表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒衣の聖女は、王に求婚される  作者: シャム吉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

12、ナイフ

「ドラセナ様、もう少しお休みになっては?」


 朝の準備に来たメルが、心配そうに言ってきた。

 昨夜の披露宴の後、ドラセナはとても疲れた様子で戻ってきていた。


「もう疲れは取れたわ」


 ドラセナは、窓に目をやる。昨日の嵐とは打って変わって、快晴だった。


 ノックの音がする。メルが出ると、執事長が立っていた。


「ドラセナ様、昨夜は、お疲れ様でございます。ドラセナ様にお客様がいらしているとのことです。もし疲れているようなら、客人を待たせるから、ゆっくりで良いと、陛下からの言伝です」


「わかったわ。……すぐ行くわ」


 ドラセナは身支度を済ませ、客室に向かった。


 中には、フェルンハルト公爵とクロイツェル公爵、そしてガレスが待っていた。三人とも、ドラセナの姿を見るなり立ち上がり、深々と頭を下げた。


「昨夜は、せがれの傷を治していただき、ありがとうございました」


 クロイツェル公爵が言った。


「ドラセナ様、希少な治癒魔法を使っていただき、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


 ガレスは頭を下げたまま言う。


「私も、ありがとうございます。決して、私に良い印象などなかったはずなのに、惜しみなく魔法を使っていただき……」


 フェルンハルト公爵も続いた。


「別に……。ついでですから、礼には及びません」


 ドラセナは興味なさそうにそっぽを向く。


(昨夜、治癒魔法を使う際、フェルンハルト公爵の指輪を確認した。……ローゼンベルクを襲った家紋じゃなかった。少し、探ってみようかしら)


 ドラセナは少し躊躇いながら、二人の公爵を交互に見た。


「……お二方の家紋は、似ているのですね」


「ああ、薔薇の紋章ですか? アルディアの公爵家は、薔薇をモチーフにしているんですよ」


「ややこしいですよね。アイゼンヴァルト公爵家も、また別の薔薇の家紋です」


(……っ! 残りの三大公爵家の一人!)


「アイゼンヴァルト公爵も、道が復旧次第、挨拶に来ると思います」


「……そうですか」


 ドラセナは胸元にしまっているナイフを、服の上から押さえた。



 ドラセナは、温室のベンチに座りながら、錆びたナイフの鞘を指で撫でていた。


「そのナイフ……」


 いつの間にか、後ろにグレンが立っていた。


「何!?」


 ナイフを庇うようにドラセナは即座に反応する。


「驚かせてごめん」


「いっ、いえ……」


「……そのナイフ、前に言ってた大事な物なんだろう?」


「ええ。……私の想い出が詰まってるの」


 ドラセナはまた切なそうに、ナイフを撫でた。グレンはしばらく、そのナイフを見つめる。


「……王宮専属の鍛冶師に直してもらおうか?」


「……えっ?」


「よく見ると、装飾とか凝ってるし、かなり良い物だったんだろう? 鍛冶師の腕は保証する」


「こんな小さなナイフ、依頼して良いの?」


 グレンは大きく頷く。


「もちろんだ。絶対に傷つけないと約束する」


 ドラセナは、躊躇いながらナイフをグレンに預けた。


「大事にお預かりします」


 グレンがニッと笑い、ドラセナの表情は少し綻んだ。



 翌日、グレンはナイフを持ってドラセナの元を訪れた。

 ナイフは錆が綺麗に落とされ、かつて父に託された時のような輝きが戻っている。

 ドラセナはその場から動かず、ナイフをしばらく見つめる。グレンが差し出すと、やっとドラセナは震える手で受け取った。


「……っ。ありがとう……」


 ドラセナは目を潤ませ、ナイフを抱きしめる。


「ドラセナ……」


「なあに?」


「……いや、何でもない」


 グレンは言葉を飲み込み、そっと去っていった。




 グレンは執務室の椅子に座り、深いため息をついた。


「聞かなくてよろしかったんですか?」


 ガレスがそう言い、グレンはうつむく。


 ナイフを受け取りにいった時のことを思い出す。


『陛下、頼まれたナイフです。とても精巧な職人が作った物で、高価な物ですよ。それに、ここに国外のものと思われる、家紋が彫られています。これは、どちらで手に入れたんですか?』


 王宮鍛冶師はそう言った。


『鍛冶師、その紋章だけ記録しておいてくれ。本人にはまだ聞かない』




 グレンはまたため息をついた。


「彼女の過去や正体が何だとしても、大切にするつもりなんだが、無関心は違うよな……」


(でも、追及したら、警戒心の強い彼女は逃げてしまう気がする……)


 グレンが頭を抱えて悩んでいると、執務室にノックが鳴り、レオンが入ってきた。


「兄上、ドラセナが兄上にお礼がしたいって、ティータイムに誘ってた」


「ドラセナから!」


 グレンは、ニヤーと笑ってから、ハッとする。


「……何でレオンが、ドラセナから言伝てを受けたんだ?」


「ああ、たまたま会ったから、一緒にランチしてたんだよ。ティータイムも、俺も一緒に参加するから」


 グレンは持っていたペンを折ってしまった。


「……ガレス、ドラセナと二人きりでディナーできる日を確保してくれ。なるべく早くな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ