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黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


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16/19

16、少年王子

 気づくと、ドラセナはまた城の中庭に立っていた。しかし、ドラセナの知る城とは違い、寒々しく感じる。

 東屋の方で人の気配がして、ドラセナはそっと近づいた。夜だというのに、少年が膝を抱えて座り込んでいる。

 ドラセナの足音に気付き、少年はビクリとする。


「お前は誰だ!? 名を名乗れ!」


 少年はドラセナを睨んできた。


「名を名乗るような者ではありません」


「俺が、アルディア王国の第一王子と知っての態度か!?」


(じゃあ、この子がグレンなのね)


「……私は聖女よ。だから、安心して下さい」


「聖女だと? 俺は幼い頃、聖女に会ったことあるが、銀髪で緑の瞳の可愛い子だったぞ! お前みたいな、カラスのような奴が聖女のわけない!」


(……コイツ)


 ドラセナは、怒りを抑えるように深呼吸する。


「殿下。聖女と言っても、色々な人がいます」


「でも、俺が信用するのは、アーヴィンとクロイツェル公爵とガレスと、あとあの時の聖女だけって決めてるんだ!」


「……面倒くさいわね」


 ドラセナはため息をつき、ボソッと言った。


「ああー! 俺のこと、面倒くさいって言ったー!」


「聞き間違いですよ。それより、殿下。殿下の母君から、解毒薬を受け取ってはいませんか?」


「しっ、知らない!」


 少年グレンは、胸ポケットを手で押さえて、庇うように背を向ける。


(それじゃあ、胸ポケットにあるってバレバレよ……)


「お願いします。お譲りいただけませんか? 私の大切な人が毒で苦しんでいるんです」


「聖女なら、解毒魔法使えるだろ!?」


「基本なら……。ただ、上級解毒魔法は、勉強を怠っていたため極めておりませんでした」


 ドラセナが苦しそうに答えると、少年グレンは少し迷いを見せる。


「でっ、でも……」


「母君の形見であるのは、理解しております」


 ドラセナは片膝を折って、頭を下げた。少年グレンは、同情した顔をするが、まだ躊躇う。

 ドラセナは困ったように笑った。


「……仕方ないわね。本当は、もう捨てた姿だけど……」


 ドラセナはそう言って、指を鳴らした。すると、一瞬のうちにドラセナは、銀の髪と緑の瞳に変わる。幻影魔法を解き、本来の姿に戻った。

 少年グレンは、目を見開く。


「以前あの森で、殿下に会ったのは私です」


「でも、あの子はこんな年増じゃなかったぞ!」


(……言ってくれるわね)


 ドラセナは思わず拳を握るが、深呼吸し落ち着かせる。


「……未来から来たのです」


「未来から? 本当に?」


「はい」


 少年グレンは、身を乗り出す。


「ねえ! 未来の俺はどうなんだ!? この城から、追い出されてたりしてないか……」


「……殿下は、とても優しく、賢く、強い、良い男になっていますよ」


 ドラセナはそう言って、少年グレンの頭に手を乗せ、優しく微笑んでみせた。少年グレンは、ドラセナを見上げボーッとする。


「……ひょっとして、あなたは未来の俺のお嫁さん?」


「えっ?」


「だって、あなたは未来の俺に惚れているだろ?」


(……私がグレンを?)


 ドラセナは一瞬動揺したが、平静を装う。


「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」


「やっぱりそうだ! 未来のお嫁さんなら、仕方ないからあげるよ!」


 少年グレンは、薬をポケットから出した。ドラセナは安堵したように受け取る。


「ありがとうございます」


「これで、大切な人を助けるんだぞ。あと、勉強は怠らないように!」


 ドラセナは苦笑した。


「肝に命じます。殿下の母君に負けないくらい、毒を勉強して、国一番の解毒魔法の使い手になります」


「ああ!」


 ドラセナは、魔方陣に戻ろうとして、足を止める。


「……殿下。いずれ、あなたは重責ばかりの人生を歩むこととなります。もし陰謀に巻き込まれ、あなたに危害が及び、人を傷つけなければいけない場面がくるかもしれない。その時は、躊躇わず、ご自身を大切にして下さい。殿下は、私にとって……この国にとって、必要な方です」


 そう言い残し、魔法陣へ駆け出した。




 夜中だったが、グレンの眠る寝室の扉に駆け寄る。扉の前にはガレスがいた。


「ドラセナ様、こんな時間に……」


「お願い! グレンに会わせて」


 必死なドラセナを見て、ガレスは黙って部屋の中へ通した。グレンは、力なく眠り続けていてピクリとも動かない。自力では薬を飲めそうになかった。

 ドラセナは、薬を自身の口に含むと、そっとグレンの口に移した。

 しばらく見つめていると、グレンがうっすらと目を開いた。


「グレン!」


「私の……お嫁さ……ん?」

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