、ナイフを握りしめた。公爵の息は、もう絶えそうだった。炎も、だんだん迫ってきている。唯一の退路の階段も、もう既に炎に飲まれていた。


(どうせ、もう戻れない。復讐するなら今しかないっ!)


 ドラセナは、ナイフを振り上げた。


「ドラセナ!」


 遠くでグレンの声が聞こえた気がする。


「ドラセナ! どこにいるんだ!?」


 ドラセナはナイフを、喉に突き立てる直前で止めた。


「ドラセナ! 返事をしてくれ!? 無事なのか!?」


 グレンの声は、巨大な犬から聞こえていた。


「そっか……。あなたも、魔法陣なのよね……」


(今こいつを消したら、もう私は聖女の力を使えなくなる。そしたら、もう完全に元の時代に戻れなくなる)


 ドラセナのナイフを持つ手が震える。


(それでも構わない! 例え、ここで命を落としたとしても、もう未練なんてないっ!)


「ドラセナ!!」


(未練なんて……)


 脳裏には、ここ最近の記憶が甦る。グレン、レオン、メル、ガレス、色々な人の顔が思い浮かんだ。


(何で……)


「何で……、思い出しちゃったんだろう」


 カラン。


 ナイフが音を立てて落ちた。ドラセナの頬には、涙が伝っていた。ドラセナは震える手で、巨大な犬に手を伸ばし、顔を撫でた。


 公爵は、もう動かなくなっていた。

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