17、真相
「陛下……、もう体はすっかり回復してますよね?」
寝室のベッドの上で、上機嫌に書類を読んでいるグレンに、ガレスは聞いた。
「ん……。いや、まだ辛いところがある気がする!」
「朝夕、ドラセナ様がお見舞いで治癒魔法かけに来てくれるのが嬉しいから、仮病を使っているのでしょう?」
「だって、ドラセナから来てくれるんだぞ」
「グレン様の今回の毒、自分のせいだと思い詰められていたので、もうそろそろ元気な姿を見せてあげる方が喜ぶかと思いますけど……」
「それもそうだな。……それに、聞かなきゃいけないことがあるし」
すると、丁度ノックが鳴り、ドラセナが入ってきた。
「おはようございます。今日も、治癒魔法掛けますね」
「ありがとう。だけど、もう体は大丈夫だ」
グレンは立ち上がってみせると、ドラセナはホッとした表情を見せた。
「君に確認したいことがある」
「……はい」
「君は、今は亡きエルシア王国のローゼンベルク公爵家の令嬢だね」
ドラセナの目は少し泳いだが、諦めたようにため息をついて頷いた。
「やはり、ご存知でしたか……」
「良ければ話してくれ。君が何者であろうと、何の目的があろうと、私は君を受け入れる」
グレンの真剣な表情を見て、ドラセナは小さく頷いた。
エルシア王国が滅ぼされた日のこと。王軍とは別の隊が、ローゼンベルク家から金品を強奪したこと。その復讐相手を探していたこと。
「その指揮官が持っていたのは、薔薇の紋章の剣でした」
「そんなことが……。当時、父・レイモンド・アルディアがエルシア王国を攻めいったのも、違和感あったんだ。ひょっとしたら、君の家を襲った者が唆したのかも……」
ドラセナの拳が小さく震えていることに気付き、グレンは両手でそっと包む。
「辛いことを話してくれてありがとう。そして、我が国がとんでもないことを……。謝っても、許されることではない」
「いいえ、陛下が関与していないことはわかってます」
「それに、薔薇の紋章……。アルディア王国の三大公爵は、薔薇の家紋なんだが……」
「フェルンハルト公爵、クロイツェル公爵の家紋は、細部が違うのを確認しました」
「そうか。もう調べていたのだな……。残るは、アイゼンヴァルト公爵だな。丁度、明日到着する連絡が入ってる」
「ご一緒に面会しても?」
「もちろんだ! ……あと、ドラセナ。前みたいに、気軽に話してくれ」
「ですが、陛下を命の危機に晒した上、そんな無礼な態度……」
「お嫁さんは私の部下じゃないんだ」
ドラセナは顔を赤くして、顔を背けた。
「わかったわよ」
翌日、三つ目の公爵家、セドリック・アイゼンヴァルト公爵が到着した。
ドラセナは、グレンと一緒に面会する。グレンとアイゼンヴァルト公爵が話している間に、公爵の持ち物を見ていく。そして、アイゼンヴァルト公爵の薔薇の紋章のカフスボタンを見て、絶望した。
(この家紋も違う……)
グレンは、落ち込むドラセナを心配そうに部屋に帰した。
(振り出しに戻ってしまった。アルディア王国、公爵家三つとも、あの薔薇の紋章に当てはまらなかった……。それに、私の勘があの三人の中にはいないと告げる……)
ドラセナは、王宮図書室でアルディア王国の歴史書を見る。比較的新しい、グレンが王位に着く前のページで手をとめた。
(グレンの前の王、レイモンド・アルディア……。体が弱く、表舞台での活躍はほぼないが、ある日突然エルシア王国に攻めいった……。でも、何で? エルシア王国の土地などは、ほぼ手付かずだった……)
ドラセナは、レイモンド王以上に、この時代にやたらと活躍していた名前に目をとめた。
(アーヴィン・ヴァルドール。港建設、病院や孤児院に多額の寄付。町の整備にも尽力して、本当に立派な人……。グレンの即位後すぐに、没になってる。惜しい人を亡くしたのね)
病院や孤児院の写真を見ながら、ふと疑問に思う。
(いくら公爵家だとはいえ、そのお金はどこから? 寄付額が公爵家の収入規模を超えている。アルディア王国は、グレンが温室の金を取っ払うくらいに、お金にあまり余裕がなかった。それに……)
ドラセナは、ヴァルドール家廃門の文字を見つめる。
(公爵家そのものが滅んだ? 何故……)
ドラセナは眉をひそめ、公爵家の資料を引っ張り出した。
(なぜ、こんな英雄のような公爵が、家門そのものが消えてるの?)
ドラセナはページをめくる。
(伝染病? 処刑? 反逆?)
そして、あるページに目をとめた。
「ふふっ……」
ドラセナの口元が緩む。
「あははっ」
(疑ってなかった。もう亡くなってる人と、調べなかった。皆の語る、人物像を信じていた)
「あははははは!」
その資料には、あの日、ローゼンベルク家を襲った男が持っていた紋章と同じ薔薇が、描かれていた。
(とんだ、狸ね)
ドラセナの目尻には、涙が溜まっていた。
「ドラセナ様、体調が悪いのですか?」
メルが心配そうに声をかけてくる。
あれから、一週間ドラセナは部屋に引きこもった。何もやる気が起きなかった。
(もう、復讐できないじゃない……。私、何のために生きてたのかしら……)
「ドラセナ、最近部屋から出ていないと聞いたが、どうしたんだ?」
部屋の外から、グレンの声が聞こえる。
(どうしよう……。グレンに、何て言おうかしら……。アーヴィン・ヴァルドールとは、仲が良かったはず)
「ドラセナ、何かあったのなら、いつでも遠慮なく言ってくれ」
グレンはそう言って、足音が遠ざかっていった。
(お父様やお母様のように、酷い目に遭わせてやるつもりだったのに……。たとえ、この力を失ったとしても……。そのために、今まで生き抜いてきたのに……)
「何で、先に死んでいるのよ……」
ドラセナは、自分の両手を見つめる。
「過去に戻れたら、先にこの手で殺してやるのに……」
ドラセナはそう言って、ハッとした。
「過去に戻れたら……。過去に……、戻れる……」
(……でも)
ドラセナは、一瞬グレンの顔が過り、頭を振る。すると、ベッド横に置いていたナイフが目に入った。
(お父様、お母様……)
ドラセナはナイフに手を伸ばす。
(忘れてはいけない。あの日のことを……。私は、奴に復讐するために生きてきたんだから……)
意を決して、ナイフを握り締めると部屋を飛び出していった。




