⑧
ジャスの店は
フムフムの診療所から二軒先だった。
どっしりとしたウッドのドア。
猫のジト目のような窓には
小花柄のカーテン
出窓には、色とりどりの花が植えられている。
立て看板には 【喫茶 ジャス】
一文字違えばジャズだわ
…ジャズの流れる店だったりして?
すっとぼけた考えを
頭を振って追いやり
カランカランとドアを開けた。
…クラッシックだった。ちょい残念。
コーヒーの香りが漂う
磨き込まれたカウンターは
一本の木を使っているのだろう。
少しカーブになっている。
テーブル席は3つ
こちらは集成材なのか
積み木のような柄になっている。
「いらっしゃいませ」
奥からジャスが出てきた。
相変わらずエプロンは汚れている。
コトリと水とおしぼりを置いた。
「ジャスさん」
我慢出来ずに郁は立ち上がって言った。
「エプロン変えましょう」
「お水もおしぼりも綺麗でしょうけど
そのエプロンじゃ…汚いって思っちゃいます」
ジャスはハッとしたように、自分のエプロンを見る。
「…さっき変えたばかりなんです…
すぐ汚れてしまって…」
「エプロンよりご飯お願いします。」
「お腹ぺこぺこなんで」
気が抜けた。
トスンと椅子に腰掛け
隣で鎮座している俺様黒猫に声をかける。
「いつもの事なの?」
『…あ、あぁ』
フムフムの隣では、既に茶トラが
カリカリと音を立てていた。
「ねぇチャト、それ美味しい?」
…猫さま用だよ。
ってチャトって名前かぁ。
「…かわいい名前」
『そこじゃないだろ』
「お待たせしました」
ワンプレートのランチが出てきた。
…「ダメな奴だわ」
いびつな形のおにぎり二つ
大きさもあってない。
唐揚げなのだろうが、ドンと山盛りになっている。
ガラスのカップに入ったサラダは
キャベツが縁から落ちている。
盛り合わせてある
ひじきの煮付も かぼちゃの煮付けも
面倒臭そうに盛り付けられ混じっている。
スープカップには
ビーフシチュー
…重い…。
「いっただきまーす。」
「いただきます…」
おにぎりを食べる。
「しょっぱい!!」
一か所だけ、塩が固まっていたらしい。
慌てて水を飲む。
気を取り直しサラダへ
…味がしない。
ドレッシングもかかってなかった。
ひじきとかぼちゃは味が混じっている。
恐る恐るビーフシチュー
「あれ?美味しい…」
『くれてみろ』
「はいはい お猫さま」
郁はスプーンで俺様黒猫の捧げた。
『まぁまぁだな』
「いやいや これは美味しいって」
「美味しいですか?」
ヌっと顔を突き出して、ジャスが聞く。
「えぇ、シチューはおいしいです。
他は気を配れば美味しいはずです」
美味しいですの郁の一言が
よほど嬉しかったのか、満面の笑みになる。
「もっと美味しいものを出したいんです。」
「教えて下さい。」
「やるっきゃないね」
郁は腕まくりを仕掛けて――
……やめた。
「いや、違う違う。」
「私、お客だった。」
危うく厨房に立つところだった。




