13、疑惑
ナイフを直してもらってから、3日後。ドラセナはグレンから、ディナーに誘われた。
「ドラセナ様、ディナーのドレスはどちらにしますか?」
メルは、2着のドレスを持ってくる。一つは、ワインレッドの落ち着いたドレス。もう一つは、蛍光オレンジと紫のツートンカラーのドレス。
ドラセナは、額に手を当てた。
「こちらのドレスは、ドラセナ様に似合わないと思われます」
元侍女長は、真面目な顔でオレンジの方を示す。
「えー、そうですか? ドラセナ様は、何でも着こなせると思いますけど?」
「そっちにするわ」
ドラセナは、ワインレッドの方を指差した。
「こちらは、先日のお礼にとクロイツェル公爵とガレス様から、ドラセナ様とグレン陛下にと、ペア衣装として贈られてきたものです」
(公爵、ガレス、まともなドレスをありがとう……)
ドラセナは、オレンジのドレスの方をチラリと見る。
「……聞く必要ないと思うけど、もう一つは?」
「はい! もちろん、陛下からの贈り物です!」
(ツートンカラーなのは、前回のレオンが見立てたドレスを参考にしてかしら?)
「陛下側に、ドラセナ様がペアドレスの方をお召しになることを伝えて参ります」
元侍女長は素早く出ていった。
「優秀な方ですよね」
「出会いは最悪だったけど、侍女長になるだけのスキルは持ってたということよ」
メルは感心していた。
「こんばんは、ドラセナ。ペア衣装なんて、婚約披露宴ぶりだな」
グレンに上手く言ってくれたようで、クロイツェル公爵が贈ってくれたドレスを選択したこと自体は気にしていないようだった。
グレンのエスコートで、ドラセナは着席する。料理や飾り付けは、かなり凝っていた。
(何かお祝い事でもあったかしら? 何かの記念日? そういえば、グレンの誕生日知らなかったわ……)
ドラセナが考え込んでいる間に、グレンはドラセナの向かいの席に着席した。
「この間は、レオンとランチをしたようだね?」
「ええ。たまたま出くわしたので」
「いったい、どんな話をしていたんだい?」
「どんな話……ね。幼少期あなたとアイスを賭けて殴り合いの喧嘩したとか、あなたは昔ぐれてた時があるとか、政略結婚や恋愛結婚も拒むから男色だという噂があるとか……」
グレンは頭を抱えた。
「あいつ、本当に余計なことしか言わないな……」
「王弟殿下は、第二王妃の子なのでしょう? 結構仲が良いのね」
「レオンは、第二王妃……実の母親が嫌いだったからな。いつも、私と比べられてたようだし、あの人は贅沢や権力に貪欲だったし。あいつは、それでも純粋に成長したよ。陰謀とかには程遠いから、安心できる」
「それはわかるわ」
ドラセナは苦笑する。
「ところで、あなたはぐれてたことがあるの?」
「忘れてくれ」
グレンは顔を赤くして、そっぽを向いた。
「君は、どんな幼少期を過ごしたんだ」
「……っ」
温かかった公爵令嬢時代と、孤児として必死に生きた時代を同時に思い出した。
「私は……、りっ、両親とは死別ね……」
ドラセナの顔が強張った。グレンは、それを見て立ち上がり、ドラセナの横に立った。そして、そっと肩を抱く。
「辛いことを思い出させてすまなかった。話せることだけで良いんだ」
「……ありがとう」
(グレンの体温、高いのね……)
ドラセナはホッとする。
「バルコニーに出ないか? 今宵は、星が宝石のようなんだ」
「……ええ」
二人で、バルコニーに出た。グレンが言ったように、星が綺麗だった。
「星をゆっくり見たのは、久しぶりだわ」
「星は好きかい?」
「昔は、お母様が天体を見るの好きだったから、色々教えてもらったわ」
「……そういえば、昔、エルシア王国の星見台が有名だと聞いたことがある」
「ええ。でも、あそこは虫が多くて、なかなかゆっくり見られ……」
(……!?)
ドラセナはハッとする。グレンは、返事を待つように黙っている。
(何で、今エルシア王国のこと聞いたの? たまたま? どこまで知ってるの?)
グレンの澄ました横顔からは、何も読み取れなかった。




